スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第160話 ネーザンの願い

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 ミツ達が試しの洞窟を制覇した後、冒険者ギルドに帰る前と分身にトリップゲートを出してもらう。
 ミツは新たな街を遠くから見下ろしつつ、血生臭かったフロアから出たことに大きく深呼吸をしていた。

「ふー。空気が美味しいって、こう言うことを言うのかな?」

 自身に〈ウォッシュ〉のスキルを発動しては、身体についてしまった血を洗い流した後、彼は外の風に身を任せたくなる思いに背を伸ばしていると、分身が指を指して自身が踏み入れた事のある街を教えてくれる。

「相棒、あれがトネリラックの街だ。さっき見せた街はディオンアコーな。ジャーマンスネークの依頼はディオンアコーの方で出てたから間違えないように」

「うん、オッケー。街の方はマップにちゃんと表示されてるし、今度からはゲートを使って来れると思う」

「そうか。じゃ、そろそろ自分も戻してくれ」

「うん。それじゃお疲れ様」

「ああ」

 分身は短い言葉をその場に残し、ミツの影の中へと吸い込まれるように消えていく。

「相当急いでここまで来てくれたんだろうな。何か街々で余計なことしてたみたいだけど……。まあ、ありがとう、分身……」

 ミツがトネリラックの街を見下ろしつつ、改めて分身へと感謝を告げていると、トリップゲートの先でリッコが手招きしてミツを呼んでいる。

「ミツ、早く来なさいよ! 皆あんたを待ってるんだから」

「はいはい。すぐに行くよ」

 トリップゲートを出し、プルン達は冒険者ギルドの1室に戻っている。
 ゼクス、セルフィ、バーバリも彼らと共に一度冒険者ギルドに顔を出した後、自身が倒したベルフェキメラとベヒモスの素材を渡すそうだ。
 ギルドに戻る前に、ミツから〈ウォッシュ〉のスキルを受けて泥や血の汚れを全て落としている。
 リックのやり取りを見ていただけに、皆は少しミツの提案に後ずさり。しかし、流石に返り血を受けた姿で戻るのも憚れたのだろう。
 リックは一番汚れが酷かったリッケの背後に周り、彼を突然羽交い締め。
 兄の突然の行動に驚き暴れ腕を解くにも、リックとの力の差があり過ぎてリッケは逃げ出すことはできなかった。
 リックは弟を羽交い締めにした状態のまま、ミツ、今だ、俺ごとやれと突然言い出した。
 戦闘漫画で見たことあるシーンそのままだっただけに、ちょっと二人のやり取りが笑えた。
 いや、あれは弟が兄の背後を取ったんだっけ?
 取り敢えずミツは魔○光殺砲は使えないが、リックの望みどおりと二人に向かっては、ウォッシュを発動。
 それでもちゃんと今度は手加減はしたので、頭からバケツの水をかぶる程度の勢いしか無かったのでそれ程悲惨なことにはならなかった。
 結局ミツからウォッシュのスキルを受けたのは接近戦をした人だけ。
 プルンを除いて女性陣は、四人は入浴で汗の汚れを落とすそうだ。

 街に戻る前にある話が出ていた。それは試練の扉で討伐したモンスターの素材は各自個人の受け取りと皆で話を決めていた。
 それだと圧倒的にミツの受け取る報酬が多くなると思ったのだが、結果思わぬことになってしまうことに。
 それは冒険者ギルドの副ギルドマスターのエンリエッタが、ミツと出会って一番に頭を悩ませる結果となってしまった。

「ババ、戻ったニャよ!」

 プルンが試しの洞窟から戻ってきたことを、隣の部屋のギルド長の部屋に連絡とドアを開く。
 いや、彼女はドアを開く前とノックは間違いなくしたのだが、ノックとドアを開けるのを同時にやっては意味がないだろう。
 
「おや。戻ってきたかい。ご苦労だねプルン。おお。これはこれは、皆様も無事のご帰還、お祝い申し上げます」

 ギルド長であるネーザンはプルンのドアの開け方も軽く流し、後に部屋に入るセルフィ、バーバリ、ゼクスへと恭しく頭を下げ言葉を伝える。
 何だかんだと小言をプルンに言っているネーザンだが、明らかに彼女はプルンに甘いと思う。
 洞窟での話を聞こうと、ネーザンがセルフィへと椅子を勧める。
 ギルド長室はそれ程大きな椅子は無いので、貴族であるセルフィ以外は、全員立った状態である。  
 開口一番と、口を開いたのはセルフィの言葉からであった。

