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第二章 萌と愉快な仲間たち

第6話 チュートリアル:春よ、こい

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「はぁ……」

 俺は猛烈に頭が痛い。別に頭痛の類じゃなくて、悩みの種的な頭が痛いだ。

 今、俺は学校の応接室にいる。単身一人で。

 なぜこうなったか、頭を整理するために一つ一つ、番号順に思い出そう。

 ① 『帰還先の消滅を確認。別の帰還先に移動』ってメッセージが来た。

 ② そしたら天空ツリーの近くに帰って来た。そしてコスプレイヤーがモンスターにボコられていて、初めて見た本物のなんか知らんモンスターが襲ってきて、幻霊君主ファントム・ルーラーの力使ってボコった。

 ③ 早く帰りたくて速攻で帰路。幻霊君主ファントムルーラーを解除して、ウキウキで歩いていたら、借りてたアパートがなぜか半壊してた。(ここで消滅の意味が納得いった)

 ④ 金もない、スマホもない、部屋も無い、そして付き合ってくれる女子もいないゲーマーな俺は公園で夜を過ごす。

 ⑤ 朝。ジャージとスリッパのまま登校。驚愕する生徒指導の先生に、言われるがままここへ連れてこられた。

「はぁ~」

 文字通り全財産失ったわけだが、こればっかりは両親に頼るしかない。まぁその両親は海外務めで日本にいない。スマホが有れば連絡は取れるが、すでにない。まだ本体料金払い終わってないんだが……。

「腹、へったなぁ」

 マジで腹減った。ラーメン、焼き肉、ギョウザ、食べたいなぁ。腹の虫もぐーって鳴るし……。

 腹ペコボーイな俺が食べ物の妄想をしていると、コンコンとドアがノックされ、明らかに教師じゃない見慣れない人が入ってきた。

「はじめまして。国連に所属しています、四十物あいもの 静香しずかと申します」

「あ、ども。花房 萌っていいます」

 国連? なんかの略だろうけど、知らんし、お国の人が何用だろうか。俺悪い事したかなぁ。

「? あ、どぞ」

「失礼します」

 なにもソファに座るくらい俺の了承いらんだろ。

「単刀直入に聞きます。花房さん。貴方はいつ頃帰って来ましたか」

「え、その、えーと……」

 ダンジョンからさっき帰って来ましたグへへなんて言えないよなぁ。完全に頭イッテル奴の言動だろ。

「ダンジョン」

「!?」

「ダンジョンからいつ、帰って来ましたか?」

 この人、ダンジョンを知ってる……?

「なるほど、反応から察するに、さっき帰って来た。と取れます。間違いないですね?」

「……はい」

 どこまで知ってるんだ、この人。

「混乱するのは承知しています。大丈夫です。貴方は正気ですよ」

 四十物さんが安心させる様に笑顔を見せて来た。これが常トークかはわからないが、手慣れている様子だ。

「順を追って説明させていただきます。まず、世界は一新しました」

「一新……?」

 四十物さんが話す説明は、驚愕を含む反面、どこか納得いく内容だった。

 曰く、国連はずっと前からダンジョンやらメッセージ画面の事を知っていた。ひた隠しにしていたが、三ヶ月前、大地震が起きた時を境に全世界にダンジョンが現れ、追随するように攻略者……、まぁ俺の様にメッセージ画面が見える人が続々と現れていったとさ。
 小刻みな余震が続いたのはそのせいだと。

 語られたのは国連が持っている情報の一部でしかないだろう。必要最低限な情報を与える。国連のバックアップは万全だ。だから大丈夫だ。と、俺はそう感じた。

「ってちょっと待ってください! 大地震!?」

「ええそうです」

 いや知らんし大地震。なんか街の雰囲気変わったなぁて思ったらソレ!?

