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第一章 幻霊の君

第4話 チュートリアル:継承

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『クリア不可能な要素を確認。補正適応。スキル「オーラ」を適応』

 物理攻撃が効かないとアナウンスされた直後の復活だった。

「オー……ラ」

 与えられたスキル、オーラ。瞬時に活用方法が頭に流れ込み、俺はあっけにとられた。

「こうか?」

 試しに使ってみると、自分の一部の様に使用可能。可視化した半透明なオーラが俺を覆った。

 そしてボスに殺された。

『チュートリアル未達成のため、補正適応。ステータス上昇』

「……わかった。ッ!」

 短刀を避ける。

「お前を倒さないとッ」

 地面からの攻撃を避ける。

「俺は帰れないわけだッ」

 薙ぎ払う短刀を、上半身を背中に捻って避ける。

 鼻先を横切るボスの凶刃。瞬間、噴出した。

「!」

 ボス、アンブレイカブルの腕から血の様に噴出す黒い霧。

「浅い。皮一枚ってところか!」

 斬ったのは俺。オーラを程よい大きさの剣に変え、俺が攻撃した。

 結果は見ての通り、効果あり。物理攻撃が効かないというメッセージ画面も出てきていない。

「イケる!!」

 適応されたオーラならこいつにダメージを与えられる。

 喜んだのも束の間。

「ぐふぅ!?」

 噴出した黒い霧が俺に近づくと、鋭い何かが飛び出して俺を串刺しにした。

『チュートリアル未達成のため、補正適応。ステータス上昇』

『オーラ:スキルレベルアップ』

 復活しては挑み。

「オラアアア!!」

 死んでは復活し。

「このやろおおお!!」

 目に見えないステータスとスキルレベルがアップする。

「おらこっちだバーカ! 捕まえるもんなら捕まえて――」

 ダメージは負わせる。だが幾度繰り返そうが、アンブレイカブルを倒せるビジョンがまったく見えないでいた。

「はぁ~。マジで何なのお前。こっちはいっぱい死んでるのに、何か言ってよ」

 少しずつ、少しずつ。生存時間が伸びていき、軽口を言う余裕すらできた。アンブレイカブルが遅い訳じゃない。むしろ俺が復活し強くなるにつれ、アンブレイカブルの攻撃が過激になった。

