スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第153話 新たな力

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「シャロット様、失礼します」

〘ああ、入りなさい〙

 いつもの和風の襖を開け、ミツは畳の敷き詰める和室へと入る。
 この世界、神々の世界に四季があるのか分からないが、ちゃぶ台がこたつに変わっていた。
 
〘よく来たわね。さっ、ボサッと立ってないで早くあんたも入りなさい〙

「はい」

 創造神のシャロットに手招きされ、ミツはこたつに足を入れる。

「おっ。このこたつって掘りごたつなんですね」

〘こっちの方が足も伸ばせて楽でしょ〙

「そうですね。あっ、ありがとうございますリティヴァール様」

 ミツとシャロットが話していると、豊穣の神リティヴァールがみかんをミツへと差し出す。

[実りの子、見てたわよ。大会は随分頑張ったわね。貴方の頑張りで、無駄に命を散らす者が居なくて良かったわ]

「はい、ありがとうございます。いえいえ、あの戦いはユイシスのサポートあってですから」

《ふふっ。いえ。私は声をかけたぐらいしかやってませんよ》

〘まー。私のユイシスがサポートしてるんだもの。これでヘマするほうがどうかしてるわ〙

「ははっ……そ、そうですね」

 ミツの大会中の動きは近くにある三脚テレビのモニターで皆は見ていたのだろう。
 ミツの戦いを見てシャロットとバルバラは興奮したのか、モニターに映るミツを見て盛り上がっていたそうだ。
 笑い声が響いた後、シャロットが今回呼び出した要件を切り出す。

〘さて、あんたも随分スキルを集めたわよね。えーっと、さっきジョブを変えて、スキルを何個覚えたかしら?〙

《今のミツの取得スキルと魔法の数は225個になります》

[人の子にしては随分貯めたわね……]

「ははっ。趣味と言うか、集めだすと面白くて」

 シャロットが指を折る素振りを見せると、ユイシスが直ぐにミツのスキル総数を教えてくれる。
 リティヴァールが軽く眉を上げミツを見ると、彼は苦笑いを浮かべていた。

〘良いんじゃない。まだまだ私が造った世界は広いのよ。あんたが飽きるまでその気持ちを忘れずに楽しんでくれるなら私はそれで良いわ〙

「はい。まだまだ面白そうなジョブもありそうなので、飽きることはないと思います」

〘そう。さて、今回の褒美は何にしようかと思ってね。希望はあるかしら?〙

「ん~。そうですね……。では、スキルポイントをください。実は、スキルレベルを上げたいスキルがありまして」

〘あら、それって何のスキル?〙

「はい。〈肉体強化〉〈速度強化〉〈体力増加〉〈魔力増加〉の四つです。攻撃スキルや魔法はモンスターにスティールをしてレベルを上げれますが、ジョブの場合は習得済みのスキルは表示されません。シャロットさまのご厚意で取得できるスキル数が多ければ未習得のスキルを頂けています」

〘ええ。その方が面白いでしょ〙

「はい。確かにそれは間違いなく。ですが、先程言ったスキルは、モンスターが中々持っていないスキルなのでスティールで上げるのは難しいスキルばかり。〈肉体強化〉〈速度強化〉〈体力増加〉この三つは特に上げる方法が限られてるので、どうかお願いします」

〘ふ~ん。分かったわ〙

〚できたぞ!〛

 シャロットの言葉を遮るように、襖を勢い良く開けたバルバラが片手に皿を持って入ってきた。

〘ぐっ! お、お前は!〙

〚なんだ、小僧、来てたのか?〛

「は、はい……。バルバラ様、それは?」

〚おお、丁度いい。小僧も食ってみろ!〛

「……えーっと。食ってみろと言うことは食べ物なんですよね? これ……」

 ミツの前にズイッとバルバラが差し出した皿の上には、真っ黒な塊が一つプスプスと音を立てて煙を出していた。
 
〚何を言う! どう見ても食い物であろう?〛

〘バルバラ……。私には炭の塊にしか見えんな〙

「さっきユイシスからバルバラ様はバームクーヘンを作ってると聞いたのですが、チョコレートケーキに路線を変更したんですか?」

[バルちゃん、随分と器用なことするわね?]

