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第八章 VS嫉姫君主
第60話 チュートリアル:蟹
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激闘の末、奇しくもゲート前へと戻って来た家臣たち。
互いに傷だらけだが勝者と敗者はしっかりと分けられた。
「蒸気が凄い……」
地面は水浸しだが激しい蒸気を発しており、地上から見た月明かりを吸った水の龍が如何に壮絶な威力だったのかと優星は驚愕した。
満身創痍のセバスチャン。それを物言わぬ黄龍仙に駆け寄る西田と優星。後ろの部隊は防御陣形を組み睨みを利かせている。
「……。……」
砕かれた甲殻から青い血の様なものが流れ、吹いている泡も青い。できうる猛攻を叩きこんでもほぼ無傷だったものがこうも変わり果てると、西田は何も言い出せなかった。
それは優星も同じだった。
セバスチャンから黄龍仙へと目を移すと、そこには傷だらけ装甲に体中にスパークが発していた。
だが同時に目を疑った。少しずつだが斬り刻まれた胸部装甲が奥から浮き出るように再生していた。
(……)
ここで西田は部隊長へとアイコンタクトを取った。待ったを維持していた手を握りこみ現状維持を支持。耳に繋いでいるイヤホンを操作してどこかへ通話する。
実はこの時、壊滅状態の独立部隊はすでに撤退。国連の指示で部隊は残ったが、ある任務を指令されていた。
――家臣の攻略だ。
二つの家臣が潰し合い、残った方を人類が獲る。それは激しい戦闘の末消耗しきったであろうと言う前提。それならば討てると指示された。
無論西田と優星は猛反対。義理を通す。それは部隊長も同じく、上伸して意見したが圧力に屈せざるえなかった。
結果は黄龍仙の勝利。双方ダメージが見て取れる好機、自ずと狙うは機械の鬼神になるが、ダメージを受けた装甲が再生しているのなら話は別。中止の旨をアイコンタクトで伝えたしだいだった。
(自己再生するのか……。これは手厳しいな)
いずれ訪れるかもしれない黄龍仙攻略。気に食わない上層部の思惑に唾を吹きかけたと同時に、余りにも手ごわい事実に内心辛く笑った西田だった。
「……なぜ手心を加えた」
敵意は無い寄り添うような優しい口調。項垂れるセバスチャンに向けて言われた言葉。一歩後ろの二人は何も言わず事の成り行きを見守る。
「フ、フフフ……私は途中から本気でした。それにそれはこちらのセリフ。貴方もまだまだ本気ではなかった」
ビルの倒壊や破壊、レインボーブリッジの両断などを報告として聞いていた二人。戦ったあの時は手加減されていたんだと容易く結論付けていた。
そんなセバスチャンを完膚なきまで叩きのめした黄龍仙。二人は冷や汗をかく。
「……」
「……」
何も言わなくなった家臣たち。仙気による蒸気が若干薄くなった頃、ぽつぽつと、セバスチャンは青い泡を小さく飛ばしながらこう語った。
「ッゴフ、私のわがままで仲間を殺してしまい、申し訳ない」
「――え」
謝罪だった。
「自死するくらいなら戦って死にたい。そう思いあなた方を促したのです」
「……バカな――」
優星の言葉の続きを止めたのは西田だった。制した手の平は、聞いてみよう、と謳っている。
「私の愛しい嫉妬の姫。彼女を筆頭に、幾度も、幾度も平和な世界を海に還した」
「……」
「しかし、正気を保っていた姫の意志は段々と嫉妬に犯され、気に入らないと思えばなりふり構わなくなっていった。……その頃からだろうか、生きづらくなったのは」
遠い目をするセバスチャン。彼の脳裏には、笑顔のウルアーラと嫉妬に狂うウルアーラ、笑うフランダーが巡っていた。
同時に、血しぶきが舞う影も巡る。
二人と一機は言葉を挟まず、静かに聞いていた。
「狂った姫の傍らで、これも宿命かと受け入れていたが、正気を取り戻した事が起こった」
――フランダーが深海へと堕ちた。
「……」
フランダー。その名前に聞き覚えのある西田は、先に起こったボス戦を思い出し瞼を閉じた。
セバスチャンが向た敵意の無い視線。それを否定する事も無く受け入れ、無機質なツインアイを合わせる黄龍仙。
「友人の死に嘆いた姫。私も悲しかったが、少しずつだが元の姫に戻ったのは不幸中の幸いだった。しかし――」
風が吹く。
「我々のディビジョンに奴が現れ、瞬く間に姫が傀儡と化した……!」
怒りを含んだ言葉。力んでしまいガフッと血を吐くセバスチャン。
ディビジョンとは何なのか、奴とは誰なのか、聞きたい事が溢れてくる西田と優星。
「何も、何もできなかった……。容易かったのだろう、心が弱り切った姫を操るのは」
「己が君主の悲鳴に抵抗しなかったのか」
「無論抵抗はした。だが奴は姑息にも姫を操り私の攻撃を受けようとしたのだッ……。もう。もうこれ以上姫の悲痛な姿を見たくない……」
悔しい。悲しい。憤りを感じる。セバスチャンの滲み出る涙に二人と一体は強く感じた。
「っふぐッ! ……もし、同胞を模した頭蓋の戦士よ」
「え、お、俺か……?」
血を吐きながらの突然の指名。一瞬何を言われたのか分からなかった優星は、顔には出さなかったが、髪型か……と内心納得してセバスチャンに一歩近づいた。
「……このまま捨て置いても私は深淵へ赴く。遺物として私の外殻をお前に渡そう」
「外……殻……」
パキリとセバスチャンの首元がひび割れ、次の瞬間には首から下が力なく地面に沈み、顔だけになったセバスチャン。
「っふ」
顔に格納された節足脚が開かれ着地。その姿は紛うことなき――。
((か、蟹だ!!))
