スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第79話 スリングショット!

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 そして始まった、ロキア君への弓の指導。
 と言っても、基本となる土台作りを自分が教えても、後にセルフィ様がまた自分がいない時などは代わりにと、喜んで教えると思う。 
 なので、ネットなどで見たことのある基本知識をロキア君へとそのまま教えることにした。

「ロキア君、弓を構えてみて」

「うん、じゃなかった……えっと。はい!」

「ご立派でございますボッチャま! 軽々と弓を扱うその技量。私は感動でございます!」

「ロキ坊、さっき教えたようにやれば大丈夫よ! あなたはやればできる才能を持ってるんだから! キャ、あなただなんて少し早かったかしら」

 まぁ、何故か自分の後ろに立っては、ロキア君の一つ一つの行動に、オーバーなリアクションで返すのが少しだけ鬱陶しい執事とエルフがいるが、二人を気にしてたら日が暮れてしまう。

「……。はい、そのまま動きを止めてみて。指先がブレないように頑張ってね」

「はい!」

「ロキ坊、カッコイイよ! 弓がロキ坊に持たれて喜んでるのが私には解るわ!」

「歴戦の弓神にも勝る神々しさを、私は感じますぞ!」

「……。はぁ……」

 少し二人をどうにかして欲しいかなと思いながら、ダニエル様の方を見ても、あの人はニコニコと見てるだけだし、パメラ様ならこの二人を止めるかと思いきや、パメラ様は二人が暴走しない限りは口を出すことはしないようだ……。
 最後の望みと、エマンダ様の方を見るが、リッコとリッケの二人と話してるし。
 もう止める人が誰もいないので、自分は二人を気にすることを止めた……。
 うん、人間諦めが肝心だ。

 さて、結果を見て残念なのだが、ロキア君にはまだ弓は早すぎるとユイシスからも言われ、結論が出ていた。
 弓を持つ持続する筋肉も、弦を引く背筋も、物に当てる命中力も全く無いのだから仕方ない。
 なら、最初から全てを欲張らずに、一つ一つレベルを上げていけば良いと考えた結果。

「……。ロキア君。ロキア君には弓はちょっとまだ難しいかな」

「うっ……」

 自分の思わぬ言葉に、ロキア君がしょんぼりと哀しそうにうつむいてしまった。
 すると、自分の後ろには二人の鬼、ではなく、執事とエルフの半端ない圧がふりかかってきた。

「ホッホッホッ。ミツさん、ボッチャまの努力をちゃんと見られておられますかな。もし見えないのでしたら、私がその曇った眼を取り替えて差し上げましょう」

「ゼクス、やりなさい。そしてそんな使えない目玉は私が矢にぶち刺して空高く飛ばしてあげるわ」

「わーっ! ストップ、ストップ! お二人とも待ってくださいよ! ロキア君には別の方法を教えるつもりなんですよ!」

「ほー」

 ゼクスさんが腰に携えたレイピアから手を離したことに、ホッと自分の口から安堵のため息が出てしまった。
 今更だが、この執事、お客に対する対応が酷いのではないのかと思う。まぁ、それを咎める者が居ないのだから仕方ない……。
 
「では、ミツさんのお考えをお聞かせいただきますでしょうか?」

「は、はい。ちょっと待ってくださいね。えーっと……手頃な大きさのものはっと……。これでいいかな」

 自分はアイテムボックスから先程厨房に置いてあった、窯に使用するために置かれていた薪を一個取りだした。
 勿論貰うときにはパープルさんの許可は取ってはある。
 それと、追加にスキルで出しておいた糸玉を持ち、物質製造スキルを発動。


 ぐにゃりぐにゃりと、形を変えだした薪と糸玉を合わせ、自分はロキア君へと弓の訓練などで使われるゴム弓を作り出した。

「「!?」」

 セルフィ様とゼクスさんは、突然自分の手に持っていた薪と糸玉の変化に、二人は驚きに目を開いている。
 ロキア君も驚いてはいるが、二人とは違い純粋に何が起きるのかを楽しみとした表情を浮かべている。

 スキルの〈糸出し〉だが、スキルレベルが上がったことに、その糸の太さや長さだけではなく、収縮性や弾力性を自在に出すことができている。
 だが、結局は元が糸だけに火にはとても弱く、加熱を加えてしまうと直ぐに切れてしまうことも解っていた。
 上手く使えば、これはこれで市販に売られている糸やロープよりも使いやすい物だと判明した。

