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第二章 萌と愉快な仲間たち

第9話 チュートリアル:戦闘試験

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「それ!」

 わかりやすいモーションからの上段斬り下ろし。萌は体を半分逸らして避け、続いた切り払いをステップで避けた。

 次は俺だと萌は斜めに斬り掛かる。

 当然阿久津は竹刀で対応。ぶつかり合う剣から、オーラの欠片が細かく散る。

「ッフ」

 弾かれた勢いを利用し、体を捻って回し蹴り。

「――」

 下に避けた阿久津。

(おいおい、風の切る音が普通じゃないぞ!)

 通り過ぎようとする頭上の脚を抱え、投げ、叩き伏せようとする。

 萌に迫る床。

「!?」

 床に着く萌の両手。駆使する脚技。尋常じゃない力に振り回され、地から浮いた阿久津は脚を解いて距離を置いた。

「ま、マジかよ……」

「なんつうレベルの……」

 オーラのレベル、戦闘技術、共に高いレベルに他の生徒は驚きを隠せない。

 自分たちは武器を使ってテストしたのに、彼は武器ならず己の体術も駆使して挑んでいる。もはや舌を巻くしかない。

「阿久津先生って、もと国連の人だったよね」

「その中でも戦闘に特化した部隊出身だったって噂」

「手加減してるだろうけど……」

 ぶつかり合う剣。

「それ!」

 差し合う体術。

「ッ」

 避ける動作や間合いの感覚など、全てにおいて高水準。

 だが阿久津は感じていた。

(花房はまだ、力をセーブしている)

 体術の威力は最早規格外。一撃一撃が、必殺の威力そのもの。だが当たらなければどうという事はない。ここに至っては全力を出していると阿久津は考察する。

 問題はオーラ。視覚化し、あまつさえ剣に具現化できるのは驚愕の一言。だが、オーラの真価は剣を具現化する事ではない。

(具現化するのが当然と思っているのか?)

 細かいオーラの欠片が頬を撫でる。

「っと。ちょい待ち」

「?」

 大きく離れ、手をかざして待ったをかける。

「数手で花房くんの力は分かった。君の戦闘センスはぴか一だ」

「あざす」

 お辞儀する萌。

「こうもあっさり幕引きはもったいない。そう思わないかい?」

「え、いやぁまぁ……」

 あっけにとられる萌。目を逸らしているが、どっちでもいいと謡っている。

 その姿に阿久津は苦笑した。

「よし。さっきよりギアを上げて行くからねー」

「はい――」

「それ!」

 言葉を遮る様に阿久津は動いた。

 萌に向かって、竹刀の先で床を素早く弾くと、可視化した斬撃が床を這った。

「飛ぶ斬撃!?」

「おいおい、あいつ死ぬわ」

 ステップで避ける萌。避けた斬撃が、後ろの方で透明な膜に当たり、激しい音と共に四散する。

「それっそれっ!」

 さらに飛ばす斬撃の双撃。床を裂きながら襲い来る斬撃を、オーラの剣をぶつけ四散させる。

「どうも」

「ッ!」

 四散した斬撃の裏で阿久津が急接近していた。

 驚く萌。

 竹刀の先が胸を狙うが、寸での所で避ける。が、着ていたジャージは切り裂かれた。

「まだまだギア上げてくよー」

 突き、斬り上げ、蹴りからの裏拳。

 破れるジャージ、体術は手で防御。

「お、おい」

「あ、ああ」

 息をのむ男子。

「ねえ、先生、本気になってない……?」

「まだ手加減してるけども、私たちレベルのテストじゃないわ」

「って言うか、あの人誰? 新人くんってのはわかるけど……」

 実戦レベルのテスト。自分たちが受けたテストなど、如何にちゃちな物だったかを分からされた。

 続く攻防。方や攻め続け、方や防御をとる。破れていくジャージ。

(攻め入る隙を作らせない。俺はそこまで甘くない)