〚貴様らの目は節穴か!? どう見てもバームクーヘンと言う物ではないか!〛

〘どう作ったら断面まで全部真っ黒になるのよ! ふんわり生地がザクザクではないか! さてはお主、焼くだけと聞いて真っ黒になるまで放置してその上から生地を塗ったのであろう! お前のその適当なところが直ぐに星を滅ぼす事と理解せんか!〙

〚ぐぬぬっ……〛

 皿を持つ手を震わせ、バルバラは焼きすぎて炭とかしたバームクーヘンをにらみつける。

「バームクーヘンは確かに焼いて生地を塗るだけですけど……。バルバラ様、バームクーヘンの作り方はご存知なんですよね?」

〚勿論! ユイシスに説明を受け、作ったらこうなったわ!〛

〘お前、もう創造神止めろ。お前には無理よ〙

〚ま、待て! お前にそう言われては大神様に何と伝えれば良いのだ!?〛

〘知らぬわ、私には関係無い〙

 二人は言い争うように口を開いていると、ミツの言葉をバルバラが拾ったのか、ピタリと言い争う言葉を止め、ミツへと振り向く。

「昔自分も作った事ありますけど、結構簡単だったような……」

〚なにっ? 小僧、貴様にこの様な繊細な事ができるというのか!?〛

「繊細な事かはよく分かりませんが、作れと言われたら作れますよ。勿論本格的な奴ではないですが」

〚よし、ならば来い!〛

「えっ!? バ、バルバラさま!?」

 バルバラはニヤリと笑みを作ると、周囲の声も聞かず、彼はミツの腕を掴み、開けた襖の奥へとつれてってしまった。
 
 シャロットは呆れ自身の頭を掻き、リティヴァールはアハハとその光景を笑いながら見るだけであった。
 シャロットからご褒美を貰いに来ただけのミツが、何故か長々とバルバラと共に料理をすることになってしまった。

〚ええいっ! また炭となったぞ!〛
 
「ちょっと、バルバラ様。だから火が強すぎます。それに、表面が黒くなる前に生地を塗って下さいよ!」

「ムムッ!? 貧弱な棒め、またへし折れおったぞ」

「力の入れすぎです」

「小僧、これはまだ焼けておらぬだろう? もっと火力を上げるべきではないか?」

「この温度でいいです。だから、釜の奥からマグマを出さないでください。また焦げます!」

 そんな声が隣から聞こえてくると、まともなものが出るか不安となる神々であった。
 そして、ミツのサポートを貰い、バルバラが切り分けて持ってきたバームクーヘンは、表面に少しまだ焦げはあるが、狐色を少し濃ゆくした程度。見た目は学生が授業時間に作ったと思わせる不格好な品が完成した。

 満足そうにシャロットとリティヴァールの前にバームクーヘンを差し出すバルバラはドヤッとした顔しているが、隣に座るミツの顔は既に疲れきっていた。
 ミツの頑張りも無下にできないと、二柱はそれを試食する事に。

「ん~。まあまあじゃな」

「そう? シャロットちゃん、私は味も食感もしっかりして美味しいと思うわよ」

「よしっ!」

 素直に味を褒めることができないのか、それとも本当にいまいちな完成なのか。
 シャロットは取り敢えず及第点とバームクーヘンを受け入れたようだ。
 リティヴァールの言葉にガッツポーズを決めるバルバラ。
 それを聞き、一番安堵したのはミツなのかもしれない。
 それは、バルバラの料理のサポートと言うのは口で説明したり、焼き方を教えるだけではなかった。
 まるで砂漠のような灼熱の中で料理をするのかと思わせる場所での料理。
 その場に竈は無く、バルバラが出した業火を使い、大胆な調理をする。
 熱に火傷をしそうな程の温度を肌に感じ、調味料がめちゃくちゃで混ざりきっていない生地を作り直したりと、彼は見えないところで頑張っていたようだ。

《ご主人様。どうぞ》

〘うむ……。ふっ……。菓子を食べるなら、やはり店で買ってきた方が早いな〙

「自分もそう思います……」

 ユイシスが差し出したお茶をすすりつつ、シャロットの言葉はドッとミツに見えない疲れを背負わせることになった。

〚小僧、貴様は随分と器用ではないか。神である我に知識を与えたことを褒めてやろう〛

「は、はあ……」

〚そう言えば、貴様はまた褒美欲しさにここに来たのであろう。どれ、先程の礼として、我からも何か褒美をくれてやろうではないか〛

「えっ? バルバラ様からですか?」

 以前、バルバラから贈り物を貰った時があった。その時は二柱の維持のぶつかり合いにも感じたが、取り敢えずその時貰った物はスキルだった。〈インパクト〉〈豪腕〉〈ブーストファイト〉と、元破壊神の送るスキルも荒々しい攻撃スキル。
 しかし、この三つのスキルは威力が強力過ぎるスキルだけに、おいそれと使える品物ではなかった。
 〈豪腕〉を使えば人の指の骨を簡単に折る程の力を出し、武道大会でバルバラの希望で〈インパクト〉と〈ブーストファイト〉を発動。
 その時対戦相手となったバーバリは、自身の発動した技を粉砕され、更にはスキルの衝撃に自身を高く吹き飛ばし、地面に強く叩きつけられる痛みを味わうほど。
 それを考えると、またバルバラから貰うスキルはタンスの肥やしになるかもしれないと考えてしまうミツであった。
 しかし、それは彼の思い過ごしの結果となった。