 〈物質製造〉のスキルで作り出したゴム弓にロキア君は目をキラキラとさせながら見ているが、流石にゼクスさんとセルフィ様は同じようなリアクションは見せてはいなかった。

「ミツさん……。いっ、いったい何を!?」

「何! えっ……。何で物が……。ってか、これは何……」

「これは自分のスキルですよ。物を作り出すことができます。あっ、勿論材料が無いと作ることなんてできませんからね。はい、ロキア君、使ってみて」

「うん! ……お兄ちゃん、これどうやって使うの?」

「ああ、そうか、使い方を教えないとね。これはね……」

 ロキア君にゴム弓の使い方を教えると、弓の弦を引く動作と似ていることにセルフィ様が気づいたのか、驚きにロキア君の持つゴム弓に釘付けになっている。

「はあ~。ロキ坊、ちょっと私にも貸してもらえないかな」

「うん、はい」

「ありがとね。……。」

「ミツさん、あなたは……」

「んっ? ゼクスさん、どうされました?」

「……。ホッホッホッ。いえ……」

 何か聞きたそうなゼクスさんだったが、ロキア君へ渡したゴム弓をセルフィ様が扱いだしたことに、言葉を止めた。

「凄い……。弓の弦よりも強い糸……。私には小さいけど、ロキ坊の腕の長さに合わせた長さ……」

「あっ、そう言えばそれに似た物がまだありましてね」

「えっ? 他にあるの……?」

「はい。ちょっと待ってくださいね」

 またアイテムボックスから薪と糸玉を出し、今度は少し形を変え、木をY型状ににては糸を先端の2箇所に止めて作り上げたもの。
 そう、スポーツ具としても有名なスリングショットだ。

 また目の前で物が変化したことに不思議に見ていた二人だったが、それに対しては質問などは飛んでは来なかった。それよりも、先程ロキア君にあげたゴム弓とはまた違った形の物に興味が行っているようだ。

 自分は的までの距離、大体30メートルを間を空けてスリングショットを構えた。

「いいですか。ここの糸の中央に、これくらい小さめの石を糸と一緒につまみます。そして本体を弓のように前に出し、糸をグッと引いては狙いを定めて……。指を離せばっ!」

 スパンッ!

「「「!?」」」

「ほら、簡単に飛びますから、弓の練習として、一緒に命中力を上げれますよ。子供の玩具ですけど、使い方を変えたら鳥や魚を取る道具にもなりますからね」

「「……」」

「凄い! お兄ちゃん! 僕にもやらせて!」

「はいはい、ロキア君はもう少し前に行ってやろうね」

「うん!」

 ロキア君には自分がスリングショットを使った距離は遠すぎるので、まずは3メートル程度に的に近づくことにした。


「あ……ありえないわ……」

「ホッホッホッ。子供の玩具ですか……」

「ゼ、ゼクス。彼は、今何をした!」

 セルフィ様とゼクスさんがボソリと呟くように話していると、ダニエル様が少し小走りに二人へと近づき、先程自分が的を射抜いた物に対して質問を飛ばしてきた。
 ゼクスさんはセルフィ様からゴム弓を受け取り、それをダニエル様へと渡し説明をし始めた。

「旦那様……。こちらを……」

「んっ? 何だこれは」

「これはミツさんが先程作られた、ゴム弓と言う物でございます……」

「ゴムだと? しかし、先程彼が持っていたものとは違うような……」

「はい、只今ロキアボッチャまがお持ちになられていますのが、先程ミツさんが的に石を当てた物で、スリングショットとおっしゃられておりました……」

「スリングとな……」

「あれで鳥や魚を取ることもできる玩具だって言ってたわよ……」

「お、玩具だと……うむ……。すまぬがセルフィ殿、貴女はあれを今まで見たことがあるかね?」

「……無いわね。少年君は玩具って言ってたから、人族の方が知ってるんじゃないんですか?」

「……。ゼクス、お前は?」

「いえ、申し訳ございません。私もこの様な品物は見たことはございません……」

「少年君、アレを玩具って言ってたけど、気づいてないのかしら……。この距離から的に穴を開ける威力の物が、ただの玩具で済むわけ無いってことに……。しかも使ったのがその辺に落ちてた石ころ……」

