スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第96話 対談

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 エマンダ様と共にとある部屋の前に到着。
 そこには数十と騎士や兵士が一つの扉を守るように対面に向き合っていた。
 エマンダ様の後ろをついていくように、黙って歩く自分を視線で追う兵士。彼らの視線は、相手が子供の姿の自分にも警戒心を絶やすことをしていない。

(これだけの警戒する人の数……。お偉いさんでもいるのかな?)

 コンコン、コンコン。

「婦人が戻られました」

「構わん、入れなさい」

「はっ。婦人どうぞ……」

 考えている内に兵士の一人が扉をノック、すると中から年配の男性の声が聞こえてきた。
 許可を得た兵士は扉を開けてはエマンダ様を先に入れる。

「お待たせいたしました。ご命令により、只今お連れいたしました。さぁ、ミツ様、どうぞ」

「えっ? あ、はい……失礼します……?」

 エマンダ様の突然の敬称に軽く驚きながら部屋へと入室。

「ほう……」

「フムッ……」

「……」

 部屋に入るとそこにはセレナーデ王国、代表席に座る三人の姿があった。

(あ~。開会式の時に見た人達だ……)

 重々しい空気の満ちるこの部屋に入ると扉は閉ざされ、まず口を開いたのはマトラスト様だった。

「婦人、手間をかけた、すまんな。君も試合後だと言うのに来てくれて感謝する」

「いえ、マトラスト様のお心遣い、感謝いたします。ミツ様、どうぞこちらへ……」

「いえ……」

 エマンダ様が椅子を引き、椅子に座ることを促してくる。
 円卓の様な大きなテーブル。
 自分の正面には20代近い青年が睨みを効かせながら座り、右側にはマトラスト様と言われた5~60代のおじさん、その横に白い服に見を包んだ巫女姫様、その横にパメラ様。
 左側にはダニエル様とその横にエマンダ婦人が椅子に座っている。

「ふ~……。ダニエル、俺はやはり本人を前にしても信じられんな」

「?(なんのこっちゃ……)」

 突然大きなため息の後にダニエル様へと話しかける青年。

「殿下。話をする前に彼を呼び立てた理由を話した方がよろしいかと」

「解っておる……。知っておろうが、俺はセレナーデ王国第三王子。カイン・アルト・セレナーデである。急の呼び出しの応じ、感謝する」

 殿下と呼ばれたカイン殿下は自身の自己紹介をした後、隣の男性へと視線を送る。

「私はマトラスト・アビーレ・リッヒント。少し離れた場所にて辺境伯をやっておる。そして隣に座るこの方は王宮神殿に仕える巫女姫のルリ様である」

 マトラスト様の挨拶の後、自身を紹介されたことに軽く頷く巫女のルリ様。

「……あっ、王子様達ですか。どうも、自分はミツです。よろしくお願いします」

 この流れだと今度は自分の番と思い席を立ち、軽く頭を下げては椅子に座り直す。


「んっ!? あっ、おう……」

「「「!?」」」

 自分の余りにも軽い挨拶の返しに、目を見開き驚く面々。
 王族が自身から挨拶をした場合は、普通なら膝をついて頭を下げた後、自身の名を告げてはその後にカイン殿下の許しの後に席に座る。これが正しい礼儀の一つでもあった。
 しかし、そんな作法や礼儀を知るわけもなく、自分は仕事場のレクリエーションで行う自己紹介程度の挨拶に済ませていた。

「ところで、自分は何で呼ばれたんですか?」

「……ああ」

「ミ、ミツ殿!? 相手は王族、言葉遣いをお選びください」

 ダニエル様の少し焦った言葉に、カイン殿下の呆気に取られた表情を見ては、ああっと自身の言葉遣いや態度が不適格だと遅れて自覚した。
 そんな事言われても自分は王族どころか、創造神の神様にもこの対応である。
 礼儀作法なんて誰からも教わっていないのだから知るわけもない。

「構わん、あの者は貴族ではないのであろう。その辺は気にしても仕方ない」

「はっ……はあ……」

 ダニエル様の方へと軽く手を向け、自分の言葉遣いが仕方ないと言葉を入れるカイン殿下。
 エマンダ様が手渡したのであろう手ぬぐいを使い、自身の顔の汗を拭き取るダニエル様。

「申し訳ございません。改めて、本日はどの様なご用件で私目がこの場に呼ばれたのでしょうか?」

 先ほどとは違い、少し丁寧な言葉を選び、カイン殿下へと呼ばれた理由を聞く。
 殿下は眉を少しピクリと動かし口を開いた。

「んっ、そうであったな。先程の戦いを見て貴殿に少し興味が出た。貴殿のことは色々とダニエルから話を聞いた。その歳で中々の技量と知識を持っておるそうではないか。貴殿の戦いに俺は賞賛の言葉を送ろう」

(えーっと。これは褒めてくれてるのかな?)

