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第三章 仙人は笑う
第20話 チュートリアル:激闘の果てに
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「不流亜々々々々々々々々!!!!」
雷が鳴り、大気が悲鳴をあげ、地が裂ける。
ツインアイが激しく点滅する黄龍仙。四肢の強固な外部装甲が鋭利に変化。指先も鋭利になり、後頭部から力の放出が行われ、長い頭髪のようになる。そしてフェイスガードが吹き飛ぶと、人間に似付かわしい顔がそこにはあった。
変化は黄龍仙だけじゃない。
空には先ほどまでになかった大きな陣が展開されていて、遠くの岩山から何かが噴射。噴射物が上空の陣を模る様に配置された。
いったい何が起こったのか。考えられる可能性は一つ。これはリャンリャンが言っていた罠、トラップだ。悪意の顕現。つまり君主の俺が現れたから発動したのだろう。
遠くの方でまた何かが噴射された。上空の陣が完成されると、絶大な罠が完成され、俺に牙を向くだろう。あのリャンリャンが自信をもって施した罠だ。ヤバいに違いない。
ならば俺が取る行動は一つ。いや、はじめから一つだ。
「々々々々々々々々!!」
阿修羅と化した黄龍仙。お前を倒す!!
「ッム!」
霧の剣――幻霊霧剣。アンブレイカブルも使っていた剣。形状は違うが、幻霊君主のみが使える無二の剣だ。
物質、反物質、大気から次元まで、その刀身に斬れない物は無いとされる。更に驚異的な要素として、俺、幻霊君主と同じ、物理による干渉は受けず、一方的に攻撃できる。
つまりは、相手の攻撃はすり抜けて、俺の攻撃は当たるって事だ。
「ヌン!」
俺は斬る事もせず、霧の剣を投擲した。
雷を背景に、黒い霧を纏った剣が一直線に飛ぶ。
「!?」
胸部を貫いた剣。頭髪の一部を斬られ、一歩後ずさったが、刺さった剣のグリップを指で掴むと、ズプズプと胸から引き抜き、霧の剣を捨てた。
霧の様に消える剣。
「!!」
次は俺だ。と、先ほどまでとは違う、驚異的な加速で眼前に迫った。
物理は受けない。俺は右手に幻霊霧剣を形成。そのまま斬り掛かろうとした。
だが俺は思い留まった。豹変した黄龍仙。その握り込んだ拳に力が宿っているのを本能が察した。
「噴!!」
「っ!?」
霧の剣を盾にして拳を受けた。軽く吹き飛ばされるが、立て直した。
驚愕したが、納得もする。今までは力を溜めて攻撃してきたが、あくまで物理の拳。だが、豹変した黄龍仙は、今まで溜めていた力を拳に乗せてきた。
なんの力かは知らないが、オーラと同じ系統だと思った方がいい。現に俺はダメージを受け、体からダメージの霧が出ている。
「空刃!!」
構えた。
「弧月脚!!」
見知った脚技。だが威力は桁違いだった。
「デエエエエエイイ!!」
危険を察知し脚先を避けた。
可視化した威力の波。半透明な半円が音を置き去りにし、雲海を裂き、山を両断した。
「ファントム・タッチ!」
手をかざす。着地した隙を狙って攻撃をしかけた。
地面から黒い空間が現れ、そこから飲み込もうと影の様な手が無数に伸びる。