「旦那様……」

「ああ、彼にはまだ、色々と聞くべきことがありそうだな……」

 突然見せられた不思議な出来事に、ダニエル様達三人が見るのは、ロキア君に付き添い、ただ笑顔の少年の姿であった。

「……ふふっ、フハハハ! ゼクス、セルフィ殿、面白いではないか。我々人族もエルフも見たこともない新たな武具に、偶然にも立ち会ったのだぞ!」

 通常この世界の遠距離物理武器は、弓のみである。
 以前共にキラービーを倒したローゼが持っていたクロスボウ。
 アーバレストのような弩砲も作られてはいる。
 だが、結局は共に矢を必要とし、それを持ち運ぶのも大変なことである。
 ミツが思いつきとして作り出したスリングショット。
 通常これの玉はパチンコ玉の様な銀玉を使用するのだが、先程のようにその辺に落ちている石でも飛ばすことができる。
 ここで、世界の弓の歴史に変化が起きた。
 矢は持ち運べても20~30本、クロスボウの矢は40本まで持ち運びできるが、スリングショットの玉をそのへんにある石にするなら、それは無限大に放つことができる。
 更には、飛んでくる矢を切り落とすと言う芸当も石に対しては難しくなる為に、急所となる顔を狙われては簡単に目等を潰されるし、威力が上がれば弓の様に威力を見せるかもしれない。
 連射もやりやすく、当たった石が体の中に入ってしまうとそれまた致命傷にもつながる。
 弓とは違い、本体自体の大きさも懐などに入れておけば邪魔にもならないが、逆に考えると、簡単に何処にでも隠せるものだけに、スリングショットは危険な秘具にもなりかねない品物である。

 セルフィ様は直ぐにスリングショットの価値が解った。驚きの表情は、今では何かを考え、次第に不敵な笑みを作り出していた。
 ダニエル様もセルフィ様同様な感じに、武具に関しては、商業による商談よりも頭が回るようで、ゴム弓を手にしては自分の方を見ていた。

 
 ロキア君にスリングショットを試し撃ちさせていると、本人はこれを気に入ってくれたのか、石を拾っては的に当て、また石を拾っては的に当てると何度も繰り返しに遊んでいた。
 弓は早すぎるので、先にスリングショットで撃ち方や弓にも使える技術を学ぶのは良いかもしれない。
 後でダニエル様やパメラ様達にも相談して弓の師ではなく、一旦スリングショットの練習に付き合う形に変えてもらおうと考えていた。

 後ろを振り向くと、ダニエル様とセルフィ様、そしてゼクスさんがなにが嬉しいのか、三人ともニコニコと、いや……、この場合ダニエル様とセルフィ様だけがニヤニヤとした表情をしていたが正しいか……。

 ゼクスさんはこちらに近づき、ロキア君のスリングショットの玉となる石集めを手伝い始めた。
 二人とも楽しそうにして、ロキア君がゼクスさんもやってみてと言葉を飛ばしている。
 

「んっ!? そうだ、ゼクスさん」

「はい。ミツさん、いかがなさいましたか?」

「ゼクスさんって、以前弓が苦手って言ってましたよね?」

「ホッホッホッ。恥ずかしながら、冒険者時代には何度か試してみてはみたのですが、私には合わなかったようです。ですので、私が扱えるのはこの細剣のみとなりますぞ」

 ゼクスさんは笑いながら自身の腰に携えたレイピアをポンッと叩いている。
 

「そうですか……。ではゼクスさん、これもう一つ作りますから、ロキア君と一緒に弓と言うか、このスリングショットの練習しますか? ゼクスさん程の動体視力があれば、簡単に扱えると思いますよ。それに、ゼクスさんが見てるだけよりも、二人で競うようにした方がロキア君の成長も早まると思いますし」

「……」

「ゼクスさん?」

 ゼクスさんはスッと表情が抜けたように驚き、少し目を瞑ってしまった。
 そして、カッと目を開き、ガバッと自分の両手を掴んではその暑苦しい顔を近づかせてきた。

「……ミツさん!」

「は、はい!?」

「是非とも! 是非とも!」

「は、はい。解りました、解りましたから、近いですよ。ふ~。まったく……んっ? どうされました、セルフィ様?」

 ゼクスさんの腕をポンポンと軽く叩くと、ゼクスさんはこれはこれはと手を離し、穏やかな執事の表情に戻ってくれた。
 ホッとため息をしていると、後ろから人の気配を感じ、振り向いてみるとセルフィ様がガバッっとゼクスさんと同じように、自分の両手をガッチリと掴んできた。


「少年君、私も! 私もロキ坊と一緒にアレやりたい! お願い! 私にもアレ作って~」

「うわっ、解りました、解りましたから、セルフィ様、腕が、そんなに引っ張らないでください!」

「やった! ロキ坊、私と一緒に練習しましょうね~」

「うん! じ~やとセルフィさん、一緒だね!」

「ボッチャま。私はボッチャまと同じ時、同じ訓練ができることを誇りとして胸に刻み込みますぞ!」

「ゼクスさん、大袈裟な……」

 嬉しそうにしている三人を見て、婦人の二人と、ラルス達皆がこちらへと近づいてきた。

「二人とも、随分と楽しそうですね」

「ゼクス、何をそんなに喜んでいるのだ?」

「これは、失礼いたしました。パメラ様、ラルス様。恥ずかしながら、私とした事が少々浮かれた声を……」

「俺は構わん、お前が喜ぶとき、それは大体ロキアに関することだろ。ところでロキア。それは何を持っている?」

「兄上、これはお兄ちゃんが僕に作ってくれたんだよ」

「お兄ちゃん……。そうか……。では、ロキアよ、お前の兄である俺に少しそれを見せてもらえないか」

「はい」

 ロキア君の言葉を聞いた後、自分をちらりと見てくるラルス。ラルスはまたロキア君に視線を戻し、言葉を続けた。
 ラルスの兄と言う強調された言葉に、横でクスクスと笑うパメラ様とエマンダ様。
 
