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第71話 ビフォーアフター。
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「さて……。出してもらえるかい」
「はい……」
「……」
ネーザンと共にやってきたのは地下にある一部屋だ。
ここでは新人の職員が解体等の練習として使われる場所でもあるが基本は倉庫。
畳一畳ほどの台を部屋の中心においてある。
アイテムボックス内に入れていた、革布に包んだ三人の女性冒険者の遺体。
それを一人一人とゆっくりと、丁寧に何も置かれていない台の上に置いた。
ネーザンはミツが取り出した革布の中に何が入っているのかを直ぐに理解したのだろう。布を少しずらし、中を確認すると眉間を寄せ、真面目な顔になっている。
そして、ゲイツが先に回収し、受け取っていたアイアンのギルドカード3枚をネーザンへと手渡した。
ネーザンはカードの裏に焼印されていた番号と名を確認すると、一度目を閉じ、また目を開けて話を続けた。
「ふむ……あんた達、この子達は何処で見つけたんだい?」
三人の女性冒険者を見つけたその時の状況や場所、また三人を連れていくことにゲイツやリティーナが関わっていることを伝えると、ネーザンは女性冒険者の三人へと向きなおし、よしよしと言葉をかけながらその頭をなでてまた革布を閉じた。
「そうかい……辛かったろうね……。あんた達、坊や達に感謝しなよ。やっと帰ってこれたんだからね……」
「……婆」
「……」
その場にいた皆はネーザンにかける言葉が見つからなかった。
「あんた達、この子達を連れて帰ってくれてありがとう……。この子達はギルドの方に捜索依頼が出ててね。それでも、もう3年が経って探しているのは依頼主だけになっちまってたんだ。これでこの依頼も終わりだね……」
「そうだったんですね……。その方には何と言うか……その……」
「ふむ、坊やは偶然だけど依頼を達成しただけだよ。それ以上でもそれ以下でもない。坊やがそこまで気にすることもないさ」
「はい……」
「冒険者なんていつ死ぬか解らない仕事だからね……。この子達もその時は覚悟したんだろうし……。けどね、だからといってこの子達が無駄死にしたなんて思っちゃいけないよ。プルン、皆もよくお聞き。冒険者に無駄な命なんか誰ももっちゃいない! でもね、自身の力を過信し過ぎて死ぬ者もいるし、事故で死んでしまう者もいる。だけど、その者が死ねば次に死ぬものが出ないかもしれない、必ず次に繋がる命もあることを覚えときな。この子達が死んでしまった原因はギルドは決して無駄にはできないし、これが今生きる者、あんた達がやるべきことなんだよ! 日々の日銭を稼ぐことだけが冒険者じゃない事を覚えときな。解ったね!」
「「「「「はいっ!」」」」」
ギルドマスターとして、ネーザンからの冒険者のやるべきことを一つ教わり、最後にギルド内に所属している治療士と共に女性冒険者三人に皆で祈りを捧げ、その場を後にした。
その後、また素材品を置いたギルドの裏に移動。
だが数も数、ネーザンからはスタッフ総動員しても、今日中に査定などを終わらせるのは無理と伝えられた。
確かに、そろそろ朝にギルドの依頼を受けた冒険者などが帰ってくるので、そちらにもスタッフをまわさなければ問題になる。
こうなる事は皆も解っていたのか、改めて素材金は翌日に受け取ることとなった。
リック達皆も帰ると言うことなので、預かっていた荷物や金をアイテムボックスから取り出し、皆へと返し一度ギルドでの解散となった。
「じゃ、明日な~」
「皆さん、お疲れ様でした」
「ふっ~。疲れた」
一言残し、皆は踵を返して自身の家の方へと帰っていく。
「さて、ウチ達も帰るニャ」
「うん、でも先にガンガさんのところに行かないと」
「あー、エイバルを渡すニャ?」
「うん」
「ならさっさと渡して帰るニャ」
教会へと帰る前、鍛冶屋のガンガの所へ寄ることに。
「そう言えばエイバル一体分だけで良かったのかな?」
「ミツ、あんなでかいエイバル、2体もナックルの素材には使わないと思うニャ……」
「それもそうだね」
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
ガンガの店前。
「爺ー! 爺ー! 居るかニャー! おっちんだかニャー!」
あいも変わらず、プルンはガンガの店前て大声を出し、ガンガを呼び始めた。
その声は大きく、また周囲の通行人の注目の視線が集まる。恥ずかしい……。
「全く、ニャーニャーと、相変わらず五月蝿いじゃじゃ馬だの。いや、馬はヒヒーンか、だとしたら目の前の奴はじゃじゃ猫か、ガッハハハハ」
「誰がじゃじゃ猫ニャ!」
「ところで今日は何用じゃ?」
「はい、ナックルの素材の一つのエイバルを持ってきましたので、先にお渡ししとこうと思いまして」
「ほー……。何じゃ、お前らエイバルを倒せたのか?」
「フフン。あんなの余裕ニャ!」
腕を腰にあて、ドヤッと鼻息を出しながら自慢するプルン。だが、エイバルの討伐は、プルンは最初だけで後は見ていただけなのだが、あえて自分は何も言わない。
「自分達二人じゃないですけど、ちゃんと倒して来ましたよ」
「そうか、なら後の素材もさっさと持ってこい。でっ? そのエイバルは何処にあるんじゃ?」
「あっ、はい。今出しますね」
人目も気になるので、ガンガの店の中へと入る。
外からは見えないのを確認した後、アイテムボックスから血抜きをしたエイバルを取り出す。
「何じゃ、坊主はアイテムボックスを持っとったんか」
「はい。これのお陰で持ってくることができました」
「ふむ、ちょい見せてみぃ」
ガンガは取り出した首の無いエイバルの甲羅や腕の爪、甲羅をクルッとひっくり返し、腹を小さなハンマーでコツコツと叩き強度を調べていた。
「うむっ。立派な素材じゃないか。よしよし。甲羅には腐敗もない、まだ倒して間もない物だな。これなら今肉を削ぎ落とせばええ素材になるぞい」
「本当ですか、良かったー」
「ミツ、良かったニャ。これで後二つニャ!」
「ガッハハハ! これが持ってこれるなら後のデルデル魚は問題なかろう。だが、ジャーマンスネークは無理そうなら他の冒険者に依頼頼めよ。坊主とプルンの二人じゃまだ無理じゃからな。ガッハハハ!」
「無理と思うなら別の素材にするニャ!」
「嫌じゃ」
「ニャ! この爺!」
「まぁまぁ。プルン。ガンガさん、良ければ残りの素材の場所を教えては貰えませんか? 実はエイバルの素材はたまたま取れた物なんですよ」
「そうか。んー、デルデル魚は川におる。ジャーマンスネークは森におる。以上だ」
「ニャッ! そんなんじゃ解かんないニャ! 爺はちゃんと場所を教えるニャ! 爺も解かんないニャ!?」
「ガッハハハ! 魚も蛇も動く物じゃからな、俺がここに居るなんて解るわけなかろうに」
「まぁ、確かに、ごもっともです」
「取り敢えずこれは加工だけしておく。使うのはこの甲羅と周りの鱗だけだからな。素材を取ったあとの肉は後で教会の方に持っていくから、肉はエベラ達に食わせてやれ」
「ニャ、そう言えばエイバルも食べれたんだニャ! 婆に全部渡しちゃったニャ!」
「あー。数も少なかったからね、もうまとめて全部出しちゃった……」
「まぁ、こいつの肉を食うぐらいなら、市場に売っている肉を買うことを勧めるぞ。こいつの肉は希少じゃからな。本当はこいつの肉もギルドに売っちまったほうが市場の肉が倍にはなるぞ」
