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第六章 法術のススメ

第43話 チュートリアル:エンカウント

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「同胞だと……? 勝手に決めるな! そもそも敵同士だろ、人類と君主アンタら!」

 俺の怒号がよく響き渡っていた。怒りの形相で話を聞かない。それなのに反論することなく、まして怒る事も無く、予想通りだとまったくの不動だった。

「アンブレイカブルが言っていた! 戯れを終わらせろって! アンタら斃せって事だろうが!」

 目を伏せため息をつく者、頬を吊り上げ白い歯を見せる者。頬に手を当て困り果てる者、ちらと俺と目を幾度も合わせない者。酒をあおる者と動じない者。

 その動じない城主が手をかざし、俺も言葉を止めた。

「幻霊君主の力は継承できたが、どうやら記憶の継承に問題があるようだ」

「……なんだと」

 間違いなく君主の事を知っている彼彼女ら。城主の言葉に、俺は内から溢れる不安に押しつぶされそうになった。

 しかし俺の不安を知ってか知らずか、奴は唐突にこう言ってきた。

「今日はここまでにしよう。エル、帰してやれ」

「ッ! お、おい! 人を不安にさせといてからに呼び出しといて帰れだと!?」

「時期尚早だった。記憶に関しては時間を待つしかないがゆえ……。許せ」

 ため息をつくエルドラドが玉座から立ち上がる。肩を掴まれるが俺は城主から目が離せなかった。

 そこから俺はズルズルとドラマとかにある粘着質の元カレみたく、うるさく喚いたが聞く耳をもってくれなかた。

 いよいよしびれを切らしたエルドラドが俺を戻そうとする時、最後に奴は俺に言った。

「今回は我らが呼びかけたが、次は幻霊から自ずと赴くだろう」

「それは――」

 視界が金色に包まれ、気づけば自室にいた。俺一人。

 時計を見ると夜も深くなっている時間。リャンリャンはまだ帰ってきてないが、考えれば考える程モヤモヤが積もるばかりで、その日は手綱の夢をみたいと願いながら就寝。そして何事もなく朝を迎え目を覚ました。

「――え」

 あれから数日経った。夏休みももうすぐ終盤に差し掛かる。それなのに俺は奴の、奴らの事が頭から離れない。

「――もえ」

 敵のはずだ。敵のはずだが、心の何処かが違うと否定している。なぜかと考えた所、やはり俺の知らないアンブレイカブルの記憶がそうさせているのかも知れない。

「萌!!」

「ッ!? お、おおう何」

「なにじゃないよ! 最近ぼーっとしすぎ! 悩み事でもあるの?」

 宿題もラストスパート。今日は瀬那と一緒に俺の部屋でさばいている。どうやらもの思いに耽って心あらずだったようだ。

「悩み事か……」

 心配をかける程だ。瀬那に聞いてもらうのも一つだろう。

「瀬那。敵だと思ってた奴と実際に会ってさ、そしたら心の何処かでそいつは敵じゃないって思う様になったんだ」

「……うん」

「そいつは敵だろ? でも心は敵じゃないって言ってる。もうどうしたらいいか分からないんだ」

 抽象的だがだいたいあってる質問を投げかけた。瀬那は人差し指を頬にあて考えた後、目を合わせてこう言ってきた。

「じゃあ敵じゃないでいいじゃん」

「軽いな! もっとこう、無いの!」

「ない! だって心が命じたことには逆らえないじゃん!」

「いやそれキンハーの名言――」

 俺はハッとした。言葉に詰まった。瀬那は俺の表情を見ると、そら見ろとドヤ顔してくる。

「萌はくよくよ悩まないキャラでしょ。だから心に従って行動したら、結果が良くも悪くも心につっかえが取れるんじゃない」

 俺は思わず微笑み、机の上に置いてある瀬那の手を握った。

「ッ」

「ありがとうな瀬那。まだ考慮する余地はあるけど、瀬那の言う通りとりあえずは心に従うよ」

 簡単な事だった。さきほども言ったが、アンブレイカブルが奴らの事を敵じゃないとうたってるんだ。思い返せば奴らの事をまだ何も知らない。攻撃的なら既に攻撃されてるだろう。

 決めつけるのは早すぎる。

「ん? どうした瀬那」

 瀬那の顔が赤い事に気づく。

「あ……」

 俺は握った手を離し、立ち上がる。熱は無さそうだが、確かに部屋は少し熱い。クーラーの温度を下げて冷房の効きをよくする。

「これで冷えてくるな」

「……萌はロマンチックとか知らないもんね」

「ロマンチック……?」

 瀬那が拗ねている。顔をそっぽむいて拗ねている。急にロマンチックとか言われても分からない。つか今までロマンチック要素あったか?

