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第三章 仙人は笑う

第19話 チュートリアル:黄龍仙

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「ぬううっ!!」

「!!」

 互いの脚がぶつかり合い、しのぎを削る。衝撃が風が吹く様に辺りに伝わり、細かな石や破片が飛ぶ。

 地面は幾か所砕け、円を成す壁も亀裂がはしっている。

 肉を激しく叩く鈍い音。鋼鉄を叩くかん高く重たい音。その音が仙界に響いているが、空を泳ぐ雲と雲海は何食わぬ顔でたゆたう。

 鉄山靠をもらってからどれくらい時間が経っただろう。数秒? 数分? 数時間? もはや時間なんて気にしてられない。気にしていたら――

「ッグ!」

 今の様に攻撃を受ける事になる。

「っつ、ふぅううー」

 威力を軽減するべく大きく仰け反って吹き飛んだ。乱れた息を整えるためだ。

「ふー、ふー」

 正直苦戦している。至高の肉体とオーラの強化でなんとか戦えているが、黄龍仙は謎の拳法を使う達人。機仙。だが俺は実直な攻撃しかできない素人。達人と渡り合えるほど動きは良くない。

 その証拠にダメージの蓄積量は明らかに俺が多い。

「!!」

 黄龍仙が両手を掴む様に合わせ、構えた。両手の間にオーラの様な力が集まり、音を立てて次第に大きくなっていった。

「機仙――」

「っ!?」

 なんの技か知らないが、どういった攻撃をするのかはすぐに分かった。アレは誰もが知っている技、とどのつまり。

孔砲々々々々こうほおおおお!!」

 大気を焦がしながら放たれる力。人一人を容易に飲み込めるほどの大きさ。それを大きくステップして避けた。

 俺が背にしていた壁を易々と貫き、やがて徐々に細い線になって収まった。だが、まだ周辺大気にスパークが発生しており、一帯に近寄らない方がいいだろう。

「こいつマジかよ……!」

 ドラゴ〇ボールよろしく、かめはめ波打ちやがった。しかも威力は絶大。壁に大きな穴が空き、雲海と苔むす岩山が見える。

 俺よりよっぽどサイヤ人してるぞこの黄龍仙。ただモーションが長いのが欠点だな。避けやすい。

「ッム!」

「!!」

 低姿勢に構えたと思ったらツインアイが光る。

 瞬きした次には一瞬で俺に迫り、拳を俺に突き立てた。

 技ではない単純なストレート。それをひょいと避けた。

 それが黄龍仙の狙いだった。

「!!」

「ッブ!?」

 大きな鋼鉄の手で頭を掴まれた。

 ――抵抗できない。

 がっちりと掴まれ首すら動かせない。一瞬の出来事。頭が握り潰される。その悪い予感以上の攻撃がこれから起こる事になる。

 右頬から壁に打ちつけられ、砕かれた壁に更に亀裂がはしる。

「放せタコ!」

 目を左に向け黄龍仙を睨みつけたが、感情のないツインアイが俺を見ていた。

 そして黄龍仙は一歩、踏みしめた。壁に押しつけた俺を引きずる。

!!」

「ッギ!?」

怒々々々々ぬうううう!!」

 深く壁に食い込ませた黄龍仙は、地面を砕きながら怒涛の如し駆ける。

 同時に俺を押しつけて壁に跡を描く。

 オーラを纏っているが、そんなの関係ないと激しい痛みが俺を襲う。

「――」

 俺に砕かれる壁に切り刻まれる頬。顔の半分が壁に埋まり、俺は苦しんでいた。

 右耳の感覚が無く、顎から頭部に至るまで出血。壁の溝には俺の血がべっとりと付いているのが想像できる。口も開けず、息もできず、右目もダメかもしれない。ただ尋常じゃない痛みを感じるしか出来なかった。

「噴!!」

 黄龍仙のかめはめ波で空けた穴から外に吹き飛ばされた。血を撒き散らしながら雲海の中を通る。

 そして数ある岩山に激突し、深く埋まった俺はうなだれて止まった。

「あ……ああ……」

 強い……。強すぎる……。拳法じゃなくて力のごり押しで来るなんて……。

「ゴフッ」

 口から大量の血が出た。それと右側面の顔の感覚が無い。まさかもみじおろし攻撃をされる日が来るとは思っていなかった。これで顔にタトゥーなんて入れてれば間違いなく死んでいただろう。