「はい、お褒めの言葉、心より感謝します」

「うむ、それでな、遠回しな話はせぬ。貴殿、俺に仕える気はないか?」

「「「!?」」」

 カイン殿下の突然の提案に驚く周りの人達。

 ニヤニヤとした笑みを浮かべているカイン殿下、それを見てはやれやれと軽く息を漏らすマトラスト様。

「えっ? いや、無理ですよ」

「「「「!?」」」」

 自分の間も置かずに返した返答に、また周りの人達が驚きに目を大きく見開く。

 カイン殿下はピクリと眉を少しだけ動かした後は表情は笑顔のまま。一度自身の前にあるティーカップに口をあて、コクリと中の飲み物を飲み込む。

「即答だな……」

 カチャカチャっと少し震える感じにコップを置く音の後、ほんの少しだけ漂う沈黙の空気。

(王子に仕えるって事は護衛になれってことだよね……。悪いけどこっちは神様達の使命で、枯渇した場所に魔石を埋めるってお仕事を受けてるんですよ。相手がどこぞの王様だろうと魔王様だろうとこればっかりは無理だね)

「殿下、話が変わっております。何故彼を呼んだのか、その理由を聞く前と何故自身の手の内に入れようとするのですか。気に入った者だからと簡単に懐に入れては自身の血を流す結果にもなりかねません。ご自身の立場も考え、ご自重下さい」

「フンッ。俺が言わなければマトラストよ、お前が言うつもりであったであろう……」

「……何のことやら」

「あの……」

 二人だけで納得するような会話に口を挟んで悪いが、この場で二人に話しかけても、最低限失礼ではないのは自分だと思いながら二人へと言葉をかける。

「おお、すまぬな。先程の殿下の気まぐれの言葉は忘れて構わぬ」

「おい、マトラスト!?」

 ムッとした表情を浮かべ、マトラスト様を見るカイン殿下だが、マトラスト様は殿下の視線を気にせずと話を続ける。

「先ずは私から話をさせてくれ」

「はい。えーっと、辺境伯様ですよね?」

「うむ。だが、私を呼ぶ時は辺境伯ではなく、マトラストと呼ぶが良い」

「はい、マトラスト様、解りました」

「よし!」

 素直に言われたとおりにマトラスト様と呼ぶと、本人は二カッと歯を見せる笑顔を見せては、何を納得したのか大きく頷いては話を続ける。

「それでな、貴殿がこちらの婦人二人に売ったレシピに関してだ」

「レシピ? えーっと、プリンとハンバーグですか?」

「左様。貴殿は武芸の他にも様々な知識をその内に持っておる。いや、私も武芸は得意だが、今はもっぱら腹を満たす方に興味があってな」

「なるほど。それで?」

「ああ、貴殿、他にも料理はできるのであろう。その料理を是非とも私自身の舌で味わってみたいのだ」

「はっ。やはりお前の狙いは料理か。武人と呼ばれた昔のお前からは思えぬ言葉だな」

 カイン殿下は肘を曲げ、頬杖をついては口を挟んできた。その問に答えるかのようにカイン殿下の方を向くマトラスト様。

「殿下。私が武器を持った理由は、民と共に飯をたらふく食べる為にございます。武芸はその糧でしかありません」

「知っておる。その気構えにて今のお前であろう」

「今は妻からはただの大食らいと言われております。しかし、それも結構なこと。ハハハハッ」

 マトラスト様の言葉に呆れて言葉を入れるが、顔は笑っているカイン殿下。
 その言葉にダニエル様も緊張が解れてきたのか、ウンウンと頷いていた。
 彼も民と共に何度も現場で飯を共にしたことはある。
 マトラスト様の言った言葉に思うところはあるのだろう。

「つまりはマトラスト様に自分の料理を振る舞えってことですか?」

「うむ、勿論その礼はしよう」

 自分がどうしようかと思い、少しだけエマンダ様とパメラ様の方を見れば、両婦人とも周りから見えない程度に頷いていた。
 ここは二人とダニエル様の顔を立てとこうと、自分はマトラスト様の願いを聞き入れることにした。

「解りました。時間があればご用意いたします。口に合うか解りませんけどね」

「おお、それは感謝する。さて……。私の私的な質問は終わりとして、今度は真面目な話に変えるとするか」

「えっ……?」

 場の空気がガラリと変わったように皆が自分に注目を集める。

「少年、貴殿に質問がある」

「は、はい」

 声のトーンを少し落とし、真面目な表情のまま自分を見てくるマトラスト様。
 その視線に合わせる様にカイン殿下も視線は自分から外すことはしなかった。

「ダニエル殿から聞いたが、貴殿はダニエル殿に仕えるゼクスとカルテット国のセルフィ姫に打ち勝ったと言うのは誠しんわか?」

「えっ。あっ、はい。間違いありません。ゼクスさんとは模擬戦をして、セルフィ様とは弓の勝負で勝ちました」

「なんと……。うむっ……」

 マトラスト様は自身の口元に手を当て、少しだけ視線をそらす。

「あの、自分からも一つ質問してもよろしいですか?」

「……構わぬ」

 質問をされるとは思っていなかったのか、マトラスト様は少し言葉を溜めては許可を出す。

「武道大会の時から思ってたんですけど、セルフィ様ってお姫様なんですか? ダニエル様達とお知り合いみたいですから、貴族様だとは思ってたんですけど……」

「ああ。セルフィ様はカルテット国の第7王女だ。何だ? 貴殿は知らなかったのか?」

(えー。本当にあの人ってか、エルフか、王女様なの!?)