「やはりこの姿がいい……」
コミカルチックで一目でカニと分るが見る人が見ればエビやロブスターにも見える。だがよく見ると尾が付いていないのでカニだと分かる。
勢いよく立ってみたはいいがすぐに力なく倒れるセバスチャン。
「後は堕ちるのみ――」
遠目に見る部隊長。西田と優星。激闘した黄龍仙。みな目を瞑って期を待つ。
弱弱しいセバスチャンの本来の姿。その最後は、奪われた姫を取り返せず自暴の果て己の死を以て物語を完結させる。
泡になって消える。
はずだった。
「「!?」」
突然見開くセバスチャンと黄龍仙。その視線の先は渦巻くゲート。急に変わった二体の雰囲気に周囲の人間がこわばる。
「ぉぉおお――」
「……この気配は」
「おおおお!!」
拳を握る仙人と目を輝かせる蟹。
「ど、どうした!」
動揺するメ蟹ック。
「ウルアーラ……」
数歩ゲートに向けて歩いたが力及ばず倒れる。
しかし、飛んできた癒しの力。それがセバスチャンを包み癒し、一握りの力を回復した。
黄龍仙が仙気を送ったのだ。
「貴様の死に場所はここでは無い」
「かたじけない。お前と闘えたこと、深淵に広めておこう。強敵よ」
そう言い残し、トコトコとゲートの中へと去って行った。
騒然とする場。優星と西田はお互い見合わせる。
「……なんだったんだ」
「わからん……」
「まだ死ねない理由ができた。それだけだ」
傷が癒えきった黄龍仙がそう言い、再びゲートを背にして陣取った。
(アイヤー大哥。そっちはまだまだ波乱が続きそうだネ☆)
冷たい風が白い髪を撫でる。
互いに傷だらけだが勝者と敗者はしっかりと分けられた。
「蒸気が凄い……」
地面は水浸しだが激しい蒸気を発しており、地上から見た月明かりを吸った水の龍が如何に壮絶な威力だったのかと優星は驚愕した。
満身創痍のセバスチャン。それを物言わぬ黄龍仙に駆け寄る西田と優星。後ろの部隊は防御陣形を組み睨みを利かせている。
「……。……」
砕かれた甲殻から青い血の様なものが流れ、吹いている泡も青い。できうる猛攻を叩きこんでもほぼ無傷だったものがこうも変わり果てると、西田は何も言い出せなかった。
それは優星も同じだった。
セバスチャンから黄龍仙へと目を移すと、そこには傷だらけ装甲に体中にスパークが発していた。
だが同時に目を疑った。少しずつだが斬り刻まれた胸部装甲が奥から浮き出るように再生していた。
(……)
ここで西田は部隊長へとアイコンタクトを取った。待ったを維持していた手を握りこみ現状維持を支持。耳に繋いでいるイヤホンを操作してどこかへ通話する。
実はこの時、壊滅状態の独立部隊はすでに撤退。国連の指示で部隊は残ったが、ある任務を指令されていた。
――家臣の攻略だ。
二つの家臣が潰し合い、残った方を人類が獲る。それは激しい戦闘の末消耗しきったであろうと言う前提。それならば討てると指示された。
無論西田と優星は猛反対。義理を通す。それは部隊長も同じく、上伸して意見したが圧力に屈せざるえなかった。
結果は黄龍仙の勝利。双方ダメージが見て取れる好機、自ずと狙うは機械の鬼神になるが、ダメージを受けた装甲が再生しているのなら話は別。中止の旨をアイコンタクトで伝えたしだいだった。
(自己再生するのか……。これは手厳しいな)
いずれ訪れるかもしれない黄龍仙攻略。気に食わない上層部の思惑に唾を吹きかけたと同時に、余りにも手ごわい事実に内心辛く笑った西田だった。
「……なぜ手心を加えた」
敵意は無い寄り添うような優しい口調。項垂れるセバスチャンに向けて言われた言葉。一歩後ろの二人は何も言わず事の成り行きを見守る。
「フ、フフフ……私は途中から本気でした。それにそれはこちらのセリフ。貴方もまだまだ本気ではなかった」
ビルの倒壊や破壊、レインボーブリッジの両断などを報告として聞いていた二人。戦ったあの時は手加減されていたんだと容易く結論付けていた。
そんなセバスチャンを完膚なきまで叩きのめした黄龍仙。二人は冷や汗をかく。
「……」
「……」
何も言わなくなった家臣たち。仙気による蒸気が若干薄くなった頃、ぽつぽつと、セバスチャンは青い泡を小さく飛ばしながらこう語った。
「ッゴフ、私のわがままで仲間を殺してしまい、申し訳ない」
