29 / 218
第五章 泡沫の葛藤
第29話 チュートリアル:ナンパ
しおりを挟む
「風、気持ちいいね」
海面が反射する夕日の光が眩しく、髪を抑える彼女の姿を影に隠した。
私に向けられた笑顔も影に隠れ、もっと笑顔を見ていたいと馳せる気持ちが沸き上がった。
波の音が静かな砂浜に響く。ブロンドの髪を指で掻き分け、潮風が髪をなびかせる姿に、胸の高鳴りが抑えられない。
私は彼女を愛してやまないのだ。
「こっちに来て」
誘われて隣に立った。腕を組まれ、手も握る。肩に彼女の頭が添えられ、より一層に愛おしくなる。
「今日から私たち、夫婦なのね……」
苦難を乗り越え、政略結婚も跳ね除け、私たちは愛し合った。愛を勝ち取った。
「ふふ、ねえ――」
呼ばれて目を合わせた。
「子供は何人欲しい?」
おいおい、もう子供の話か?
「だって子供がいっぱい居る方が、幸せじゃない?」
いたずら顔でそう言ってきた。
恥ずかしさから、私は思わず目をそらし、海を眺めた。
「あー、恥ずかしいんだー。かわいいー」
勘弁してくれ。
「ほら、こっち向いて――」
そう言われて素直にしたがうと、二人の影が重なった。
それが私の記憶に残る、幸せの一ページだった。
『チュートリアル:起床しよう』
「メル……セデス」
目を開ける。頬に伝う感覚。それで俺は涙を流していると分かった。
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:力+』
「……夢か」
今のは夢だ。だが普通の夢じゃない。さっきのは前幻霊君主、アンブレイカブルの記憶だ。
引き継いだ一部の記憶には無い知識が夢として現れたようだ。目覚めたばかりだからか、悲しいような、嬉しいような、何とも言えない心境が胸に残っている。
メルセデス。知らずに口走った名前がアンブレイカブルの奥さんの名前だが、びっくりするほどの美人だった。アンブレイカブルのディビジョンで見た絵では分からない美しさだ。
「……」
考えても仕方ないので、首を動かしてデジタル時計を見ると、まだ六時ごろだ。
って言うか、重い。体が重いんだが。大吾の奴寝相悪すぎだろ。俺を抱き枕かなんかと勘違いしてるだろこのホモ野郎が。
と、思いながらさっきから寝息が聞こえる方へ顔を向けると、俺は固まった。
「……。……!?」
男の暑苦しい顔があると思いきや、なぜか瀬那の顔がそこにあった。
脚が絡まり、手が俺の胸に置かれ、特徴的な胸部が腕を包んでいる。つまり、左半身が瀬那に抱き着かれている。
マジで何があったのか、なぜ俺はギャルゲーのおきまり展開を体験しているのか、閉じた薄いピンクの唇が俺の脳漿を掻きまわして考えられない。
「ぅん」
瀬那の瞼が半分開いた。明らかに眠たそうだが、今起きられると非常にマズイ気がする。
「……あれ? ……もえ」
「お、おはよう瀬那」
むくりと起き上がる瀬那。寝巻が乱れ肩を露出する。
そして俺はひらめいた。
(まさか……ノーブラなのか……!)