「先ずは、冒険者でもない私達が試しの洞窟に入ることを許可してくれたこと。冒険者ギルドのご配慮、感謝致します」

「いえいえ。ゼクス殿や獣人国の剣豪と名の有名なバーバリ様居てこそ。それで、いかがでしたかセルフィ様。今回、洞窟に出向かれたことに何か貴女様を驚かせることでもありましたか?」

「……ええ、驚くってレベルの話で済まない程に……」

「それはそれは……」

 二人の視線がミツへと向けられる。
 片方は疲れたような視線であり、もう片方は面白そうな事が聞けそうと不敵に笑みを見せている。
 ネーザンの言葉に呆れつつ洞窟内でのミツの戦いぶりを改めて思い出した面々が目を細める。

 そんな周囲の視線にミツは苦笑いを浮かべつつ、ネーザンを見て以前受けた依頼のことを思い出す。

「あっ、ネーザンさん、以前お願いされていました手紙の依頼の件、無事に終わりましたのでその報告も後でいいですか?」

「んっ。そうかい……。丁度いい、その手紙を先に渡してくれるかい」

「はい。どうぞ」

 ネーザンは一度対面に座るセルフィに少しだけ視線を向けた後、ミツにスクロール状の手紙を受け取る。
 そのスクロールを見たゼクスは、眉を上げネーザンへと口を開く。

「んっ。ネーザン様、それはもしや……」

「ふっ。ゼクス殿なら見たことあるだろうね……。よし。さて、セルフィ様、ゼクス殿、バーバリ様。突然で悪いけど、この子の証人になっていただけるかね」

「証人?」

 ネーザンはスクロールを開き、目を通す。
 そして何かを確認した後、改めてセルフィ、ゼクス、バーバリへとミツへの証人依頼をする。

「ババ、おじさん達はミツの何の証人なるニャ?」

「ホッホッホッ。プルンさん、我々はミツさんのランクアップの証人を願いされたのですよ」

「ランクアップ……。えっ!?」

 ゼクスはいつもの飄々とした笑いをし、プルンへと疑問の答えを返す。
 ミツは机の上に置かれた羊皮紙に視線をやると、自身の冒険者ランクを上げる為に二つのギルド長の認印が押されていることに目を見開く。
 そう言えばと、このスクロール状に渡された羊皮紙だが、渡す時に側にいたエンリエッタが唸る様に額を抑えてた事をミツは思い出していた。
 エンリエッタは既に周知している案件なのかもしれない
 そんな事を思い出しながら、羊皮紙とネーザンをミツが視線で交互に見ていると、周囲の仲間達からボソリボソリと声が漏れ出していた。

「ババ! ミツをグラスランクにする気だったかニャ!?」

「まじかよ……」

「ミツ、最近アイアンになったばかりなのに……」

「流石ミツ君、スピード出世ですね……」

「はあ~。ドンドン離されちゃうわね~」

「ミーシャ、武道大会の時から彼の戦いを見せられちゃ、彼はアイアンでもおかしいくらいなのよ」

「ムッ……」

 武道大会の事を話題に出したローゼだが、その時戦ったバーバリの側で話す内容でもないだろう。
 バーバリの視線に気づいたローゼは、彼の眼力だけで少し萎縮してしまった。

「あっ! す、すみません……」

「いや、構わぬ……」

 目を閉じたままのネーザンはプルン達の反応を聞き、ゆっくりと目を開けては、セルフィへと羊皮紙を彼女にも見えるように差し出す。

「そうかい、グラス……あんた達はそう思うのかい……。セルフィ様、どうかお目通しを……」

「ええ……」

 セルフィは受け取った羊皮紙に目を通していくと、彼女の視線は次第と険しく眉間に眉を寄せていく。

「ゼクス」

「はっ。拝見致します……」

 一通り目を通したセルフィは後ろに立つゼクスへとその羊皮紙を渡す。
 ゼクスも彼女同様に、近い反応を見せた後、隣のバーバリへと羊皮紙を見せる。

「これは……どうぞバーバリさん」

「……。フム……」

 バーバリが静かに羊皮紙を机に置き、暫く部屋の中に静寂が満ちる。
 耳鳴りが聞こえ、誰も口を開く者はいないが、セルフィの前に座るネーザンの顔には薄っすらと汗が滲みだしている。

