異能専科の猫妖精

風見真中

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贖罪編

所有欲

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 大神大地の生徒会勧誘を終え、大地を送り出した生徒会室で諏訪彩芽は大きく伸びをした。
 車椅子のタイヤを回して自分のデスクに戻り、烏丸叶に紅茶のお代わりを要求する。
「疲れた。お砂糖二つでお願いね」
「かしこまりました。雪村は、いるか?」
「お願い、します~。お砂糖と、ミルク、いっぱいで~」
 二人のオーダーに頷くと、叶は慣れた手つきで適量の茶葉をポットに入れ、熱湯から適温に冷ましたお湯で紅茶を淹れる。
 たちまち生徒会室内には芳しい香りが溢れ、彩芽はその香りを楽しむように深く息を吸った。
 目の前に琥珀色の液体で満たされたカップが置かれた時、彩芽は給仕をした叶の表情が怪訝なものになっていることに気づいた。
「どうしたの、叶?」
 カップを手に取りながら彩芽が尋ねると、叶は眉間にシワを寄せて「なぜ……」と切り出した。
「大神はともかく、なぜアイツをネコメの護衛に選んだのですか⁉︎ 校内には他の霊官もいるのに、わざわざあんな危険人物を……‼」
 叶の言葉に、彩芽はその端正な顔立ちにハッキリと苛立ちの色を浮かべた。
「危険人物って、それ本気で言ってるの、叶?」
 ワントーン低くなった主人の声に動揺しつつも、叶は進言を止めようとはしなかった。
「アイツが何をしたのか、お忘れではないでしょう⁉ 大神のやつも、よく平然と……」
「あの子がどんな扱いを受けていたのか、それを見てもそう言えるのッ⁉」
 彩芽は言葉を荒げ、ソーサーに乱暴にカップを叩きつけた。
 琥珀色の液体がデスク上に飛び散り、書類に染みを作る。
「あの子は……あんなことがあって一番辛かったはずなのに……今もまだあんな状態で、自分の罪と向き合っているのよ?」
 声を震わせる彩芽に、叶は口を噤んだ。
 普段動くことを極力避ける雪村ましろも、この時ばかりは自分のデスクを離れ、彩芽のそばに寄って震えるその手を握った。
「そんなに、ひどかったの?」
 ましろの問いに、彩芽はゆっくりと頷いた。
「あんなの、人間の扱いじゃないわよ。手足も口も拘束されて、死んだ目でただ壁を見てるだけ……。あの子が、誰よりも苦しんでたのに……‼」
 彩芽はその大きな瞳に涙を溜め、わなわなと口を震わせた。
 あんなことになる原因を作った人物に、あんな扱いを良しとした大人たちに、何より、あの子を守ってあげられなかった自身の不甲斐無さに、嫌悪した。
「……お嬢様は、優しすぎます」
 スッとハンカチを差し出し、叶は主人の涙に心を痛めた。
 人前では常に気を張って、決して弱みを見せようとしない彩芽の涙を見るのは、叶にとっても久しぶりのことだ。
 叶から受け取ったハンカチで涙を拭い、彩芽は腕を組んで不遜な態度を取り繕う。
「別に、優しい訳じゃないわよ。この学校の霊官は全員私の部下で、私の所有物みたいなものなの‼ 私のものが不当な扱いを受けているんだから、怒るのは当然よ」
 いつもの調子に戻った彩芽に、叶とましろは顔を見合わせて微笑んだ。
「お嬢様は、わがままですね」
「でも、それが、あやめの、いいところ、だよ?」
 自分を見て温かい目をする二人に、彩芽は頰を赤く染めて「なによ、二人して」といじけてみせた。
 後輩たちには決して見せない、年相応の少女の顔だった。

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