一気に血液が凝縮された。
た、確かにネットのエロい人が言っていた。寝るときはブラをしない方が良い、と。
だがそれは女性の意見ではなく暇なオッサンの戯言だと思っていたが、どうやら認識を改めなければいけないようだ。
「おはようも……え……」
俺の顔を見た眠たそうな顔が、健全男子の朝の状態を見るや否や、みるみるうちに赤面していった。
「わ~お~」
そして健全な部分がこう言った。
「コンニチハ!」
「きゃあああああ!!」
「」
朝から早々に顔をぶたれた。
そして場所は変わり、朝のレストラン。
朝食付きので予約していて、さすが大吾さんといったところか。
「で、三人で駄弁ってたけど、俺と蕾がベッドで寝落ち。瀬那はそっちに行ったって感じか。気ぃ使わせちまったな瀬那」
「ありがとね」
「いいよお礼なんてー。カップルの朝は大変そうだしー」
朝食のサンドイッチを頬張る俺たち。口元にエッグを付けた瀬那がにやけている。
「俺と蕾がイチャコラしてたのにお前ときたら、ップ! ほっぺに紅葉咲かせて現れるなんてな……! ッププ!」
「大吾くんダメだよ笑っちゃ……クス」
カップルが俺の顔を見て笑いを堪えている。
「不可抗力だ。笑いたきゃ笑えよ」
つか何さらっと朝からイチャコラしてんだよ。これだから下半身でしか物を考えない奴は……。
「とっ、とりあえず思い出として撮っとくわ」
若干笑いながらにパシャリと一枚。寄ってピースする隣の瀬那と、頬を張らせた真顔な俺が映る。
「で? 帰りのバスは昼過ぎだし、これからどうするよ」
「俺と蕾は海水浴だな。二人そろってラブラブ日焼けしたいし」
「「ねー!」」
ラブラブ日焼けってなんだよ。僕たちカップルは日焼けも共有する超ラブラブカップルでーすって事か? 確かに二人とも焼けてはいるが……。後が辛そうだ。
「私はまだ回ってないインスタ映えのお店行こうかなぁ。萌はどうするの?」
「俺か?」
うーんどうしようかな。宿泊施設の滞在時間ももうすぐ過ぎるしゆっくりできない。マット敷いたパラソルの下でスマホゲーでもするかぁ。
「どーせスマホゲームでもして時間潰すんでしょ」
「っぐ! 瀬那の言葉が刺さる……」
「だったらインスタ映え巡りに付き合ってよ」
「そうすっかぁ」
とりあえず方針は決まった。
宿泊施設から荷物を持ってチェックアウト。そのまま海の家で荷物を預けた。大吾と花田さんは当然水着に着替えるが、ついでと言って瀬那も水着姿に。俺も海パンと白のTシャツに着替えた。
運よく昨日の場所が空いていたのでそこを陣取る。ラッキーだ。
「って事で、ジュースよろしく~」
「待ってるね」
「「はいよー」」
ジャンケンに負けて男子がジュースの買い出しに出向く。
「えーと、メロンソーダ二つとフルーツジュース一つ。あとゼロカロリーコーラも一つお願いします」
大吾が注文し俺が決済。これぐらいなら全然驕る。
「テレビカメラだ」
「ん?」
待っている間に大吾がカメラを持つ取材陣を見つける。遠目だがこの暑い中インタビューとは社会人も大変だな。
「ありがとうございました~」
二つのメロンソーダを大吾が、残りを俺が持って女子が待つ木の下に戻る途中、隣の大吾が青筋を立ててキレた。
「なんだあいつらは……」
よそ見をしていた俺は目を向けると、二十代前半と思わしき二人の男が瀬那と花田さんに話しかけている。
男たちがニヤニヤしているのでどうやらナンパの類だろう。
「やっぱ可愛いね二人とも。歳近かそうだし、俺たちと遊ばない?」
「俺たちここら辺メッチャ詳しいから色々案内できるよ? 楽しもうよ~」
「あの、困ります」
「私たち学生なんで、ナンパなら成人した人にしてください」
遠目でどういった会話をしているか聞こえないが、瀬那が毅然とした態度で断っているようだ。
「君たち学園の子か! 俺とこいつ一応攻略者の端くれでさ、ダンジョン結構入ってんのよ」
「ダンジョンの話とか学園の生徒なら諸々聞きたいでしょ! 知り合いがやってるカフェが近くにあるから、そこでゆっくりにでも!」
顔がわかる程に近づいた。ナンパしてる男たちはサングラスを頭に掛けたそこそこのイケメンだ。