 ロキア君からスリングショットを受け取るラルスは、見たこともない道具をひっくり返したりと様々な角度から見ている。

「すまんな……。ミツ、これはお前が作ったのか?」

「はい、薪と糸玉だけの簡単な品物ですけど」

「そうか。んっ? えっ? 薪と言ったか? お、お前は随分と器用だな……。これは俺ではロキアに作ってやることはできんな……。ロキア、これはどうやって使うのだ? お前の兄である俺に見せてみろ」

「うん! これはね……こうやって」

 ロキア君は足元に落ちていた小さな石ころを拾い、スリングショットの使い方を皆に見せながら使うと、改めてダニエル様からは感嘆の声が漏れていた。

「ほお……」

「まあ、そう言った物もあるのですね」

「ね~。少年君、早く作ってよ!」

「はい、あっ、でも薪が無い……。」

 セルフィ様から催促の言葉を受け、アイテムボックスに手を入れるが、アイテムボックスの中にはもう薪の在庫が無かった。
 そのことをセルフィ様へと伝えると、彼女はがっくりと肩を落としてしまった。

 そんな時、ゼクスさんが助け舟と声をかけてきた。

「ミツさん、薪でないと同じ物は作れないのでしょうか?」

「いえ、硬いものでしたら木でも鉄でも何でも構いませんよ」

「ふむ……でしたら……。こちらでもよろしいでしょうか?」

 ゼクスさんが少し考え、私兵さんの方へと歩き、何かを受け取ってきてはこちらへと直ぐに戻ってきた。

「なるほど、的を取り付けるために使っていた木の柱ですか」

 ゼクスさんが見せたのは的を固定するための木の柱の角材だった。また自分が的を壊すのではないかと思われ、私兵さん達が予備として用意していた物だそうだ……。いや、お手数おかけします。

「使ってもよろしいんですか?」

「ホッホッホッ。構いませんよ」

「では、これと糸は自分の持ってるのを使いますね」

 ゼクスさんから角材を受け取ると、ゼクスさんはスッとダニエル様達の後ろに控え、耳打ちをこぼすように三人へと言葉をつなげた。

「旦那様、奥様……。ミツさんから目を逸らさずに、今から彼がやることをしかとご覧ください……」

「「「?」」」

 ゼクスさんが何を言っているのか解らなかった三人だが、自分が〈物質製造〉スキルを発動すると、先程の意味が解ったのだろう。三人は一瞬無言になりながらも、まばたきを忘れる程に、自分が手に持つ角材と糸玉がぐにゃりと形を変えては、スリングショットになっていくのを見ていた。

「……」

「そ、その様なことが……」

「……まあ、随分とユニークな魔法をお使いになりますのね」

「どうぞ、セルフィ様、ゼクスさん。お二人の分は、少しだけ糸を強めにしてますので、簡単に切れることはないと思いますよ」

 できたスリングショットの二つをセルフィ様とゼクスさん、二人へと渡すと、セルフィ様は今日一番の笑顔と思えるほどにニコニコと自分からスリングショットを受取り、ロキア君に見せるようにと腕を高くかかげていた。

「わあ! 少年君、ありがとう! ロキ坊! 見てみて! ロキ坊とお揃いだよ~」

「ミツさん、心より感謝いたします……」

「はい、お二人と一緒なら、ロキア君も楽しいと思いますから」

 〈物質製造〉スキルを初めて見たダニエル様は無言になってしまい、パメラ様とエマンダ様は二人で何かを話している。
 リック達も目の前で起こったことに対して、驚きに直ぐには言葉が出てこなかった。
 

「……なあ。あいつ、あんなこともできたのか……?」

「いえ、僕も初めて見ました……。あっ、でも洞窟内で使ったコップはミツ君が自分で作ったと言ってましたよね? もしかしたら前からできることだったのでは?」

「ねえ、プルン、あなたは知ってたの?」

「ニャ? リッコ、ミツがウチ達を驚かすことをするなんて、そんなの前からニャ」

「違う、そうだけど、聞きたいのはそうじゃないの! あれプルンも見たでしょ、何で木となんかあの白い糸? それがゼクス様が持ってる物に変わるのよ!」

 リッコの質問に、なんとも的外れな答えを返すプルン。
 そんな彼女たちのやり取りだが、リック達も聞きたいことはリッコと同じで、自身達も言葉を繋げようとしたが、プルンの次の言葉は驚きを増加させた。