「まぁ萌にロマンスを期待してもしかたないかー」

 なんか馬鹿にされてる気がする……。これはアレだな。ロマンスが何たるかを知っておかないと。瀬那に見返してやらねば。

「って言うかリャンリャンさんは?」

「また闘論しにいってる。あいつも暇な奴だなぁ。自分の仕事はきっちりやってるからいいんだろうけど」

 一応リャンリャンの設定を織り交ぜて会話する。たまにこう言っておかないと俺が忘れてぼろが出そうだ。

「……そういえばさ、最近リャンリャンと修行してるんだって? なんか自慢げに言ってた」

「ん? 気になる?」

 気になるから聞いてるんだろ……。

「実はさ私、近接戦の法術ゲットしちゃってさ、それの修行してるの!」

「へぇ~~~~~」

 近接戦と聞かされ、俺は胸を躍らせた。


「ガンバレー!」

 キリが良い所で宿題を切り上げ、施設のバトルルームに来ている。瀬那の法術による近接戦とやらを体感するためだ。だが今は順番待ち。人気にもほどがある。

「……ん?」

 後ろから気配がすると思ったら、適度に距離を開けて後ろや遠くに周っている男性客が数人いる。いや、俺の記憶が間違いなければ、数は増えている。

「そこー! そこー!」

 飛び跳ねて応援する瀬那。特徴的な胸部も跳ねる。俺は見逃さない。男共の視線。

(あ゛ん゛!!)

「ッ!」

 とりあえずイッてる眼を男共一人ずつに向けると、そそくさと視線を外した。

 気持ちはわかる。俺も男だ。でもそれは許さない。

「……ヤルか」

 このまま放置しているとストーカーが密集し、集団ストーカーへと変わるだろう。双眼鏡から望遠鏡へ。寮の前まで尾行なんて当たり前。終いには暴挙に出るかもしれない。

《WINNER!!》

 勝負が終わったようだ。見たところ学生、どうやら別クラスか別学年の二人。接戦していて見どころもあった。

「あと三戦したら私たちだね!」

「テンション高いな」

「当然! 萌にいっぱい見せてあげる。私の新法術!」

「それは楽しみだ」

 やっぱり女子の笑顔は見ていていい物だ。おっさんの笑顔より一億倍いい。いっぱいと言っていたので、どうやら複数スキルを覚えたのだろう。

 そう思っていると。

「お! 君って砂浜に居た子だよね~」

 軽口を言われ顔を向けると、そこには見知った二人組がいた。

「ッチ、お友達くんもいたか」

 砂浜で瀬那と花田さんをナンパし、泡沫事件の序盤を逃げ出した自称ベテラン攻略者、チャラ男Aチャラ男Bが現れた。あの場から無事に逃げられたんだな。

「……何かご用ですか」

 俺は腰抜け二人を睨めつける姿勢をしたが、瀬那は軽蔑を越えたその先の何かの目を二人に向けている。学生ナンパしてダンジョン潜った自慢、からの逃走。確かにアレは無い。

「そうツンケンするなよ~。見知った仲じゃないか~ッ!?」

 気安く瀬那の肩に触ろうとし、俺はその腕を掴もうとしたが、瀬那を守る様に一瞬肩に帯電。チャラ男Aの手を痺れさせた。

「……お、いい事思いついた! 俺たちと一戦やろうよ~! 負けた方は勝った方の言う事聞くってのはどう?」

「おお! ナイスアイディア! 君たちもベテランな俺たちと闘えて経験値積めるし!」

「もちろん受けるよな?」

 チャラ男Bに賛同するチャラ男A。どうせそのつもりで声をかけて来たんだろ。

 こんなの受ける必要ない。チャラ男ズの実力は知らないが、俺たちは俺たちで闘う予定。それに負けた方は言う事聞くとか小学生並に浅はか。どうせ瀬那目当てだろう。
 なんか周りの人たちもソワソワしている。不穏な空気を感じたんだろう。

「いいですよ。受けて立ちましょう」

「おい瀬那!? 何言ってんだよ!」

「潔いいね~。最高じゃん」

 喜ぶチャラ男B。ちらと俺が睨むと、瀬那が感情の無い目を俺に向け、耳打ちしてくる。俺にだけ聞こえる小声で。吐息が耳に当たる小声で。

「負けたら私、あの人たちにむちゃくちゃされちゃうよ」

「!?」

「知り合いの店でクスリ盛られて――」

「!?」

「裏に連れてかれて――」

「!?」

「服脱がされて――」

「!?」

「下着脱がされて――」

「!?」

「大切な物――」

「!?」

「奪われちゃうかも――」

「!?!?」

 ――俺の心は、決まった。

「ではお二人の胸を借りるって事で、一戦よろしくお願いします」

「おう。よろしく。ッヘへへ!」

 お互いに握手する。

 だがチャラ男ズは知らない。この一戦で地獄を見る事になるのを。
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