「反応を見るに、花房さんは大地震が起こる前にダンジョンに入ったのですね」

「え、ええ」

「大丈夫ですよ。数は少ないですが、攻略者の中にも花房さんと同じタイミングで入った人もいます。安心してください」

 ニコッと笑顔を俺に向ける。俗にいう営業スマイルだろうか。

「あの、確認しておきたいことあるんスけど……」

「なんでしょう」

「地震が起きたのって三ヶ月前ですよね」

「はい」

「いまぁ、何月ですか」

「六月ですね」

「わ~~~ぁおぉ~~~」

 ダンジョンに入ったの、三月だよな。後一ヵ月で高2だよなぁて思ってたよなぁー。

 確かに帰宅途中なんか暑くねて思ったよ。うん。でもね、確認できないんだわ。だってスマホないもん。

「返して、俺の三ヶ月……」

「そう落ち込まないでください。萌さんにはきっといい事がこの先に待ってますよ」

 いや笑顔で言うなし。確証もない事言わんでくれ。

 つか俺高2じゃん。下に後輩ができるじゃん。いやそもそも、春、無いじゃん俺。
 桜が舞い散るどころか、桜を拝むことなく春が終わったじゃん……。

 そう思っていると、キンコンカンとチャイムが鳴った。

 授業開始の合図だ。

「はぁ。何組だろ」

 春に言うはずだった言葉を口にすると、

「ではそろそろ行きましょうか」

「はい……」

「転校してもらいますよ。学園都市へ」

「……はい?」

 展開は速いものだ。高そうな外車に乗って学校を後にした。途中、俺の腹の虫が雄叫びを上げたのでマクドナーによってバーガーを奢ってもらった。

 車内に充満する美味しそうな匂い。つか美味しかったけど、運転手の人がバックミラーで「なんやねんこいつ」感を睨みきかせてきた。正直すまんかった。

 長い橋を渡る車。その中で学園都市を見る。

「スッゲ。アニメとかと同じ感じじゃん!」

「此度の事件。もとい、ダンジョン事件に対して、国連の事前準備の賜物です。世界の大国に、それぞれ学園都市があり、ダンジョンに関するものや、攻略者の育成に重きを置いています」

 いろいろと聞きたい事があるけど、驚くばかりだ。どれ程の準備期間があったかは知らないが、ここまで大事だと情報統制とかヤバかったのだろうか。

「どうぞ」

「わ~お」

 学園都市に入り、到着したのは綺麗な新しいマンション。ここは俺が住む部屋があてがわれている。らしい。

 昇るエレベーター。ポーンと到着したのは最上階の十階。四十物さんに先導されたのは奥の角部屋だ。

「お~~~ぉ」

 部屋に入ると中々に広い。俺の住んでいたところより段違いだ。

「明日の朝八時に迎いに来ますね。まだ夕方前ですが、気持ちの整理、混乱等を和らいでください」

「はい」

「あとそれと、学園都市と、攻略者学園の詳しい詳細は、備え付けのタブレットにて閲覧可能です。目を通しておいてくださいね」

 では。と、にこやかに四十物さんは軽くお辞儀をしてこの部屋を後にした。

 閉まるドア。

 無音の静寂。

「FooooUuuu!!」

 発狂する俺。ワイワイする俺。

 それはなぜか。

「ブレステ5が置いてあるッ!!」

 ババンと俺の視界を支配するゲーム機。それだけじゃない。

「楽しみにしてた新作が揃っているなんて……!」

 ゲーマー俺、感無量。

 バーガーを食べていた時に、四十物さんが必要な物を書いてとの事で、タブレットを渡された。

 書いていく俺。

 「!」

 軍師並にひらめく俺。

 日用必需品を含む電気ケトルやらなんやら、テレビ、スマホ、持っていたゲーム機。そして、ゲーム機にゲームソフト。思いつく全部を書いた。

「フフフ」

 計画通り……!

 まさかせこいとは言うまいな。

「フハハハハハ!!」

 余りの注文の多さに、四十物さんはドン引きしていたが関係ないね!

 だって俺、ゲーマーだし!

「久しぶりに徹夜かぁ!」

 調子にのる俺に野次が飛んだ。

『チュートリアル:八時間寝よう』

「……」

 さいですか。

 やっと出たと思ったら、さいですか。

「はぁ~」

 学園の資料見て暇潰してから、八時間寝るかぁ。

 ちなみにゲームハードの件は後に怒られた。
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