俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮

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第二章 萌と愉快な仲間たち

第12話 チュートリアル:ボスク○ボー

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「バッシュ!!」

 大吾がクリボーを叩き伏せる。

「爆焔符!!」

 瀬那が空中のモンスターを焦がす。

「ッ」

 俺がオーラ剣で亀のモンスターを斬り倒す。

 目を×にして消えるモンスター。ここの場所は草原だが、進むにつれて丘が険しくなっていった。

「お、イイ感じに落ちてる」

 大吾が落ちている物を拾ってポーチにしまう。それは牙だ。クリボーの牙。

 モンスターを倒すと、一定の確率でアイテムがドロップする。物としては多種多様で、大きい物もあればクリボーの牙みたいな小さい物まである。

 ではドロップしたアイテムはどうするか。用途は人によりけりで、加工して使ったり、観賞用として所持している人もいる。

 人の営みでもちろん世にでるアイテム。非現実的なアイテムもあるので、専門のコレクターもいる程だ。行き過ぎた収集家も居て、裏オークションとかもあるらしいともっぱらの噂だ。すでに社会問題になっている。

 まぁクリボーの牙なんて子供の小遣い程度のお金しか換金できないらしいけど。

「けっこう奥まで来たんじゃね」

「そうねー。モンスターの種類も増えてきたし、そろそろボスなんじゃない?」

 二人の問答を聞きながら足元にあるドロップ品を拾う。この小さな甲羅の破片がお金に変わるなんてな。そらフリーの攻略者がこぞって拾うわ。

 そう思いながら俺はポーチではなく、ジャージのポケットにしまう。

 なぜポーチじゃなくポケットにしまうのか。理由はこれだ。

『スキル:次元ポケット』

『使用者の意思で開閉できる。使用容量:1%』

 帰還後の公園で手に入れたスキルだ。

 レイドボスを世界で初めて倒した時の特典のスペシャルギフト。それが次元ポケットだった。

 メッセージの説明の通り、俺の意思で開閉できる。見た目は電子の穴と言った表現であってるのか分からないけど、基本的にどこでも場所を選ばず展開できる。

 でも次元ポケットなので、俺はポケットに手を忍び込ませて展開している。その方が俺はしっくりきたからだ。

「ソレ、羨ましい限りだぜ萌ちゃん」

「便利そう……つぅか便利でしょ」

「ゲットできてラッキーかな」

 ハハ、と、笑いながら返答した。

 むろんチームの二人にはこのスキルの存在を教えてある。今見たく羨ましがられていて、ちょっとした優越感に浸った。

 まぁでも、アレは流石に言えないかな。……危ないし。

「少し休憩してから進もう。そろそろボスステージのはずだから、油断せず行こうぜ!」

 流れる川。この川の水は飲んでも問題ないと、研究結果で判明している。

 おいしー。と、水を飲んだ瀬那が笑顔で言っているが、まさにその通りだ。凄く澄んでいて飲みやすい。少し冷たい水が火照った体を冷やす。

「よし!」

 大吾が張り切る。俺と瀬那はフォーメーションを維持して大吾について行く。

 険しくなっていく丘。ダンジョンに入って二時間ほど、美しい草原だったのはもう前の事。丘の峰を下り、しだいに森林へと雰囲気が変わって行った。

 そしてたどり着いた門。門と言っても石造りではなく、草のアーチが大きく曲がっており、それが門と言える。明らかに自然にできたものではない。

 俺たちは互いに目を配らせ、うなずき合い、草のアーチを潜った。

 広いフィールドを数歩前へ進むと、奥の草木が僅かに揺らいだ。それを認識すると一気に激しくなり、黒い影が空に飛んだ。

「来るぞ!!」

 大吾の叫びと共に地面を揺らしてドスンと着地したボス。

 大きな顔に大きな足。体色はブラウンだが、頭に大きな王冠を被っている。二頭身だが、俺たちよりも断然に大きい。

 ボスが眉間に皺を寄せた。

「クリグリーー!!」

「キングクリボーだ!!」

 震えて叫ぶキングにシールドを構える大吾。隣で瀬那が符を出して構えている。

 オーラの剣出して身構えていると、キングが仰け反った態勢になる。いったい何を? そう一瞬思っていると、腕がついていないのに体《かお》を振って振りかぶる。

「グリ!」

 キングの腕であろう付近から岩が出現し、ポ~イと音を立てて投げてきた。

 迫る岩。

 大吾がシールドで防いで岩を弾くが、どこか納得がいっていない様子だ。

「爆焔符!」

 瀬那の火球がキングを襲う。

 着弾するが、収まった炎の後ろから元気なキングがこちらを見ていた。

「グリ―!」

 連続で岩を投擲してきた。早くはない速度で迫って来るが、岩なのでまともに貰うと危険だ。

「ッ」

 オーラ剣で岩を粉砕。隣で大吾もシールドで防いでいるが、やはりどこか納得いかない顔だ。

「大吾、どうした」

「情報どおりなら、アイツには弱点の×テープが張られてるはずなんだ」

 ×テープ? 誰でもわかる様にそこが弱点だよと、ゲームの様に分かる感じのか。

「ッそれが!」

 切り株に向けて投げた盾。それが株に当たると回転しながら弾く。

