スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第148話 仲間のジョブ変更2 (後編)

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 アイテムボックス。
 アイテムボックスとは、ゲームなどで得た道具、武器、貴重品やお金等を手元におかず、目に見えない場所に、その大きさが大小と関わらず、全てを収納する不思議な入れ物である。
 プレイヤーとなる者がゲームスタート時には当たり前と持っているシステム機能である。

 子供の頃、ふと思っていた。
 ゲームを進める際、モンスターと戦う勇者達は道具屋で買ったアイテムは何処にしまっているのだろう?
 メニュー画面を開き、道具一覧には確かに表示しているが、薬草を99個、聖水99個、など他にも手に持てない程の道具や武器がそこには表示されている事。
 また、モンスターと戦った後に得ることができるお金。
 あれを預かり所のあるシステムがあればお金を預けて、99999っと表示限界と貯めた事もある。
 そして、そのお金をおろし、大金を持った状態でモンスターと戦いをしても、お金を1も落とさないのは何故だろうと。
 さらに子供の頃に謎に思っていた事だが、昔日本で放送していたドラマである。
 旅をしながら世間の悪い奴らを懲らしめるご隠居は、衣類など持たずに旅をしていた。
 子供の考えであるが、きっとご隠居様たちはゲームの様に衣類や武器をいつでも、便利なアイテムボックスから取り出せるのだと勘違いしていたのだ。
 
 この世界に、創造神であるシャロットに送られたミツ。
 彼もこの世界がゲームの中だと信じ込んでいた。
 そのため、アイテムボックスの存在を当たり前と思っていた。
 しかし、現実のこの世界で限られた者だけが持つことを許されたのが、このアイテムボックスである。
 商人なら物運びに便利と、商売に利用するだろう。
 戦う兵士なら物資を入れておけば、自身だけではなく、周りの命も助かる。
 秘密の書類や貴重品を運ぶ運び人になれるかもしれない。
 これを手にできると分かればこの世界の人の利用する幅は広く、貴族の中にはアイテムボックスに大金を積んでも欲しいと思う人が居るほどなのだ。
 ならば、アイテムボックスを手に入れた人物は先ずどう思うか。
 初めてモンスターを倒した時ぐらいに喜ぶ? 
 好きな相手と付き合い、結婚するレベルに喜ぶ?
 富くじで、大当たりを当てたレベルに喜ぶ?
 人それぞれと、気持ちは違うだろう。
 それは森羅の鏡を掲げて喜ぶプルンも、絶頂の幸福を感じていることは間違いない。
 
「やったニャー! これでご飯が持ち運べるニャ!」

「あっ……そ、そうだね……ははっ」

 使い方は人それぞれである。
 プルンの喜びの叫びは、周囲の者達を苦笑いにさせた。

「まあ、こいつらしいと言えばらしいな……」

「プルン、他のスキルも見せてよ」

「ニャ!? いいニャよ」

 リッコの言葉に、喜びに立ち上がっていたプルンが座り直す。

 改めてプルンの次のジョブ【アドベンチャラー】のスキルを確認する。
 スキルは〈ストッパー〉〈ステップアップ〉〈ダンシングニード〉〈バックステップ〉〈不意打ち〉〈センサー〉〈アイテムボックス〉〈探求心〉の八個が表示されている。
 