「プルン、そうしようか」
「そうニャね、食べるなら多い方が良いニャ!」
質より量を取る男子高校生見たいな考えのプルン。
まぁ、自分もそのタイプなんだけどね。
ガンガにエイバルを預け教会の方へと帰ることに。
教会までは距離もそんなに遠くもないので、ゲートを使って帰ることはしない。
変わりにと、武道大会イベントが近いので、街にはあちらこちらで出店がある。そんなお店を見てミミ達へのお土産として焼き菓子を買って帰ることになった。
教会にたどり着くと、チラホラだが人の出入りが見受けられる。出てくる人や入る人は武器を携えている人。
「んっ? 何かあったのかな?」
「いや、この時期はあんなふうに神頼みに来る奴がいるニャ」
「ああ、前言ってたね……。神頼みか、そう言えばプルンのところって何の神様を祀っているの?」
「ニャ? 神は神ニャ? 何人もいるニャ?」
「あー、なるほど。いや、神様は数ほどいるって聞いたことあるからさ……」
「ふ~ん。ニャら、ミツは何の神様を信じてるニャ?」
「えっ? そうだね、自分は創造神の神様と破壊神の神様かな」
「ニャ……何で作る神様と壊す神様がごっちゃニャ……」
「ははっ、何でだろうね」
自分が頭のなかで思いついたのは、腕を組み、ワッハッハっと高笑いするシャロットとバルバラの二柱の二人だ。
「あっ、でもね、自分はその神様のおつかいしている女神様のほうが親しみもあって、神様よりそっち寄りかな」
「ニャ~……。ミツはスケベだからニャ、きっとその女神様もスケベな格好だニャ」
「いやいや、流石にそれはないない」
ミツのサポートをしてくれているユイシス、彼女は確かにエベレストの様な豊満な山を2つ持ってはいるが、スケベな格好と思える格好は見たことがない。
最後にその姿を見た時はご主人であるシャロットと同じ服装で、それはGパンにTシャツ姿。ふむ……これは見る人が見たら確かに山が強調されてスケベなのかもしれない。そんなことを思いながらも教会の中へと入る自分は、不純の塊だろうと思ってしまった。
教会の中へ入ると、数名が石像に片膝を着けて祈りを捧げている。エベラはいないのかなと周りを見てみると、端に置かれている小部屋から一人の冒険者が出た後、もう片方の扉からエベラが出てきた。どうやら懺悔室に入っていたようだ。
「あら、二人ともお帰りなさい」
「エベラ、ただいまニャ」
「エベラさん、無事に戻りました」
「二人とも怪我が無さそうで良かったわ」
エベラはプルンと自分を確認した後、何事もなかったことにホッとため息をもらしていた。そしていつもの聖母のような笑顔でおかえりなさいと言葉をかけてくれる。
エベラと話していると、また一人懺悔室に入り、パタリと扉を閉めた。
「あっ、二人ともごめんなさいね。また後で」
「いえ、お仕事お疲れ様です」
「ふふっ、ミツさん、これはお仕事ではなくて皆さんの気持ちを神様に私が伝えてるだけよ」
「あっ、なるほど」
「それとプルン」
「なにニャ?」
「帰って直ぐに悪いけど、こっちの方を少しお願いしても良いかしら? ちょっと今年は来られる方が多くて、私一人で少し手が回らないところもあるのよ」
「解ったニャ。直ぐに着替えて来るニャ。ミツ、焼き菓子をウチの代わりにミミ達にあげてきて欲しいニャ」
「悪いわね。ミツさんもすみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
エベラは言葉を残すと懺悔室へと入り、パタリと扉を閉めた。
その後、プルンは先程買った焼き菓子を自分に手渡し、着替えると言って2階の部屋へと行ってしまう。
勿論その時、プルンはしっかりと自身の分と、焼き菓子を加えてテンテンと階段を登って行く。
ミミ達は何処かとリビングやキッチンを探してみるが、子供たちの姿が家の中にいない。
何処に居るのかと思っていると、庭の方で声が聞こえてきた。
「皆、ここにいたんだね」
「あっ! 兄ちゃん」
「帰ってきたんだね!」
「にーに、おかえり!」
「ただいま。はい、皆にお土産の焼き菓子だよ」
「ホント! やった、頂戴! 頂戴!」
「ボクもほしいよ!」
「にーに、あたしもお菓子ほしい!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
「食べる前に手を洗うニャ。洗わない奴にはあげないニャ」
子供たちが自分の足元に来た後、お菓子を催促する声をあげると、2階の窓からプルンの声が聞こえてきた。
プルンの先程の言葉はブーメランとして言ってあげたいが、姉としての威厳もあるのだろう、言わんといてやろう。
「んっ、あっ、そうだね。皆、手を洗いに行こうか」
「「「はーい!」」」
皆で台所へと移動。
流し場へと水を入れた桶を持ってきて手洗いを済ませる。この世界の石鹸は薬草などを煮詰めて作った安値の品物だ。
香り良く庶民に親しみよく使われている物。
ハンドソープの様に泡立ちは無いが、汚れはしっかりと落ちる優れ物である。
「兄ちゃん、どうだ、綺麗になったぞ!」
「ん~。ヤン君、掌だけじゃなくて指先も洗おうね」
「おお! そうか、解った」
「にーに、おみじゅ」
「ボクも!」
「はい、どうぞって、これじゃ足りないかな。ちょっと待ってね、今出してあげるから」
桶に入った水は少なくなってしまったので〈ウォーターボール〉で水を出す。
空中に水玉が現れ、風船程の大きさにした後に、桶に入れた。すると、ヤンが桶に入った水を見て興奮し始めた。
「うわっ! 兄ちゃん魔法使えるのか!」
「ふふっ、最近覚えたんだよ」
「凄え綺麗だな! 兄ちゃんこれ、井戸の水より綺麗だよ!」
「そうなの?」
「ああ、しかも冷たくて気持ちいい」
「ちゅめたい!」
「冷たいね!」
キャッキャッと騒ぎながら石鹸の付いた手をたらいの中に入れ、水の冷たさに皆興奮している。
「兄ちゃんどうだ?」
「きれ~」
「洗えたよ!」
「はい、綺麗になったね。それじゃ、皆で食べようか」
「「「はーい!」」」
テーブルに座り、一人一人に皿を前に置き、買ってきた焼き菓子を入れて置いていく。
飲み物はアイテムボックスから取り出した自分が子供の頃によく飲んでいた乳製品。
白い原液を少し入れ、水で薄める飲み物である。原液と水との割合は1:5で作ると最高に美味い。
子供達はお菓子を美味しそうに食べ、ゴクゴクと飲み物を飲み干し、皆へと2杯目を作り渡したところだ。
そこへ着替えが終わったのか、階段を降りてくるプルン。
「ニャ? 何飲んでるニャ? 牛の乳?」
「いや、これはジュースみたいな物だよ」
「ウチにもくれニャ」
プルンにそう伝えると、自分の前に置いた飲み物が入ったコップをスッと横からかっさらい、ゴクゴクと飲み干してしまった。
「全くもう……」
「甘くて美味いニャ! んっ、何ニャ?」
自分の前に返された空のコップに呆れ、行儀が悪いと注意しようとプルンの方を振り返ると、プルンの姿に言葉が止まってしまった。
「いや、プルンのその格好初めて見たから、少し驚いてね……」
「ニュフフフ。どうニャ? エベラが昔使ってた奴ニャけど、ウチも似合ってるニャ?」
今の彼女はエベラと同じ格好のシスターの服装。
右手を後頭部にあてがえ、左手は腰に置き、少しお尻を突き出し、クイックイッっと腰を振っている。
ベールはつけてはいないが、いつもの活発な女の子のイメージが、服装を変えただけで神秘的に見えるのは不思議だ。まぁ、動きに意味はないと思う。