 だが俺もただやられるだけじゃない。アンブレイカブルの動き、癖、攻撃の種類。徐々に分かっていき、生存力が上がって行った。

 ちなみに『至高の肉体』が無ければ映画さながらな超人的な動きは不可能で、無ければ俺はとっくに精神を壊していた。

 オーラのレベルが上がらなくなり、自在に操れた時の出来事。

「アレは……?」

 フードから時折反射する物があると思いきや、古びたペンダントだった。

「……もしかして」

 脳裏に過る家族絵に描かれていたペンダント。それと同じものであろうペンダントが、アンブレイカブルの首にかけられている。

「お前、あの絵の男か!」

 地面から俺を飲み込もうとする攻撃を避け、光る眼光と目を合わせた。

「■■■■」

「!?」

 黒い霧を残して消えたと思うと、気づけば俺の目の前に奴のフードの奥の眼光があった。

 はじめて聞いたアンブレイカブルの声。いや、声と言っていいのかわからない。

 だが、動かない。ほんの数秒だったのかもしれない。お互いに目を合わせていた。

 そして思った。

「あんた、なんでそんなに――」

 寂しそうなんだ。と。

 霧の様に移動され、距離をとられる。

「なぁアンブレイカブル」

「■■■」

「あんた、人間だったんだろ」

「■■■■!」

 短刀が消え、代わりに霧を纏う剣が手に握られ、俺に斬り掛かった。

「ッ!!」

 オーラで形成した剣で応戦。刃を押し付け合い、拮抗した力がお互いを後ろへと飛ばす。

「■■■■オオオオ!!」

 フードから発せられる咆哮が衝撃波をうみ、俺に地面に膝を着かせた。

 地を裂き、空間を歪ませる咆哮。

 怒りから来る咆哮ではない。彼の目をみた俺にはわかる。彼は苦しんでいる。

「■■■!」

 地面に剣を突き立てると、地面を割りながら黒い棘が次々と出現し迫りくる。

「ッ!」

 跳躍して回避し、棘によって飛ばされてた落下する岩にしがみつき、オーラで身体強化。その勢いで一瞬で突進。

「ここだッ!」

「■■■■!」

 通り過ぎ間に斬った首付近から、大量の黒い霧が噴き出した。

 だが倒れない。彼は斃れない。

「あんたに何があったかは知らない!」

 黒い霧の剣を肉薄して避ける。

「あの絵の家族に、何があったかは、知らない!」

 地面からの攻撃をステップで避ける。

「でもあんたが苦しんでるのは、俺にはわかる!」

 斬った。

「■■■■」

 斬った。

「■■■■!」

 何度も斬った。

「■■■■!!」

 しかし、彼から怒りは感じられなかった。

 なぜ俺は斬らなきゃいけない。

「ッ」

 ここを出るため。

「ックソ……」

 彼を倒して、出るため。

「クソオオオ!!」

 時折見せる無抵抗な時を狙って、斬る。

「■■■■ッッ!!」

 なのになぜ俺は。

「涙が出るんだよッ!!」

「■■」

 無抵抗な者を斬りつける。俺はここまで非情な人間だったのか。この涙は、情けない自分に対して出ているのか。

 否。

 否。

 目を合わせてわかった。彼には一切の敵意は無い。むしろ肯定的で、優しく、ほがらかな眼だった。悲しみの雫を瞳に宿して。

「■■■■!!」

 それは悲鳴だった。高らかに響く声。ボロボロのローブから黒い霧がいくつも噴き出し、膝を着いた姿は弱弱しい。

 嵐のような攻撃はなくなり、もはや満身創痍だ。

 頬を伝う涙。下を向く彼のフード。
 
「……がんばった」

 息も絶え絶えな姿に、俺は彼の顔をフード越しに優しく抱いて語り掛けた。

「あんたはッ、っぐす、がんばった……!」

 彼は語っていない。自分の過去を。だが十分。俺には彼の辛さが、対峙して十分にわかった。

 アンブレイカブル。壊れない。彼はこんなにボロボロになって壊れたのに……。だけど揺るがない精神だけは壊れない。壊れていない。彼はアンブレイカブルだから。

 解放してくれ――

「ッ!!」

 心に語り掛けてきた優しい口調。彼本来の言葉。

「……わかった」

 彼の胸に手を当てた。一瞬戸惑ったが、耳に聞こえる安心しきった吐息に突き動かされ。

「――」

 オーラの刃を、彼の胸に突き刺した。

「……。……」

 ローブの端から消えていく。

 デンデデン♪

『ボスを倒そう:チュートリアルクリア』

『クリア報酬:ギフト』

『ダンジョンを攻略しよう 初級編:チュートリアルクリア』

『クリア報酬:速さ+』

『レイドボスを世界で初めて倒した』

『特典:スペシャルギフト』

『レイドボスの単独撃破達成』

『特典:スペシャルギフト』

 怒涛のメッセージ。

 クリア報酬なんてどうでもよかった。

 そして聞こえてきた心の声。

 すでに始まっている――
 受け継げ、私の君主ルーラーを――
 そして終わらせてくれ。この戯れを――

 これが彼の最後の言葉だった。消える間際に出てきたビー玉程の光る力の源。

 その力が、俺の中へと入っていく。

幻霊君主ファントムルーラーを継承しました。花房 萌は君主ルーラーになりました』

「!?」

 幻霊君主ファントムルーラーに関するすべての情報が脳内を駆け巡る。

 そして断片的だが、アンブレイカブルの古い記憶も、少し読み取れた。

「あんたの意地。無駄にはしない」

幻霊君主ファントムルーラーの顕現を実行』

 黒い霧が俺を包み込み、飲み込む。

 気品ある装飾のローブを羽織り、深々とフードを被る。この姿はまるで、先ほど戦っていたアンブレイカブルと同じ姿。違うのは、綺麗なローブに、俺の身の丈サイズといったところか。

『ダンジョンクリア』

『帰還します』

 俺はやっと、帰れる。
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