〚よし。なら貴様が先程言っていたスキルのレベルを上げてやろう!〛

「えっ!? バルバラ様、聞いてたんですか?」

〘コラッ! バルバラ、貴様また勝手なことを!〙

〚まあ、これは大会で我の希望通り戦った礼も含めておる。気にせず受け取るが良い〛

〘あっ!〙

 バルバラがミツのひたいに指先を当てがえ、指先を光らせる。
 その時、ミツの視線の先にあるアマチュア無線機のような機械を置いてある机の上に、一枚の紙が現れた。
 ユイシスがそれをてにとり、いつものアナウンスを声に出す。

《バルバラ様のお力にて〈肉体強化LvMAX〉〈速度強化LvMAX〉〈体力増加LvMAX〉〈魔力増加LvMAX〉となりました》

 ユイシスの言葉が終わると同時に、シャロットの声が部屋の中に響き渡る。

〘バルバラ! 貴様はいつもいつも勝手な事を!〙

[まあまあ、シャロットちゃん。落ち着きなさいよ。バルちゃんも実りの子が頑張った事を褒め称えた結果として、彼の望みを叶えたまでよ。シャロットちゃんの手間が省けたと思えば良いじゃない]

〘ちゃん言うな! バルバラ、今度勝手にこやつにスキルを与えたら……〙

〚与えたら、何だってんだ……〛

〘爺に言いつけて、貴様を爺の膝下で指導するように言ってくれる!〙

〚!? き、貴様! な、なんて恐ろしい事を企てておるのだ!〛

〘フンッ! 別に私は今から出向いても良いのだぞ。さぁ、誓え! 二度と勝手な真似はせぬと!〙

〚ぐぬぬっ……〛

「あの、リティヴァール様」
[んっ? どうしたの?]
「シャロット様がさっきから言ってる爺って、一体どなたの事をおっしゃられて居るんですか?」
[ああ……。大神様のことね。簡単に例えるなら私達神々の……上司? 社長? そんな偉い人よ]

「な、なるほど……。偉い人をシャロット様は爺って呼んでるんですね……」

[ふふっ。シャロットちゃんも流石に本人の前じゃ、ちゃんと大神様ってお呼びしてるわよ。それより、シャロットちゃん。私も実りの子に、ご褒美を渡したいんだけど良いかしら?]

〘なぬっ? リティヴァール、お前もか……。まあ、良い。お前さんならこいつ程大雑把な真似はせんだろうし〙

〚誰が大雑把だ!〛

〘お前だ!〙

 またケンケンとした二人の言い争う声が部屋の中に響く。
 
 リティヴァールはミツの方に身体を向け、視線を合わせる。

[はーい。二人は放っといて実りの子はこっちに注目してね]

「は、はい。でも、リティヴァール様からご褒美を貰えるようなことって、自分なにかしましたか?」

[ええ。とっても大切なことをね。でも、理由は今は良いの。君がこれからも頑張って貰えるように、私からもスキル関係に協力させて貰うわ]

「はい。ありがとうございます」

[では、実りの子。先程覚えたばかりのスキル〈精霊召喚〉を使ってみてもらえるかしら?]

「分かりました。(精霊召喚)」

 スキルを発動すると、ミツの身体からポワッと拳の大きさ程の真っ白な光が出てくる。
 それが一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。
 光の玉はミツの周りをくるくると周り続ける。
 
[実りの子、次はその光の玉にイメージを送りなさい。貴方のイメージが精霊の形を生み出すわ]

「イメージですか……。精霊……精霊……」

 ミツは目の前の周り続ける光の玉を見ながら精霊のイメージを浮かべる。
 すると光の玉の動きがピタリと止まり、ピカッと一度輝きに光り、ミツは思わず目を細める。その間、玉は形を変えていく。
 