瞬時に絡まれる四肢。そのまま飲み込まれるはずが、黄龍仙は抵抗。大きな鋼鉄の手で影が引きちぎられ、後から出てきた大きな影の手も同様に千切られる。
この隙に斬りつける。迫った俺は剣を振りかざしたが、黄龍仙の蹴りをもらい後退。攻撃は失敗に終わった。
「!!」
「ック」
アッパーをもらい宙に浮いた。
「空刃――」
「ッム!」
力み震える拳。俺が宙に浮いた状態の攻撃は、既に経験していた。
それに対抗する技を応用で仕掛ける。
「連弾拳!!」
「ファントム・アーム!!」
俺の周囲に無数の霧纏う巨椀が出現。
「破々々々々!!」
「うおおおお!!」
一撃、二撃三撃。そして腕が枝分かれしたと錯覚する程の連打を、無数のファントム・アームが迎え撃った。
一発当たると霧は消え、更に次の霧が拳と撃ち合う。
霧が消える軽い音。鋼鉄がぶつかり合う重い音。その両方が入交、拳どうしが当たった空間は細かく歪む。
豹変した黄龍仙の技はグレードアップしていて、まさに脅威。技の前に空刃と付いただけなのに、拳に刃が追随したように思える。
だが俺も負けていない。俺の技、ファントム・アームの無限連打は、黄龍仙の技を凌駕する。
「幻霊霧剣!」
着地。霧の剣を構えて突撃。ガラ空きの胸部を切り裂く。
「!?!?」
スパークを引き起こしながら勢いよく飛ぶ黄龍仙。
遠くで噴射された物が陣を着々と形成している中、雲海を抜けて別の岩山に背中から着地した。
黄龍仙に影が覆った。
ツインアイが空中の俺を見る。
「こいつでも!!」
巨大なファントム・アームを出現させ、それを思いっきり、
「くらいやがれ!!」
打ち降ろした。
「――」
岩山の天辺から芯を貫くファントム・アーム。岩々を大きく砕き、雷に負けない凄まじい音を仙界に轟かせ、噴火する様に山を崩壊させた。
下の浅い泉を陥没させ、地形を変える。落下する俺に泉の雨が降るが、コートとフードをすり抜けて水が下に落ちる。
「……」
攻撃を与えたが、倒したという実感は無かった。クリアしたメッセージ画面も出ていない。それもあって油断を許さなかったが、その気構えは見事に当たった。
「仙気循環!!!!」
辺りにスパークを撒きながら目に見える力が黄龍仙から迸る。
「不!!」
跳躍し、俺に一撃を入れた。
「ッ!?」
「ゼァア!!」
ゆっくり落下する崩壊した岩に、俺を吹き飛ばす。
「一!」
「ック!」
更に別の落ちる岩に向けて攻撃。
「二!」
同じく落下する上の岩に向ける。
「三!」
仙気なる物を纏った黄龍仙は、金色の跡を残す。それははたから見れば、
「四、五、六、七、八!」
上へ上へ昇って行く、
「九!」
雷の如し。
「噴!!」
上空に飛ばされた俺より先に、金の跡を残して先回りした。
大きく脚を上げ、仙気を纏う。
「十!!」
「ッッッ!!」
落雷を彷彿とさせる猛烈な踵落とし。
音の壁を発生させる衝撃を体感した。噛み締めた歯、遠のく音、瞳に映ったのは、衝撃波で周りの岩が崩壊する光景だった。
「――」
泉の地盤で止まる俺。食いしばる。
まだまだ幻霊君主の力を引き出せていないとはいえ、まさか君主になっても苦戦を強いられるとは微塵も思わなかった。
……これは俺の慢心が招いた結果だ。大丈夫、いけるいける。その間違いが苦戦を強いた。
だが俺は、負けられない!