「結論から言わせてもらうわ。冒険者ギルドマスター、ネーザン。貴女の願いは我々は承認することはできません」

「「……」」

 三人の厳しい視線がネーザンへと向けられる。
 ネーザンは少しだけ眉を動かした後、口調は落ち着いたままにセルフィへと理由を求める。

「僭越ながらセルフィ様、理由を求めても宜しいでしょうか」

「いいでしょう。先ず貴女が少年君に求める要求、グラスランクを通して彼のシルバー冒険者へのランクアップですが、我々はそれを認めません」

「「「「「「シルバーランク!?」」」」」」

「えっ……」

「……」

 ネーザンが手渡していた羊皮紙には、こう記載されていた。

 この手紙を貴殿に持ってきた少年。
 ライアングルの街より登録したアイアンランク冒険者のミツを、冒険者ランク、グラス及び続けてシルバーへのランクアップ証人を他の冒険者ギルド長に求む。
 本人にこの事はまだ伏せている為、理由はライアングル冒険者ギルド長のネーザンに求むべし。
 
 書かれた手紙にはミツの冒険者ランク、グラス、そしてシルバーへのランクアップの証人を求める事が書かれていた。
 この手紙を見た二つのギルド長は驚きはしたものの、ネーザンとの付き合いも長い事に、彼の情報を求める連絡は回すことはなかった。
 何故なら、ネーザンが冗談やフザケてこの様な手紙を送るとは考えられないからだ。

 リック達が驚きに声を出した事にネーザンとセルフィの視線が向けられる。
 別に彼女達はひんしゅくを買った訳ではないが、二人の視線はリック達を萎縮させるには十分すぎる迫力があるのだ。
 彼らは直ぐに謝罪の言葉を述べ始める。
 そりゃギルド長と貴族様から睨まれたらそうなるよ。

「す、すみません!」

「口を塞ぎます!」

「申し訳ございません!」

「お許しください!」

 部屋の中がまた静かになったところで改めてネーザンが口を開く。

「……お言葉を返させて頂くなら、私はこの少年の実力はかなり上。並の冒険者では測れぬ力を持っていると熟知したつもりです。それでなお、何に故シルバーになる事をお許し頂けないのでしょうか……」

 自身の事のようにネーザンがセルフィへと改めてミツのシルバーへの証人を求めるが、セルフィは首を縦に振ることはなかった。
 そこに一歩前に出るゼクス。

「ネーザン殿、口を挟むことをお許しを。我々はミツさんのランクアップに関しては口を出すつもりはありません。寧ろ彼だけではなく、彼らお仲間の皆さんにも私。いえ、私達は共に戦い、彼らの戦いぶりに高い評価を与えております。ですが、ネーザン殿の評価はセルフィ様のおっしゃいました通り承認できかねぬ願い」

 元シルバーランク冒険者とは言え、憧れのゼクスに自身を褒められる言葉を聞いては、皆の口元がゆるむ。
 特にリッコは心が弾む思いと嬉しさに満ちていた。
 
「……」

「冒険者ギルドの長よ。我は他国の者。だが冒険者のランクに関してはゼクスを通して理解しておる。そこでハッキリと言わせてもらうが……。貴殿の評価は、小僧の力を見誤っておる」

「左様でございますか……。坊や、すまないね。もう少し私に発言力があればあんたをシルバーにできたんだけど」

 ネーザンはミツの方に振り向き、先ずは謝罪と言葉を伝える。
 ネーザンは自身てミツの力を見極めたつもりであったが、その気持ちは三人には伝わらなかったと落胆する言葉を出している。

「えっ!? いやいや。ネーザンさんが謝る必要なんてないですよ」

「そうかい。それじゃ、他の街の証人はあるから、お前さんをグラスにはできるからそれで我慢しておくれ」

「えーっと。グラスは確定なんですね……」

「ふふっ。お前さんはそれ程冒険者ランクには拘ってないみたいだけどね。あんな派手な事をやった者をいつまでもアイアンにしてちゃ、ギルドの信頼が減ってしまうんだよ。悪いけどこれは強制だよ」