「ミツ、スキルの説明をお願い!」

「う、うん…。(ユイシス、スキルの説明をお願い!)」

 リッコの言葉に、苦笑を浮かべているミツは、そのまま心の中でユイシスへとその言葉を伝えるのであった。
 聞こえてくるユイシスの声に少しだけ笑い声が混じっていたが、彼女は当たり前とスキルの説明をしてくれる。 
 まず〈ストッパー〉であるが、これは相手の影に刃物等を突き刺せば、相手の動きを一時的に止めることができる。
 〈ステップアップ〉は移動速度、攻撃速度と、〈速度増加〉の魔法のスキル版。
 〈ダンシングニード〉は自身の持つ武器の分身を作り出し、飛ばして相手へとダメージを与える攻撃スキル。
 〈バックステップ〉と〈不意打ち〉はミツが持っているスキルなのでこれはユイシスからの説明は省かれた。
 〈センサー〉これは文字通り敵などが近づくと、脳内に相手の場所を知らせるスキル。
 ミツの〈感覚強化〉よりも正確に相手の情報が分かるそうだ。
 〈アイテムボックス〉だが、ミツの使用しているアイテムボックスとは違い、入れた物はゆっくりであるが時間経過があり、容量も使用者であるプルンのステータス(HP)の量に比例しているそうだ。
 最後に〈探求心〉だが、【アドベンチャラー】の限定スキルはこの〈探求心〉である。
 効果はステータスのHP、攻撃力、素早さ、運を+100上げる効果をだす。
 ミツも羨ましく思うこの〈探求心〉のスキルを、プルンには〈アイテムボックス〉と共に必ず取得してもらおう。
 全てのスキルの説明が終わると、周囲はプルンの【アドベンチャラー】のジョブのスキル説明に唖然と驚いていた。
 
 説明が終わり、セルフィが難しい顔をしつつ、自身の眉間を指先でトントンと小突いた後に口を開く。

「少年君……。今のスキルの説明は間違いないのかしら……」

「セルフィ様? はい、間違いありませんよ」

「そ、そう……」

「あっ……ああ……」

「フムッ……」

「セルフィ様、それにバーバリさんとゼクスさんもどうかされましたか?」

「「「……」」」

 三人は顔を見合わせ、難しい顔のまま言葉を出さない。
 セルフィが一度軽くため息を漏らし、理由を説明する。

「はぁ……。あのね、君はスキルの説明をさらりと言ってたけど、その中の一つ。アイテムボックスの説明を自分で言った言葉を思い出してみなさい」

「えっ? アイテムボックスですか? えーっと。確か、入れた物はゆっくりと時間が経過して、中身の容量はプルンのHPに比例すると言いました」

「そこよ……」

「えっ?」

「小僧。アイテムボックスの容量は、その使用者の強さに比例して使える物だと世間は認識しておる。だが、お前の言い分だと体力を付ければ容量が増えると聞こえる。これが真実ならば、アイテムボックスの使用者の希少価値が変わる事になるのだぞ……」

「お言葉を付け加えさせて頂くなら、今回プルンさんが変更いたしましたジョブ。【アドベンチャラー】になる為には【モンク】と【シーフ】こちら二つを極めることに希少価値の高いアイテムボックスを得ることができます……」

「この情報が表に出たら世界中が混乱するわね……。アイテムボックスの使用者が増えると言う事は……はぁ……問題も増えるわ」

「「……」」

 珍しく頭を抱えて深く考え込むセルフィ。
 内容が内容なだけに、ゼクスも笑える話ではないようだ。
 しかし、ミツは深刻に考え込む三人とは別に、それは不可能に近いと確信している気持ちがあった。
 何故なら、セルフィ達の考えには大きな穴があると言うこと。

「んー。セルフィ様の考え通り、アイテムボックスの使用者が増えることは多分難しいですね」

「んっ……少年君、何でそう言い切れるの?」

 あっさりとその言葉を返すミツに、セルフィは眉間を寄せ、ミツに訝しげな視線を送る。

「はい。先ずジョブは、基本皆さんはギルドなどに置いてある判別晶を使われると思います」

「お前な……。思いますと言うか、それが普通なんだよ……」

「リック、いちいち言葉入れないでよ」

「お、おう……」

「その判別晶でできる事って、実際には限られてると思いませんか?」

「……小僧。その鏡はあきらかに他の判別晶とは異なる。それを言いたいのか」

「はい。バーバリさんのおっしゃる通りです。例えこの場の皆さんがモンクとシーフ、この二つのジョブを極めると、アドベンチャラーになり、スキルのアイテムボックスが使えると公表したとします」