「うん、よく似合ってて、可愛いと思うよ」
「うっ……そうハッキリ言われると……あ、ありがとう……ニャ」
彼女の服は少し継ぎ接ぎが見えるが、コスプレなどのイベントで見る手作りのレイヤーの様に大切に使ってる感じが出てて味わいある服だ。いや、神聖な服をコスプレと言うのもレイアーにも失礼な言葉か。
自分の言葉にプルンは少し頬を染めうつむきながらも、お礼を言ってくる。
「プルン姉、顔赤いぞ? 病気か?」
「ねーね、だいじょうぶ?」
「ママ呼んでくる?」
「大丈夫ニャ、大丈夫ニャ。んっ、コホン。ウチは少しエベラの手伝いしてくるニャ。皆はミツと遊んでるニャ!」
「「「はーい」」」
「ミツ、三人をお願いニャ」
「うん、プルンも頑張ってね」
「ニャハハハ。ウチは立ってるだけニャ」
スタスタと教会の方に行ってしまうプルン。
子供達を任されたので、教会が落ち着くまでは子供達と遊ぶことに。
ヤン達がやっていた草むしりを手伝い、適度に子供達と、だるまさんが転んだや、あやとりで遊んでいると、井戸のことを思い出した。
「そう言えばさっき言ってた井戸って何処にあるの? 教会の方には無いよね?」
「兄ちゃん何言ってんだ? アッチにあるよ?」
「あるよ~」
「えっ? 何処?」
教会の庭には見たところ畑と少しの空き地しかない。見渡してみても井戸らしい井戸が無いが、ヤン達三人は一点を指を差し、アッチだよと教えてくれた。
「ほら、あれだよ」
「あっ、これ井戸だったんだ……」
「危ないから俺達は近づいちゃ駄目なんだ。水はプルン姉か、シスターに言うんだぜ」
「なるほどね……屋根も無いから雨水が入っちゃうのか」
井戸の周りは簡単な木の柵を作り、子供達が近づかないように作られていた。
三人にはその場に居てもらい、井戸を確認すると、中はただの穴と言える物しかなかった。
勿論その中には水が入っているが、葉っぱや木枝などのゴミも入っている。
井戸の周りは石壁などは無く、土がむき出しのため、雨が降ると周りの土が井戸の水を濁らせてしまうのだろう。
地下水のため雨の日には水が濁って井戸は使えない、水を汲んでも布などでろ過をしなければ飲むことが出来ない、子供達がいるけど落ちたら危険なので簡単な柵で近づかないようにしている。
「ふむ、使いやすくできないかな?」
「最近はその井戸水は体を拭くときにしか使ってないよ? 兄ちゃんが置いていった水の方が飲みやすいし美味いからな!」
「なるほど。でも、使ってるならどうにかしたいな……」
今、教会でエベラと子供達が飲んでいる水は、自分がアイテムボックスから取り出したペットボトルのミネラルウォーターを水樽に入れた奴だ。
教会の地下は部屋があり、水樽と食糧はそこに置かれている。
樽は60リットルの小さな樽だが、5個あったので全て水を満タンにして試しの洞窟へと出かけていた。
食糧も米や根菜類の日持ちする野菜、塩や様々な調味料をエベラに説明しながら残してある。
勿論、今エベラが作っているスヤン魚の干物も完成したらその中にしまわれるだろう。
「よし! 皆、庭にある石をここに集めて貰っていいかな? 大きいのや小さいのを集めれるだけ集めて欲しいんだ」
「石? いいぜ!」
「集める!」
「あたしもてしゅだう」
「ありがとう。でも、ミミちゃんは自分とついてきてね。エベラさんにお話があるから一緒に来てほしいんだ」
「いやー。あたしもイシひろうの~」
「ん~」
ヤンやモントぐらいの子供ならば、一度注意すれば井戸近くでは石集めはしないだろう。だが、ミミ程の大きさの子は夢中になると周りが見えなくなるので、無意識に井戸近くで石集めを始めてしまう可能性もある。
ゴネるミミに困っているとヤンが自分が見てると言ってくれた。
「いいよ、兄ちゃん。ミミは俺が見てるからさ。シスターのところに行ってきなよ」
「そうかい? ごめん、直ぐに戻ってくるからね」
「おう! モント、ミミ、畑の横に石があるからよ、あそこのを持ってこよう!」
「うん!」
「あーい!」
「じゃ、頼んだね」
子供達が畑の方に行き、足元に転がっている石を集めだしたことを確認した後、自分は教会の方へと急ぎ足に向かった。
何をするにも教会のエベラに許可は必要だろう。
自分は教会の方へと行くと、一人の女性を前にエベラとプルンが何やら話をしているのを見つけた。
女性は赤子を抱えて深刻そうな表情を浮かべている。
その女性を見るエベラの表情はプルンを叱る時の厳しい顔になっており、横にいるプルンは呆れた表情を浮かべている。
その時、自分はヤン達のことを思い出した。プルンもそうだが、ヤン達は親のいない孤児。
理由はどうあれ、まさかまた子供を置いていく親が来たのか?
恐る恐ると近づき、呆れ顔のプルンに声をかける。
「ニャ? ミツどうしたニャ?」
「いや、ちょっとエベラさんに話があったんだけど……今は無理そうだね」
「ニャ、構わないニャ。エベラ、ミツが話があるってニャ」
「あらあら、どうしました?」
エベラはこちらへ振り返ると、赤子を抱いた女性に向けていた厳しい顔は消え、その表情は穏やかな感じに戻っていた。
「は、はい。お忙しい時にすみません。あの、教会の井戸のことなんですけど……」
教会に設置された井戸を綺麗に整備したいことを伝えると、プルンは直ぐに賛同し、エベラの背中を押してくれた。エベラも申し訳ないと思いながらも、子供達が井戸に落ちたりと、危険から守られるならと思い整備することを許してくれた。
「ニャ? ミツそんなこともできるニャ? エベラ、頼んどくニャ!」
「プルンったら……。でも子供達が危険にならないようになるなら……。すみませんがミツさん、お願いしてもよろしいですか」
「はい、では、ヤン君達も手伝ってくれてますので自分は戻りますね」
「ミツ、ウチも後で見に行くニャ」
「うん」
「ねぇ、エベラ、この子は新しく入った子?」
そうエベラに声をかけたのは、赤子を抱いた女性。
歳は20代後半だろうか、髪は茶色に長く整えられ、髪は美しさをだしている。服は継ぎ接ぎだらけで薄着だが、隠すところはしっかりと隠し、残念だが色気はない。顔立ちは大人の女性と思わせる顔立ちで整っていはいるが目の隈が少し目立つ。。
赤子はそんな女性の胸の中でモゾモゾと動き、エベラやあっちこっちを目がキョロキョロと動いていた。
「違うニャ、ミツは冒険者として今は教会で寝泊まりしてるニャ」
「そうなの……」
女性は自分が今、この教会に寝泊まりしてることをプルンから説明を聞いた後、自分の方を見て目を合わせてきた。
こんにちはと挨拶を交わすが、言葉が続かない。
「えーっと。プルン、こちらの方は?」
「ニャ。そうだったニャ、ミツはサリーを見たことなかったニャ」
「サリーさんですか? ご近所の方ですか?」
「いや、違うニャ……」
「こんにちはミツ君。私はサリー、以前私もここの教会で住んでいてね。また帰ってきたのよ」
「帰ってきたって……サリー、あなたはもう結婚してるでしょ? 旦那さんはどうしたのよ」
「えーっと、流石にここで話すことじゃないから、後ででも良いかしら……」
「はぁ……。荷物を部屋に置いてきなさい。それとその子の事もちゃんと説明してもらうわよ」
「はい……」
教会に赤子を連れてやって来た女性サリー。
話を聞いた感じでは、彼女は以前ここでプルン達と共に日々を過ごしていたようだ。
何故帰って来たのか、エベラの言う通り、旦那さんはどうしたのか?