「ニャ……。ウチに言われても。ミツはウチの教会にある井戸も、あんな感じに作り直したニャよ?」

「はあ!? おま!? い、井戸って言ったか」

「……プルンさん、それはどういった感じにですか?」

「ん~。さっきみたいにピカッっと光ったと思ったら、シュッとできてたニャ」

「……うん、解かんないわ……」

「お前、説明下手くそだな……」

「ニャッ!」

「……取り敢えず、領主様の前でそんなの見せたら……」

「ああ……。あいつ、大丈夫なのかよ……」

 リック達三人は、ミツの方へと近づくダニエル様を見て、不安そうな表情を浮かべていた。
 

「ミツ君……」

「はい、ダニエル様、何か?」

「君には少し聞きたいことがある……。食後、私と話す時間をくれんか?」

「……はい、自分もダニエル様に話があったので丁度よかったです」

「ふむ、そうか……」


 その後、ロキア君の的に当てる練習は、セルフィ様とゼクスさんも一緒に参加となったので、自分は教えることもそれ程ないので手持ち無沙汰となってしまった。
 セルフィ様もスリングショットを気に入ったのか、貰ったスリングショットに早速と、自身のナイフで名を入れていた。それを見ていたロキア君も、自身のスリングショットにロキアの頭文字をセルフィ様に入れてもらい、名前の入ったスリングショットを受け取ると、ロキア君は宝物の様に嬉しそうにしていた。
 ちなみにそんなロキア君を見ては、ハァ……ハァ……と息を荒くして悶えるエルフがいたがスルーした。

 ラルスとリックはまた先程の続きを始めると言って試合場へと戻り、二人はまた模擬刀を叩き始めた。
 勝負をしながらも、ラルスはリックに自分のことを何かと聞いていたが、リックの返答は、解りませんや、変わった奴なんですと、ちょっと酷い言われようだった。
 その答えを受けても、ラルスはそうか、変な奴なのかと、これまた酷い納得のしかたをされている。

 ちなみにパメラ様とエマンダ様、そしてダニエル様は、プルンとリッコとリッケの三人を呼んでは、洞窟での話を聞きたいと言って、皆は談話室へと戻っていってしまった。

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

 屋敷内、通路にて。

「そうだ、プルン君」

「ニャ? 領主様、何かニャ?」

「うむ、君への褒美の件、覚えておるか?」

「はいニャ」

 以前初めてフロールス家に訪問した際、自分とプルンはロキア君をモンスターから救ったと言うことで、二人には領主様直々と褒美を貰っていた。
 自分はその時直ぐには欲しいものが思い浮かばなかったので、パメラ様とエマンダ様の二人の提案にて金銭を受け取り、プルンは飢えた家族のためと食料を褒美としてお願いしていた。

「うむ、こちらとしては一度教会の方に使いをだしてな。君の望む食料、それを保管できる状態を見させて貰った」

「ニャ、いつの間に? ウチ達が洞窟に行ってる間かニャ」

「そうだ。君達が洞窟に行った次の日だったかな。それでだ、いくつか聞きたいのだが……」

 ダニエル様は足を止めることもなく、プルンへと質問をかけた。

「?」

「君の住まいとしてる教会、そこに保管されている元々あった食料。あれは購入したのは街の市場かね?」

「「……」」

「違うニャよ?」

 ダニエル様の質問に間を置くこともなく、プルンは即答として答えを出した。
 それに軽く目を閉じ、後ろを振り向くことなくその場で立ち止まるダニエル様。

「そうか……。なら彼か?」

「そうニャ。ミツがウチ達が洞窟に行く間にエベラ、えっと……ウチの家族のために残してくれたニャ」

「全てかね?」

「ん~。スヤン魚の干物はウチらが依頼で取ってきた奴で、肉は肉屋のオヤジが安値で売ってくれたニャ」

「そうか……」

 その言葉を残すと、ダニエル様はまた1歩と歩み出した。

「領主様、どうしてそんなこと聞いてくるニャ? ニャッ!? まさか、食料って言った報酬が駄目ニャか!?」

「いやいや、それは問題はない、安心しなさい。あれだ、渡しすぎても腐らせては勿体無いだろ?
それなら、食料は分けて送ったほうが良いのではないかと思ってな」

「ニャ、そうだったニャね。領主様、ありがとうニャ」

「うむ」

 ニコニコと隣を歩くプルンに頷きを返し、ダニエル様はリッコとリッケ、二人を手招きしては歩きながら洞窟での戦いを聞き始めた。

 ダニエル様の4人を前に、少し距離をおいて歩く婦人の二人。

「やはり、彼でしたね……」

「まあ、面白いではないですか。ロキアに渡した菓子、それに教会に保管されていた調味料など、彼には聞きたいことが沢山ありましてね」

「エマンダとしては、彼をどう思いますか?」

「そうですね……。何処か別の国の者であることは確か、ですが、こちらに害を与える存在ではない者。上手く付き合うことができるなら、フロールス家だけではなく、周囲貴族に恩を加算して売ることができますわね」