「空刃・機仙――」
空中で停滞する黄龍仙。その構えは両手を掴む様に合わせている。
「ああそうかよ!」
あれも見た事がある。放ったら最後、絶大な威力の塊が俺を襲うだろう。
「だったら俺もやってやらあああ!!」
両手を合わせ、前へ構えた。
「孔々」
「ファントムゥゥウウウ」
二つの両手、その間に力が集まる。方や黄金。方や漆黒。甲高い音を上げ、重低音を鳴らし、エネルギーが集まって行く。
「「砲々々々々々々々々!!!!」」
黒と金が引き合う様に激しくぶつかる。その拮抗している力の中心から膨張する互いの力。大地、雲海、岩山に原生生物、俺と黄龍仙をも飲み込み、世界は黒と金色《こんじき》に包まれる。
何も見えない。音すら聞こえない。そんな中瞬きすると色が戻り、そいつは鋼鉄の手を向けてきた。
「「噴!!」」
地に足を付き、互いの両手を鷲掴む。
技、立ち回り、隙の突きあい、そんなもの、もう考える必要はない。
「っぐぐぐ!!」
「ッ!! ッ!!」
腕の力を抜かない。手の力を抜かない。指の力を抜かない。
支える地盤は足の形に砕け、握りあう手からは肉と鋼の痛々しい音が響く。
鋼鉄が曲がる。黒い手袋からは霧が噴き出す。
泉の水が滴り、風が破片を転がす。
先ほどまでの激しい攻防が嘘のように静か。文字通り、手も足も出ない。
「っく!」
だが一つだけ、超至近距離の攻撃方法があった。
それは。
「オラァ!!」
「!?」
衝撃により黄龍仙の首が後ろに伸びた。
俺に顔を向けると、同じ攻撃を仕掛けてきた。
「!!」
「ぐあ!?」
もっとも単純で原始的。頭のぶつけ合い。つまるところ、頭突きだ。
「ぬん!!」
「!! 不流亜!!」
「ぅう、あ゛あ゛!!」
頭突き。
「!!」
頭突き。
「まだまだぁ!!」
頭突き。
ボディ全体がスパークしようが、体全体から霧が噴きだそうが、もう関係なかった。
もう、意地の張り合いだった。
「「ッ!!」」
額を預け合う。首から内部パーツが露出し、頭部、頭髪からスパーク。首、顔、頭から霧が噴き出して肩で呼吸。
口からも霧を吐いている俺は、一種の心地よさを感じていた。今の全力を出して戦ったからだ。
だが、水音の心地いい音を邪魔する大きな音が鳴った。
それはそう、上空からだ。
「「!」」
同時に上空を見た。いつの間にか陣が完成されていて、まさに今、謎の噴射物だったモニュメント群が形を成して降りてくる途中だ。
「不流!!」
変化があった。それは、互いの指が結合する程に握りこんだ手を、否が応でも離そうとしている。
「は……ハハ……ハハハ!!」
俺は黄龍仙の慌てふためく姿が可笑しくて、自然と笑っていた。
「離すか! 離すかバーカ!! タッチだタッチだ!」
「不流亜々々々々々々々々!!!!」
低い音声を悲鳴の様に轟かせる黄龍仙。いやだ、離せ。もがくが俺は絶対に離さない。
地面から影の手が伸びる。トラップを一緒に受ける覚悟で縛り付けた。
自分の腕部を引き千切る勢いでもがくが、不意に、首が不規則に動き、挙動がおかしくなる。
「……?」
どうした。壊れたか。俺の予想は、大いに外れた。
「□□。□。……に、你好☆」
「……。……?」
黄龍仙から出た音声とは思えない軽い口調が聞こえた
「いやぁ亮も粋な計らいを用意したものだ。まさか黄龍仙にAIを移行できるシステムを施していたとはね☆」