「あの私たち友達と彼氏と来てるんで、ホント困ります」
「君彼氏いるんだぁふ~ん。俺ってそういうの燃えるんだよねぇ。略奪愛ってやつ?」
「うわ、サイテー」
ハッキリ聞こえた略奪愛の単語。大吾の顔じゅうに青筋が浮き上がる。
そしてエンカウントした。
「あの、うちの彼女に何か用スか?」
「お? 彼氏くん? いやね、君の可愛い彼女とちょっとお話してただけだよ~」
笑顔で対応しているが目が笑っていない大吾。それを知ってか知らずか、ナンパ師が勢いずく。
「やっぱり大人の魅力が良いって彼女さん言ってたから、これから隣のお友達含めて俺たちと遊ぶってさ~」
「え!? 私そんな事言ってな――」
「そーだよねお嬢ちゃん」
ナンパ師の一人が慣れた手つきで花田さんに触れようとする。すかさず大吾が体を盾にして阻害した。
「やめろよ。いい大人が学生ナンパしてんじゃねえよ」
大吾が俺の心情を代弁してくれた。俺も同じ思いだ。まったくもっていい思いは無い。顔には出さないが俺も腹に来てる。
「おいお~い」
「っく!?」
左肩を掴まれた大吾。力強く掴まれたのか、持っていたジュースを落としてしまう。そして男が大吾に耳打ちする。
「ガキに女遊びは早いんだよ。彼女ちゃんは俺たちに任せておとなしくお友達と遊んどけって」
「ッ!!」
痛みに耐える大吾の顔が怒りの相へと変わる。
ナンパ師の腕を掴んで力任せに退かせた。
「いい加減にしろよ……! 学生挑発して楽しいかよ……!」
着ているタンクトップの胸倉を掴んで大吾が凄んだ。怒りに燃える大吾に男はニヤニヤしている。
「け、ケンカはダメだよ大吾くん!」
瀬那が睨みを利かせ、花田さんが心配を口にした。
一泊二日の海。その思い出が喧嘩で終わるなんてたまったものじゃない。流石に俺も止めに入る。
「まあまあ落ち着いて」
持っていたジュースカップを瀬那に渡して止めに入る。二人を引き離して間に入った。
「俺たちもう帰るんで、お二人はどうぞ次の情熱に向かってください」
「は? 邪魔だってどけよ!」
もう一人が俺を退かす様に腕を動かした。その一挙動を冷静に対処。暴力的な手を瞬時に掴んで握手した。
「握手までしてくれるなんて、ご理解ありがとうございます」
「ちょっお前放せよ!」
握手を解こうとするがしっかりと掴んでいるので離さない。俺の力が強い事に驚いているのか、握手している手と俺を交互に見ている。
そして俺の背筋とアンテナの様な感覚が凍り、何かを察知した。
「放せよガキ!」
「こいつなんて力だッ!」
何だこの感覚。向こうの離れた海岸から感じる。そこには当然遊んでいる人もいる。普通の光景だが、嫌な予感がして止まない。
「……ど、どうしたの萌」
「オイ! お前覚悟できてんだろうな!!」
明後日の方向を見る俺に瀬那が声をかけ、握手を解けた男が激昂している。だが俺はそれをも無視してしまう。
明確な異変に気づいたのは俺ではなく――
「なんだアレ?」
「え?」
それの近くで遊んでいた人たちだった。
突如、空中から突起物が現れ、それが縦線を沿う様に空間を斬った。
ガラスが粉々に割れる様に空間が破壊。十数メートルに広がった渦の中から、ギョロリと無数の何かがこちらを見た。
そして俺含むこの周辺にいる攻略者にメッセージ画面が出現した。
『ゲートが出現しました』
『ダンジョン:泡沫の同胞』
「ギィイイイイイ!!」
俺が読み終えたと同時に、中からモンスターの大群が溢れ出た。
海面が反射する夕日の光が眩しく、髪を抑える彼女の姿を影に隠した。
私に向けられた笑顔も影に隠れ、もっと笑顔を見ていたいと馳せる気持ちが沸き上がった。
波の音が静かな砂浜に響く。ブロンドの髪を指で掻き分け、潮風が髪をなびかせる姿に、胸の高鳴りが抑えられない。
私は彼女を愛してやまないのだ。
「こっちに来て」
誘われて隣に立った。腕を組まれ、手も握る。肩に彼女の頭が添えられ、より一層に愛おしくなる。
「今日から私たち、夫婦なのね……」
苦難を乗り越え、政略結婚も跳ね除け、私たちは愛し合った。愛を勝ち取った。
「ふふ、ねえ――」
呼ばれて目を合わせた。
「子供は何人欲しい?」
おいおい、もう子供の話か?