「「「……」」」

「ですが、残念ながらそれで例えアドベンチャラーになったとしても、その人がアイテムボックスを使用できるかは分からないんです」

 眉をピクリと動かし、今プルンの持つ森羅の鏡とミツを交互に見る面々。

「皆さんも見て分かっていると思いますが、ミーシャさん、ローゼさんのお二人がダンサーになって時間も置かずに、二人はダンサーのスキルを使用できています。同じく、リックとリッコ。二人も新しいジョブに変えたばかりですが、新しいスキルと魔法が使えてます。もう、ここまで言えば分かりますよね?」

 ギルドなどに置いてある人が作り出した生産物の判別晶と、世界を創り上げた創造神の森羅の鏡を、まず同じ物だと見てはいけない。
 セルフィはミツの取り出した森羅の鏡を見て、彼が言いたい事を悟る。
 確かに自身達がアドベンチャラーのジョブの情報を公表したとしても、それは自身の首を絞めるだけの虚言の報告になりかねないのだ。

「はぁ……。ギルドに置いてある判別晶ではジョブを変えることはできても、直ぐにそのジョブのスキルは使えないって事ね……」

「そうです」

 ここまで見てきた驚きの連続。
 違和感程度にしか持たなかったミツの強さの秘密であるが、セルフィの考えが完全に的を得た結論として証明された。

「フムッ……。本来、スキルや魔法などは戦いを繰り返し行い、鍛錬にて極めるべき技……。小僧、貴様のその手に持つ鏡はそれを全て省き、技を発動することができる……。それが貴様の言う不可能という答えか……」

「はい。攻撃スキルや魔法は確かにバーバリさんのおっしゃる通り、鍛錬にて極める物なのかもしれません」

 魔法やスキルなどは鍛錬にて取得する事が当たり前である。
 しかし、森羅の鏡を使用すれば、魔法とスキルの取得は選択にて覚えることができる。
 これがこの世界の人と、ミツの力の差を生み出すのだ。
 その訓練に費やす日を全てカットし、新しいジョブに次々とジョブを変えていく者を相手にしては、例え数十年と剣を振りぬいた剣豪でも勝負になる訳が無い。
 
 ちなみに、この世界の人が如何やって魔法を覚えるのか。
 それは以前フロールス家の魔法訓練所にて、エマンダと魔法の話をしたときである。
 その時ミツはこの世界の人はどうやって魔法を覚えているのかと疑問と、エマンダへと問をしていた。
 エマンダはその質問に、自身が魔法を使えたときの話をしてくれる。
 彼女がまだ10代の頃、山道を馬に乗って走っていた時、偶然にも川を挟んだ崖の方に大きな崖崩れが起きたそうだ。
 場所が川を挟んでいたことにエマンダには被害はなかったが、彼女はその光景に衝撃を受けた。
 帰り道、運も悪くゴブリンに遭遇。
 彼女は馬から引きずり落とされそうになった瞬間、脳内に先程の土砂崩れのイメージが突然走った。
 次の瞬間、エマンダはゴブリンに向けていた掌から〈ストーンバレット〉を初めて発動。
 エマンダが突然発動した魔法に、目を潰され怯えて逃げるゴブリンを唖然と見つつ、彼女はその時の話を笑い話として教えてくれる。
 エマンダはその後なぜ突然自身が魔法を使うことができたのか、また他の魔法はどうやったら覚えることができるのかを調べる毎日をおくったそうだ。
 これをきっかけと、エマンダは魔法の研究に没頭する人になってしまった。
 この世界の人が魔法を使うきっかけは様々。 料理をしている時、火で火傷をした次の日には、当たり前と火の魔法が使えるようになったとか。
 川で溺れ、ガブガブと水を飲んだその後に水魔法が使えるようになったとか。
 大体はその人の経験談であるが、一応この世界にも魔導書にちなんだ物はある。
 だが、それは先程の経験を記事したことや、魔法の効果しか書いていない。
 魔法を覚える一番の近道は、モンスターとの戦闘をした方が早いと言われている。