「……リャンリャンか?」
「是(そう)☆」
ツインアイがリャンリャンの口調と同期する様に点滅している。
「その深く被ったフードの奥はどんな顔してるんだい? ボコボコにされて腫れてるの?」
「い、いや。いやいやいや! なんで突然お前が出てくるんだよ!? 黄龍仙はどうした黄龍仙は!」
驚きのあまり早口になった。頭がこんがらがる。
「くぐもった声で聞きづらいね☆」
知らんがな。
「もうすぐ罠が発動する。発動したら少年は尸解もできず消滅する。で、時間が無いから端的に話そう☆」
俺は唾を飲んだ。
「一緒に罠を壊そう☆」
何を言ってるんだこいつは……。
「お前らが仕掛けた罠だろ!?」
「壊すったら壊すの! 打坏打坏打坏!!」
駄々っ子と同じ態度だ。力強い手なのに首から上はリャンリャンの挙動そのもの。
「わかったわかった! で、どうすんだよ!」
「仙術八卦陣を壊すには、同じ仙術、または同等の仙気を叩きこむと破壊可能だ☆」
仙術八卦陣は罠、仙気は黄龍仙の力の事だろう。
「それをできるのはこの黄龍仙だけだ☆」
「じゃあ手を解いて壊しに行けよ!」
「無理☆ 完全にコントロールを乗っ取るには時間がない☆」
「どうすんだよ!?」
降り立ったモニュメントが囲む様に回転。嫌な予感しかしない。
「君が黄龍仙を乗っ取れ」
「……」
リャンリャンの真剣な声が俺に刺さる。
「かつて悪意によって機仙が持っていかれた。乗っ取ったとは違うかもしれないけど、似た様な事は、君にもできるんじゃないのかい?」
「……」
俺の意志と呼応する様にメッセージ画面が現れ、チュートリアル一覧が表示、選択肢による主張が目に映る。
『チュートリアル:家臣を作ろう』
知識としてはあった。このチュートリアルをクリアするのは当分先、もしくは出来ないと思っていた。
君主に仕える家臣。聞こえはいいが、幻霊に仕えるとは、死の淵を覗くということ。
幻霊君主に染まるという事だ。
生きながら死んだも同然。黒い霧となる。
「……俺と同じ存在になるんだぞ」
声が震えた。
「悪意は悪意でも幻霊だ。緑の不細工になるより百倍いいさ☆」
「ふざけんなよ!!」
指に一層力が入った。
「後戻りできないんだぞ! 肉体が崩れ落ち、魂が縛り付けられる! 俺に! 俺にだ! 人間に、幻霊になれだって……。ましてや機械になんて!! ――」
「機械だよ、この体は……」
「……ぇ」
優しい声だった。ヒステリー気味だった俺を、落ち着かせるには十分だった。
確かに。確かに、人や動物を家臣にするより、機械の黄龍仙を家臣にした方が精神的にまだいいのだろう。
でもそれでいいのか。そんな道徳観で、俺はいいのか。人道を踏みにじる行為なのかも知れないんだ――
「はぁ、だから君は處男なんだよ☆」
「な、何?」
「時間ないってのにウジウジ尻込みしちゃってさ。そんなんだから童貞なんだよ☆」
「……は?」
ど、童貞? 何言ってんだコイツは!
「関係ないだろそんなの!」
「童貞が許されるのって小学生までだよねー☆」
「はあ!?」
「童・貞! 童・貞! はい童・貞!」
リャンリャンの野郎、首を上手いこと揺らして煽って来る。
「ぐぬぬ! こなくそ! やぁってやるぜ!!」
ありがとう。お前なりの応援なんだろ。踏ん切りは付いてないけど、後悔するのはやってからだ!