 縦軸に一瞬回るシールド。鏡の様に反射する盾に映るのは、キングの後ろ姿。そして別の株に弾かれ、大吾の腕に戻ってきた。

「背中にも×がついていない!」

「お前スゲーな! こりゃキャプテンだわぁ」

 片眉をクイと得意げにあげる。何げなくやってる技が素直に凄いと思った。

「ちょちょ! いっぱい出てきたんですケドー!」

 瀬那の驚く声に構えると、周りの草木からクリボーやら亀とかがワラワラと歩いて来た。

「グリグリ! グリ!」

 どうやら奮起しているキングが呼び出しているのだろう。

「こんなに出てくるなんて聞いてない! あんた嘘ついたでしょ!」

「チームなんだから嘘なんてつくか! 今回のキングは虫の居所が悪いらしい!」

 二人の額にジワリと汗が滲み出ている。

「喧嘩してる場合じゃないぞ!」

 俺の叫びで我に返る二人。とにかく今はモンスターを倒すしかない。

「瀬那は範囲攻撃で頼む!」

「うんわかった!」

 手に持つのは複数の符。

「大吾はモンスターから瀬那を守れ! 男見せろよ!」

「あいよ!!」

 シールドをもう片方の腕にも出現させ、二つの盾を激しくぶつけ合う。

「萌《はじめ》はどうする!」

「俺か?」

 脚にオーラを纏わせ。

「もちろん、蹴散らしてくる!!」

 踏みしめ蹴った地面が砕かれる。オーラの剣の出力を上げ、剣先が長くなった。

「オラァ!」

 横一線。一薙ぎで複数体にダメージを負わせ、目を×にして倒れた。

 一薙ぎ。

 二薙ぎ。

 三薙ぎ。

 地面を踏みしめる度、風を頬に感じる度、景色が流れる度、モンスターを文字通り蹴散らしていく。

「すっご……。かっこいい……」

「ッ! 何呆けてんだ! 羽生えた亀が来るぞ!」

 横目で見ると二人から離れてしまったが、大吾はしっかり盾役をしているようだ。

「混撃! 爆焔雷符《ばくえんらいふ》!!」

 吹きかけられた符だから火球と雷が混ざり合いながら発射された。

 飛ぶ亀たちに着弾する法術。燃やされ、撃たれ吹き飛ぶと、

「クエ~」

 と言って光になった。

「俺も負けてられないや!」

 走りに急ブレーキをかけてキングと対峙する。

「グリー!」

 俺を睨みつけるキング。明確な敵意が瞳に宿っている。

「行くぞクリボー!」

 3、4メーター程の迫力ある巨体に、思わずにやけてしまう。

 素早く走って斬り掛かる。

 一閃。

 通り過ぎ間に攻撃を当てるが、体をビクつかせリアクションするだけで、どうも効果が薄い。

 一瞬、アンブレイカブルの物理無効が脳裏に過るが、その心配はないとほくそ笑む。

「グリグリッ!」

 俺に岩の連続投擲をするキング。それをオーラ剣で斬り砕き、隙を見て攻撃を仕掛けた。

 縦に横にと攻撃するが、オーバーなリアクションをするだけでやはり効果は薄い。どうしたものかと考えていると、ふと、リアクションと一緒に荒ぶる王冠を見た。いや、正確には王冠の下だ。

「そこかぁ!」

 荒ぶる王冠から見えた隙間。垣間見たのはちょうど頭のてっぺんに×マークがあった。

 オーラで強化した跳躍なら頭に辿りつけるだろう。たかが数メートルだ。だが俺は渋った。ゲーマーな俺は渋った。

「グリッグリッ!」

 キングは今、俺をターゲットにしている。王冠に近づけば、必ず阻止するために何らかのアクションをするだろう。
 何の確証も無いが、そう思える。

 だったら、今思いつく方法で倒してみるか。

「大吾!」

「ッ!?」

 モンスターを跳ね返す大吾が俺を見る。すかさずキングを親指で指し、そして上へと指さした。

 一秒もない大吾の硬直。すぐににやけた顔になり、自分の胸に親指を指した。

 駆けだす俺。瀬那が雷でモンスターを薙ぎ払い、道を作ってくれた。

 シールドを構える。

「オラァ!」

 片方のシールドを上へと投げる大吾。すぐさま姿勢を低くして身構えた。

 迫る。

「シールドォオオオ! バッシュッッ!!」

 盾に足を乗せた俺を上へと強く弾いた。

 飛ばされる。

 脚に纏うオーラ。

 宙に待ち構える回転するシールド。

「ッフ!」

 投げつけるオーラ剣。

「グリ!?」

 眼前の地面に突き刺された剣に驚愕するキング。目が離せない。

「――」

 盾を足場として蹴り、オーラを拳に纏わせた。

 狙いはただ一点。

「うおおおおお!!」

 王冠の中心に着弾し、ねじ込む様に打ち込む。

 変化は直ぐにあった。

「グリ~! グリ~!! グリ~~~!!」

 潰れたマシュマロの様に縮まるキング。すぐにバネの様にあちこち跳ねると、目を×にして何処か空の彼方へと飛んで行った。

 着地した地面から立ち上がる。どうやら他のモンスターも同時に消えたようだ。

 目を合わす俺たちチーム。二人は息も絶え絶えといったところだが、総じて微笑み、達成感をかみしめているようだ。

「お!」

 空から落ちてきた人間サイズの小さな王冠。それが瀬那の頭にコテンとはまりこんだ。

『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』

『チュートリアルクリア』

『クリア報酬:運+』

「ッハハ、じゃあ……帰ろうか」

 出現した帰路へと続くゲートに、俺たちは歩みを進めた。
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