「だって子供がいっぱい居る方が、幸せじゃない?」
いたずら顔でそう言ってきた。
恥ずかしさから、私は思わず目をそらし、海を眺めた。
「あー、恥ずかしいんだー。かわいいー」
勘弁してくれ。
「ほら、こっち向いて――」
そう言われて素直にしたがうと、二人の影が重なった。
それが私の記憶に残る、幸せの一ページだった。
『チュートリアル:起床しよう』
「メル……セデス」
目を開ける。頬に伝う感覚。それで俺は涙を流していると分かった。
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:力+』
「……夢か」
今のは夢だ。だが普通の夢じゃない。さっきのは前幻霊君主、アンブレイカブルの記憶だ。
引き継いだ一部の記憶には無い知識が夢として現れたようだ。目覚めたばかりだからか、悲しいような、嬉しいような、何とも言えない心境が胸に残っている。
メルセデス。知らずに口走った名前がアンブレイカブルの奥さんの名前だが、びっくりするほどの美人だった。アンブレイカブルのディビジョンで見た絵では分からない美しさだ。
「……」
考えても仕方ないので、首を動かしてデジタル時計を見ると、まだ六時ごろだ。
って言うか、重い。体が重いんだが。大吾の奴寝相悪すぎだろ。俺を抱き枕かなんかと勘違いしてるだろこのホモ野郎が。
と、思いながらさっきから寝息が聞こえる方へ顔を向けると、俺は固まった。
「……。……!?」
男の暑苦しい顔があると思いきや、なぜか瀬那の顔がそこにあった。
脚が絡まり、手が俺の胸に置かれ、特徴的な胸部が腕を包んでいる。つまり、左半身が瀬那に抱き着かれている。
マジで何があったのか、なぜ俺はギャルゲーのおきまり展開を体験しているのか、閉じた薄いピンクの唇が俺の脳漿を掻きまわして考えられない。
「ぅん」
瀬那の瞼が半分開いた。明らかに眠たそうだが、今起きられると非常にマズイ気がする。
「……あれ? ……もえ」
「お、おはよう瀬那」
むくりと起き上がる瀬那。寝巻が乱れ肩を露出する。
そして俺はひらめいた。
(まさか……ノーブラなのか……!)