細かな話は家族内で話し合うだろう。
教会に居候状態の自分が口を出すことではないのは確かだ。
エベラに教会にある井戸の整備をすることに対して許可を得たので、ヤン達がいる畑のある庭へと戻ることにした。
庭へと戻ると、自分が指示していた場所には大中小と様々な石が集められている。
「おまたせ。おおっ、結構集まったね。」
「あっ、兄ちゃん遅いぞ!」
「見てみて、いっぱい集めたよ!」
「あしゅめた~」
「皆、ありがとうね。エベラさんにも許可を取ったから、今からこの井戸を綺麗にするよ」
「おー! 何するんだ! 俺手伝うぞ!」
「僕もー」
「あたしも~」
「ありがとうね。じゃ、また石を集めてもらうかもしれないけど、一度整備してからにしようか」
「「「???」」」
(ねえ、ユイシス。この井戸って地下水の量はこれが限界? できればもう少し増やしたいんだけど)
《はい、今の深さから更に掘り進めば、大きな水脈に当たり、水量が増加します》
(解った。取り敢えず一緒に綺麗にしちゃうかな)
自分は井戸の周りの柵を一度アイテムボックス内にいれ、井戸周りを何もない状態にする。
後に、ヤン達が集めてくれた石もボックス内に入れ、井戸の横に出す。
最初から井戸横に置けばと思うだろうが、子供達が井戸に落ちたら大変なので、少しの手間も気にしない。
掌を地面の井戸と、ヤン達が集めた石にあてスキルを発動。
(物質製造)
スキルを発動と同時に石がポワっと光り、井戸の中も光に包まれていく。
光は石を飲み込み消えていく。
少し井戸の大きさを変えるイメージを出し、幅を広げ、それに合わせてゆっくりと後ろに下がる。
「皆、少し離れてね。」
「おおー! おっ、おう。モント、ミミ。こっちに」
井戸の周りも整地し、ボコボコの道を平にして中央に穴がある状態にする。
周囲より一段下にさげた場所は、道路などを平にする機械でやったように真っ平らだ。だがその地面にはヤン達が集めた石がびっちりと敷き詰められている。
中央の穴を少し工夫し、広めの穴とした。
「皆、こっちにおいで」
「いいのか?」
「大丈夫だよ、ミミちゃんは降りれる?」
「ミミ、兄ちゃんに掴まれ」
「あいっ」
井戸周りを整地した場所は子供のミミには少し高いので、ミミの手を取った後、ミミはピョンっと段差をジャンプして降りた。
「おおっ! 井戸の周りが階段みたいだ」
「そうだよ。無いとは思うけど、もし井戸の中に物とか落としちゃったときに拾いに行けるようにね。あっ、もちろんその時はプルンかエベラさんに言うんだよ」
恐る恐ると井戸の中を覗き込む三人。
ただの穴でしかなかった井戸は綺麗に形を整え、1メートルも無かった穴は物質製造にてサイズを変更。
倍の2メートルの綺麗な円状に作りなおし、円の周りを下に降りるため、螺旋階段の様に横から階段を出している。
本当は下水道に入るマンホールみたいに、壁にハシゴを考えたのだが、あれは苔など付いたら滑ったりしたら危ないので、階段の方が安全なのでそちらにした。
「「「はーい」」」
「うん、良い子達だ。さてと、続きをするからね。皆はまた石集めをお願いしてもいいかな?」
「おう! 二人とも石集めやるぞ!」
「うん!」
「あ~い!」
子供達に石集めをお願いした後、次の作業として、アイテムボックスから材木を整地した地面の端に次々と取り出す。
必要な分を取り出すと結構な量となり、アイテムボックス内の木材が無くなりそうだ。
作業を続けているとプルンがこちらに来ていたのか、整地した地面と井戸を見て驚きの声を上げた。
「ニャニャ! なんニャこれは!」
「あれ? プルン、教会の方は良いの?」
「ニャ、もう夕方になるからニャ。人も減ってきたからウチがいなくても今はもう平気ニャ」
「そうなんだ。なら着替えてプルンも石集め手伝って貰えるかい?」
「ん~。別に構わないニャ。ってかなんニャ、この井戸周りの平な地面は……」
「地面の石はヤン君達が集めてくれた石を敷き詰めて作ったんだよ。こうしとけば砂埃も立ちにくくなるでしょ? まぁ、まだこれで終わりじゃ無いんだけどね」
「ニャ~。リッコ達がいたら、また呆れてると思うニャ」
「ハッハッハッ。プルンさん、見られなければ問題はないんだよ」
「ニャ~。見られた時どうするニャ……。まぁ、ウチは着替えてくるニャ」
「はいはい」
その後、プルンも石集めに参加となり、自分も手伝った事に先程よりも大きめの石を集めることができた。
ってか、石が多すぎてこの畑は一度本格的に整地した方がいいと思う。テレビで見たことあるが、畑の石は根菜類などを育てるには邪魔になり、成長を止めてしまうとか。まぁ、それは後にして、また集まった石をアイテムボックスに入れ、井戸へと持っていく。
中を覗き込むと、ユイシスの言うとおり、井戸の深さと中の広さを増加させた効果か、水が既に溢れだしている。
「ミツ、これからどうするニャ?」
「うん、次は井戸の中をするからね。さっ、皆、井戸の中に集めた石をドンドン入れちゃって!」
「ええ? 良いのか? そんな事したらシスターに怒られるぞ……」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと理由があることだから問題ないからね」
「おっ、おう。兄ちゃんが言うなら入れるぞ」
井戸の中に物を入れると怒られると解っているのか、ヤンは渋々と集めた石を入れ始めた。
流石エベラの教育が行っているのか、悪いことはしちゃ駄目と教育を受けてるのだろう。まぁ、その三人の姉は気にもせずにポイポイと楽しそうに石を入れてるが。
「ニャハハ。中々できないことニャ。結構楽しいニャ」
本当はアイテムボックスから出すときに、ザラザラと井戸の中に入れてしまえばいいのだが、これもまた子供たちへの遊びになると思い、皆へとお願いしてみた。
集めた石を皆で次々と入れていくと、井戸の底に溜まった水が見えなくなってくる。
「うん、十分かな。それじゃ皆離れてね」
「ニャ、三人ともこっち来るニャ。ミツは何するか解らないから、火が出てきて爆発するかもしれないニャ」
「ばくはしゅー」
「なんで井戸で火を使うと思うの……ってか、ミミちゃんも爆発なんかしないからね」
「ニャハハハ」
プルンは笑いながらミミ達の手を引き、井戸の周りから少し離れた。
まったくもうと呟きながらも、井戸の内側に手を当てもう一度〈物質製造〉を発動。
井戸の中から光が溢れだし、光が収まった後に中を確認。
「んー。これでいいかな……」
「ニャ……。なんニャ今の光? ニャニャッ!」
プルンが恐る恐ると井戸の中を覗き込むと、井戸の内側の周りは先程まで土の壁でしかなかったが、今は石が上から下まで敷き詰め、水を濁さないようにしている。
地下水脈に当たっているので、石を敷き詰めても地下水は石の隙間からチョロチョロと溢れ、水が止まることはしない。
集めた石だけでは井戸の中を石で敷き詰めることは難しかったが、元々井戸内の壁側には石がむき出しになっている物もあったので、それも利用させてもらった。
このまま放っといても、数日で井戸の水は十分貯まるだろうが、念の為にと〈ウォーターボール〉を発動し、井戸の中へと水を入れていく。
地面から下に1メートルになる程度まで水を満たす。
螺旋階段をテコテコと降り、バシャバシャと手を洗うミミ。
「おみじゅキレイ~!」
「凄え! 兄ちゃん、これで終わりか?」
「いやいや、このままにしちゃったらまた葉っぱとか入っちゃうからね。そこに置いてる材木で今から井戸小屋を作るつもりだよ」
「ニャ。なんに使うのかと思ったら、小屋を作るニャんて」
「さて、外も暗くなってきたし、ちゃっちゃと作っちゃおうね。皆は今度はさっきよりもう少し離れてて」
「「「「はーい!」」」ニャ」
自分は並べた木材に掌をあてがい〈物質製造〉を発動。材木が光に包まれ、グニャグニャと形を変えていく。イメージとしては神社で見たことのある建物。