「確かに。彼は純粋に日々を過ごしてるだけでしょうし、その辺の商人よりも物欲がない分付き合いやすいかもしれません……。ですが、無理矢理に動かしてはいけませんよ。下手に彼と距離を置かれても、ロキアが悲しむでしょうし、何よりもダニエルが面白くないでしょうね……」

「それは確かに。ふふっ、先程の魔法にも興味が湧きますからね」

「はあ……。エマンダ、貴女は魔法の事となると……」

「あら、わたくしは純粋に彼が気に入ってますよ。そうですね、気まぐれな考えでしたけど、ミアの夫にすることが本気になったぐらいでしょうか。それにパメラ、わたくしは先程彼と契約した菓子、あの契約書が私達フロールス家と彼との本当の意味で繋がりができたと思ってます。一年の間また別の案件にて彼との繋がりを作れば、長くフロールス家は彼と友好な関係でいられますわ」

「では……。いえ、想像もできませんから、例え話は止めましょう……」

「……。彼がもし、フロールス家と敵対する相手と考えるなら?」

「……。意地が悪いですね……」

「そうですね……。彼の居なかった頃の日々に戻るかは、わたくしにも解りませんが……。純粋に他に何処かの貴族がのし上がるか、それとも消えるかですわ。その消える貴族に我がフロールス家が入っていないことを祈るしかありませんね」

「不思議な方ですね……」

「あら、彼はダニエルにも似てますから、パメラ、貴女のタイプではないでしょうか?」

「貴女は……。冗談でも妻子を持つダニエルと、彼を一緒に見ては失礼ですよ」

「ふふっ、パメラ、私は今がとても楽しいですわよ。学園にて魔法の研究をしてた時と同じくらいに。それはもう、誰も解き明かせなかった魔導書を、私が最初の1ページを解読した時の、全身を身震いさせた恍惚とした時のように。もうそばに彼がいればこの胸の鼓動が伝わるかもしれませんね」

「……エマンダ。気持ちは解りますけど、彼が野兎としたら、あまり追いかけすぎては後ろ足で頭を小突かれますよ?」

「そうですね……。その時は彼ごと逃げないように抱きしめてしまえば済むのですよ、ふふっ」

 
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

 ダニエル様達がこの場から離れて大体一時間が過ぎた頃。
 セルフィ様はスリングショットの使い方が慣れてきたのか、大体10メートル離れても的に当てる程に、既にスリングショットを使いこなしてきている。
 ロキア君とゼクスさんもお互いが競うように、近くの的に石を当てれるようになってきていた。
 まあ、ゼクスさんは恐らく手を抜いて、ロキア君と同じレベルに的に当てているんだろうけど。
 やはりゼクスさんは、物事を教えるのはとても上手い人だと感心した。一緒に始めた者が、自身を残して先へ先へと上手くなるのを見てしまうと、本人のやる気を阻害してしまうからだ。ロキア君が、石を10個中3個的へと当てた時は、ゼクスさんは一個多く4個当て、次に今度はロキア君が4個当てたならゼクスさんは3個当てると言う、上手いやり方であった。
過剰なボッチャまLoveだが、ゼクスさんならロキア君のポテンシャルをこのまま保てると思う。

 時間も時間なので、ゼクスさんにそろそろ厨房の方へと行く旨を伝えた。

「ゼクスさん、そろそろパープルさんのところへ行こうかと」

「解りました。では、ボッチャま。ボッチャまは一度お着替えの後に、皆様のいらっしゃいますお部屋でお待ちください。ミツさんをご案内いたしましたら、直ぐに戻りますので」

「うん。お兄ちゃん、これありがとう! 僕、頑張って練習するね!」

「ご立派でございますボッチャま。 相手に感謝の念を伝え、情愛の心に満ちたボッチャまの心に私は感動でございます!」 

 またボッチャまLove執事が過剰な褒め言葉を言ってるが、もう流石に慣れたよ。

「ロキア君、練習は大変だけど皆も一緒だからね。頑張って強くなりなよ」

「うん! じゃなかった……。はい!」

「偉いぞ、ロキ坊! よし、ロキ坊の着替えは私が手伝ってあげよう。さっ、行こう、さっさと行こう!」

「わ~! セルフィさん待って。お兄ちゃん、じ~や、またね~」

 セルフィ様はそう言っては、ロキア君を腕に抱えてバタバタと訓練所から出ていってしまった。
 

「……。いいんですか? セルフィ様、ロキア君を抱えて行っちゃいましたよ?」

「ホッホッホッ。あの方をお止めできるのは奥方様のお二人だけでございます。私が言っても止まりませんよ。それにあの方はボッチャまの嫌がることは絶対に行いませんので、その辺はご心配なく」