一気に血液が凝縮された。
た、確かにネットのエロい人が言っていた。寝るときはブラをしない方が良い、と。
だがそれは女性の意見ではなく暇なオッサンの戯言だと思っていたが、どうやら認識を改めなければいけないようだ。
「おはようも……え……」
俺の顔を見た眠たそうな顔が、健全男子の朝の状態を見るや否や、みるみるうちに赤面していった。
「わ~お~」
そして健全な部分がこう言った。
「コンニチハ!」
「きゃあああああ!!」
「」
朝から早々に顔をぶたれた。
そして場所は変わり、朝のレストラン。
朝食付きので予約していて、さすが大吾さんといったところか。
「で、三人で駄弁ってたけど、俺と蕾がベッドで寝落ち。瀬那はそっちに行ったって感じか。気ぃ使わせちまったな瀬那」
「ありがとね」
「いいよお礼なんてー。カップルの朝は大変そうだしー」
朝食のサンドイッチを頬張る俺たち。口元にエッグを付けた瀬那がにやけている。
「俺と蕾がイチャコラしてたのにお前ときたら、ップ! ほっぺに紅葉咲かせて現れるなんてな……! ッププ!」
「大吾くんダメだよ笑っちゃ……クス」
カップルが俺の顔を見て笑いを堪えている。
「不可抗力だ。笑いたきゃ笑えよ」
つか何さらっと朝からイチャコラしてんだよ。これだから下半身でしか物を考えない奴は……。
「とっ、とりあえず思い出として撮っとくわ」
若干笑いながらにパシャリと一枚。寄ってピースする隣の瀬那と、頬を張らせた真顔な俺が映る。
「で? 帰りのバスは昼過ぎだし、これからどうするよ」
「俺と蕾は海水浴だな。二人そろってラブラブ日焼けしたいし」
「「ねー!」」
ラブラブ日焼けってなんだよ。僕たちカップルは日焼けも共有する超ラブラブカップルでーすって事か? 確かに二人とも焼けてはいるが……。後が辛そうだ。
「私はまだ回ってないインスタ映えのお店行こうかなぁ。萌はどうするの?」
「俺か?」
うーんどうしようかな。宿泊施設の滞在時間ももうすぐ過ぎるしゆっくりできない。マット敷いたパラソルの下でスマホゲーでもするかぁ。
「どーせスマホゲームでもして時間潰すんでしょ」
「っぐ! 瀬那の言葉が刺さる……」
「だったらインスタ映え巡りに付き合ってよ」
「そうすっかぁ」
とりあえず方針は決まった。
宿泊施設から荷物を持ってチェックアウト。そのまま海の家で荷物を預けた。大吾と花田さんは当然水着に着替えるが、ついでと言って瀬那も水着姿に。俺も海パンと白のTシャツに着替えた。
運よく昨日の場所が空いていたのでそこを陣取る。ラッキーだ。
「って事で、ジュースよろしく~」
「待ってるね」
「「はいよー」」
ジャンケンに負けて男子がジュースの買い出しに出向く。
「えーと、メロンソーダ二つとフルーツジュース一つ。あとゼロカロリーコーラも一つお願いします」
大吾が注文し俺が決済。これぐらいなら全然驕る。
「テレビカメラだ」
「ん?」
待っている間に大吾がカメラを持つ取材陣を見つける。遠目だがこの暑い中インタビューとは社会人も大変だな。
「ありがとうございました~」
二つのメロンソーダを大吾が、残りを俺が持って女子が待つ木の下に戻る途中、隣の大吾が青筋を立ててキレた。
「なんだあいつらは……」
よそ見をしていた俺は目を向けると、二十代前半と思わしき二人の男が瀬那と花田さんに話しかけている。
男たちがニヤニヤしているのでどうやらナンパの類だろう。
「やっぱ可愛いね二人とも。歳近かそうだし、俺たちと遊ばない?」
「俺たちここら辺メッチャ詳しいから色々案内できるよ? 楽しもうよ~」
「あの、困ります」
「私たち学生なんで、ナンパなら成人した人にしてください」
遠目でどういった会話をしているか聞こえないが、瀬那が毅然とした態度で断っているようだ。
「君たち学園の子か! 俺とこいつ一応攻略者の端くれでさ、ダンジョン結構入ってんのよ」
「ダンジョンの話とか学園の生徒なら諸々聞きたいでしょ! 知り合いがやってるカフェが近くにあるから、そこでゆっくりにでも!」
顔がわかる程に近づいた。ナンパしてる男たちはサングラスを頭に掛けたそこそこのイケメンだ。
「あの私たち友達と彼氏と来てるんで、ホント困ります」
「君彼氏いるんだぁふ~ん。俺ってそういうの燃えるんだよねぇ。略奪愛ってやつ?」
「うわ、サイテー」
ハッキリ聞こえた略奪愛の単語。大吾の顔じゅうに青筋が浮き上がる。
そしてエンカウントした。
「あの、うちの彼女に何か用スか?」
「お? 彼氏くん? いやね、君の可愛い彼女とちょっとお話してただけだよ~」
笑顔で対応しているが目が笑っていない大吾。それを知ってか知らずか、ナンパ師が勢いずく。
「やっぱり大人の魅力が良いって彼女さん言ってたから、これから隣のお友達含めて俺たちと遊ぶってさ~」
「え!? 私そんな事言ってな――」
「そーだよねお嬢ちゃん」
ナンパ師の一人が慣れた手つきで花田さんに触れようとする。すかさず大吾が体を盾にして阻害した。