「うわっ……」

 ネーザンは目的を成し遂げることはできなかったが、取り敢えずミツのランクをグラスにする事に外部からの風当たりはまだましになるだろうと、ネーザンは少しだけ安堵する。
 ミツは流石にここでネーザンの言葉を断っては、身分証明書代わりのギルドカードが回収されてしまうかもしれないと少し警戒し、微苦笑を浮かべることしかできなかった。
 話が終わったと思いきや、口を閉じていたセルフィが言葉を止める。

「お待ちなさい。ギルドマスター。少年君にグラスに生って貰うのは構いませんが、我々は彼がシルバーになる為の証人になるつもりはまずありません」

「セルフィ様、それはどう言う意味で……」

「少年君にはグラスランクでも、シルバーランクでもなく……。彼には、アルミナランクになって頂きます」

「!?」

「アルミナ?」

「「「「「「!!!???」」」」」」

 セルフィはいっとき言葉をため、彼女の出した決意にその場の皆が驚愕と驚く。
 ネーザンはミツと自身の書いた羊皮紙を見た後、真剣な顔でセルフィへと視線を向ける。
 仲間達はまるで鯉のように口をパクパク。  だが、ミツは周囲と違い、ランクアップするんだと、まるで他人事の様な反応。
 そんな彼にゼクスが怪訝そうな顔をしてミツへと問をかける。 

「フムッ。ミツさん、失礼ながら冒険者ランクを下から言って頂けますか?」

 突然のゼクスの言葉に、ミツは戸惑いながらも指折り数え、冒険者ランクを下から順番に数える。

「えっ? 下からですか? えーっと、新人のウッド、半人前と言われてるブロンズ、冒険者として一人前と言われたアイアン、ベテランと言われてるグラス、最後に超人的有名なシルバーランクですかね……。あれ? アルミナ……」

 ミツはシルバーまではすんなりと答えることはできたが、アルミナランクに関しては知識が無い為に言葉を止めてしまう。
 頭を傾げ、考える素振りを見せるミツにプルンが声をかける。

「ミツ、ウチとあった時に馬車の中で冒険者ランクの説明はしたニャよ。忘れたニャ?」

「えっ……えーっと」

 ミツは頭の上にモワモワと吹き出しの様なイメージを出しながら、その中でプルンとの会話を思い出してみる。

○○ ○○ ○○ ○○

「ランクはギルドからの依頼達成によって上がるニャ。下から〔ウッド〕〔ブロンズ〕〔アイアン〕〔グラス〕〔シルバー〕 〔アルミナ〕と上がっていくニャ」

○○ ○○ ○○ ○○

「あー! 言ってたね! ……アルミナ!?」

「反応が遅いわ!」

 予想していた以上のランクアップに、ミツはネーザンを二度見する程。
 やっと理解したのかと、隣に立つリックが軽くツッコミを入れてくる。

「えっ!? アルミナ!? ミツがゼクス様より上になるの!?」

「落ち着いてくださいリッコ。その言葉はミツ君に失礼ですよ」

「ご、ごめん……」

 妹のリッコの気持ちも分かるのか、リッケも苦笑いで彼女の言葉を窘める。

 ネーザンはそんなやり取りをみつつ、考えを纏める為にセルフィへと問をかける。
 その問いに対して、セルフィはなんてことは無いと答はすぐに返す。

「セルフィ様、何故シルバーではなく、その上のアルミナランクを少年に与えると……」

「……簡単なことよ。ここにいる者は彼の実力を目にしてるから隠すことなく言わせてもらうけど」

「……」

「私達が少年君の実力をこの目で確認し、判断した上で述べさせて頂ければ、彼は既にシルバーを超えた力を持っているわ。いえ、正直彼にランクをつけることすらどうかと思う程だけど……。先程貴女が少年君をシルバーにするって言ったわよね。それには、ゼクスの様に冒険者としての経験が豊富な者の推薦。またはバーバリ様の様に貴族に仕える師団長クラスの推薦。そして私の立場である貴族としての伯爵以上の推薦だけど、国は違えど3つ必要とするわ。貴女は理解してると思うけど、ここで少年君にシルバーになる為に私達が証人となれば、次のアルミナランクの時に私達は、彼を証人として推薦ができなくなるわ。シルバーと違い、アルミナランクには最低10人の推薦を必要とします。彼には悪いけど、一つでも彼をアルミナにする為の推薦を残す為、暫く少年君にはグラスランクで我慢してもらいます」