「私の初めての魔法は、暖炉の火をずっと見て思いついた感じもあったわね……」

「私は井戸に水汲みをしたときかしら~」

 リッコとミーシャが自身が初めて魔法を使えたきっかけを口にする。

「そうなると、本当にアイテムボックスって何がきっかけで使えるのか分からないスキルよね」

 ローゼの言葉に、眉を寄せるバーバリ。
 すると彼は別の案を口にする。

「……。ならば、その鏡と同じ物を作れば小僧の考えも難問となるまい」

「同じ物ですか?」

「左様」

「無理です」

「なっ!?」

「即答ね……」

 森羅の鏡が本当にただの鏡なら〈物質製造〉スキルで似たものは作れるかもしれない。しかし、これはただの鏡ではない事はそれを受け取った本人が一番分かっているのだから。

「残念ながらこれは自分でも同じ物は作れません。ご褒美的な贈り物ですから」

「少年君……それを君に贈った人って、まさか……」

「はい。前に言った神様ですよ」

「「「「「……」」」」」

 ミツの言葉に、反応に困る面々であった。
 これは本心であり、嘘は言っていないのでこれで信じてもらえないならそれはそれで仕方ない。
 ミツは口を閉じて考え込むセルフィ達を一先ずおいとき、プルンへと声をかける。
 プルンも先程の話を耳にしていたが、それ程驚いている素振りも見せず、彼女は真剣に森羅の鏡に映し出された文字とにらめっこをしていた。

「さて、プルン。スキルは決まった?」

「ニャ! 決めたニャ。ウチはミツのオススメとこれを選ぶニャよ」

 プルンの選んだスキルは、〈アイテムボックス〉は確定であり〈探求心〉もミツのオススメと言う事で彼女は迷わずその二つを選んでいる。
 残りの三つだが、プルンは〈ストッパー〉〈ダンシングニード〉〈センサー〉を選んだようだ。

「うん。いいと思うよ。攻撃スキルもあればプルンの戦闘の幅も広がると思うし」

「ニャハハ」

 二人が談笑を交えつつスキルを選ぶ光景を見ていたリック達。
 彼らは先程ミツの発言を改めて考える。

「なあ……。なんでプルンはさっきのミツの話を普通に受け入れてるんだ……」

「多分、プルンさんは教会で住んでるからじゃないですか……。彼女が神様を否定してはそれまた問題ですからね……」

「にしても、神様ね……」

「リッコ、お前はミツの言葉を信じるか?」

 先程から考えるように目を伏せるリッコへと声をかけると、彼女は二人を見て苦笑する。

「フッ……。信じるも何も、目に見てない人物は私は信じる気はないわよ……。でもね、あいつがそう言うなら私はミツの言葉を信じるわよ。実際私もあんたも、ミツの言うとおり魔法とスキルが使えてるんですもの」

「だよな……。今更あいつの言う事に驚くのも変な話だな。……よし。俺は信じるぞ! あいつがその神様からあの鏡を受け取ったと言うなら、それは本当の事だ。それ以上もそれ以下もねえ。きっとそれだけだ!」

「はい……そうですね。ミツ君が誰から何を貰ったとしても、問題ありません。彼は彼です。今後も僕達を驚かせる事は間違いないと思います……。いえ、確実に驚きます」

「フフッ。考えるだけ疲れるだけね。プルン、アイテムボックス使える様になったんでしょ? ちょっと見せてよ」

「リッコ、今から試すニャよ」

 リック達は幾度もミツに驚かされてばかりだけに、既にミツに対して深く突っ込む考えを諦めている気持ちもあったのだろう。
 リッコの言うとおり深く考えても、自身達が疲れるだけしか結果は生み出さないのだから。
 それならそれで仲間であるミツに対して嫌悪感や嫉妬心などくだらない気持ちを出すよりか、この笑える状態を先に楽しもうと三人は思っていた。
 