神社などの建物は基本は釘などは使わない木組み式。瓦などの材料となる粘土は持ってはいないので、一先ず木材屋根である。瓦と同じように中に雨水が入らないように工夫もしている。
雨風を避けるにはこれで充分だろう。
防音効果ば無いに等しいが、そこは気にするところではない。
「おー! 凄え!」
「お家ができた!」
「おうち!」
「凄いニャ……」
「プルン、皆も中に入ってごらん」
「おー! 家っぽい!」
「家っぽい!」
「ぽい!」
「ははっ……家じゃないよ、小屋だからね」
「ニャ~……凄いニャ~。 んっ? ミツこれは何ニャ? 井戸の上に置いてるニャ?」
「それは滑車だよ」
井戸小屋を作る際、一緒に作った滑車。
この世界に滑車などは無いのか、桶に紐を結び、そのまま上へと引っ張り上げる方法しかないようだ。
井戸の大きさと道具があれば、シーソー式などもできるが、その方法では場所を取るので滑車の方を採用とした。
(本当はポンプ式でも良かったけど、作り方が思い出せないから取り敢えずこれにしたんだけど)
「滑車? 何ニャそれ」
「うん、説明するからよく聞いてね」
自分が作ったのは定滑車が二つ付いたあまり力を使わない動滑車設置タイプ。
ロープの代わりは〈糸出し〉スキルで出した糸を使用している。
動滑車設置の説明は省くが、これなら力のない女性のエベラやプルンにも簡単に井戸の水を汲むことができるだろう。
今は水量も高いので、螺旋階段を降りて水を汲んだほうが早いだろうが、後々に使うだろう。
「はい、取り敢えずやってみて。動きが悪かったら調整するから」
「解ったニャ!」
実験のために桶を井戸の中に入れ、水を汲み、糸で作ったロープを引く。作り出した糸は粘度質は殆ど無いのでベタつきなどはない。
プルンはいつもの様に水の入った桶を引こうとすると、自身の思っていた以上に引き上げる力が不要なことに驚き、スイスイと井戸の中から水の入った桶を上げることができた。
ロープを上げた後は出っ張りを作っているので、簡単にそこにロープを結べるようにしている。
「ニャ、できたニャ!」
「プルン姉! 俺にもやらせてくれよ」
「ニャニャ! ヤン、危ないニャよ」
「大丈夫だよ! なぁ、兄ちゃんもいいだろ!」
「んー。解った、ちょっと待ってね」
「ミツ、何するニャ?」
ヤンがやってみたいと言うなら試すのは問題ないのだが、誤って井戸の中に落ちたりしたら大変なので、井戸の周りに、アイテムボックスに先程入れた柵と残った木材、そして糸出しで出しておいた大量の糸を出す。
〈物質製造〉で子供が通れないほどの編み状に井戸周りにネット柵を作る。
こうすれば、下手に柵を乗り越えて下を覗き込もうとはできないだろう。
勿論下に行く螺旋階段の場所は、柵の扉にしているので問題ない。
「よし。ヤン君、桶を井戸に入れてみて」
「うん!」
ボチャンと桶が井戸の水の中に入った音がする。
編み状の隙間からも井戸の水面がヤンはしっかりと見えているのだろう。入ったと口に出して確認している。そして、ロープを引っ張り出した桶の中には5リットルは入っているだろう水だが、動滑車設置の効果かもあって、7歳のヤンはうんしょうんしょと、何とか樽を引き上げることができそうだった。だが、最後まで引き上げた後、力尽きたのか、手を離してしまい桶は井戸の底に落ちてしまった。
「ニャ~。惜しかったニャ」
「ちぇっ~。俺にはまだ無理だな」
「もう少し大きくなって、力がついたら水汲みはヤン君にもお願いできるようになるね」
「うん、俺、早くおっきくなる!」
兄であるヤンが無理なことを見ていたモントとミミだが、好奇心旺盛なのだろう、ロープを引くことをやりたいと、次は僕、あたしもと、お願いの言葉がやってきた。
まぁ、ここで断る理由もないので、小さい子三人でロープを引っ張ってもらうことにした。
何回か試して満足した子供達はロープから手を離し、次々と部屋の方へと帰っていく。
最後に雨漏りが無いことを確認するため、ウォーターボールを屋根の上にと何度か雨代わりと落とす。
プルンには小屋の中で雨漏りが無いことを確認して井戸周りと整備が終わった。
部屋に戻る際、プルンがあそこの井戸小屋でお湯が沸かせれば、態々水を台所まで持ってこなくて済むと面白いアイディアをだしたので、後でエベラに井戸を見てもらうついでに相談することにした。
「はい……」
「……」
ネーザンと共にやってきたのは地下にある一部屋だ。
ここでは新人の職員が解体等の練習として使われる場所でもあるが基本は倉庫。
畳一畳ほどの台を部屋の中心においてある。
アイテムボックス内に入れていた、革布に包んだ三人の女性冒険者の遺体。
それを一人一人とゆっくりと、丁寧に何も置かれていない台の上に置いた。
ネーザンはミツが取り出した革布の中に何が入っているのかを直ぐに理解したのだろう。布を少しずらし、中を確認すると眉間を寄せ、真面目な顔になっている。
そして、ゲイツが先に回収し、受け取っていたアイアンのギルドカード3枚をネーザンへと手渡した。
ネーザンはカードの裏に焼印されていた番号と名を確認すると、一度目を閉じ、また目を開けて話を続けた。
「ふむ……あんた達、この子達は何処で見つけたんだい?」
三人の女性冒険者を見つけたその時の状況や場所、また三人を連れていくことにゲイツやリティーナが関わっていることを伝えると、ネーザンは女性冒険者の三人へと向きなおし、よしよしと言葉をかけながらその頭をなでてまた革布を閉じた。
「そうかい……辛かったろうね……。あんた達、坊や達に感謝しなよ。やっと帰ってこれたんだからね……」
「……婆」
「……」
その場にいた皆はネーザンにかける言葉が見つからなかった。
「あんた達、この子達を連れて帰ってくれてありがとう……。この子達はギルドの方に捜索依頼が出ててね。それでも、もう3年が経って探しているのは依頼主だけになっちまってたんだ。これでこの依頼も終わりだね……」
「そうだったんですね……。その方には何と言うか……その……」
「ふむ、坊やは偶然だけど依頼を達成しただけだよ。それ以上でもそれ以下でもない。坊やがそこまで気にすることもないさ」
「はい……」
「冒険者なんていつ死ぬか解らない仕事だからね……。この子達もその時は覚悟したんだろうし……。けどね、だからといってこの子達が無駄死にしたなんて思っちゃいけないよ。プルン、皆もよくお聞き。冒険者に無駄な命なんか誰ももっちゃいない! でもね、自身の力を過信し過ぎて死ぬ者もいるし、事故で死んでしまう者もいる。だけど、その者が死ねば次に死ぬものが出ないかもしれない、必ず次に繋がる命もあることを覚えときな。この子達が死んでしまった原因はギルドは決して無駄にはできないし、これが今生きる者、あんた達がやるべきことなんだよ! 日々の日銭を稼ぐことだけが冒険者じゃない事を覚えときな。解ったね!」
「「「「「はいっ!」」」」」
ギルドマスターとして、ネーザンからの冒険者のやるべきことを一つ教わり、最後にギルド内に所属している治療士と共に女性冒険者三人に皆で祈りを捧げ、その場を後にした。
その後、また素材品を置いたギルドの裏に移動。
だが数も数、ネーザンからはスタッフ総動員しても、今日中に査定などを終わらせるのは無理と伝えられた。
確かに、そろそろ朝にギルドの依頼を受けた冒険者などが帰ってくるので、そちらにもスタッフをまわさなければ問題になる。
こうなる事は皆も解っていたのか、改めて素材金は翌日に受け取ることとなった。
リック達皆も帰ると言うことなので、預かっていた荷物や金をアイテムボックスから取り出し、皆へと返し一度ギルドでの解散となった。
「じゃ、明日な~」
「皆さん、お疲れ様でした」
「ふっ~。疲れた」
一言残し、皆は踵を返して自身の家の方へと帰っていく。
「さて、ウチ達も帰るニャ」
「うん、でも先にガンガさんのところに行かないと」