「あ、はぁ……。余りにも皆さんと普通に話したりしてたので、遠いご親戚か何かと……。それに……あの、ロキア君を随と可愛がられてたので、同じ貴族だと思ってました」

「ロキア?」

「殿下、ロキアは私の倅にございます。まだ歳が5歳になっておりませんので披露目も行っておりません」

 ロキア君の名を出すと、カイン殿下とマトラスト様は顔を合わせ、誰のことかと思っていると、ダニエル様が恐る恐ると説明を入れてくれる。

「ああ、そう言えばお主には三人子供がいたな」

「はっ……」

「……セルフィ……様とは偶然の出会いでしたわ」

 エマンダ様が思わず、いつもの様にセルフィと呼んでしまうところをギリギリと何とか抑え、マトラスト様に促されては説明をし始める。

「うむ。婦人、彼も知らぬことは相手に失礼となろう。説明をしてあげなさい」

「はい、マトラスト様。ミツ様、セルフィ様との出会いですが、彼女を見つけたときは彼女は行き倒れ状態でした」

「行き倒れ!? セルフィ様に何かあったんですか?」

 突然の行き倒れと言う言葉に、少しゾクリと背筋に寒気が走る。
 何があったのかと聞くと、皆は沈黙に、ダニエル様達は難しい表情を浮かべていた。

「……」

「ん、んんっ……」

「はぁ……」

「パメラ様?」

「彼女はカルテット国の王と、その……。親子喧嘩にて国を突然出ては、途中で路銀を使い果たしたのです……」

「……はっ?」

 エマンダ様の説明に、軽くため息の様な息が周囲から漏れる。

「更には自身の国とはルールなど法律が違いがあった為に、彼女はあくどいやり口に引っかかってしまうところを逃げ出しては、また森へと隠れたそうです。運も悪く、その時は食料が手に入らない時期、そして森の中で倒れていたところ、そこに乗馬をしていた夫のダニエルと息子のラルスの二人が彼女を見つけたのです」

「は……は~……。親子喧嘩で行き倒れですか……。それでも何と言うか、随分とセルフィ様はこう言っては何ですけど、その……明るい性格ですよね」

「……。お前の言いたい言葉は解る。正直に申せ、セルフィ殿は軽い性格と」

 苦笑に笑うカイン殿下、その言葉に頭を軽く抑えるパメラ様。
 ダニエル様とマトラスト様は顔には出してはいないが、内心思うところは二人も変わらないのだろう。

「ははっ……。あの、パメラ様達とは随分と仲がいいですよね」

「……最初はわたくし達も驚きましたわ。エルフを助けただけではなく、それに、彼女は突然食事中の会話の中に……」

「んっ?」

「私、カルテット国の第7王女だから、助けられたお礼に何かするねっと……。本当にさらりと自身の身分を告げられましたわ……」

「うわっ……。それは」

 声は違うが、喋り方をセルフィ様に似せるエマンダ様。
 彼女の言葉が本当なら、その場の食事場は凍りついた後に、騒然としただろう。

「最初は大変……。いえ、混乱いたしました……。セルフィ様のことを上に報告、その後にカルテット国にも報告。早馬を出し、連絡を回すのも大変でした」

(結局、大変だったんですね……)

「んんっ……。セルフィ殿はアレでも一応王女……。いや、失礼。王女を我が国に滞在している事は、一応報告しなければいかん。カルテット国が勘違いをして人質を取ったと思うかもしれぬからな」

「それで、カルテット国は?」

「……そうか」

「えっ?」

 自分の質問にカイン殿下がボソリと呟く。

「だから、カルテット国から使者が来てな「そうか」と王の言葉を伝えに来て、早々に帰った」

「……えっ? 王女が滞在することに関しては?」

「どうやらセルフィ殿自身、早々に伝書を送っていた様でな。その時点で既に話が済んでいたようだ」

「は~……。その……あの……皆さんにご迷惑をかけないために、先に手を打つなんて凄いですね」

「セルフィ殿の気まぐれであろう……。セルフィ殿の国内での自由を許可する代わりに、カルテット国から、セレナーデ国へと様々な利益は出るのも確かだ。本当は城に招くのが普通なのだが、それでは城に閉じ込めたのではと、カルテット国に対して外聞も良くない。彼女自身、随分とフロールス家を気に入ってな。もう15年は経つのではないか?」

 ふむっと自身の口元に手を当て、考えるマトラスト様。

「セルフィ殿にとっては短い時を刻む針の動きでも、我々には長いですからな……」

 セルフィ様はハーフエルフではなく純粋なエルフ。
 しかも王族の血の影響なのか、見た目もそうだがハイエルフ並に長命種となる。
 歳は伏せるが、セルフィ様が寿命が来る時にはフロールス家は何世代も代替わりしているだろう。

