上 下
24 / 221
第四章 嫉妬の抱擁

第24話 チュートリアル:邂逅

しおりを挟む
 ダブルデート(ホモ)から数日、期末試験の迎えた。

 あれから勉強会を図書室、俺の部屋、カラオケ片手間で開いて励んだ。相変わらず成績優秀な大吾のご教授は分かりやすく、非常に悔しいが助かった。

 まぁカラオケで勉強会は無いな。途中から歌ってばっかだし。

 俺と大吾は良くも悪くも普通の歌唱力だったが、瀬那がガチで上手くて驚いたのは記憶に新しい。アニソンとかゲームの主題歌が主な俺でも、瀬那が歌う恋愛ソングは俺でも知ってる曲ばかり。黒ギャルパリピでもああいった曲が好きなんだろう。

 途中からクラスのリーダー格の月野も混じって勉強会をした。ガタイ良し、性格良し、眉毛良しの月野も成績優秀な部類で、こう言って応援してくれた。

「がんばれがんばれ出来る出来るヤレルもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張るがん――」

 某太陽神の如くうるさかった。正直途中からスルーしてた。

 そして迎える成績発表の日。

 親友の大吾、クラスリーダーの月野、一緒に頑張ってくれた瀬那のおかげで、何とか筆記は赤点を免れた。

『チュートリアル:期末試験をパスしよう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:力+』

 他の生徒はぽつぽつと補習決定と嘆く中、俺のクラスは一人として補習を受けずにすんでいる。

 まぁ俺が一番危ないまであったけど、阿久津先生はこの結果に大満足の様子。教員間で苦労もあるだろうし。

「はい。筆記終わったけど、これから体力測定だから」

 学園の期末試験は学勉だけではなく、体力測定もある。

 攻略者を目指すにあたって、体力は必然といったところか。

 個人の力量によるので頑張るしかない。学園が必要とする値でないと、体力を付ける補習が行われる。

 しかし、俺は体力自信マンなので余裕でスルー。日々のチュートリアルの賜物だ。

『チュートリアル:体力測定をパスしよう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:技+』

 そして一学期最終日。

「えーね。もう高2だし分かってると思うけど、ちゃんと宿題やって来ること、あとはめを外しすぎないこと。遊ぶのはいいけど、危険な事しちゃダメだから。俺、駆り出されるから。めんどくさいから」

 相変わらずマイペースな先生だ。

「これも分かってると思うけど、夏休み終わった二学期にクラス対抗の模擬戦あるから。なんか他のクラスは夏休み使って鍛錬するとかぬかしてるけど、うちのクラスはそんなのしないから」

「めんどくさいからですか?」

「めんど……、俺はみんなを信じてるから」

 月野の質問に先生が答えた。イイ感じの事言ってるけど、絶対にめんどくさいからだ。

「あと、バイトしていいけど、ドロップアイテム目当てでダンジョン入りたいならちゃんと許可証を申請してね。現攻略者同伴のもとだからって油断しないでね。普通に死ぬから」

 眠そうな顔から緊張感ある言葉が出て、クラスが引き締まった。

 少しの静寂が教室を包むと、キンコンカンと終了のチャイムが鳴った。

「登校日を忘れずになー。じゃあ解散」

 阿久津先生が教室から出たタイミングでズラズラとみんなも机から立ち始めた。

「んー! やっと夏休みだぁ!」

 隣の瀬那が伸びをした。豊満なマシュマロが揺れるが、俺は目をそらして大吾を見た。

「怒涛の毎日だったが、一学期も一区切りだな」

 思い出に浸っている大吾。

 思い返してみると、始まりはメッセージ画面からだったな。それから『至高の肉体』、幻霊君主ファントムルーラー アンブレイカブル、そして受け継いだ君主ルーラー。機仙の仙山にリャンリャン。怒涛の毎日だった。

「で? 今日は萌ちゃんの部屋で遊べんのか?」

「あー」

 実はリャンリャンの事は隠してある。俺の部屋で遊ぶ時や勉強会の時は、リャンリャンに出かけてもらっている。

 どういった関係なのかと聞かれてもマズいので、最初は俺のわがままで外や”居場所”で待機してもらっていたが、リャンリャンの仲間外れ感に俺の良心が揺らぎ、作戦を考えた。