 プルンは早速スキルのアイテムボックスを発動。
 ミツと同じく黒い影を空中に生み出す。

「出たニャ!」

「プルン、試しに何か入れてみる?」

 ミツが自身のアイテムボックスから、プルンから預かっていたスパイダークラブの足を彼女へと差し出す。
 彼女のアイテムボックスが先ずどれくらい入れることができるのかを確認も兼ねての実験である。
 結果はプルンのアイテムボックスには150キロ分の足を入れることができた。
 ミツと比べたら容量は少なく感じるだろうが、冒険者が150キロの荷物を持ってモンスターと戦うことができるかと言ったら不可能である。更にプルンのアイテムボックスは時間経過はゆっくりと進む事が分かっているので素材の品質を下げる事もなくギルドに渡すことができるだろう。
 プルンはニコニコの笑顔で、アイテムボックスの出し入れを繰り返していた。
 プルンから預かっていた荷物をミツが渡し終わった後、最後になったリッケのジョブの変更を行う。

「おまたせリッケ。判別晶、先に渡しとけばよかったね」

「いえ。僕もプルンさんのアイテムボックスが気になってましたので」

 最後の順番と、リッケに森羅の鏡を渡す。
 鏡を受け取ったとリッケはギュッと目をつむり、何かを思っていたのか、彼はゆっくりと目を開ける。

「お願いします……」

 ボソリと聞こえたリッケの言葉。
 森羅の鏡を通して彼の気持ちが届いた事が分かったのは、浮き出した虹の靄が文字を描いて直ぐの事だった。

「!?」

「やったな、リッケ!」

「ホント、頑張ったじゃない」

「良かったニャ。リッケ」

 リックはリッケの背中をバシッと叩き、喜びに言葉を出す。
 リッコとプルンも手放しに彼を褒め称えている。

「おめでとう、リッケ。【センチュリオ】がちゃんと出てるね。……リッケ?」

 周囲の言葉が聞こえていないのかと思い、ミツがリッケの顔を覗き込むと、森羅の鏡に表示された【センチュリオ】の虹色の項目を見たまま、彼は目に大粒の涙を浮かべていた。

「お前、泣く奴がいるかよ!?」

「あんたが強く背中を叩くからでしょ!?」

「そうニャ!」

「お、俺か!? 俺はそんなに強く叩いてねえぞ!?」

「ぐすっ……。いえ、違います。違うんです。嬉しくて、つい……その……ごめんなさい……」

「リッケ……」

「ありがとうございます……皆さん。皆さんのおかげで僕はこれでセンチュリオになる事ができます……。ミツ君のおかげで……僕は。僕は……」

 流れる涙を抑えきれないのか、ミツの差し出した布で涙を拭くリッケに、ミツはいらぬ言葉をかける。

「うん。これでマネさんにプロポーズができるね」

「はい、これでマネさんにプロポーズ……うぇ!? 」

 ポロポロと感動に涙を流していたリッケだが、ミツの思わぬ言葉に流れていた涙はぴたりと止まり、一気に顔をタコの様に真っ赤にする。

「何!? リッケ、あんた結婚するの!?」

「本当かよ! うわ~。弟に先を越された……」

「おめでとうニャ! 相手はマネかニャ!? お似合いの夫婦になるニャ」

「おめでとう、リッケさん」

「あらあら。若いうちに結婚だなんて羨ましいわ~」

「待って! 皆さん待ってください!」

 リッケの言葉を無視するかの様に、周りからはおめでとう、おめでとうと何かの最終回のシーンの様に皆はリッケを囲み拍手を送る。

「違うんです! 皆さん、お願いします! 拍手は違いますから!」

「アハハハ。分かってるよリッケ」

「もう! ミツ君、茶化すのは止めてください!」

「ご、ごめんなさい……」

 顔を真っ赤にしたリッケが、お互いの額が当たるほどに近づき、剣幕にミツへと話しかける。
 その顔はいつもの優しい笑顔を作るリッケには想像もできないお怒りの表情だった。
 鼻をすすり、フンスと珍しくリッケのお怒りモード。
 何ださっきのは冗談かと、本気で安堵してるリックがリッコに肘で小突かれている。
 