「ファントム・シンセサイズ!!」
「!!??」
掴んだ手から、黒い影が黄龍仙を侵食していった。
仙術八卦陣。モニュメントが発光しだし、後は発動を今か今かと佇んでいる。
八卦陣が囲む中央は黒い霧が発ちこんでおり、その中から突如、猛スピードで上空に向かう影があった。
長い金色に光る頭髪をなびかせ、体色ベースの黒色から霧が漏れ、金の装飾が際立っている。
「いやぁ言ってみるもんだね☆ 私はAIだけど、こうして体を手に入れたんだ。まだまだ遊んでいいのなら遊びたいよねー☆」
軽い言葉とは裏腹に、膨大な仙気を纏い陣を睨む。
「大哥(アニキ)にカッコいい所見せるためにも、景気づけに一発やっちゃいますか☆」
右脚に仙気が集約。だんだんと膨れ上がり、光となって真っ直ぐ陣の中心に向かった。
「お見せしよう、これが機仙拳の奥義が一つ――」
――機仙 ――破滅拳
流れ星が、陣を貫いた。
『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』
『ダンジョン:機仙の仙山』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:スペシャルギフト』
雷が鳴り、大気が悲鳴をあげ、地が裂ける。
ツインアイが激しく点滅する黄龍仙。四肢の強固な外部装甲が鋭利に変化。指先も鋭利になり、後頭部から力の放出が行われ、長い頭髪のようになる。そしてフェイスガードが吹き飛ぶと、人間に似付かわしい顔がそこにはあった。
変化は黄龍仙だけじゃない。
空には先ほどまでになかった大きな陣が展開されていて、遠くの岩山から何かが噴射。噴射物が上空の陣を模る様に配置された。
いったい何が起こったのか。考えられる可能性は一つ。これはリャンリャンが言っていた罠、トラップだ。悪意の顕現。つまり君主の俺が現れたから発動したのだろう。
遠くの方でまた何かが噴射された。上空の陣が完成されると、絶大な罠が完成され、俺に牙を向くだろう。あのリャンリャンが自信をもって施した罠だ。ヤバいに違いない。
ならば俺が取る行動は一つ。いや、はじめから一つだ。
「々々々々々々々々!!」
阿修羅と化した黄龍仙。お前を倒す!!
「ッム!」
霧の剣――幻霊霧剣。アンブレイカブルも使っていた剣。形状は違うが、幻霊君主のみが使える無二の剣だ。
物質、反物質、大気から次元まで、その刀身に斬れない物は無いとされる。更に驚異的な要素として、俺、幻霊君主と同じ、物理による干渉は受けず、一方的に攻撃できる。
つまりは、相手の攻撃はすり抜けて、俺の攻撃は当たるって事だ。
「ヌン!」
俺は斬る事もせず、霧の剣を投擲した。
雷を背景に、黒い霧を纏った剣が一直線に飛ぶ。
「!?」
胸部を貫いた剣。頭髪の一部を斬られ、一歩後ずさったが、刺さった剣のグリップを指で掴むと、ズプズプと胸から引き抜き、霧の剣を捨てた。
霧の様に消える剣。
「!!」
次は俺だ。と、先ほどまでとは違う、驚異的な加速で眼前に迫った。
物理は受けない。俺は右手に幻霊霧剣を形成。そのまま斬り掛かろうとした。
だが俺は思い留まった。豹変した黄龍仙。その握り込んだ拳に力が宿っているのを本能が察した。
「噴!!」
「っ!?」
霧の剣を盾にして拳を受けた。軽く吹き飛ばされるが、立て直した。
驚愕したが、納得もする。今までは力を溜めて攻撃してきたが、あくまで物理の拳。だが、豹変した黄龍仙は、今まで溜めていた力を拳に乗せてきた。
なんの力かは知らないが、オーラと同じ系統だと思った方がいい。現に俺はダメージを受け、体からダメージの霧が出ている。
「空刃!!」
構えた。
「弧月脚!!」
