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第九章 それぞれの想い

第73話 チュートリアル:急かして蹴飛ばして

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「って事で、対抗戦やりまーーーす」

「……?」

(((どういう事?)))

 登校日。

 昨今の情勢と出来事を踏まえた校長のあいさつもとい、ありがたくて長ーーーい睡眠用ASMRを真顔で聞かされる拷問を耐え、一昔有名になった即戦力の男が全力で就職お断り連絡をするレベルでやる気ゼロな担当、阿久津先生の初っ端開口一番がこれだった。

 和気あいあいながらもお互いがライバルであり切磋琢磨するクラスのみんなが今、三つの心を一つにしたゲ○ターの如く一丸となった。もうシャインスパーク待ったなしだ。

 もしゲ○ターが居たらきっとこの虚無の空気感を次元ごと斬ってくれるはずだ。

 だたし中から顔覗かせてくるんじゃねーぞ皇帝。

「さっき校長先生が言っていた事ですよね」

「当然」

 嘘だろ月野、そんな事言ってたんだ! と俺含むASMRだと思っていた奴全員が月野を見た。俺なんてムーディ○山ばりに右から左へ受け流してたからまったく分からなかった。流石は優等生だ。

「あの校長ハゲも言ってたけど、学園祭を絡める対抗戦だったが、目立つ所を挙げるなら前の泡沫事件やマーメイドレイドとか、攻略者の犯罪諸々、昨今の情勢は良く無い。したがって学園祭は中止の決まりにはなったが、対抗戦はやりまーーーす」

(その理由を知りたいんだろうが!!)

「心の中で今梶くんがタメ口でツッコんだからグリフィンドールにマイナス百点な」

「え!? いや、その……すみません……?」

 正直俺も思った。けど大吾が俺の代わりに犠牲になったようだ。当てずっぽうだろうが阿久津先生は心を読んでたまに今みたくぶっきらぼうに言ってくる。

 さすが学園の教師をしてるだけある。

「はい!」

「朝比奈さん」

 瀬那が挙手。指名された。

「校長先生が言ってたスケジュールの調整って対抗戦以外にもあるんですか?」

 あー確かにスケジュールうんぬん言ってた気がする。

「今の所対抗戦のスケジュールは予選であるチーム戦、バトルロワイアルは十一月の今月、月末週に行う。それから土日挟んだ十二月の始めに本戦であるトーナメントを開催する予定だ。タブレット端末にお知らせとしても送ってるから後で見る様にね」

 日程はズレたのは当然だけど、対抗戦普通にやるのか。タイミング的に海外出張中の父さん母さんが顔を見に来てる頃だ。

「あー、ちなみに現役の攻略者サークルを含む国連の本戦中の学園を警備する事になってる」

「……予選の警備は無いんですか?」

「あるにはあるが、本戦程じゃない」

 月野の質問に普通に答えた阿久津先生。

「はい!」

「梶くん」

 大吾が挙手。

「前のスケジュールだと無理だったけど、俺完全に怪我治ったんで出場できますよね!」

「大人の事情で無理だわ」

「ええええええええええ!!??」

 大吾の奴……なんて可哀想なんだ。骨も治ったのに出場できないなんて……。一体全体どういった仕組みで決めてるんだろうか。

 俺も非常に残念だよ。この話を聞いてワンチャン出場できると思っていたのに、これじゃクラスのマドンナの花田さんを独り占めした全校生徒の恨み(俺がそう思う)を晴らせないじゃないか。公式に殴れたのに……。

「はぁー」

 唐突にそのヤル気の無い目をしている阿久津先生がため息をついた。

「愚痴るは」

 唐突に生徒に愚痴ようとするな……。

「世論の配慮とか世間への強い意思表示とか、どーせ建て前だろそれぇ。すっーー、いいかお前ら」

 息を吸って珍しくキリっとした顔。

「世の中金だ」

 からの悲しき現実を言い出した。

「どうせ後で分かる事だから正直に話すとだ、対抗戦開催の決定を国連が決めたわけだが、中には開催を反対する声ももちろんあった。立て続けに事件が起きたからな。だが開催は決定された。それは何故か……」

 タブレット端末に着音。画面に大きく金と表示されている。

「金だよ金! 開催するにも金、放送権を取得するのも金。まったく、嫌な世の中になったもんだな。大人の汚い世界に染まっていないまだ未成年の君たちが心底羨ましいよ……」

 どこか遠い目をしている先生。普段からやる気のない顔をしているのは、汚い大人の世界を歩いているからなんだと、そう思わせる諦めきった口調だ。

「HRの最後に一言だけ言っておく」

 引き続き全員が阿久津先生を見る。

「金に汚い大人には成るな。汚い金には触るな。真っ当に稼いだ金が……一番綺麗なんだ」

 なんだろう、凄く当たり前な事言ってるのに心に響く言葉だ。あの荒波に飲まれ足掻いた様な眼付。俺たちには話せない汚いを見てきたんだな。

「……あとお前ら、対抗戦頑張っていい成績残せよ。優勝期待してるからな」

「……」

 めっちゃ笑顔で俺を見て言って来た。これは……。

「先生、仮にこのクラスの誰かが優勝したら先生に得が?」

「ボーナス上がるに決まってんだろうが!」

 完全に汚い大人である。


 放課後。

 まだ日が真上にある時間。暇を持て余した瀬那、大吾、俺は、マックで昼食を取り、まだ残っているドリンクを少しずつ飲みながら駄弁っていた。

「――って感じでな、俺はそっと抱きしめたんだ。蕾は震えていたさ! 寒さと恐怖で! でも俺は慌てず温もりを与え続けたんだ……! あぁぁ……愛してるよ、蕾ぃ!!」

「惚気か!? お前その話何回目だよ! いい加減聞き飽きたわ!」

「この話の愛を分からんまんまじゃあこの先一生童貞だな。なあお瀬那さん!!」

「え!? そ、それは……。ど、童貞でもいいんじゃない? たぶん」

 お瀬那さん、たぶんじゃ困るんだよダメだろそんなの! 

「事実! 俺は童貞だけど一人の男だ! 正直今すぐにでも童貞を捨てたい!!」

「ッブーー!!」

 瀬那がジュースを噴いた。

「だがしかし! 童貞を捨てるのは十八になってからって決めてるんだよ!」

「お、珍しく話すじゃん。そのこころは?」

「性欲マックスな近所の綺麗なお姉さんに馬乗りにされて思いっ切り逆レ○プされたい」

「プ―――!!??」

 二度目を噴射したお瀬那さん。

「わかる」

 わかるんかい。

「あのぉ」

 店員さん登場。

「他のお客様にご迷惑をしますのでぇ、声を押さえておくつろぎ下さい」

「あ、はい」

 普通に怒られた。

 暗くなるのが早くなったその日の帰り道。

 寮に帰る大吾と別れ、特に話す事も無く歩いていた時だった。

「あのさ萌」

「ん?」

 別れ際、呼び止められた。

「次の土曜日、わ、私とデートしない……?」

 顔を真っ赤にしたうさぎちゃん。

「――――」

 秋なのに、ミュージック・アワーを聞きたくなった。
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