「はあ……。まあ、ロキア君も笑ってましたから、二人とも楽しんでるんでしょうね」

「ミツさん、ラルス様にもお言葉を残していきますので、少々お待ちください」

「はい」

 ゼクスさんはラルスにその場を離れることを伝えると、ラルスとリックも勝負を切り上げたのか、汗を流すと水場の方へと行ってしまった。
 ゼクスさんに案内され、厨房へと入ると、パープルさんがこちらに気づいたのか、嬉しそうに近づいてきた。

「おっ! やっと来てくれた、待ってたんだよ」

「ホッホッホッ。パープルさん、では、お約束どおりミツさんをこちらにお預けいたしますので、後はよろしくお願いします。お忘れなきよう、ミツさんはお客様でありボッチャまの師でもございます。貴女のお弟子さんのようにぞんざいな失礼のないようにお願いしますぞ」

(どの口が言ってんだよ……)

 ゼクスさんの言葉に、思わず内心で強くツッコミを入れてしまった。

「解った、解ったよ。ゼクスさんは、ほんとにロキア様一番だね。まあ、あたしも料理が一番になっちまうこともあるから、人のことは言えないけどね。あっはははは」

「ホッホッホッ」

(フロールス家、大丈夫なのか……)

「では、ミツさん、また後ほど。私はボッチャまのお着替えのお手伝いに戻りますので」

「はい」

 ゼクスさんがその場から離れると直ぐに、パープルさんは弟子であるガレンさんとスティーシーさん、二人を呼んだ。

「さて、ガレン! スティーシー!」

「へいっ! ボス、お呼びで? おっ?」

「パープルさん、何ですか? あっ、君はさっきの?」

「二人とも、夕食の仕込みはしっかりと終わらせてるだろうね?」

「へいっ! 後は皿に盛るだけにしてますので、何時でも旦那様にお出しできます」

「スープも完成してますよ。後は食後のお菓子だけです」

「よし。じゃ、さっきも説明したけど。今からこのミツさんから、さっきあんた達も食べた菓子の作り方を教えてもらうよ。あんたら、耳の穴かっぽじって聞き漏らすんじゃないよ!」

「「はいっ! よろしくお願いします!」」

「は、はい。こちらこそ、皆さんよろしくお願いします。では、先ずは作り方をご説明します、その後にその順番を通して、プリンを作っていこうと思います」

 材料を自分が述べると、ガレンさんとスティーシーさんが走り、直ぐに材料を次々に準備してくれた。
 と言っても、牛乳と卵と砂糖と、厨房でも基本よく使われる材料。

「ミツさん、材料は本当にこれだけで良いのかい?」

「いえ、あと一つ……。パープルさん、厨房にバニラビーンズって無いですか?」

「? バニラ? いや、聞いたことないね。どんなのだい」

「えーっと、これですね。これ自体、味はほとんど無いので香り付けとして使います」

 アイテムボックスからバニラビーンズを一つ取り出し、三人に見えるようにと、それを裂き、中の黒くなったバニラの元を取り出した。

「なんだいこりゃ? 枯れ木を入れるのかい?」

「いえいえ、これは植物の葉を乾燥させた奴で、中にある種を使います。まぁ、これは無くても良いんですけど、あったほうが香りが増して人に好かれると思いますよ」

「そうかい、これも仕入れないとね……。しかし、凄い香りだね、これだけでも甘い匂いが凄いじゃないか」

 バニラビーンズの香りと珍しさに三人はそれを舐めたり嗅いだりと、様々なことを試し始めた。

(……バニラビーンズってこの世界に在るのかな……)

《ミツ、バニラビーンズと言う名前ではありませんが、ミーミットと言う名前の植物を、同じように数日乾燥させると似た感じに香りがつきますよ》

(おっ、ユイシス、ナイスサポート)

 パープルさんにミーミットのことを教えると、驚いたような顔をしたと思いきや、スティーシーさんがバタバタと庭へと出て行ってしまった。
 時間も置かずに戻ってきた手には、青々とした莢豌豆にも似た物を持ってきた。
 スティーシーさんが持つ莢豌豆、もとい、ミーミットを鑑定すると、ユイシスが言っていたとおりに、ミーミット、乾燥させると香り立つ食材と名前が出ていたので、これをバニラビーンズの変わりに使えることを伝えると、パープルさんたちはホッと嬉しそうにしていた。
 ちなみにこのミーミット、莢豌豆のように通常は茹でて食す物だけに、今まで乾燥させると言う発想がなかったようだ。
 思わぬ食材の新たな使いみちに、パープルさんだけではなく、ガレンさんとスティーシーさんもすごく喜んでいた。流石三人とも料理人だけに、食材に関しては知的好奇心が高いのだろう。