 だが、洞窟内で幾度もリッケの口から出ている愛する人と言う言葉を耳にしているのはミツだけではない。
 リッコとプルンも気になっているのか、そのへん詳しくと彼に追求するもリッケは話を早々と切り上げてしまう。
 
「と、取り敢えずジョブを変えますよ!」

「誤魔化したわ」
「誤魔化したニャ」

「五月蝿いですよ」

 森羅の鏡に浮き出た【センチュリオ】のジョブを選択。
 虹の靄はジョブのスキルを表示する。
 表示されたスキルは〈バトルボイス〉〈ピアサポート〉〈オーラブレード〉〈デリットドライブ〉〈襲撃〉〈追撃〉〈勇気の剣〉〈勇気の盾〉。

 ミツが声をかける前と、サポーターのユイシスがスキルの説明を始めてくれる。
 本当、彼女は有能なサポーターである。
まず〈バトルボイス〉は指揮向上の効果を出す。
 〈ピアサポート〉戦闘の精神安定効果。
 ミツの持つ〈コーティングベール〉に似たスキルかもしれない。
 〈オーラルブレード〉は剣での攻撃スキル。
 〈デリットドライブ〉は斧での攻撃スキル。
 〈襲撃〉は奇襲攻撃を仕掛けやすくなる。
 〈追撃〉これはミツが持っているので説明は省略。
 〈勇気の剣〉の効果は、敵意を持つ相手との戦闘を行うと、自身だけではなくパーティー全員の戦闘の質を向上させる。
 次に〈勇気の盾〉の効果である。
 効果は敵からのデメリットスキルの無効化。
 攻撃力低下、クリティカルダウン、守備力低下、スタン、混乱、鈍足、魅了、恐怖、触毒、やけど、呪い、石化、耐久力低下、等の効果を無効化する事ができる。
 センチュリオの限定スキルは〈勇気の剣〉と〈勇気の盾〉この二つである。

 長々とした説明が終わると、皆はセンチュリオの強さに口々に意見を出し合う。
 戦闘スキルは二つしかなく、武器が制限されてしまうが、それでもリッケが取れるスキルは魅力的な物ばかり。
 特にミツがオススメとしたいのが、限定スキルの〈勇気の盾〉である。
 ミツの元ゲーマーとしての考えだが、状態異常と言うのはとても厄介な物。
 ミツの様に状態異常が治せるスキルや魔法があったとしても、これは取得しといて損はないと断言できる程に。
 昔やっていたゲームの話だが、敵からの攻撃を受け、パーティー全員が石化状態になり全滅してしまった事があった。
 治療魔法や回復役にパーティーメンバーがもちろんいたが、その人も石化してはその対策も意味がないのだ。
 ミツはそんな話を少し例え話に変えつつ、リッケへと話を持ちかける。

「なるほど……。確かに僕は治療魔法も使えます。パーティーに一人でも動ける役が居れば、苦戦する戦況も変わると……」

「うん。でも、スキルを選ぶのはリッケの自由だからね」

「はい。いえ、アドバイスありがとうございます。でも、皆さんの意見も十分理解しましたので、僕のスキルはこれを選びます」

「良いんじゃない? リッケらしいと言えばらしい選択ね」

「そ、そうですか……。ははっ」

 リッコの言葉に苦笑を浮かべるリッケが選んだスキルは、〈バトルボイス〉〈ピアサポート〉〈オーラルブレード〉〈勇気の剣〉〈勇気の盾〉である。
 外見や見た目の雰囲気は全く変わらない四人だが、四人とも上位ジョブになったことに自信に溢れ、彼らを頼もしく感じる。
 ミツも先程三つのジョブ【アストロジャー】【ペドラー】【アポストル】のレベルをMAXにした。
 新たにユイシスの判断にて【イリュージョニスト】【タクティクスシャン】【クルセイダー】に新たにジョブを変更している。
 この三つのスキルを得た後。9階層の戦いが楽しみでならない。
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