 まぁそれも、轟音を響かせ、迫りくる黄龍仙がフラグを立ててくるが。

「クッソ」

「機仙!!」

「まだ殴りたいってか……?」

「轟連拳!!」

 アッパーが腹部に深々と刺さり、岩ごと俺を持ち上げる。

「破々々々々!!!」

 岩肌が黄龍仙の連打で砕けていく。もう俺を攻撃しているのか、岩山を攻撃しているのか分からない程の高速連打。砕けた岩や破片が下の泉に落ちる。

「々々々々!」

 止まらない。拳の連打が止まらない。

「噴噴!! 嗚嗚おお々々々々!!」

 止まらない。脚の連打が止まらない。

「々々々々!!!」

 止まらない。数秒前は岩山だったここは、既に山としての在り方を崩壊させられ、不自然な岩となっていた。

不流亜々々々々ぶるぅあああああ!!」

 力を溜めた黄龍仙の一撃が、岩に大きな穴を開ける。土煙が風を切って後ろの岩山へと激突するが、勢いを殺しきれないソレは山を貫通。二つ目、三つ目の岩山で止まった。

「……ゴフ。……ッゴフ」

 岩の暗がりが俺を包んだ。足のつま先から頭のてっぺんまで、全身が痛い。骨どころか内臓もぐしゃぐしゃ。吐いた血の味も分かりはしない。ただ岩の洞窟とかしたここで、俺の左目だけは力強く日の光を反射していた。

「ふぅ……」

 息をするだけで胸が痛い。折れた骨が肺に刺さっているのかも。

「……」

 認める。認めるよ。黄龍仙は強い。俺より断然に強い。っはは、正直このまま死んで、チュートリアルの恩恵で生き返ろうとも考えた。

 でも、その選択肢は無い。生き返りは、アンブレイカブル戦だけの可能性もあった。そんな生き返る保証もない博打は俺は打たない。

「――」

 聞こえる。風を切る黄龍仙が止めをさしに来る。

「お……れ……は……」

 負けるわけにはいかない。あいつらを斃さなければならない。アンブレイカブルの無念を晴らすためにも、ルーラーズを斃さなければならない。

 こんな所で燻ぶっていられない。

 だから、俺は行使する。

「けん……げん……」

 白目と黒目が反転する。

幻霊君主ファントムルーラーの顕現を実行』


「!?!?」

 瞬間。仙界が悲鳴をあげる。地上を歩く原生生物。草木、流れる滝までもが震えて怯える。生きとし生けるもの、魂魄がある物、創られた意志ある者、そして四神の長である者も例外ではなかった。

 岩山から黒い霧が飛ぶ。

 岩山の天辺で黄龍仙が警戒していた。ソレを認識すると、鋼鉄の拳握る。

 黒が黄龍仙の攻撃範囲に入った。

「!!」

 正拳突き。

 風を震わす程の威力。拳は見事に黒のコートに深々と刺さった。

 だがそれは刺さったのではなく"すり抜けた"。

「■■■■!!」

「!?!?!?」

 声にならない声。霧を纏う刀身の長い剣が胸部装甲を切り裂く。黄龍仙は驚いた。たった一刀で最も厚い胸部装甲が破られた。そしてこの威力、空間が歪む程の威力。吹き飛ばされるとは思考回路が思ってもいなかった。

 そして黄龍仙が驚いている別場面で、物事は起こっていた。

《悪意の顕現を検知っと》

 AI、リャンリャンがスリープモードからの起動。

《黄龍仙の視覚に接続。……あ~あ》

 接続して映ったのは、黒のフードを被り気品あるコートを羽織る者が容赦なく襲ってくる視界だった。

 最高傑作の黄龍仙が一方的に蹂躙されている。リャンリャンは驚き半分と好奇心が半分あった。

《少年。まさか君が悪意の一対だったとはね》

「■■■■!!」

 悪意の一撃がカメラを揺さぶる。

《でも君からあの心底反吐が出る悪意を感じなかった。きっと君は、私の知っている悪意であって、私の知らない悪意なんだね》

「不流亜々々々々!!」

「■■!!」

 押し負ける黄龍仙。

《君との対話は楽しかったけど、私はAI。二つの罠を発動させてもらおう☆》

 ニコッと笑った。

《一つ目。黄龍仙 破壊仙デストロイモード起動☆》

 ツインアイが怪しく光った。

亜々々々々あ゛ああああ!!」

「!?」

 痙攣する黄龍仙の身の内から力が溢れ出す。

《二つ目は……仙術八卦陣せんじゅつはっけじん。ありていに言えば、悪意を滅ぼす仙術さ☆》

 仙界が震える。蒼かった空が雷雲によって陰り、そして大きく大きく、上空に八卦陣が現れた。

《ふぅ。さて、できれば少年には死んで欲しくないけど、亮と仙人たちが施した特別製だ》

不流亜々々々々々々々々ぶるぅあああああああああ!!!!」

好好ハオハオ! 健闘を祈るよ、少年☆ ……ん? ……これは――》

 何かに気づいたリャンリャン。瞬く間にディスプレイが破裂した。
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