「やめろよ。いい大人が学生ナンパしてんじゃねえよ」
大吾が俺の心情を代弁してくれた。俺も同じ思いだ。まったくもっていい思いは無い。顔には出さないが俺も腹に来てる。
「おいお~い」
「っく!?」
左肩を掴まれた大吾。力強く掴まれたのか、持っていたジュースを落としてしまう。そして男が大吾に耳打ちする。
「ガキに女遊びは早いんだよ。彼女ちゃんは俺たちに任せておとなしくお友達と遊んどけって」
「ッ!!」
痛みに耐える大吾の顔が怒りの相へと変わる。
ナンパ師の腕を掴んで力任せに退かせた。
「いい加減にしろよ……! 学生挑発して楽しいかよ……!」
着ているタンクトップの胸倉を掴んで大吾が凄んだ。怒りに燃える大吾に男はニヤニヤしている。
「け、ケンカはダメだよ大吾くん!」
瀬那が睨みを利かせ、花田さんが心配を口にした。
一泊二日の海。その思い出が喧嘩で終わるなんてたまったものじゃない。流石に俺も止めに入る。
「まあまあ落ち着いて」
持っていたジュースカップを瀬那に渡して止めに入る。二人を引き離して間に入った。
「俺たちもう帰るんで、お二人はどうぞ次の情熱に向かってください」
「は? 邪魔だってどけよ!」
もう一人が俺を退かす様に腕を動かした。その一挙動を冷静に対処。暴力的な手を瞬時に掴んで握手した。
「握手までしてくれるなんて、ご理解ありがとうございます」
「ちょっお前放せよ!」
握手を解こうとするがしっかりと掴んでいるので離さない。俺の力が強い事に驚いているのか、握手している手と俺を交互に見ている。
そして俺の背筋とアンテナの様な感覚が凍り、何かを察知した。
「放せよガキ!」
「こいつなんて力だッ!」
何だこの感覚。向こうの離れた海岸から感じる。そこには当然遊んでいる人もいる。普通の光景だが、嫌な予感がして止まない。
「……ど、どうしたの萌」
「オイ! お前覚悟できてんだろうな!!」
明後日の方向を見る俺に瀬那が声をかけ、握手を解けた男が激昂している。だが俺はそれをも無視してしまう。
明確な異変に気づいたのは俺ではなく――
「なんだアレ?」
「え?」
それの近くで遊んでいた人たちだった。
突如、空中から突起物が現れ、それが縦線を沿う様に空間を斬った。
ガラスが粉々に割れる様に空間が破壊。十数メートルに広がった渦の中から、ギョロリと無数の何かがこちらを見た。
そして俺含むこの周辺にいる攻略者にメッセージ画面が出現した。
『ゲートが出現しました』
『ダンジョン:泡沫の同胞』
「ギィイイイイイ!!」
俺が読み終えたと同時に、中からモンスターの大群が溢れ出た。
131
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
序盤で殺される悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう〜主人公がキレてるけど気にしません
そらら
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役貴族に転生した俺。
貴族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な公爵家の令息。
序盤で王国から追放されてしまうざまぁ対象。
だがどうやら前世でプレイしていたスキルが引き継がれているようで、最強な件。
そんで王国の為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインは渡さないぞ!?」
「俺は別に構わないぞ? 王国の為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「すまないが、俺には勝てないぞ?」
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング40位入り。1300スター、3800フォロワーを達成!
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~
そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。
王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。
中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。
俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。
そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」
「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる