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第三章 仙人は笑う

第14話 チュートリアル:開示

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「――えーであるからして、ここの式を解くには」

 授業。

 クラスメイトと共に普通の授業を受ける。集められた生徒は各々の学力にどうしても差が出ている。通っていた学び舎の偏差値の上下があるからだ。そこの平均値と中央値を把握し、学園は一人ひとりのレベルに合わせて受講する。

 今のクラスは大方のレベルが学園の求める値に達したため、普通に授業しているが、まぁ三か月遅れの俺は個別教室だ。もちろん一人で。

「花房くん、わかるかな?」

「はい、わかりません!」

「うん。正直で結構。どこがわからないかな?」

 正直に言うと、俺は頭の要領が悪い方だ。一度では無理、覚えれない。でも繰り返して学ぶとまぁわかる。そんなレベルだ。

 ゲームと漫画は秒で覚えるのにお前と来たら……と、前の学校で言われたのは鮮明に覚えている。

 しゃーないやん覚えられへんねんから! しゃーないやん! って言ったらゲンコツを貰ったのも覚えている。

 前の学校と違って、ここ学園の教師は手取り足取りで教えてくれる。少なくともゲンコツなんて飛んでこないし。それも俺がふざけたら台無しの可能性はあるが……。

「おっと」

 真摯に接してくれた先生がチャイムの音を聞いて腕時計を見た。

「今日はここまで。分からない事があったら遠慮せず聞いてね」

「はい」

 今日の授業は終わり。これから週に一度のホームルームだ。机の物をバッグに片付け、設けられた個室を出る。自分の教室へ向かうが、道中多くの視線を向けられる。どうやら俺の勧誘をまだ諦めきれない連中が居る様で、男女の視線を最近浴びている。

 数分歩き、教室へと入った。

「お、帰ってきた」

 ニヤつく大吾と目が合う。いつも通りなので普通に席に座った。

「で? 賢さ中の下で脳筋な|萌もえ》ちゃんは放課後どうすんの?」

「予定なし。っつか一言余計なんだよ」

「わるいね」

 テヘペロしている大吾はこれでも成績優秀という謎のバグだ。見た目はケメン(ちょっとイケメン)だが完全に陽キャ気質。誰でも気さくに話すが、頭のデキが良いので教師の評価も悪くないという深刻なバグもある。

 まぁ授業で分からない事があれば答えてくれるので、友人として頼ってはいる。悔しいがこれもバグだ。

「じゃあお前んでスマ〇ラだな」

「またかよ。まぁいいけど……」

 悶絶の反省会からいい事に、俺の部屋がたまり場になりつつある。

「ん? 瀬那は?」

「今日は女子会らしくてな」

 視線に釣られて見ると、瀬那含むクラスの女子たちが一堂に集まっていた。俺の視線に気づいた瀬那が手を振ってくれた。

「あんなに集まっちゃって……」

「カラオケに行くらしいぞ」

 大吾とは違う第三者の声。彼の名前は月野つきの 進太郎しんたろう。柔道をやっている大柄な男で、県大会に優勝する実力の持ち主だ。太い眉毛が特徴で、クラスの引っ張り役を担っている印象。

「よう月野。珍しいじゃん話しかけてくるなんて」

「たまにはな。このクラスは皆仲が良いからこうやって気さくに話せるのさ」

 その気さくな空気をもたらしたのは月野の人柄もあるが、隣の大吾も影響しただろう。

 俺と月野は挨拶を交わす程度で特に深い交流はないが、二人は仲がいいようだ。

「でだ。女子はかしましくカラオケで盛り上がるらしいが、男子の俺たちも親交を深めようじゃないか」

「ほんで?」

 胸を張る月野に疑問を投げる大吾。

「花房」

「……」

 大きな手の月野に肩を掴まれた。

「お前の部屋で、ゲーム大会、やらないか……!」

「は?」

 なぜ俺ん家? 初めて遊ぶのに初っ端から人ん家かよ。

「ん?」

 視界の端に見えたのはたむろする男たち。皆目をキラキラさせて俺の了承を期待している。風に取れる。

「実はみんな花房と仲良くなりたいと思っていてね。見ての通りみんな陰キャ気質で声をかけ辛かったらしい」

 確かにモブですって顔が並んでるわ。俺もそのうちの一人だが。

「ところがだ。普段の会話と噂で、花房がス〇ブラプレイヤーと言う事がわかった」

「そうだよ。俺ゲーマーね。みんなと同じ陰キャだから」

 後ろのモブたちに向かって言った。するとキラキラが二割増しになった。

「いや、君は陽キャだ」

 なぜ否定した月野。モブたちは俺と友達になりたい。俺もモブたちと友達になりたい。陰キャ同士はひかれあうの法則で行こうと思ったのに月野さん……。

「俺は陰キャね。間違いないから」

「花房は陽キャだ」

 いや意志が固い目を向けないでくれるかな。

「違うって陰キャだ」

「陽キャだ」

「……陰キ――」

「陽キャだ」

 なんなんだこの眉毛。頑なに俺を陽キャに仕立て上げる。陽キャはお前だろうに。

 そう思っていると、大吾が月野の肩を掴んで、首を振って否定してくれた。流石は大吾だ。俺の事をよくご存じで。

もえちゃんは陽キャじゃないぞ」

「……陽キ――」

「変態だ☆」

「あ、あ~~!」

「そこで納得するな月野!?」

 こいつらときたらふざけた事を……! コミュニケーションのつもりだろうが、完全に俺を舐めくさっている。こうなったら大吾の恥ずかしいやらかしをだな……。

「ほら席に座れー」

 担任の阿久津先生が教室に入ってきた。

 大人しく従うクラスメイト。チャイム前に先生が入って来るなんて珍しい。まぁこれが普通だとは思うが。

 黙り込む阿久津先生。いつもと違う雰囲気にクラス全体に緊張感が生まれる。

 しばらくしてチャイムが鳴り終わると、先ずはこう口走った。

「うん。スッゲーめんどくさい事になった」

 言葉自体はいつもの緩い感じだが、目が笑ってないので本気なのだろう。

「わかってると思うけど、この学園都市に居る人は全員ある程度の守秘義務がある訳だ。もちろん君たちにも。都市外やSNSはおろか親兄弟、恋人まで、一切の他言無用ね」

 休み時間の緩かった学生生活から、一気に張り詰めた現実を叩きつけれる。

「今から開示する情報は数日後、日本だけじゃなく世界中一斉に開示される情報だけど、それまで守秘義務、よろしく」

 何人かが頷いた。

「よし。先ずは今タブレットに送ったのを見てー」

 タブレットを操作して送られたデータを開いた。

「……」

 これは……。

「六月頭に起こったモンスターの漏れ、通称、「ダンジョンブレイク」が起こったのは知ってるよな」

 机に肘を着く俺。

「急激に進化してくモンスターだったが、負傷者は数名にとどまり市民含む攻略者にも死者は出なかった。ラッキーだねぇ」

 いつもの一言多いスタンス。だが真剣そのもの。

「ヤマトサークルの西田メンバー。日本を代表する一人だが、奮闘虚しく民間人を庇って負傷した。みんなも西田メンバーみたいな攻略者になりなよー」

 テレビ中継の画像だろうか。現場の俯瞰ふかん視点の画像が切り抜かれている。他にもモンスターや西田メンバーの画像も乗っている。

 タブレットをスワイプしていくと、そこにはあった。

「はいこいつ。こいつなぁ~。情報統制でワイドショーでも取り上げてないでしょ。今から言うのは守秘義務ね」

 それは俯瞰視点の画像に、地上でズームされた画像がいくつも張られている。

 周りには黒い霧が集う様に漂い、羽織られている気品ある装飾のローブが体を隠す。長いローブの端で足元が隠され浮遊していると錯覚する。

 深く被られたフードの奥は漆黒で、確認できるのは画像越しで見つめる不気味に光る眼光だ。

「……君主ルーラー

 先生の声に誰かが唾を飲み込んだ。

「漢字で書くと君の主と書いて君主ね。……突然ゲートから現れたこの君主ルーラーだけど、襲ってきたモンスターを瞬く間に退けた。はいコレ。動画送ったから見て」

 言葉と共に動画ファイルが送られ、指示通りに再生した。どうやら地上から撮影されたようだ。

 アスファルトを割り突進する巨体なモンスター。不自然に倒れ伏すと、地面が黒くなりそこから影の様な手が無数に伸び、モンスターを束縛する。

 そして大きな手が現れ、黒い何処かへと連れていかれて動画は終わった。

 静まり返る教室。

「からだ、固まるでしょ。それが普通ね。俺が言いたいのは、人間の本能がこいつらを危険視してるって事だ。動画だけで怖いでしょ」

 少し見渡すと、視界の端に震えている生徒が何人かいた。

「いいねぇウケる~」

 あんたはシャキッとしろ。

「んでね、……はい月野くん」

 手を挙げていた月野が指名された。

「聞き間違いじゃなければ、今複数形を使いましたよね。こいつって……」

 息を飲む生徒が居る中、阿久津先生は嬉しそうに答える。

「いい所に気付いたなぁ。月野くんがグリフィンドールだったら百点あげてたわ」

 いや高得点か。

「我々国連が掴んでいる情報では、こいつはその一体。つまり……君主ルーラーは複数体存在している!! な、なんだってー!!」

 キバヤシか! この場を和ませようとしてるのは分かるが、だだスベリだ。まぁ阿久津先生が楽しそうでなによりです。

「ぷ」

 今吹いたのは大吾だ間違いない。

「って事で、我々人類の敵が判明した訳だが、今は君主たちもとい、"ルーラーズ"なる存在が居るとわかってちょうだいね」

 ルーラーズ、か。

 人類の敵……。つまり人類は俺の敵。幻霊君主ファントムルーラーの敵は人類。このクラス含む全世界が敵だ。

「ッ」

 思わず笑みがこぼれタブレットを見る様にうずくまる。

 分かっていた。継承した時からすでに分かっていた。俺は人類の敵だと。

 だが、だが、それはあくまで”まともなルーラー”の話だ。

「ッッ」

 先代君主、アンブレイカブルの思い。そして一片の記憶と共に、俺は幻霊君主ファントムルーラーを継承した。

 むしろ良かったよ、国連がルーラーズの存在を知っていて。是非ともルーラーズ打倒を目標に頑張ってほしい。

「はいこの話終わり。連絡事項は他にもあるよー。最近ポイ捨てが多いって苦情が学園に来ている。……梶くん、君かい?」

「ちょ、ポイ捨てなんてダサい真似しないですって!」

「うん知ってる。ゴミは持って帰るもんね君。グリフィンドールに十点」

「いや~それほどでも」

「調子のったからグリフィンドールに百点減点ね」

 勘弁してくださいよ~。と和んだ空気にささやかな笑いがクラスを包んだ。

 先生が大吾にツッコんでいる空気の中、うつむいた俺は別の意味で笑っていた。

「ック、ックク」

 アンブレイカブルの想いが俺を操る。そう思える笑みがこぼれる。

 人類《みんな》には悪いけど、あいつらは俺が、ファントムが斃す。

『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』

『スペシャルギフトを開示しますか? ・はい ・いいえ』

 突然のチュートリアルメッセージ。このスペシャルギフトは、レイドボスの単独撃破達成時の報酬だった。次元ポケットみたいに開示出来なかったから不思議に思ったけど、なぜ今なのか。

 ……いや、考える必要はない。俺は前に進むだけだ。・はい を選択する。

『ギフト開示:シークレットダンジョン 機仙きせん仙山せんざん

 思わず拳を握った。


 ~その日の放課後、萌宅にて。ス〇ブラ編~

「お前ら寄って集って攻撃しやがって! この!」

「あ、着地スキ」

「甘いぞ萌ちゃん!」

「あ゛あ゛あ゛ああああ!!」

 八人対戦でピンボールにされたあげく最初に落ちた。
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