「――え」
謝罪だった。
「自死するくらいなら戦って死にたい。そう思いあなた方を促したのです」
「……バカな――」
優星の言葉の続きを止めたのは西田だった。制した手の平は、聞いてみよう、と謳っている。
「私の愛しい嫉妬の姫。彼女を筆頭に、幾度も、幾度も平和な世界を海に還した」
「……」
「しかし、正気を保っていた姫の意志は段々と嫉妬に犯され、気に入らないと思えばなりふり構わなくなっていった。……その頃からだろうか、生きづらくなったのは」
遠い目をするセバスチャン。彼の脳裏には、笑顔のウルアーラと嫉妬に狂うウルアーラ、笑うフランダーが巡っていた。
同時に、血しぶきが舞う影も巡る。
二人と一機は言葉を挟まず、静かに聞いていた。
「狂った姫の傍らで、これも宿命かと受け入れていたが、正気を取り戻した事が起こった」
――フランダーが深海へと堕ちた。
「……」
フランダー。その名前に聞き覚えのある西田は、先に起こったボス戦を思い出し瞼を閉じた。
セバスチャンが向た敵意の無い視線。それを否定する事も無く受け入れ、無機質なツインアイを合わせる黄龍仙。
「友人の死に嘆いた姫。私も悲しかったが、少しずつだが元の姫に戻ったのは不幸中の幸いだった。しかし――」
風が吹く。
「我々のディビジョンに奴が現れ、瞬く間に姫が傀儡と化した……!」
怒りを含んだ言葉。力んでしまいガフッと血を吐くセバスチャン。
ディビジョンとは何なのか、奴とは誰なのか、聞きたい事が溢れてくる西田と優星。
「何も、何もできなかった……。容易かったのだろう、心が弱り切った姫を操るのは」
「己が君主の悲鳴に抵抗しなかったのか」
「無論抵抗はした。だが奴は姑息にも姫を操り私の攻撃を受けようとしたのだッ……。もう。もうこれ以上姫の悲痛な姿を見たくない……」
悔しい。悲しい。憤りを感じる。セバスチャンの滲み出る涙に二人と一体は強く感じた。
「っふぐッ! ……もし、同胞を模した頭蓋の戦士よ」
「え、お、俺か……?」
血を吐きながらの突然の指名。一瞬何を言われたのか分からなかった優星は、顔には出さなかったが、髪型か……と内心納得してセバスチャンに一歩近づいた。
「……このまま捨て置いても私は深淵へ赴く。遺物として私の外殻をお前に渡そう」
「外……殻……」
パキリとセバスチャンの首元がひび割れ、次の瞬間には首から下が力なく地面に沈み、顔だけになったセバスチャン。
「っふ」
顔に格納された節足脚が開かれ着地。その姿は紛うことなき――。
((か、蟹だ!!))
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コミカルチックで一目でカニと分るが見る人が見ればエビやロブスターにも見える。だがよく見ると尾が付いていないのでカニだと分かる。
勢いよく立ってみたはいいがすぐに力なく倒れるセバスチャン。
「後は堕ちるのみ――」
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泡になって消える。
はずだった。
「「!?」」
突然見開くセバスチャンと黄龍仙。その視線の先は渦巻くゲート。急に変わった二体の雰囲気に周囲の人間がこわばる。
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動揺するメ蟹ック。
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数歩ゲートに向けて歩いたが力及ばず倒れる。
しかし、飛んできた癒しの力。それがセバスチャンを包み癒し、一握りの力を回復した。
黄龍仙が仙気を送ったのだ。
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そう言い残し、トコトコとゲートの中へと去って行った。
騒然とする場。優星と西田はお互い見合わせる。
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「わからん……」
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