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第七章 二学期

第48話 チュートリアル:暗躍

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 暗い暗い闇の中。

 しかし、仄暗い空間を演出し、複数人を照らす炎が中央にある。

 燃ゆる炎。それはランタンの中で燃えているのではなく、宙にに浮かぶ不思議な炎だった。

 炎に陰りを強く受けるのは三人。その後ろで複数人と、炎を囲む様に陣取っている。

「……今日の集まりはあまり良くないようね」

 Aクラス。よし 明子あかね

 メガネに炎を写す少女がため息混じりで言った。

「♰それは仕方の無い事……。同志たちは皆、己が責務を果たしている故……♰」

 Cクラス。ダーク=ノワール(戸島とじま つかさ

 鼻まで覆う長いえりが特徴の少年がセリフめいて言う。

「いや、普通の人はこんな事しないと思うよ」

 Dクラス。つくだ みちる

 暗がりの中、笑顔を振りまいてそう言った。

「あんた笑顔やめてよね。不気味だから」

「いやぁそれほどでもぉ」

「褒めてないから!?」

「……」

 炎の明りを顔に受ける佃。その笑顔は一種のホラーじみていて普通に怖いと思うダーク=ノワールだった。

「♰さて、我も暇ではないのだ。この会合、ミスティック=サークルを始めようではないか♰」

「恥ずかしくないの? それ言ってるあんただけよ?」

「司くんおもしろーい」

 何回目かのやり取りをし、吉が咳払いし本題へと入る。

「さて、対抗戦に向けて二年の私たちも個人的にや授業の一環で力を付けてきたわけだけど、個人で勝てる見立てはどう?」

「♰Bクラスの花房 萌に勝てるかどうか、か」

「う~ん……」

 夏休み中に結成されたこの会合。すべてはクラス対抗戦のために、将来のため有名サークルに目を付けられるため、そして、恐らく二年最強と思われる萌を打倒するために組織された。

 吉 明子は自分の問いに対してすでに答えを得ている。いや、ダーク=ノワールと佃の反応と自分の回答で答えは出ている。

 個人では勝てる見込みが無いと。

 花房 萌。

 その圧倒的なパワーと類まれな身体能力。日本が代表するヤマトサークルや他のサークルと縁があり、さることながら知名度も得ている。

 まさに東京の学園都市が誇る生徒の一角。

 その存在は本人が思っている以上に価値があり、または生徒にとっては超える壁、一部男子と女子にも人気がある時の人物。

「……私は直で闘いを見た事あるけど、アレは普通じゃないわ。私たち学生と違いダンジョン攻略の経験値が違う攻略者並……いえ、そうね、西田メンバーと並ぶ力があると思った方がいいわ」

 吉が通っていたいつかのバトルルーム。そこで観戦した試合は中堅サークルのリーダーとの対戦だった。
 上位サークル同様の、中堅サークルとは思えない動きのキレで終始驚きを抱いたが、それをモノともしない、いや、楽しむ余裕すらある萌の胆力に、吉 明子は舌を巻いた。

「やっぱそうだよねー。知ってると思うけど、花房くんの身体能力は類を見ないスキルの恩恵。それを使いこなす神経も凄いよねー」

「♰フィジカルでは分が悪い……いや、そこからの突破口は無いものと考えるのが妥当だろう♰」

 座る椅子を回転させ怖い笑顔を振りまく佃に、その笑顔を見ない様にしているダーク=ノワールは腕に巻いてある包帯の具合を見ている。

「要注意人物は花房くんだけじゃないわ」

 吉は手元のコンソールを操作。

 各々のタブレットにBクラスの要注意人物たちが映し出される。

「花房くんのチームメイトである梶 大吾くん」

 笑顔で会話している大吾。

「同じチームの朝比奈 瀬那さん」

 スマホで電話している瀬那。

「チームではないけど、同じクラスの月野 進太郎くん」

 ノートに書きこんでいる月野。

「注意しなきゃいけないのは花房くんを含めたこの四人。他の生徒は相応ってところかしら」

 吉のメガネがタブレットのライトを反射した。

「でも泡沫事件の怪我で梶くんは出場できないしー……、実質三人かー」

「♰……。……♰」

 ダーク=ノワールこと戸島 司はタブレットを凝視していた。スライドしていき、ある画像で止まったのであった。

 それはダーク=ノワールだけではなく、後ろにいる生徒たちも一部同様の画像を見ていた。

 佃がもう飽きたとタブレットでゲームアプリを開く中、ダーク=ノワールは吉がギリギリ聞こえる小声で、こう呟いた。

「……でっか」

 と。

 許可なく盗撮された(調査のため)いくつかの画像。その最新画像の中に瀬那の胸部だけが映る画像が紛れ込んでいた。
 それは思春期真っ盛りな男子としては当然の反応だろう。戸島自身も予想だにしない呟き。自分のアイデンティティである口調すらも忘却の彼方へと至る衝撃。