見知った脚技。だが威力は桁違いだった。
「デエエエエエイイ!!」
危険を察知し脚先を避けた。
可視化した威力の波。半透明な半円が音を置き去りにし、雲海を裂き、山を両断した。
「ファントム・タッチ!」
手をかざす。着地した隙を狙って攻撃をしかけた。
地面から黒い空間が現れ、そこから飲み込もうと影の様な手が無数に伸びる。
瞬時に絡まれる四肢。そのまま飲み込まれるはずが、黄龍仙は抵抗。大きな鋼鉄の手で影が引きちぎられ、後から出てきた大きな影の手も同様に千切られる。
この隙に斬りつける。迫った俺は剣を振りかざしたが、黄龍仙の蹴りをもらい後退。攻撃は失敗に終わった。
「!!」
「ック」
アッパーをもらい宙に浮いた。
「空刃――」
「ッム!」
力み震える拳。俺が宙に浮いた状態の攻撃は、既に経験していた。
それに対抗する技を応用で仕掛ける。
「連弾拳!!」
「ファントム・アーム!!」
俺の周囲に無数の霧纏う巨椀が出現。
「破々々々々!!」
「うおおおお!!」
一撃、二撃三撃。そして腕が枝分かれしたと錯覚する程の連打を、無数のファントム・アームが迎え撃った。
一発当たると霧は消え、更に次の霧が拳と撃ち合う。
霧が消える軽い音。鋼鉄がぶつかり合う重い音。その両方が入交、拳どうしが当たった空間は細かく歪む。
豹変した黄龍仙の技はグレードアップしていて、まさに脅威。技の前に空刃と付いただけなのに、拳に刃が追随したように思える。
だが俺も負けていない。俺の技、ファントム・アームの無限連打は、黄龍仙の技を凌駕する。
「幻霊霧剣!」
着地。霧の剣を構えて突撃。ガラ空きの胸部を切り裂く。
「!?!?」
スパークを引き起こしながら勢いよく飛ぶ黄龍仙。
遠くで噴射された物が陣を着々と形成している中、雲海を抜けて別の岩山に背中から着地した。
黄龍仙に影が覆った。
ツインアイが空中の俺を見る。
「こいつでも!!」
巨大なファントム・アームを出現させ、それを思いっきり、
「くらいやがれ!!」
打ち降ろした。
「――」
岩山の天辺から芯を貫くファントム・アーム。岩々を大きく砕き、雷に負けない凄まじい音を仙界に轟かせ、噴火する様に山を崩壊させた。
下の浅い泉を陥没させ、地形を変える。落下する俺に泉の雨が降るが、コートとフードをすり抜けて水が下に落ちる。
「……」
攻撃を与えたが、倒したという実感は無かった。クリアしたメッセージ画面も出ていない。それもあって油断を許さなかったが、その気構えは見事に当たった。
「仙気循環!!!!」
辺りにスパークを撒きながら目に見える力が黄龍仙から迸る。
「不!!」
跳躍し、俺に一撃を入れた。
「ッ!?」
「ゼァア!!」
ゆっくり落下する崩壊した岩に、俺を吹き飛ばす。
「一!」
「ック!」
更に別の落ちる岩に向けて攻撃。
「二!」
同じく落下する上の岩に向ける。
「三!」
仙気なる物を纏った黄龍仙は、金色の跡を残す。それははたから見れば、
「四、五、六、七、八!」
上へ上へ昇って行く、
「九!」
雷の如し。
「噴!!」
上空に飛ばされた俺より先に、金の跡を残して先回りした。
大きく脚を上げ、仙気を纏う。
「十!!」
「ッッッ!!」
落雷を彷彿とさせる猛烈な踵落とし。
音の壁を発生させる衝撃を体感した。噛み締めた歯、遠のく音、瞳に映ったのは、衝撃波で周りの岩が崩壊する光景だった。
「――」
泉の地盤で止まる俺。食いしばる。
まだまだ幻霊君主の力を引き出せていないとはいえ、まさか君主になっても苦戦を強いられるとは微塵も思わなかった。
……これは俺の慢心が招いた結果だ。大丈夫、いけるいける。その間違いが苦戦を強いた。
だが俺は、負けられない!