「それに、セルフィ様は王位継承権を既に破棄しております」

「あれ、それなら、セルフィ様は王族じゃないんですか?」

「いや、王族で変わりはないが、立場は貴族の公爵程に下がっておるし、カルテット国での権力も下がっておる」

「何故突然そんなことをしたのやら……。ダニエル殿はその理由は聞いておらぬのか?」

 カイン殿下に続き、マトラスト様がセルフィ様の今の立場などを説明し、最後にダニエル様へと問いをかけた。問われたダニエル様はドキッと早鐘を打つ思いと、恐る恐ると口を開いた。

「うっ!? ……その。理由としてはその、談笑程度には聞いておりますが、まだ公式として認められているわけでは無いので……」

「ん? 何だ、ダニエル。セルフィ殿から聞いておるのか? なら話せ」

 何か知っているのかと察したカイン殿下は、問い詰める様に、ダニエル様にセルフィ様の考えを話させる。

「……はい。セルフィ殿は……先ほど話しました私の倅のロキアと……縁を結ぶつもりの様で……」

「はっ?」

「ふむっ……」

 眉を寄せ、呆れた声が漏れる殿下。
 マトラスト様は何も言わずまた自身の口元を触る。

「セルフィさん、ロキア君に対して、すっごく好意を向けてますもんね……」

「まさか、それが理由としてあの方は継承権を捨てたのか?」

「本人はそう申しておりました……。真実はご本人にご確認していただければと……」

「王族の継承権持ちでは伯爵家のご子息を婿に取り入れる事は難しいが、継承権を捨て、地位をさげれば不可能ではない……。フッ、なるほど……」

「いや、なるほどって!? マトラスト、そんな話があると思うのか!?」

「……事実。理由はともあれ、セルフィ殿は公式に発表までして継承権を破棄しております。それに対して異議を出す方が問題となりましょう……。余計な藪を突けば、殿下が怪我をしますぞ」

「はあ……。思わぬところでセルフィ殿の継承権破棄の理由を知るとは……」

「さて、彼女の話はこの辺で。話を戻そうじゃないか」

「はい。ご回答、ありがとうございました」

「いや、構わぬ。それでだ、巫女姫」

「……」

「!?」

 巫女姫と呼ばれ、彼女は自身の頭をすっぽりと被っていた白のローブを脱ぎ、自身の顔を見せる。
 その時自分はその日一番に驚いた。
 そりゃ驚くだろう、なんせ目の前にいる巫女姫様の顔と、創造神であるシャロット様の顔が瓜二つなのだから。偶然なのか、それとも偶々なのか……。
 それでも違うところを上げるのなら、目の前の彼女の瞳は金色の瞳。人にまれに見る、Wolf eyesであった。

「あっ……あっ……シャロ……」

〘莫迦者。その人間が私なわけなかろう〙

(あっ!? シャロット様!)

 思わずシャロット様と名前を呼ぼうとした時、頭の中に創造神であるシャロット様、本人の声が響き、声を出すのを止めた。

(シャロット様、見えてますか!? ってか見てますよね。目の前の巫女姫様の顔。どう見てもシャロット様と同じ……あっ、でも目の色も体つきも違うか……。)

〘その者は私が造り、あんたに解りやすいように容姿を私と同じにしたのよ〙

(造ったって……流石神様……)

〘話は後でしてあげる。取り敢えずその目の前の人間にあんたの力を見せなさい。それが今回の一番の目的と言っても間違いないわ〙

(……はい、解りました)

「……」

 自分が彼女の顔を見て驚くように、巫女の彼女も自分の顔を見ては小さな声で、何故かうわっと声を洩らしていた。

「改めて紹介しよう。彼女は王宮神殿にて巫女であり神殿長の地位を引き継ぎ、様々な力を神に与えられた方だ」

「初めまして。王宮神殿にて神殿長の巫女をしております。ルリ・ミーパル・ファータでございます。貴方様とこうしてお話できる時に神に感謝いたします」

 マトラスト様がルリ様を紹介の後、ルリ様は軽く頭を下げ、自身のローブを摘んでは挨拶をしてくれる。
 
「はい、ミツ様、巫女姫様の声はとても小さく、私が代わりにお伝えいたします。初めまして……」
 
「えっ? パメラ様、普通にルリ様の声聞こえましたから大丈夫ですよ? そのお若さで神殿長ですか。大変なお立場でしょうね。自分はミツです。ルリ様、どうぞよろしくお願いします」

「「「!?」」」

 パメラ様の代弁を聞くこともなく、自分がルリ様の言葉に返答したことに周囲の人は軽く目を見開いている。
「貴殿は随分と耳が良いのだな……」

「あっ……(しまった……。聞き耳スキルで普通に聞こえてた為か、当たり前に返してしまった)えーっとですね、狩りとかしてると、声とか物音には敏感になるんですよ。ですから、パメラ様が態々通訳しなくてもちゃんと自分は聞き取れます」