 回し蹴りを避けられる。

(そろそろ分ってきたんじゃない? その剣を持っている限り、攻めれないという事がさ)

 剣を持つ。それすなわち、剣に縛られるという事。攻めの動作に、使というワンクッションが入るからだ。阿久津はそれを狙って攻め続けている。

「っく!」

 目に見える萌のイラつき。思い通りに事が運び、阿久津はニヤつきで返答した。

「お、戦法を変えるのかい?」

 オーラの剣をしまう萌。超接近戦の体術で挑む。

 萌が一歩近づく。阿久津が二歩遠のく。

 二歩近づく。三歩遠のく。

 這う斬撃を避けるが、波状攻撃の様に阿久津の攻めが激しくなる。

「ほらほら、俺はここだよー」

 阿久津は接近させない。一撃必殺な威力の怪腕。それを封じる。

 からかう様に攻撃していった。この攻撃を搔い潜り、接近するには、身体強化からの細かく素早い詰が必要。

「ッム!」

 それは萌も分かっていた。オーラを体に纏わせる。

(それでいい。この距離だと、強化したステップで徐々に詰めれる)

 そう。これが数ある一つの正解。経験豊富な阿久津は、我が意を得たとほくそ笑んだ。

(さあ来い)

 脚にオーラが伝う。

(君は何手で詰めれるかな?)

 斬撃を放つ。

 この距離だと五手、七手か。と予想する。

 だがそれは。

「――」

 並の攻略者の場合による。

「!?」

 死。

 それを感じ取り、無意識に身体強化した阿久津。

 響く爆音。わずか一回の長距離ステップで懐に入った萌。

 顔面に迫る拳を避ける。空振る拳。だがあまりの威力に頬の肉が波打つ。

(油断ならないねぇ!)

 超接近戦に持ち込んだ萌。俺のターンだと言わんばかりに、拳、脚の連打を打ち込む。

 それをいなす阿久津。かすりでもすると肉を持っていかれる緊張感が、彼の背中に汗を流させた。

(ここだ)

 大振りの萌のモーション。身体強化をフルに使い、その隙を逃さず蹴りつけた。

「ッグフ!」

 仰け反りながら吹き飛ばされる萌。ブレーキ代わりの脚で描く線が、阿久津の威力を物語る。

 ふらつく萌。

(もらった!)

 瞬時に詰める阿久津。とどめと言わんばかりに、竹刀が唸る。

 次の一撃で決まる。激戦の末、誰もが阿久津の勝利を疑わなかった。

 だが、ここで待ったをかけたのは他でもない。

「!!」

 阿久津自身だ。

(何やってんだ俺! 相手は学生。それにこれはテスト。実戦さながらだったとは言え、熱くなりすぎた!)

 脳内時間で思考した。だがもう、唸る竹刀を止める術はない。

(すまない花房くん。肋骨は免れない!)

 謝る阿久津。だがそれが、空虚へと変わる。

「――」

 空振る竹刀。阿久津は思考が追いついていない。

 そして観客の生徒は見た。

 寸前で上半身を大きく反らし、曲がった脚だけで全体重を支えた。

 脚に力を入れるため、床すれすれまで上体をそらした萌。

 その態勢から脚の力だけで跳躍し、回転。

 阿久津の肩に正座のような形で落ち着く。

「!?」

 脚に挟まれた顔と首。視界が覆われ、何が起こったか未だ理解が及ばず、阿久津は浮遊感を感じた。

 またも上体をそらす萌。床に両手を着いて、脚で挟んだ阿久津を持ち上げて、

「ッッッ~~~!!!!」

 背中から床に叩きつけた。

 響く轟音。割れた床に倒れる阿久津の姿。

 埃が舞う中、おもむろに立ち上がった萌。

「ッシャア!!」

 渾身の右手を、空に突き上げた。

『チュートリアル:先生を倒そう』

『チュートリアルクリア』
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