「「「……」」」

 セルフィの言葉に眉尻を上げるネーザン。
 ネーザンはゼクス、バーバリへと視線を向けると、彼らもコクリと一つ頷きを返した。

「承知しました。セルフィ様の先を見通すお考えを、私、ライアングル冒険者ギルド支部のギルド長として了承させて頂きます」

「結構……。それと少年君」

「は、はい!?」

 真面目な口調で自身の名を呼ぶセルフィに、ミツは思わず反応が遅れ返事を返す。

「話を聞いて分かっているとは思うけど、もし貴方がアルミナランクになる事を考えるなら、まだ人徳が必要とするわ。いえ、それ以上に功績を上げなさい。ただ単に力を付けただけでは、今の貴方の立場では、他者の者は貴方を警戒対象としか見ないのよ。貴方が大切な仲間の為にその力を振るのは結構。でも、正直言わせてもらうけど、少年君の仲間は貴方程に力は無いわ。過剰な力は自身ではなく周りの者に危険が迫ることを自覚しなさい。それを防ぐためには、貴方自身が多種多様の人々から軽んじられる扱いや視線を向けられないようにする事。その為にはアルミナランクになるといいわね。出る杭は打たれるけど、出過ぎた杭は打たれることはないわ」

 セルフィはいつものおちゃらけた空気は一切出さず、ミツと周りの仲間たちを見渡す。
 そして、心に深く覚えておけとセルフィの瞳は真っ直ぐにミツを見ていた。
 
「はい!」

「フフッ。結構。さて、ギルド長。貴女が今一番疑問としている話をしましょう。私達が何故彼をアルミナランクへと推薦するかを」

「はい。是非とも……」

 セルフィは試しの洞窟内での戦い、そして最後にミツが討伐したヒュドラの話をする。
 余りにも非現実的な話ばかりに、ネーザンはセルフィではなく、失礼の無いミツやゼクスへと再確認を取るように視線を送る。
 勿論セルフィの話す内容は全て偽りの無い言葉。
 ミツは頬を掻きつつ頷き、ゼクスはホッホッホッとににこやかに笑いをこぼす。
 そして、ネーザンが更に驚いたのはプルン達の成長である。
 まだブロンズランクの彼らのジョブや戦いぶり、ゼクスだけではなくバーバリも口を揃えて彼らを賞賛する。

「は~。それが本当なら、あんた達の評価も変えないといけないね……。しかし、セルフィ様のお言葉を疑うわけではございませんが、流石にヒュドラの討伐を坊や一人で成し遂げたとは信じ難い内容ですね……」

「まあ、それが普通の反応ね。少年君」

 セルフィは肩をすくめ、ミツへと声をかける。

「はい。セルフィ様」

「ヒュドラの鱗を出して頂戴。本体は大きすぎてここでは出せないでしょ」

「はい、分かりました。えーっと……。どうぞ、セルフィ様」

 ミツはアイテムボックスから一枚の大きな鱗を取り出す。
 それは正に鱗一枚でも宝石と言える程の、バイオレットサファイヤの色を醸し出した美しさ。
 ヒュドラに嵐球を強くぶつけた際に衝撃に禿取れた1枚である。

「うん、あんがと。ギルド長。これが少年君がヒュドラを討伐した証です。一枚は彼のヒュドラ討伐の証としてこちらにお渡しいたします。どうぞ、そちらで本物かどうかをご確認に使用してください。本物であることが確認できましたら証明書の発行をお願いするわ」