「そうか……。しかし、すまぬが俺達には聞こえぬ」

「左様。悪いが、婦人には代弁をそのまま伝えてもらおう」

「はい」

 こくりと頷くパメラ様。
 そして、先程の言葉をパメラ様が代弁した後、マトラスト様が話を切り出す。

「貴殿に今から質問をする。嘘偽りなく話すが良い」

「はい?(何でそんな言葉を……。あっ、もしかして……)」

(鑑定……)

名前 『ルリ・ミーパル・ファータ』 人族/16歳

性別女 身長151センチ 体重43キロ 
B85 W57 H83

巫女Lv3

白銀のローブ(付与無し)
白のインナー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

HP____40

MP____90

攻撃力___5

守備力___14

魔力_____105

素早さ___14

運 ______23

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

真実の瞳____:LvMAX

心理の瞳____:LvMAX

裁きの声____:LvMAX

祈り声______:Lv8/10

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

※幼い頃に王宮神殿前にて孤児として発見。
その後、様々なスキルや魔力を開花させては15の歳にて神殿長の身分となる。その際、前神殿長より、ミーパル・ファータの名を引き継ぐ。

血縁不明

 
 巫女姫であるルリ様を鑑定すると、彼女の所持したスキルに〈真実の瞳〉〈心理の瞳〉〈裁きの声〉〈祈り声〉と言う見たことの無いスキルがあることが判明した。
 
(ユイシス、このスキルの効果って何……)

《はい、〈真実の瞳〉こちらは対象の種族を見る事ができるスキルであり、相手の秘められた力、等を見ることができます〈心理の瞳〉こちらは対象の嘘を見ることができるスキルです。〈裁きの声〉は対象の罪悪感を沸き立たさせ〈祈り声〉は対象の精神を落ち着かせる効果を持ちます》

(うわっ、完全に嘘発見器スキルじゃん。どうするユイシス? 今まで話してきた爺さんとの旅話が作り話だってバレるよ?)

 少し焦り気味になりながらも、ユイシスから返ってくる返答は問題ないと告げられた。

《問題ありません。ミツにそのスキルは無効になる様、私の方で加護をつけております》

(うわ~。こりゃどうも……。いつの間に?)

《あなたがこの世界の地を踏む、その時からですね》

(そりゃ感謝だね。女神様の加護とか縁起もいいもんだ)

 まだこの世界がゲームだと思っていた頃から、ユイシスは既に自分のサポートとして動いてくれてたのかと思うと、焦りもなくなり、自身に心を落ち着かせるスキルを使うことなく、マトラスト様の問に答えることができそうだ。


「それでは質問をする」

「は、はい」

 次々と質問を飛ばすマトラスト様。
 それは些細な質問から始まり、やはり旅をしていた事を含め自分の強さに関する問ばかり。
 そして彼らが聞きたかった言葉が口からでる。

「ふむっ……」

「……」

 質問をする度にマトラスト様はルリ様の方を見て反応を確認する。
 ルリ様はジッと金色の瞳を自分に向け、表情を全く崩さない。

「では、次の質問を……。貴殿、トリップゲートを使用できるというのは誠か?」

 マトラスト様の質問に、カイン殿下はゴクリと唾を飲み込み、少し身を乗り出し気味に言葉を待つ。

(なるほど、多分これが一番知りたかった情報だろうな……。ねえ、ユイシス。どう答えるべきかな?)

〘構わないわ。あんたがゲートを使えることをそのまま伝えなさい〙

(シャロット様!? ……はい、解りました)

 自分の質問に答えてくれたのはユイシスではなく、シャロット様本人だった。

 一度目を伏せ、考える素振りを見せた後、目を開けては周囲を見る。周囲の人達の視線は自分に集まり返答を待っていた。

「はい、使えますよ。以前ダニエル様達にもお見せしましたので、そちらにも聞いてもらえば」

 自分の言葉を聞くと、ダニエル様はホッと軽くため息を漏らし、パメラ様とエマンダ様の表情も良かったと硬い表情を緩めていた。
 だが、変わって眉間にシワを寄せるカイン殿下とマトラスト様。
 二人はルリ様の方を見るが彼女は変わらず動きを見せない。
 そして、一息おいた後、マトラスト様が口を開く。

「うむ……。それはダニエル殿にも確かめた。だが、良ければやはり本人である貴殿から直接それを見せて頂きたい……」

「見せればいいんですね? では、出しますよ」

「「……」」

 席を立ち、壁際へと移動。
 カイン殿下とマトラスト様、そして二人に続く様に皆が席を立ち自分の後ろに立つ。
 
(さて、何処につなげようかなっと。まぁ、当たり障りのない場所なら近場でもいいかな)

「トリップゲート」

「「「!?」」」

 スキルの〈トリップゲート〉を発動させた。
 すると、何もなかった壁際に二本の白い線が現れ、それが左右にブォンっとおとを鳴らしながら分かれる。
 線の周りをキラキラと星を散りばめた光と黒い靄が出ている。
 それを見たカイン殿下達は驚きに目を見開いた。
 そして、思わず溢れる殿下の声。