「えーなにこれデカメロンみたいじゃーん!」

「♰!?♰」

 突然の張った佃の声にダーク=ノワールはまたも驚愕した。目だけを素早く佃に向けると、そのタブレットにはゲーム画面ではなく、ダーク=ノワールが見ている画像と同じ胸部がそこにはあった。

「いやデカいデカいって噂は知ってたけど、これは週刊チャンピオンとかの表紙レベルでしょー! いや、もうR18レベルだなこれは! ね、吉さん!」

 ダーク=ノワールは冷や汗をかいた。そして改めた。
 この佃という男は、思った事をそのまま言うソッチの人だと。屈託のない笑顔でむちゃくちゃ言う男だと。

 そしてダーク=ノワールはさらに汗をかく。佃が投げかけた相手は女子の吉だという事に。

「……」

 吉の表情はメガネが光を反射して読み取れないが、震える手は比べるまでもない自分の胸部へと触れていた。

「しょ、所詮男って単純よね……」

「♰よ、吉さん……?♰」

 震える吉の声。そして地雷を踏んでしまったと焦る戸島。

「♪~」

 ゲームを始める佃。

「ふふふ。私の標的ははじめから朝比奈さんただ一人。思い知らせてあげる。貧乳わたしたちの恨みを!!」

 吉の怒りと呼応するように炎の勢いが増す。それは部屋を明るくするには十分な光量となっていた。

 そしてダーク=ノワールはいつもの様に思った。女の嫉妬は怖いと。

「そろそろライト付けていい?」

「♰え、あ、うん♰」

 部屋のライトが付いたにもかかわらず、吉の嫉妬はしばらく収まらなかった。

 

 ――黄金よ、ここに在れ。

 まるで唱えた言葉が言霊に沿って黄金色のゲートを顕現させた。

 暗がりの中を金色が発光する。その金色の中から爪先が顔を出し、そのまま歩行。黄金の鎧が姿を現しゲートが閉じられ、赤い点の様な眼が執拗に辺りを見回す。

「あったあった」

 カチリとスイッチを押すと、天井のライトが点灯し、周囲を明るくさせた。

「……相変わらず狭い所に住んでるなぁ」

 黄金君主ゴールドルーラー エルドラド。

 現地調査の令を唱え、彼は地球のあらゆる場所に赴いた。

 この混乱が蔓延る混沌とした世界。彼の眼にどう映ったのかは彼しか知らない。いや、白鎧率いる同胞たち以外、知る由もない。

「ちと早すぎたか。確か今の時期は対抗戦の準備期間……。果たして面白い物を見れるか楽しみだ――」

 顎に指を持っていき考える素振りをしたエルドラド。

「――」

 刹那、彼の兜に襲撃がはしる。

 ヒラリと最小限の動きで力の流れを変え、兜を破壊されずに済む。だが頬のあたりが摩擦で煙を出し、エルドラドの赤い目が衝撃を与えた存在を見た。

「……気配がまったく分からなかった。主人に教えてやったらどうだ? 亮亮リャンリャン

「当然私の事を知ってるカ。そのじんを壊すつもりだったのニ。アイヤー自信無くしちゃうヨ☆」

 リビング。数歩歩きソファーを挟んだ二人がそう言い合った。

 リャンリャンの拳から煙が消え、エルドラドが頬を摩ると兜が元通りになる。

「大哥から聞いて思ったけど、私の知るとは到底違う……。そう。根本的に違うヨ☆」

 萌から事の顛末てんまつを聞いていたリャンリャン。とりあえず放置と言われたリャンリャンだが、出てきた疑問を払拭できず、チャンスと言わんばかりにエルドラドを襲った。

 不意打ちの奇襲。

 本気では無いにしろ、全力で打った打撃をいなされ内心感心した。そして疑問が増えた。

 ――違う、と。

 リャンリャンがしる者たちは間違いなく反撃し、対象の原型が無くなるまで無慈悲に攻撃して来る。そういう連中だと。

「……あーそう。あーーそう」

 静止したエルドラドは声を張り、リビングの椅子を引いて腰かけた。

 その様子に敵意は無いと察したリャンリャン。自然と拳が解けた。

「今の俺が言える事は……、敵の敵は味方ってところか」

 乾いた笑いがエルドラドからこぼれた。

 フィンガースナップをすると、テーブルの上に黄金の杯が二つ出現。中には赤紫の液体が入っている。

機械マシンでもイケる口だろ? 敵じゃないって分かったし、長い付き合いにもなりそうだ。一杯いこうとしよう」

 エルドラドの発言に細い目が一瞬開いたリャンリャン。

 一秒もない開眼。

 細目に戻ると、椅子を引いて腰かける。

「っじゃ! はじめくんの快勝を祈願して! 乾杯!」

 杯がぶつかる軽い音がリビングに響いた。
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