「はっ、はい。承りました……」

 セルフィはテーブルの上に鱗を一枚置き、それをネーザンは恭しく受け取りセルフィの言葉を受諾する。

「ニャ~。あれ、キラキラして綺麗ニャね。しかも鱗一枚であの大きさニャ」

 鱗はヒュドラの身体の場所によるが、一枚の大きさは平均25cm程である。 

「あれ相当に硬いんでしょ。あの鱗ってさ、斬れたりするのかしら?」

「フム……残された記録には、ヒュドラは斬撃だけではなく魔法攻撃の耐性も高く持っていたそうだ。今、長が受け取った奴で盾の一枚でも作ろうなら虹金貨3枚は下らんだろう」

「に、虹金貨!? 鱗一枚でですか!?」

「莫迦者。伝説級のヒュドラは血の一滴ですら高級素材。鱗一枚であろうとそれはレジェンド級の品物であるのだぞ」

 バーバリの言葉に、改めてネーザンの手に持つヒュドラの鱗に皆の視線が集まる。
 それを見つつ、ミツは少し残念そうに声を漏らした。

「うわ……。それなら止めとこうかな……」

「んっ? 如何されましたミツさん?」

 ミツはヒュドラの鱗を周囲の者とは違った見方をしていたのか、彼のこの場の内に秘めた残念と言う気持ちをゼクスは見抜いたのだろう。
 彼がミツに理由を求めると、ミツの口から唖然とする言葉が帰ってきた。

「あ、いや……。斬撃や火の耐性があるなら、これを数枚重ねた後に、加工して料理道具のまな板や皿にでも作り変えようかなと思ってまして」

「「「「「!?」」」」」

「お、おま! 伝説級の素材をまな板や皿に加工って! 流石に勿体なすぎるだろ!?」

「は~。あんたの考える事は、私達には理解に苦しむわ」

「えっ? でも、あれだけ綺麗な色をしてるなら、装飾のお皿にして飾ってもいい品になると思うけど」

「まあ、少年君の言う事も間違いじゃないかしら。確かに、貴族の中には自身の家に所持した皿を自慢気に見せる人もいるけど……。一枚の皿の為に、一体どれだけの加工する力がいるかしらね……。あっ」

「んっ? セルフィ様、いかがなされましたか?」

 セルフィはミツがスキルでスリングショットを作り出したときの事を思い出し、思わず口を漏らす。
 だが、それは目の前のネーザンもバーバリも知らない事かもしれないとセルフィは口を閉ざすことにした。

「うんうん。何でもないわ。さて、ギルド長、洞窟内で拾ってきた素材品を買い取りお願いしても良いかしら?」

「は、はい。それは勿論、当ギルドにて喜んで引き取らせて頂きます」

「そっ。じゃー、悪いけど私は先に帰らせても良いかしら? あっ、報酬は私の分もちゃんと頂戴ね。フフン」

「はい。分かりました。セルフィ様、洞窟探索、ご協力ありがとうございました」

「いいの、いいの。暇も潰せたし」

 セルフィは話は済ませたとスッと立ち上がり、ミツにフロールス家屋敷までのゲートを出してもらう。
 ミツに続き、仲間達が深々とセルフィへと頭を下げ、セルフィがゲートを潜り抜けるまで皆で見送りである。
 バーバリとゼクスはまだ素材の渡しが終わっていないのでそれが済み次第、彼らも屋敷とエメアップリアの所へ戻るだろう。

 セルフィが部屋から退出した事にネーザンの口調が少し砕けた感じに戻る。
 やはり貴族が側にいてはネーザンも気が滅入るのであろう。

「さて、坊や。話を聞いたところ、お前さんの事だ。どうせ入り口のカウンターや地下の倉庫じゃ場所が足りない程の素材があるんだろ?」

「まあ……、少し多いですかね。大きさもありますし、できれば以前使わせてもらった裏の倉庫でも良いですか?」

「ああ。構わないよ。プルン、すまないが先にカウンターに居るナヅキに連絡を回して数人裏に呼んできておくれ。私はこれを早速調べる為の報告書を書いてからいくからさ」

「分かったニャ!」

 ネーザンは受け取ったヒュドラの鱗を見つつ、プルンへとお使いを頼む。
 プルンは直ぐに了承し、バタバタと階段を下りてカウンターへと行ってしまった。
 彼女が部屋から出たので、続けてリック達も中庭へと移動を始める。

「それでは、失礼しました」

「あいよ。後で私も裏に行くからね」

「はい」
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