「なっ! そんな莫迦な!? こ、これは本物なのか?」

「えっ? はい、偽物とかあるんですか?」

「いや、そう言う意味ではない……。ちなみに、これは何処に繋げておる……」

 ゲートの先に見える一つの場所。
 外でもなく、どこかの寝室に見えたのか、カイン殿下は部屋の中をキョロキョロと視線を泳がせている。

「これは今、武道大会の出場選手に与えられる自分の控えの部屋です」

「選手の……。ダニエル、間違いは無いか?」

 自分の言葉に、直ぐ確認の言葉をダニエル様へと飛ばす。一歩下がった場所にいたダニエル様は頭を下げたまま、カイン殿下へと間違いないと答えを返した。

「はっ、間違いありません。ここより離れた場所、出場選手に与えられた部屋にございます」

「そうか……。貴殿、このゲートは勿論通れるのだろうか?」

「通れますよ。ちょっと広げますね」

 カイン殿下達が通るとしたら、自分が出したゲートは少し狭いと思い、真っ直ぐ伸びたゲートの白い線へと手を当て、イメージを送り、ゲートの入り口を広げる。
 背の高いダニエル様やマトラスト様が余裕でくぐれる程に入り口が広くなったことに、更に驚く面々。

「!? 貴殿、魔力は大丈夫なのか?」

「えっ? 別に平気ですよ? 広い方が通りやすいと思って入り口を広げたんですけど、不要でしたか?」

「いや……。助かる……」

 目の前に現れたトリップゲートを見ては、これが本物であるかを確かめようと、一歩前にでる殿下。
 だが、初手の一歩を王子にやらせるわけには行かぬと、マトラスト様の言葉が飛び、ならば先ずはトリップゲートを出した本人である自分が入り、続いてダニエル様と婦人の二人にゲートを行き来し、目に見せては三人へと安全を証明した。

「では、先ずは私がまいります」

「んっ、解りました。ルリ様、少しだけ部屋との段差がありますので、自分の手をどうぞ」

「……ありがとうございます」

 スッと前に歩むルリ様の声を拾い、手を差し伸ばしてはそれを握るルリ様。
 ゲートをくぐり抜け、ルリ様は部屋の中を見渡し、扉の方へと近づき、目を伏せてはまたゲートをくぐりカイン殿下の元へと戻る。
 彼女はゆっくりとコクリと頷くと、カイン殿下は次は俺の番と躊躇いもなくゲートヲくぐり抜けて来た。

「おお……。これがトリップゲートか……。違和感などは感じぬのだな……」

「そうですね、本当にただの扉を通るだけって感じでしょうね」

「……」

 カイン殿下は部屋を見渡した後、テーブルの上に置かれた果物を手に取る。

「本物……。マトラスト」

「……?」

 まだゲートをくぐっていないマトラスト様へと向かって、カイン殿下は自身の手に持つ果物を彼へと放り投げる。
 投げられた果物はゲートをくぐり、マトラスト様がそれをキャッチ。

「間違いなく……。これは確かにトリップゲートの様ですな」

 そう言って次にマトラスト様がゲートをくぐり抜け、放り投げられた果物をまたテーブルの上へと置く。

 一度皆が部屋へと戻ったのだが、その表情はゲートを開く前よりも厳しい顔となっている。
 何か怒らせることでもしてしまったのか? 選手控室の部屋と言うのが不味かったのかと思いながらも、重い空気の中無言の時が進む。
 そんな中、この場の空気を変えたのはルリ様の言葉だった。それは勿論パメラ様の代弁込みなので、自分にとっては二回同じことを聞かされているのだが、気にする程でもない。

「殿下、次は私めが質問をよろしいでしょうか」

「構わぬ」

 殿下の許可が出たことを確認した後、ルリ様は椅子に座りながらも体の向きを自分に合わせ、正面で向き合う姿勢を取った。

「それでは……。私めの質問に良ければお答えくださいませ」

「はい。どうぞ」

 シャロット様からも言われているが、彼女には力を見せろと言われている。それがどこまでの事を示しているのかは解らないが、取り敢えずルリ様からの問は隠すことなく返答すべきと思っていた。

「あなたは、神を信じますか?」

「え? 神様?」

 まるで宗教団体の勧誘セリフの様な言葉を聞かされ、思わず疑問文に返してしまった。

「……」

「あ、ああ。すみません。神様ですよね、はい。信じますよ」

 軽く目を細められたが、直ぐに信じると言葉を返すと、彼女の目は嬉しそうに目尻を下げ、初めての笑顔を向けてくれた。
 そりゃ自分が信じない訳がない。
 自分程に創造神と関わりがあり、茶菓子の貪る姿を見た事も神様のパンツを見たものは誰もいないだろう。
 ちなみに、シャロット様のその時履いていたパンツはレースの白パンである。

