異能専科の猫妖精

風見真中

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旧友編

風呂

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 夕方、寮の部屋では毎日恒例の格闘が繰り広げられていた。
『ダイチ……イヤだ……やめろ‼』
「リル、お前は相棒だ。俺にとって大切な奴だ」
『だったら……‼』
「だからこそ、俺は心を鬼にする!」
『イヤだぁ‼』
 逃げ惑うリルを取っ捕まえるべく、俺は広くない部屋の中を駆け回る。
 足の間をすり抜け、部屋の隅に移動するリル。
「小癪な!」
 グイッと首を引き、リルとの繋がりを示す封印異能具、グレイプニールでリルを引っ張る。
『アウ⁉』
 ステーンと転んだリルはそのまま俺の方に引っ張られ、フローリングの床をカリカリするという抵抗も虚しく、俺の腕にスッポリと収まった。犬の足腰にはフローリングってあまり良くないらしいから、近々カーペットでも仕入れてやろう。
「さあ、観念しろ!」
『イヤだ……イヤだ‼」
「風呂くらいで毎日そんな騒ぐな‼」
 リルのお風呂の時間である。
 リルは狼の異能生物。犬なんかがそうであるように、濡れるのが嫌いだ。
 最初のうちは嫌がるんなら無理に入れなくてもいいかな、とか思っていたが、はっきり言って臭うのである。
 俺は四六時中リルと行動を共にする。そのため自分ではなかなか気付かなかったのだが、クラスメイトに「犬臭い」と指摘され、少なからずショックを受けた。
 だからせめて、毎日のシャワーだけは欠かさないようにしているのだ。
「すぐ済むから、大人しくしてろ」
 使い魔を持っている生徒のために購買で取り扱っていた犬用シャンプーを泡立て、全身をわっしゃわっしゃと泡まみれにする。けむくじゃらだからシャンプーの消費が激しい。
『ガウッ! ガウガルルルッ‼』
「吠えるな‼」
 泡も嫌がるリルは普通の犬のように吠える。抵抗は激しさを増す一方だ。
『ガブッ‼』
「痛っ⁉ 噛みやがったなこの野郎‼」
 そんな日課になりつつあるやり取りをすること十数分。お互いにグッタリと疲れてシャワールームを出た。
『なあダイチ、人間は疲れを取るために風呂に入るんだろ? なんで風呂の後の方が疲れてるんだ?』
「お前のせいだろうが‼」
 柔らかいほっぺたをうにうに引っ張ってやると、リルは『やめれ~』とジタバタ抵抗した。仔犬のほっぺは柔らかいな。
「ほら、乾かすぞ」
 冷風にしたドライヤーを構えると、リルは再び抵抗を見せる。
『それやだ!』
「ワガママ言うな!」
 風も嫌がるリルは、部屋の真ん中で体をブルブル震わせて水気を飛ばした。
「それやめろっての!」
 かくして部屋の中はビッショビショになった。こんな事毎日続けるのは、ホントにしんどい。
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