 プリン自体作るのは簡単なので、先程作ったキャラメルソースの作り方なども一緒に教えると、貴重な砂糖を加熱することに更に、三人は驚きに自分の調理を感心とした表情を浮かべながら見ていた。
 ただ、チョコレートを湯煎して溶かし、プリンに混ぜて作るチョコ味のプリンは、フロールス家には材料が無いので作ることは無理だと解った。
 
 自分はプリンの作り方をパープルさんに教えることが目的なので、パープルさんが材料が無いのは仕方ないと、せめてレシピはしっかりと教えてくれとのこと。
 作ったのはノーマルのプリンとキャラメルプリンの二種類のみとなった。

「しかし、菓子のプリンだったか。これだけを教えてもらうつもりが、ミツさんには本当に色々と教えてもらったね」

 この世界には、蒸し料理と言う物の概念がなかったようで、基本料理は煮る、焼くの二種類だけで様々な料理を作らなければ行けなかったようだ。
 勿体無い、蒸し料理が広まれば、蒸し野菜や肉まんなどの蒸しパンもできるので、硬いパンも蒸すことにより柔くできる。
 ちなみに教会で食されるパンは硬すぎるので、子供たちには食べづらい物だけに、既にエベラさんにはこの方法を教えてはある。
 その効果もあって、今までのようにスープにパンを浸して食べることはなくなり、子供たちはサンドイッチなどのふんわりとしたパンを食べることができている。

 パープルさん達はプリンを蒸して作る工程を見せると、既に三人の中では新しい調理法を考えているのだろう。
 プリンを蒸している間も、パープルさんは無言になって鍋から離れないし、ガレンさんとスティーシーさんも、何やらブツブツと何かを言いながらプリンが蒸し上がるまで、三人は鍋から離れることはしなかった。

 そして、完成したプリンを冷した後に四人で試食。
 材料も少ないのに、こんなにも簡単にできる菓子はやはり三人には受けがいいのだろう。
 だが、一般的に砂糖は高額な物だけに、作ったプリンは流石にフロールス家でもホイホイと作ることはできないようだが、今回は王族を招く前夜祭で出す料理。ケチケチとした料理が出せるわけもないのだから、この日ばかりは厨房も遠慮なく、じゃんじゃんと砂糖などの高価な物を使うそうだ。

「ウッス! ご指導、ありがとうございました!」

「ありがとうございました! 私、ミーミットの新しい使い方で、他のお菓子も作ってみようと思います!」

「いえ、偶然ですけどね。皆さんの覚えも早かったので自分も助かりました」

「いやいや、そんなに難しい料理じゃないからね。こちらとしても助かったよ」

 プリンは学生時代に学園祭などで料理部の人たちが売っていたぐらいだし。その日に出して、すぐ食べれば腹痛を起こすこともないだろう。
 この世界に冷蔵庫などがあれば冷したアイスなども教えることができるのだが、厨房に氷魔法が使える料理人が居るわけがない。
 それに、態々料理だけに魔術士を呼ぶこともしないのは当然か。

「ボス! 早速これをもっと美味くする改良をいたしましょう! この菓子なら色んなアレンジができます!」

「ああ、ガレン、その意気込みはあたしは嬉しいけどね。そう言った言葉はレシピを教えていただいた人の前で言うもんじゃないよ」

 料理人としてガレンさんの言葉が嬉しかったのか、パープルさんは少し苦笑いに、視線を自分に向けた後にガレンさんを軽く叱責した。

「えっ、あっ! ……す、すいやせん」

「いえいえ、料理に対するガレンさんの意気込みがよくわかりましたから、こちらが気を悪くすることじゃないですよ」

「すまないね、ミツさん。レシピの契約は基本こいつらもちゃんと頭に入ってると思うからさ。新しいレシピができたら必ず教えることを約束するよ」

「はい、では、サービスと言うわけではないですけど、皆さんにプリンを使ったデザートを1つお教えしますね」

「えっ!」

「「!?」」

「い、いいのかい?」

「はい、せっかくなので、食後にでもダニエル様達に出して、味の評価を聞いてみましょう」

「そうかい。なら、旦那様に出せる品かあたし達が先に見ないとね。さっ、ミツさん教えておくれ! ガレン、スティーシー、二人もしっかりと見ときなよ」

「「はいっ!」」
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