「空刃・機仙――」
空中で停滞する黄龍仙。その構えは両手を掴む様に合わせている。
「ああそうかよ!」
あれも見た事がある。放ったら最後、絶大な威力の塊が俺を襲うだろう。
「だったら俺もやってやらあああ!!」
両手を合わせ、前へ構えた。
「孔々」
「ファントムゥゥウウウ」
二つの両手、その間に力が集まる。方や黄金。方や漆黒。甲高い音を上げ、重低音を鳴らし、エネルギーが集まって行く。
「「砲々々々々々々々々!!!!」」
黒と金が引き合う様に激しくぶつかる。その拮抗している力の中心から膨張する互いの力。大地、雲海、岩山に原生生物、俺と黄龍仙をも飲み込み、世界は黒と金色《こんじき》に包まれる。
何も見えない。音すら聞こえない。そんな中瞬きすると色が戻り、そいつは鋼鉄の手を向けてきた。
「「噴!!」」
地に足を付き、互いの両手を鷲掴む。
技、立ち回り、隙の突きあい、そんなもの、もう考える必要はない。
「っぐぐぐ!!」
「ッ!! ッ!!」
腕の力を抜かない。手の力を抜かない。指の力を抜かない。
支える地盤は足の形に砕け、握りあう手からは肉と鋼の痛々しい音が響く。
鋼鉄が曲がる。黒い手袋からは霧が噴き出す。
泉の水が滴り、風が破片を転がす。
先ほどまでの激しい攻防が嘘のように静か。文字通り、手も足も出ない。
「っく!」
だが一つだけ、超至近距離の攻撃方法があった。
それは。
「オラァ!!」
「!?」
衝撃により黄龍仙の首が後ろに伸びた。
俺に顔を向けると、同じ攻撃を仕掛けてきた。
「!!」
「ぐあ!?」
もっとも単純で原始的。頭のぶつけ合い。つまるところ、頭突きだ。
「ぬん!!」
「!! 不流亜!!」
「ぅう、あ゛あ゛!!」
頭突き。
「!!」
頭突き。
「まだまだぁ!!」
頭突き。
ボディ全体がスパークしようが、体全体から霧が噴きだそうが、もう関係なかった。
もう、意地の張り合いだった。
「「ッ!!」」
額を預け合う。首から内部パーツが露出し、頭部、頭髪からスパーク。首、顔、頭から霧が噴き出して肩で呼吸。
口からも霧を吐いている俺は、一種の心地よさを感じていた。今の全力を出して戦ったからだ。
だが、水音の心地いい音を邪魔する大きな音が鳴った。
それはそう、上空からだ。
「「!」」
同時に上空を見た。いつの間にか陣が完成されていて、まさに今、謎の噴射物だったモニュメント群が形を成して降りてくる途中だ。
「不流!!」
変化があった。それは、互いの指が結合する程に握りこんだ手を、否が応でも離そうとしている。
「は……ハハ……ハハハ!!」
俺は黄龍仙の慌てふためく姿が可笑しくて、自然と笑っていた。
「離すか! 離すかバーカ!! タッチだタッチだ!」
「不流亜々々々々々々々々!!!!」
低い音声を悲鳴の様に轟かせる黄龍仙。いやだ、離せ。もがくが俺は絶対に離さない。
地面から影の手が伸びる。トラップを一緒に受ける覚悟で縛り付けた。
自分の腕部を引き千切る勢いでもがくが、不意に、首が不規則に動き、挙動がおかしくなる。
「……?」
どうした。壊れたか。俺の予想は、大いに外れた。
「□□。□。……に、你好☆」
「……。……?」
黄龍仙から出た音声とは思えない軽い口調が聞こえた
「いやぁ亮も粋な計らいを用意したものだ。まさか黄龍仙にAIを移行できるシステムを施していたとはね☆」
「……リャンリャンか?」
「是(そう)☆」
ツインアイがリャンリャンの口調と同期する様に点滅している。
「その深く被ったフードの奥はどんな顔してるんだい? ボコボコにされて腫れてるの?」
「い、いや。いやいやいや! なんで突然お前が出てくるんだよ!? 黄龍仙はどうした黄龍仙は!」
驚きのあまり早口になった。頭がこんがらがる。
「くぐもった声で聞きづらいね☆」
知らんがな。
「もうすぐ罠が発動する。発動したら少年は尸解もできず消滅する。で、時間が無いから端的に話そう☆」
俺は唾を飲んだ。
「一緒に罠を壊そう☆」
何を言ってるんだこいつは……。