「おっ! んっ……」

「……」

 光が収まり、ミツが細めていた目を開けると、そこには二頭身程の女の子達がこちらを見ていた。

[上手くできましたね。それでは次に、その精霊に真名を授けなさい]

「真名? 名前って事ですよね? 何でも良いんですか?」

[ええ。真名によってはその精霊に大きな力を与えます。実りの子が相応しいと思う真名を授けることが大切なのです]

「なるほど、分かりました。力か……」

 ミツが精霊に視線を戻し、一人の女の子をじっと見つめる。
 精霊は怯えることもなく、ミツを見つめ返している。

「……」

「力……。強く……。フォルテ……」

「?」

「そうだ。君の名前はフォルテにしよう」

「!」

 自身の名前だと認識したのか、精霊は嬉しそうに笑顔を向け、両手を上げる。

「気に入ってくれたかい」

[結構。では、他の精霊にも同じように真名を与えなさい]

「はい」

 リティヴァールの指示に従い、ミツは五人の小さな精霊の名前を考えていく。
 そして、髪が腰まで長く、キリッとした顔をした精霊にはフォルテの名を。
 ロールカットに知的な顔をした子にはティシモの名を。
 優しそうな微笑みを向け、ショートカットの子にはメゾの名を。
 活発そうな態度にミツを見ている子にはダカーポの名を。
 そして最後に、目元を髪の毛に隠し、メゾの後ろに隠れる様にこちらを伺う子にはフィーネの名を。
 一人一人と名を与えていくと精霊は喜ぶ。
 精霊の声は聞こえないが、嬉しそうにお互いの名を呼んでいる様に向き合っていた。
 
[良き真名です。では、精霊を私の前に]

 ミツは五人の精霊を自身の掌にのせ、リティヴァールの前に五人を見せる。

 リティヴァールは神々しい光にその身体を纏わせ、言葉を述べる。

[豊穣神の名の元に、貴殿の剣と盾に力を与える。光に芽は健やかに育ち、生命を繋ぐ力を。大地の力をその身に纏い、豊かな心を守る力を。飲み込む水の一滴は貴殿の力となり、永久の命となろう……]

 思わずひれ伏してしまいそうなその風格。
 ミツの掌に乗っている精霊達はリティヴァールの神気に当てられたのか、器用にも膝をつき、深々と頭を下げた格好をしている。
 
「……んっ?」

「「「「「?」」」」」
 
 リティヴァールの言葉は、確かに一言一言重みを感じるのだが、別に身体の調子が変わったとか、そんな感じはしない。
 精霊達も、あれっと思う気持ちに言葉を止めたリティヴァールを見上げる。
 彼女はいつの間にかキラキラと光るスティックを手に持ち、それを精霊一人一人の頭へとそれを軽く当てがえていく。

[それでは。はいっ、はいっ、はいっと。おまけに実りの子にもっと、はいっ。もう良いわよ]

「えっ? あ、はい。ありがとうございました」
 
 まるで神社などのお参りをする際、神主さんが使用する大幣を振られた気分のミツ。
 それでも、やってくれたのは神様本人。
 ご利益もあるだろうとリティヴァールへと、感謝の言葉を伝える。
 
〘随分と面白いやり方をするわね、リティヴァール。〙

[フフン。折角実りの子が精霊召喚を使える様になったんだもの。豊穣神としては放っておく事も勿体ないでしょ。それで、シャロットちゃんは実りの子に贈り物はしないの? バルちゃんが先にスキルのレベルアップの希望を聞いちゃったものね]

〘全く。そうじゃの~……。ユイシス〙

《はい》

「シャロット様、そのくじ箱ってまさか……」

 シャロットに名を呼ばれたユイシス。
 彼女は茶の間にあるタンスの引き出しの中から、以前使用したことのあるくじ箱を取り出す。
 この箱、見た目は大入りは当たり等の縁起語のシールが貼られてはいるが、バルバラとリティヴァールいわく、神器の予知箱である事が後々聞かされる。
 箱を見たミツは目を開き、一体どこから出してるのかと思ったが、この空間で常識を見極めることは不可能と彼は早々に諦めた。 

〘どっかの阿呆な奴のせいで、私の予定が狂ってしまったからね。今回もこの箱から取り出したスキルをあんたにあげるわ〙

[シャロットちゃん、またそれを使うの?]