「そうですか。貴方様ならば、そう言われると信じておりました。では、人は神から平等に力を与えられ、この世界に命を授かったと思われますか?」

「……」

「「……?」」

 ルリ様の問に、直ぐには答えが出せなかった。
 平等と言われたら、自分はそうでは無いだろう。
 ユイシスと言うサポーターをつけてもらい、スキルのスティールと言うある意味チートなスキルも授かり、今では200近くのスキルが覚えることができた。
 更にはバルバラ様やリティヴァール様の二柱とも顔を合わせることもあった。
 ここで素直に答えるべきか、それとも答えを少し変えるべきか。
 だが、詭弁を告げても彼女はそれを見破るスキルを持っている。
 少し考え、言葉を選びながら答えることにする。

「いえ、平等では無いと思われます」

「……それは」

「はい、自分も皆様も、この地に生を受けたのは確かに神の思し召しでしょう。ですが、力を得るかどうかは本人しだい。神様はきっかけはくれても、その後は口を出すことをしませんし、力が平等かと言われましたが、その問は違うと思いますよ。ルリ様も神殿長となるには、自分の知らない努力をご自身でやられてきたと思われます。そのため、今の神殿長やご自身の力と結果が現れてます。マトラスト様やダニエル様も領地を守られるために努力をされております。人は努力の差にて結果が別れます。これが自分が平等では無いと言う答えの理由です」

「ふむっ……。確かに、若い頃から学ぶ事が多ければ、後に国の経済を預かる地位にも立てる。血縁などはどうしようもないが、それでも人は成長を止めれば自身の足元を崩す結果に繋がるだろう……」

 ルリ様の質問に答えては、マトラスト様がふむと一言言葉を入れる。ルリ様は自分の答えに今ひとつ納得できないのか、少し視線を泳がせては自分を見てくる。
 
「……」

「でも……」

 椅子から立ち上がり、ゆっくりとダニエル様の側に自分は歩む。

「でも、自分は神様の力を確かに授かったと本心と言えます」

「ミツ殿……」

 自身の前で足を止め、優しく微笑む少年の姿に、ダニエル様は何かと彼に声をかける。

「ダニエル様。貴方様が試しの洞窟を教えてくれたおかげで、自分は成長できました。本当にありがとうございます。これは自分からダニエル様へのお礼とお返しと思って受け取ってください。パメラ様、エマンダ様、すみませんがこちらに」

「? はい……」

「失礼します……」

「「?」」

 名を呼ばれ、恐る恐ると殿下達にも許しの礼をした後に、椅子に座ったままのダニエル様の側にと来る婦人の二人。
 カイン殿下とマトラスト様も顔を合わせては、ひとまず席を立つ許可をだす。


「パメラ様、すみませんがダニエル様の右手の義手を外してもらえませんか?」

「えっ?」

「ミツ様、それは」

「大丈夫、どうか、自分を信じてください」

 パメラ様の疑問の言葉を笑顔と微笑みだけ返すと、パメラ様とエマンダ様、二人は互いに顔を合わせ、コクリと頷きあう。
 そして、当の本人は未だ何をされるのか解らないまま、右腕につけていた義手が婦人の手によって外されていく。

「!? こ、こら、パメラ、エマンダ。殿下の前で失礼な!?」

 ダニエル様の言葉に耳を貸さないと、慣れた手つきで義手を外され、殿下の前に自身の失った腕を見せることに少し二人を攻める声をあげるダニエル様。

「すみませんダニエル様。ですが自分では外し方が解りませんから、攻めるならお二人ではなく、自分に」

「君はいったい何を……」

「少し熱を出すみたいですから、我慢してくださいね」

「えっ?」

「お二人とも、ダニエル様を抑えて下さい」

(ユイシス、ダニエル様にあのスキル使うとしたら前と同じイメージでいいのかな?)

《はい、問題ありません》

 自分のやることが既に解っているのか、ユイシスは理由を聞かずとも問題ないと返答をくれる。
 流石だと思い、自分は義手を外されたダニエル様の右腕に手を当て、洞窟で取得したスキル〈再生〉を発動する。

「!? ぬっ!」

「「「「!?」」」」

 ダニエル様を包む緑色とオレンジ色の暖色系の光。
 それは周りの人が今まで目にしたことのない神々しい光だった。

「ミツ殿!?」

「大丈夫。慌てないで」

「だ、だが……!?」

 ダニエル様は自身を包む光に驚き声を出すが、それを遮る熱が自身の右腕に伝わると視線をそちらへと移す。
 自身を包む光が右腕に集まり、そして光がジワジワと形を作り上げていく。

「こ、これは! くっ!?」

 突然伝わる自身の腕の熱。ダニエル様は顔を歪ませては椅子を引き、体をまるめる様に頭を下げる。

「ダニエル様、頑張ってください! 二人とも、ダニエル様をしっかりと抑えて!」

「は、はい!」

「旦那様! しっかり!」

「うっぐぐぐっ!」

 突然の事で婦人の二人も訳が解らなかっただろうが、薄々と感じる気持ちを信じてはミツの言うとおりと、自身の夫を支えるようにパメラ様は前から、エマンダ様は後ろからダニエル様を抑えつける。
 暴れて二人を傷つけまいと、唸り超えは上げてもジッと耐えるダニエル様。