「あー、エイバルを渡すニャ?」
「うん」
「ならさっさと渡して帰るニャ」
教会へと帰る前、鍛冶屋のガンガの所へ寄ることに。
「そう言えばエイバル一体分だけで良かったのかな?」
「ミツ、あんなでかいエイバル、2体もナックルの素材には使わないと思うニャ……」
「それもそうだね」
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴
ガンガの店前。
「爺ー! 爺ー! 居るかニャー! おっちんだかニャー!」
あいも変わらず、プルンはガンガの店前て大声を出し、ガンガを呼び始めた。
その声は大きく、また周囲の通行人の注目の視線が集まる。恥ずかしい……。
「全く、ニャーニャーと、相変わらず五月蝿いじゃじゃ馬だの。いや、馬はヒヒーンか、だとしたら目の前の奴はじゃじゃ猫か、ガッハハハハ」
「誰がじゃじゃ猫ニャ!」
「ところで今日は何用じゃ?」
「はい、ナックルの素材の一つのエイバルを持ってきましたので、先にお渡ししとこうと思いまして」
「ほー……。何じゃ、お前らエイバルを倒せたのか?」
「フフン。あんなの余裕ニャ!」
腕を腰にあて、ドヤッと鼻息を出しながら自慢するプルン。だが、エイバルの討伐は、プルンは最初だけで後は見ていただけなのだが、あえて自分は何も言わない。
「自分達二人じゃないですけど、ちゃんと倒して来ましたよ」
「そうか、なら後の素材もさっさと持ってこい。でっ? そのエイバルは何処にあるんじゃ?」
「あっ、はい。今出しますね」
人目も気になるので、ガンガの店の中へと入る。
外からは見えないのを確認した後、アイテムボックスから血抜きをしたエイバルを取り出す。
「何じゃ、坊主はアイテムボックスを持っとったんか」
「はい。これのお陰で持ってくることができました」
「ふむ、ちょい見せてみぃ」
ガンガは取り出した首の無いエイバルの甲羅や腕の爪、甲羅をクルッとひっくり返し、腹を小さなハンマーでコツコツと叩き強度を調べていた。
「うむっ。立派な素材じゃないか。よしよし。甲羅には腐敗もない、まだ倒して間もない物だな。これなら今肉を削ぎ落とせばええ素材になるぞい」
「本当ですか、良かったー」
「ミツ、良かったニャ。これで後二つニャ!」
「ガッハハハ! これが持ってこれるなら後のデルデル魚は問題なかろう。だが、ジャーマンスネークは無理そうなら他の冒険者に依頼頼めよ。坊主とプルンの二人じゃまだ無理じゃからな。ガッハハハ!」
「無理と思うなら別の素材にするニャ!」
「嫌じゃ」
「ニャ! この爺!」
「まぁまぁ。プルン。ガンガさん、良ければ残りの素材の場所を教えては貰えませんか? 実はエイバルの素材はたまたま取れた物なんですよ」
「そうか。んー、デルデル魚は川におる。ジャーマンスネークは森におる。以上だ」
「ニャッ! そんなんじゃ解かんないニャ! 爺はちゃんと場所を教えるニャ! 爺も解かんないニャ!?」
「ガッハハハ! 魚も蛇も動く物じゃからな、俺がここに居るなんて解るわけなかろうに」
「まぁ、確かに、ごもっともです」
「取り敢えずこれは加工だけしておく。使うのはこの甲羅と周りの鱗だけだからな。素材を取ったあとの肉は後で教会の方に持っていくから、肉はエベラ達に食わせてやれ」
「ニャ、そう言えばエイバルも食べれたんだニャ! 婆に全部渡しちゃったニャ!」
「あー。数も少なかったからね、もうまとめて全部出しちゃった……」
「まぁ、こいつの肉を食うぐらいなら、市場に売っている肉を買うことを勧めるぞ。こいつの肉は希少じゃからな。本当はこいつの肉もギルドに売っちまったほうが市場の肉が倍にはなるぞ」
「プルン、そうしようか」
「そうニャね、食べるなら多い方が良いニャ!」
質より量を取る男子高校生見たいな考えのプルン。
まぁ、自分もそのタイプなんだけどね。
ガンガにエイバルを預け教会の方へと帰ることに。
教会までは距離もそんなに遠くもないので、ゲートを使って帰ることはしない。
変わりにと、武道大会イベントが近いので、街にはあちらこちらで出店がある。そんなお店を見てミミ達へのお土産として焼き菓子を買って帰ることになった。
教会にたどり着くと、チラホラだが人の出入りが見受けられる。出てくる人や入る人は武器を携えている人。
「んっ? 何かあったのかな?」
「いや、この時期はあんなふうに神頼みに来る奴がいるニャ」
「ああ、前言ってたね……。神頼みか、そう言えばプルンのところって何の神様を祀っているの?」
「ニャ? 神は神ニャ? 何人もいるニャ?」
「あー、なるほど。いや、神様は数ほどいるって聞いたことあるからさ……」
「ふ~ん。ニャら、ミツは何の神様を信じてるニャ?」
「えっ? そうだね、自分は創造神の神様と破壊神の神様かな」
「ニャ……何で作る神様と壊す神様がごっちゃニャ……」
「ははっ、何でだろうね」
自分が頭のなかで思いついたのは、腕を組み、ワッハッハっと高笑いするシャロットとバルバラの二柱の二人だ。
「あっ、でもね、自分はその神様のおつかいしている女神様のほうが親しみもあって、神様よりそっち寄りかな」
「ニャ~……。ミツはスケベだからニャ、きっとその女神様もスケベな格好だニャ」
「いやいや、流石にそれはないない」
ミツのサポートをしてくれているユイシス、彼女は確かにエベレストの様な豊満な山を2つ持ってはいるが、スケベな格好と思える格好は見たことがない。
最後にその姿を見た時はご主人であるシャロットと同じ服装で、それはGパンにTシャツ姿。ふむ……これは見る人が見たら確かに山が強調されてスケベなのかもしれない。そんなことを思いながらも教会の中へと入る自分は、不純の塊だろうと思ってしまった。
教会の中へ入ると、数名が石像に片膝を着けて祈りを捧げている。エベラはいないのかなと周りを見てみると、端に置かれている小部屋から一人の冒険者が出た後、もう片方の扉からエベラが出てきた。どうやら懺悔室に入っていたようだ。
「あら、二人ともお帰りなさい」
「エベラ、ただいまニャ」
「エベラさん、無事に戻りました」
「二人とも怪我が無さそうで良かったわ」
エベラはプルンと自分を確認した後、何事もなかったことにホッとため息をもらしていた。そしていつもの聖母のような笑顔でおかえりなさいと言葉をかけてくれる。
エベラと話していると、また一人懺悔室に入り、パタリと扉を閉めた。
「あっ、二人ともごめんなさいね。また後で」
「いえ、お仕事お疲れ様です」
「ふふっ、ミツさん、これはお仕事ではなくて皆さんの気持ちを神様に私が伝えてるだけよ」
「あっ、なるほど」
「それとプルン」
「なにニャ?」
「帰って直ぐに悪いけど、こっちの方を少しお願いしても良いかしら? ちょっと今年は来られる方が多くて、私一人で少し手が回らないところもあるのよ」
「解ったニャ。直ぐに着替えて来るニャ。ミツ、焼き菓子をウチの代わりにミミ達にあげてきて欲しいニャ」
「悪いわね。ミツさんもすみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
エベラは言葉を残すと懺悔室へと入り、パタリと扉を閉めた。
その後、プルンは先程買った焼き菓子を自分に手渡し、着替えると言って2階の部屋へと行ってしまう。
勿論その時、プルンはしっかりと自身の分と、焼き菓子を加えてテンテンと階段を登って行く。
ミミ達は何処かとリビングやキッチンを探してみるが、子供たちの姿が家の中にいない。
何処に居るのかと思っていると、庭の方で声が聞こえてきた。
「皆、ここにいたんだね」
「あっ! 兄ちゃん」
「帰ってきたんだね!」
「にーに、おかえり!」
「ただいま。はい、皆にお土産の焼き菓子だよ」
「ホント! やった、頂戴! 頂戴!」
「ボクもほしいよ!」
「にーに、あたしもお菓子ほしい!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