「お前らが仕掛けた罠だろ!?」
「壊すったら壊すの! 打坏打坏打坏!!」
駄々っ子と同じ態度だ。力強い手なのに首から上はリャンリャンの挙動そのもの。
「わかったわかった! で、どうすんだよ!」
「仙術八卦陣を壊すには、同じ仙術、または同等の仙気を叩きこむと破壊可能だ☆」
仙術八卦陣は罠、仙気は黄龍仙の力の事だろう。
「それをできるのはこの黄龍仙だけだ☆」
「じゃあ手を解いて壊しに行けよ!」
「無理☆ 完全にコントロールを乗っ取るには時間がない☆」
「どうすんだよ!?」
降り立ったモニュメントが囲む様に回転。嫌な予感しかしない。
「君が黄龍仙を乗っ取れ」
「……」
リャンリャンの真剣な声が俺に刺さる。
「かつて悪意によって機仙が持っていかれた。乗っ取ったとは違うかもしれないけど、似た様な事は、君にもできるんじゃないのかい?」
「……」
俺の意志と呼応する様にメッセージ画面が現れ、チュートリアル一覧が表示、選択肢による主張が目に映る。
『チュートリアル:家臣を作ろう』
知識としてはあった。このチュートリアルをクリアするのは当分先、もしくは出来ないと思っていた。
君主に仕える家臣。聞こえはいいが、幻霊に仕えるとは、死の淵を覗くということ。
幻霊君主に染まるという事だ。
生きながら死んだも同然。黒い霧となる。
「……俺と同じ存在になるんだぞ」
声が震えた。
「悪意は悪意でも幻霊だ。緑の不細工になるより百倍いいさ☆」
「ふざけんなよ!!」
指に一層力が入った。
「後戻りできないんだぞ! 肉体が崩れ落ち、魂が縛り付けられる! 俺に! 俺にだ! 人間に、幻霊になれだって……。ましてや機械になんて!! ――」
「機械だよ、この体は……」
「……ぇ」
優しい声だった。ヒステリー気味だった俺を、落ち着かせるには十分だった。
確かに。確かに、人や動物を家臣にするより、機械の黄龍仙を家臣にした方が精神的にまだいいのだろう。
でもそれでいいのか。そんな道徳観で、俺はいいのか。人道を踏みにじる行為なのかも知れないんだ――
「はぁ、だから君は處男なんだよ☆」
「な、何?」
「時間ないってのにウジウジ尻込みしちゃってさ。そんなんだから童貞なんだよ☆」
「……は?」
ど、童貞? 何言ってんだコイツは!
「関係ないだろそんなの!」
「童貞が許されるのって小学生までだよねー☆」
「はあ!?」
「童・貞! 童・貞! はい童・貞!」
リャンリャンの野郎、首を上手いこと揺らして煽って来る。
「ぐぬぬ! こなくそ! やぁってやるぜ!!」
ありがとう。お前なりの応援なんだろ。踏ん切りは付いてないけど、後悔するのはやってからだ!
「ファントム・シンセサイズ!!」
「!!??」
掴んだ手から、黒い影が黄龍仙を侵食していった。
仙術八卦陣。モニュメントが発光しだし、後は発動を今か今かと佇んでいる。
八卦陣が囲む中央は黒い霧が発ちこんでおり、その中から突如、猛スピードで上空に向かう影があった。
長い金色に光る頭髪をなびかせ、体色ベースの黒色から霧が漏れ、金の装飾が際立っている。
「いやぁ言ってみるもんだね☆ 私はAIだけど、こうして体を手に入れたんだ。まだまだ遊んでいいのなら遊びたいよねー☆」
軽い言葉とは裏腹に、膨大な仙気を纏い陣を睨む。
「大哥(アニキ)にカッコいい所見せるためにも、景気づけに一発やっちゃいますか☆」
右脚に仙気が集約。だんだんと膨れ上がり、光となって真っ直ぐ陣の中心に向かった。
「お見せしよう、これが機仙拳の奥義が一つ――」
――機仙 ――破滅拳
流れ星が、陣を貫いた。
『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』
『ダンジョン:機仙の仙山』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:スペシャルギフト』
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