 カイン殿下達は突然目の前で行われる行動に唖然としていたが、ダニエル様の唸り超えに、はっと気づいたかのように直ぐに駆け寄るマトラスト様。
 マトラスト様の腕が自分の肩に乗ったときには、既に治療は終わった後だった。

 光がゆっくりと形を整え、次第と光が収まっていく。
 光が収まり、そこにはダニエル様の失っていた右腕が光の代わりと形を作り上げていた。

「ぐっ……。はぁ……はぁ……はぁ」

「あ、あなた……。う、腕が……」

「旦那様……」

 息を切らし、声が出せないダニエル様。
 だが、ダニエル様の腕を見た者はそれ以上に言葉が出なかった。 

「突然の事で驚かれたと思います。ダニエル様、お疲れ様です。どうぞ、ゆっくりと動かして見てください。それは自分からの贈り物です、気に入って頂ければ良いのですが……」

「き、君は……。ああ……これは、本当に、なんて素晴らしい贈り物なのだろうか……」

「あなた!」

「旦那様!」

 手から指先、手首を動かした後、周囲に見える様にダニエル様は腕を少しだけ掲げる。
 ダニエル様の失っていた右腕が元に戻ったことに、パメラ様とエマンダ様はポロリポロリと涙が溢れ、愛しい夫の右腕へと自身のひたいを当てていた。 

「こ、こんなことが……ありえん! 失った体の一部を戻すなど、最高級の回復薬でもない限り不可能だと言うのに!? そ、それを治すだと……。ダニエル、すまぬが腕を、その腕を見せてくれぬか!?」

 ガタッと席を立ち、ダニエル様へと駆け寄るカイン殿下。マトラスト様も驚きとゆっくりと近づいてくる。
 婦人の二人が直ぐにその場を譲り、突き出した腕をカイン殿下がつかんでは腕の体温、筋肉の柔らかさを確認するように触りだした。

「ありえぬ……。ダニエルよ、お前、どこから腕を失っていた!? 傷跡も裂け目も全く解らぬ……」

「はっ。殿下。私の腕は魔物に噛み千切られた為に腕の肘から下を失いまして……。ここです……。ですが、自身でも解らない程に傷の裂け目が見えません」

「莫迦な……」

「うむっ……」

 マトラスト様もダニエル様の腕を確認するように、腕を掴み、ペシペシと叩き、力を入れてみろと、ダニエル様の握力を確認していた。

「まだ完全に力が戻った訳ではなさそうだが、普通に動かせておる……。貴殿はいったい……」

 驚きの顔のまま、皆の視線が自分に集まる。

「これが神から授かった力です(ちょっと違うけどね)」

「まだ……」

「んっ?」

「まだ、あなたは力をその身に隠しておられますね」

 ルリ様の言葉に少しだけドキッと驚いた。
 彼女は鑑定などの相手のステータスを見るスキルは持っていない。それでもまだ自分に力があると解っているような言葉を言ってきたのだ。
 彼女のスキル〈真実の瞳〉の効果なのだろうか。

「何故そう思うのですか?」

「私には見えるのです。あなたはとても妖精に好かれております。それがあなたの力を示すものであるからです」

「妖精?」

 突然言われた妖精と言う単語。
 だが、ファンタジー世界に当たり前にいる妖精だが、未だに自分は妖精を直に見たことはない。
 それでもルリ様は自分が妖精が見えている様に話してくる。

「ちょっと待て。二人とも、勝手に話を進めるな。俺も話に入れろ」

「えっ? あっ。すみません。ルリ様は自分が妖精に好かれてるって問われまして。でもすみません。自分は妖精は見たことないので何とも……」

「何故妖精の話が出たのだ?」

「あ~……。その……」

「ふむっ。パメラ婦人、巫女姫から聞いてくれ」

「はい」

 言葉が詰まってしまったことに、まずい質問でもされたのかと察したのか、マトラスト様は直ぐにパメラ様へと先程の言葉の代弁を頼む。立場上断ることのできない婦人は先程の言葉を述べる。

「……それは」

「どうした婦人。話しなさい」

「はい……。ミツ様には隠された力がまだあると……。ミツ様の周りにいる妖精の数と強さが、その本人の強さを示していると……そう、おっしゃっております」

「……と、巫女姫は申しておるが。それは真実であろうか……」

 周囲の視線を集め、少し考える素振りを見せるように椅子に座り直す。そして少し温くなったお茶を飲み干しては一息。

「……ふーっ」

「おい、返答はどうした!?」

 カイン殿下が言葉を焦らすなと言わんばかりに声を出す。
 その質問に答える為に自分は真面目な表情を作っては、カイン殿下の目を見ては答えを出す。

「はい、ルリ様のおっしゃるとおりですよ。ですが、皆様に自分の力を見せるのはここまでです」

「なっ!? 貴様!?」

「それはどう言う意味であろうか……」

「……」

 言葉に驚くカイン殿下、少し眉間にシワを寄せるマトラスト様、目を伏せては言葉を待つルリ様。

「それはですね……」

 その場の一人一人を見ては自分は表情を崩しニコリと笑顔を見せ、口を開く。

「明日の大会の楽しみが減っちゃうじゃないですか」
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