「なんか最近付き合い悪くない? ……まさか彼女できたの」

「無いな。萌ちゃんにいたってそれはない」

「悔しいけど大吾が正解」

 瀬那の瞳からハイライトが消えたと思ったら、俺の言葉で元に戻った。

「遠い親戚がさ、遊びに来てるんだよ」

「親戚? 萌の部屋に?」

「うん」

「へ~」

 二人とも興味津々だ。

「田舎から来ててさ、今俺の部屋で泊ってるんだ」

「でも居なかったよね」

「ちょうどタイミングが合わなかっただけ。今日は居るから、混じって遊ぼうか」

 俺の提案に頷いた二人。さすが陽キャだ。陰キャな俺は人見知り発動して絶対会わない。

 そして俺の部屋。廊下を歩き、リビングの扉を開けた。

你好ニーハオ! 大哥から聞いてるヨ。友達の大吾くんと瀬那ちゃんだネ☆」

 笑顔全振りなリャンリャンが出迎えてくれた。

「え、に、ニーハオ」

「こ、こんにちは」

 二人が目で俺に訴えてくる。中国人って聞いてないぞと訴えてくる。俺も伝えてなかったと負い目で目をそらした。

「いつも大哥と仲良くしてくれて有難うネ☆ 私嬉しい☆」

「いえいえ、俺たちもはじめの事を頼りにしてるっつぅか」

「あの、日本語お上手ですね!」

 笑顔のリャンリャンにおされ気味で緊張を拭えないが、ちゃんと話せている。

「ほら、大哥もお礼してお礼」

「オカンかお前は!?」

 普通にツッコんでしまった。でもこれで俺とリャンリャンの関係性は分かってくれただろう。

「立ち話もなんだし座って話そうヨ☆ お菓子も用意したヨ☆」

 机の上を見ると、本格的そうな中華菓子数点と急須があった。

 四人掛けのテーブルに着く。

「私が今日のために作った☆」

「スゲェ、本格的だ」

「美味しそう!」

 二人の反応は当然の反応だろう。俺もまったく同じ意見だ。リャンリャンにこんな得意技があったとは知らなかった。

「「「いただきます」」」

 リャンリャンのお菓子に舌鼓し、お茶も堪能した。俺たちの昔話や、リャンリャンの事、もちろんフィクションを混ぜて実業家としている。時にはツッコみ、時には笑う。二人とリャンリャンは仲良くなれそうだ。

 寮の門限が迫る時間。

「おじゃましました」

「お菓子美味しかったです!」

 またな、と、二人は俺に言って帰路した。玄関のカギを閉めると、リャンリャンが声をかけてきた。

「やっぱり若い子と話すのは新鮮だネ☆」

「仲良くなって良かったよ。ホント」

 仲違いは無いと思ったけど、これでしがらみ無く動きやすくなった。

「私は大哥の思い出を知れて良かったヨ」

 家臣にほくそ笑みを返した。意を得たリャンリャンが後ろから付いて来る。

 リビングに立つ。俺は手から黒い霧を出し、握りこむ。

「ファントム・ディビジョン」

 霧が俺たちを包む。

 暗転する視界。

 色が戻ると、そこは不思議な空間だ。

 天井が無く、ずっと上は暗黒。壁には緩やかに流れる水。上から流れる水は黒と青のコントラスト。下に流れるにつれ青に変わる。

 床も水たまりが敷き詰められ、排水の概念がなく、一定の水量を保っている。

 浮遊する実体のない篝火。無数にあるそれが辺りを明るく照らしている。

 流れる水の音、篝火が爆ぜる音、どことなく聞こえてくるハープの音が幻想的だ。

 果てしなく広いここがそう、リャンリャンが居るべき場所。ファントム・ディビジョンだ。

 ここは君主ルーラーにのみ許された領地。アンブレイカブルと対峙した城の様なステージとは違うが、ここが俺の領地だ。

 二つある霧の一つが晴れる。現れたのは三メートル弱の大きな武者ぶしゃ。黒を主体としたカラーで金色の装飾が施されている。

 鋼鉄の左手で右手を包み拱手、跪いてかしずく武者。

 そしてもう一つの霧が晴れると、そこには長いコートを羽織り、深くフードを被った幻霊が居た。

「我が主君。忠誠を誓います」

 ツインアイが言葉と共に点滅した。

「そういうのいいから」

「なんかやっちゃうんだよねェ☆」

 立ち上がる黄龍仙。おどけた口調がリャンリャンそのものだ。

「さっそくやるぞー」

 大きく後退し、拳を握りこむ。

「手加減しないヨ☆」

 黄龍仙も構えた。

「晩飯まで付き合ってもらうぞ!」

 俺は駆け出し、修行を開始した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...