「食べる前に手を洗うニャ。洗わない奴にはあげないニャ」
子供たちが自分の足元に来た後、お菓子を催促する声をあげると、2階の窓からプルンの声が聞こえてきた。
プルンの先程の言葉はブーメランとして言ってあげたいが、姉としての威厳もあるのだろう、言わんといてやろう。
「んっ、あっ、そうだね。皆、手を洗いに行こうか」
「「「はーい!」」」
皆で台所へと移動。
流し場へと水を入れた桶を持ってきて手洗いを済ませる。この世界の石鹸は薬草などを煮詰めて作った安値の品物だ。
香り良く庶民に親しみよく使われている物。
ハンドソープの様に泡立ちは無いが、汚れはしっかりと落ちる優れ物である。
「兄ちゃん、どうだ、綺麗になったぞ!」
「ん~。ヤン君、掌だけじゃなくて指先も洗おうね」
「おお! そうか、解った」
「にーに、おみじゅ」
「ボクも!」
「はい、どうぞって、これじゃ足りないかな。ちょっと待ってね、今出してあげるから」
桶に入った水は少なくなってしまったので〈ウォーターボール〉で水を出す。
空中に水玉が現れ、風船程の大きさにした後に、桶に入れた。すると、ヤンが桶に入った水を見て興奮し始めた。
「うわっ! 兄ちゃん魔法使えるのか!」
「ふふっ、最近覚えたんだよ」
「凄え綺麗だな! 兄ちゃんこれ、井戸の水より綺麗だよ!」
「そうなの?」
「ああ、しかも冷たくて気持ちいい」
「ちゅめたい!」
「冷たいね!」
キャッキャッと騒ぎながら石鹸の付いた手をたらいの中に入れ、水の冷たさに皆興奮している。
「兄ちゃんどうだ?」
「きれ~」
「洗えたよ!」
「はい、綺麗になったね。それじゃ、皆で食べようか」
「「「はーい!」」」
テーブルに座り、一人一人に皿を前に置き、買ってきた焼き菓子を入れて置いていく。
飲み物はアイテムボックスから取り出した自分が子供の頃によく飲んでいた乳製品。
白い原液を少し入れ、水で薄める飲み物である。原液と水との割合は1:5で作ると最高に美味い。
子供達はお菓子を美味しそうに食べ、ゴクゴクと飲み物を飲み干し、皆へと2杯目を作り渡したところだ。
そこへ着替えが終わったのか、階段を降りてくるプルン。
「ニャ? 何飲んでるニャ? 牛の乳?」
「いや、これはジュースみたいな物だよ」
「ウチにもくれニャ」
プルンにそう伝えると、自分の前に置いた飲み物が入ったコップをスッと横からかっさらい、ゴクゴクと飲み干してしまった。
「全くもう……」
「甘くて美味いニャ! んっ、何ニャ?」
自分の前に返された空のコップに呆れ、行儀が悪いと注意しようとプルンの方を振り返ると、プルンの姿に言葉が止まってしまった。
「いや、プルンのその格好初めて見たから、少し驚いてね……」
「ニュフフフ。どうニャ? エベラが昔使ってた奴ニャけど、ウチも似合ってるニャ?」
今の彼女はエベラと同じ格好のシスターの服装。
右手を後頭部にあてがえ、左手は腰に置き、少しお尻を突き出し、クイックイッっと腰を振っている。
ベールはつけてはいないが、いつもの活発な女の子のイメージが、服装を変えただけで神秘的に見えるのは不思議だ。まぁ、動きに意味はないと思う。
「うん、よく似合ってて、可愛いと思うよ」
「うっ……そうハッキリ言われると……あ、ありがとう……ニャ」
彼女の服は少し継ぎ接ぎが見えるが、コスプレなどのイベントで見る手作りのレイヤーの様に大切に使ってる感じが出てて味わいある服だ。いや、神聖な服をコスプレと言うのもレイアーにも失礼な言葉か。
自分の言葉にプルンは少し頬を染めうつむきながらも、お礼を言ってくる。
「プルン姉、顔赤いぞ? 病気か?」
「ねーね、だいじょうぶ?」
「ママ呼んでくる?」
「大丈夫ニャ、大丈夫ニャ。んっ、コホン。ウチは少しエベラの手伝いしてくるニャ。皆はミツと遊んでるニャ!」
「「「はーい」」」
「ミツ、三人をお願いニャ」
「うん、プルンも頑張ってね」
「ニャハハハ。ウチは立ってるだけニャ」
スタスタと教会の方に行ってしまうプルン。
子供達を任されたので、教会が落ち着くまでは子供達と遊ぶことに。
ヤン達がやっていた草むしりを手伝い、適度に子供達と、だるまさんが転んだや、あやとりで遊んでいると、井戸のことを思い出した。
「そう言えばさっき言ってた井戸って何処にあるの? 教会の方には無いよね?」
「兄ちゃん何言ってんだ? アッチにあるよ?」
「あるよ~」
「えっ? 何処?」
教会の庭には見たところ畑と少しの空き地しかない。見渡してみても井戸らしい井戸が無いが、ヤン達三人は一点を指を差し、アッチだよと教えてくれた。
「ほら、あれだよ」
「あっ、これ井戸だったんだ……」
「危ないから俺達は近づいちゃ駄目なんだ。水はプルン姉か、シスターに言うんだぜ」
「なるほどね……屋根も無いから雨水が入っちゃうのか」
井戸の周りは簡単な木の柵を作り、子供達が近づかないように作られていた。
三人にはその場に居てもらい、井戸を確認すると、中はただの穴と言える物しかなかった。
勿論その中には水が入っているが、葉っぱや木枝などのゴミも入っている。
井戸の周りは石壁などは無く、土がむき出しのため、雨が降ると周りの土が井戸の水を濁らせてしまうのだろう。
地下水のため雨の日には水が濁って井戸は使えない、水を汲んでも布などでろ過をしなければ飲むことが出来ない、子供達がいるけど落ちたら危険なので簡単な柵で近づかないようにしている。
「ふむ、使いやすくできないかな?」
「最近はその井戸水は体を拭くときにしか使ってないよ? 兄ちゃんが置いていった水の方が飲みやすいし美味いからな!」
「なるほど。でも、使ってるならどうにかしたいな……」
今、教会でエベラと子供達が飲んでいる水は、自分がアイテムボックスから取り出したペットボトルのミネラルウォーターを水樽に入れた奴だ。
教会の地下は部屋があり、水樽と食糧はそこに置かれている。
樽は60リットルの小さな樽だが、5個あったので全て水を満タンにして試しの洞窟へと出かけていた。
食糧も米や根菜類の日持ちする野菜、塩や様々な調味料をエベラに説明しながら残してある。
勿論、今エベラが作っているスヤン魚の干物も完成したらその中にしまわれるだろう。
「よし! 皆、庭にある石をここに集めて貰っていいかな? 大きいのや小さいのを集めれるだけ集めて欲しいんだ」
「石? いいぜ!」
「集める!」
「あたしもてしゅだう」
「ありがとう。でも、ミミちゃんは自分とついてきてね。エベラさんにお話があるから一緒に来てほしいんだ」
「いやー。あたしもイシひろうの~」
「ん~」
ヤンやモントぐらいの子供ならば、一度注意すれば井戸近くでは石集めはしないだろう。だが、ミミ程の大きさの子は夢中になると周りが見えなくなるので、無意識に井戸近くで石集めを始めてしまう可能性もある。
ゴネるミミに困っているとヤンが自分が見てると言ってくれた。
「いいよ、兄ちゃん。ミミは俺が見てるからさ。シスターのところに行ってきなよ」
「そうかい? ごめん、直ぐに戻ってくるからね」
「おう! モント、ミミ、畑の横に石があるからよ、あそこのを持ってこよう!」
「うん!」
「あーい!」
「じゃ、頼んだね」
子供達が畑の方に行き、足元に転がっている石を集めだしたことを確認した後、自分は教会の方へと急ぎ足に向かった。
何をするにも教会のエベラに許可は必要だろう。
自分は教会の方へと行くと、一人の女性を前にエベラとプルンが何やら話をしているのを見つけた。
女性は赤子を抱えて深刻そうな表情を浮かべている。
その女性を見るエベラの表情はプルンを叱る時の厳しい顔になっており、横にいるプルンは呆れた表情を浮かべている。
その時、自分はヤン達のことを思い出した。プルンもそうだが、ヤン達は親のいない孤児。
理由はどうあれ、まさかまた子供を置いていく親が来たのか?