〘フンッ。数千年と使ってなかった品。リティヴァール、これは時の女神ヴィーナスがこいつに微笑んだと思っておきなさい〙

[ふふっ。ヴィーナスも寝耳に水でしょうから、それは微苦笑かしら]

〘あやつの本当の笑みは、内心悪巧みする時だからね。さて、そんな話はよいとしてと……えーっと、今回あんたに与えるスキルはっと……んっ。はい、ユイシス〙

 ガサゴソと箱の中で手を回し、取り出す物を吟味していたのだろう。
 シャロットは一枚の紙を取り出し、それを一度見た後にミツへと軽く視線を向ける。
 その後、スッとユイシスへとその紙を手渡す。
 ユイシスはそれを受け取ると、先程と同じように机の前に座り、マイクに向かって声を出す。

《はい、ご主人様。創造神であるご主人様より〈天地創造〉を頂きました》

天地創造
・種別 アクティブ
地形の形を変える事ができる。
 
「天地創造ですか……。この、地形を変えると言うのはどれくらいの事ができるんですか?」

〘そうね。ちょっと地形を変えたり、大きな穴を開けたりすることは簡単にできるわよ〙

「土木作業には便利そうですね」

〘フンッ。使い方はあんた次第よ。まあ、面白い使い方をして頂戴〙

 シャロットが神器の予知箱から取り出した、ミツの新たなスキル。
 シャロットは地形を変えたり、穴を開ける程度と軽く言った為に、ミツのイメージでは落とし穴程度の穴や、工事現場にある砂山を崩す程度のイメージしかその時彼は思っていなかった。
 しかし、この神器はミツの運命を繋げるスキルしか出さないのか、その様な些細な力では収まる訳がない事をミツは後々知ることとなる。
 また、この〈天地創造〉の力によって、フロールス家が四国の架け橋の役割を深めるとはミツはこの時思ってもいなかった。

 三柱とユイシスに深々と礼を告げ、ミツはゆっくりと目を開け、目を覚ます。

「んっ……」

「おっ。もう目を冷ましたのか?」

「ふぁ~。うん……。ねえ、自分どれくらい寝てたかな……。向こうでバルバラ様の料理とか手伝いをしてたら、随分と寝ちゃったと思うけど?」

「いや……相棒は三分も寝てなかったと思うけど。ほら、ローゼ達もまだゼクスさん達と話してるだろ?」

「あれ、本当だ……。2時間近くは寝てたと思ったんだけど」

《ミツ。今回ミツがご主人様との会談の席の時間は数分しか経たせておりません》

 シャロットの配慮なのだろう。
 もしミツがバルバラと共に料理をした時間と、リティヴァールとシャロットの会話時間を普通に時を刻んでいたとしたら、彼は一刻ほど寝ていた事になる。
 分身の言うとおり、ミツが目を伏せたのを確認後、彼は飲み物を飲みながら休んでいたのだが、彼の手のコップの中身はまだ湯気をたたせていた。
 
「少年君。そろそろ下の階層に行こうと思うんだけど、いいかしら?」

「はい。休憩も取れましたので、皆さん行きましょうか」

 ミツとセルフィの声が聞こえたのか、話をしていた面々が集まってくる。

「とうとう10階層だな。どんなモンスターが出るか楽しみだぜ!」

「もしかしたら、大きな蟲型モンスターなんじゃない?」

「コラッ、リッコ! 気持ち悪いこと言うなよな。そうだ、ゼクスさん。10階層って何のモンスターが出るんですか? ゼクスさんは試しの洞窟の10階層のモンスターを倒したことがあるんですよね?」

「ホッホッホッ。はい。リックさんのご質問にお答え致しましょう。まだ若き頃、この試しの洞窟最下層にて私が戦ったモンスターはキメラにございました」

「キメラ!? って何だ……?」

「もうっ! リック、恥ずかしいから知ったような驚き方は止めてよね!」

「ミツはキメラって聞いた事はあるかニャ?」

「うん。自分も見たことは無いけど、話とかでは聞いた事はあるよ。確か獅子の頭、蛇の尾、ヤギの胴をもち、口から火を吐くというモンスターだったかな?」

「左様にございます。付け加えますなら、鳥の様な面妖な羽を広げ、空を飛ぶ事も可能とします。まあ、空が広がる外ならそれも厄介な魔物ですが、ここは洞窟内。爪と牙、そして尻尾に注意すれば一人でも倒せます」

「へー。……んっ? ゼクスさん、まさか一人で倒すおつもりですか?」

「ああ……。これはこれは。私とした事が肝心な事を失念しておりました。皆様、お聞きくださいませ。試しの洞窟での最後。10階層のモンスターは誰であろうと、一人で討伐するものにございます」

「「「「「えっ!」」」」」 
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