恐る恐ると近づき、呆れ顔のプルンに声をかける。
「ニャ? ミツどうしたニャ?」
「いや、ちょっとエベラさんに話があったんだけど……今は無理そうだね」
「ニャ、構わないニャ。エベラ、ミツが話があるってニャ」
「あらあら、どうしました?」
エベラはこちらへ振り返ると、赤子を抱いた女性に向けていた厳しい顔は消え、その表情は穏やかな感じに戻っていた。
「は、はい。お忙しい時にすみません。あの、教会の井戸のことなんですけど……」
教会に設置された井戸を綺麗に整備したいことを伝えると、プルンは直ぐに賛同し、エベラの背中を押してくれた。エベラも申し訳ないと思いながらも、子供達が井戸に落ちたりと、危険から守られるならと思い整備することを許してくれた。
「ニャ? ミツそんなこともできるニャ? エベラ、頼んどくニャ!」
「プルンったら……。でも子供達が危険にならないようになるなら……。すみませんがミツさん、お願いしてもよろしいですか」
「はい、では、ヤン君達も手伝ってくれてますので自分は戻りますね」
「ミツ、ウチも後で見に行くニャ」
「うん」
「ねぇ、エベラ、この子は新しく入った子?」
そうエベラに声をかけたのは、赤子を抱いた女性。
歳は20代後半だろうか、髪は茶色に長く整えられ、髪は美しさをだしている。服は継ぎ接ぎだらけで薄着だが、隠すところはしっかりと隠し、残念だが色気はない。顔立ちは大人の女性と思わせる顔立ちで整っていはいるが目の隈が少し目立つ。。
赤子はそんな女性の胸の中でモゾモゾと動き、エベラやあっちこっちを目がキョロキョロと動いていた。
「違うニャ、ミツは冒険者として今は教会で寝泊まりしてるニャ」
「そうなの……」
女性は自分が今、この教会に寝泊まりしてることをプルンから説明を聞いた後、自分の方を見て目を合わせてきた。
こんにちはと挨拶を交わすが、言葉が続かない。
「えーっと。プルン、こちらの方は?」
「ニャ。そうだったニャ、ミツはサリーを見たことなかったニャ」
「サリーさんですか? ご近所の方ですか?」
「いや、違うニャ……」
「こんにちはミツ君。私はサリー、以前私もここの教会で住んでいてね。また帰ってきたのよ」
「帰ってきたって……サリー、あなたはもう結婚してるでしょ? 旦那さんはどうしたのよ」
「えーっと、流石にここで話すことじゃないから、後ででも良いかしら……」
「はぁ……。荷物を部屋に置いてきなさい。それとその子の事もちゃんと説明してもらうわよ」
「はい……」
教会に赤子を連れてやって来た女性サリー。
話を聞いた感じでは、彼女は以前ここでプルン達と共に日々を過ごしていたようだ。
何故帰って来たのか、エベラの言う通り、旦那さんはどうしたのか?
細かな話は家族内で話し合うだろう。
教会に居候状態の自分が口を出すことではないのは確かだ。
エベラに教会にある井戸の整備をすることに対して許可を得たので、ヤン達がいる畑のある庭へと戻ることにした。
庭へと戻ると、自分が指示していた場所には大中小と様々な石が集められている。
「おまたせ。おおっ、結構集まったね。」
「あっ、兄ちゃん遅いぞ!」
「見てみて、いっぱい集めたよ!」
「あしゅめた~」
「皆、ありがとうね。エベラさんにも許可を取ったから、今からこの井戸を綺麗にするよ」
「おー! 何するんだ! 俺手伝うぞ!」
「僕もー」
「あたしも~」
「ありがとうね。じゃ、また石を集めてもらうかもしれないけど、一度整備してからにしようか」
「「「???」」」
(ねえ、ユイシス。この井戸って地下水の量はこれが限界? できればもう少し増やしたいんだけど)
《はい、今の深さから更に掘り進めば、大きな水脈に当たり、水量が増加します》
(解った。取り敢えず一緒に綺麗にしちゃうかな)
自分は井戸の周りの柵を一度アイテムボックス内にいれ、井戸周りを何もない状態にする。
後に、ヤン達が集めてくれた石もボックス内に入れ、井戸の横に出す。
最初から井戸横に置けばと思うだろうが、子供達が井戸に落ちたら大変なので、少しの手間も気にしない。
掌を地面の井戸と、ヤン達が集めた石にあてスキルを発動。
(物質製造)
スキルを発動と同時に石がポワっと光り、井戸の中も光に包まれていく。
光は石を飲み込み消えていく。
少し井戸の大きさを変えるイメージを出し、幅を広げ、それに合わせてゆっくりと後ろに下がる。
「皆、少し離れてね。」
「おおー! おっ、おう。モント、ミミ。こっちに」
井戸の周りも整地し、ボコボコの道を平にして中央に穴がある状態にする。
周囲より一段下にさげた場所は、道路などを平にする機械でやったように真っ平らだ。だがその地面にはヤン達が集めた石がびっちりと敷き詰められている。
中央の穴を少し工夫し、広めの穴とした。
「皆、こっちにおいで」
「いいのか?」
「大丈夫だよ、ミミちゃんは降りれる?」
「ミミ、兄ちゃんに掴まれ」
「あいっ」
井戸周りを整地した場所は子供のミミには少し高いので、ミミの手を取った後、ミミはピョンっと段差をジャンプして降りた。
「おおっ! 井戸の周りが階段みたいだ」
「そうだよ。無いとは思うけど、もし井戸の中に物とか落としちゃったときに拾いに行けるようにね。あっ、もちろんその時はプルンかエベラさんに言うんだよ」
恐る恐ると井戸の中を覗き込む三人。
ただの穴でしかなかった井戸は綺麗に形を整え、1メートルも無かった穴は物質製造にてサイズを変更。
倍の2メートルの綺麗な円状に作りなおし、円の周りを下に降りるため、螺旋階段の様に横から階段を出している。
本当は下水道に入るマンホールみたいに、壁にハシゴを考えたのだが、あれは苔など付いたら滑ったりしたら危ないので、階段の方が安全なのでそちらにした。
「「「はーい」」」
「うん、良い子達だ。さてと、続きをするからね。皆はまた石集めをお願いしてもいいかな?」
「おう! 二人とも石集めやるぞ!」
「うん!」
「あ~い!」
子供達に石集めをお願いした後、次の作業として、アイテムボックスから材木を整地した地面の端に次々と取り出す。
必要な分を取り出すと結構な量となり、アイテムボックス内の木材が無くなりそうだ。
作業を続けているとプルンがこちらに来ていたのか、整地した地面と井戸を見て驚きの声を上げた。
「ニャニャ! なんニャこれは!」
「あれ? プルン、教会の方は良いの?」
「ニャ、もう夕方になるからニャ。人も減ってきたからウチがいなくても今はもう平気ニャ」
「そうなんだ。なら着替えてプルンも石集め手伝って貰えるかい?」
「ん~。別に構わないニャ。ってかなんニャ、この井戸周りの平な地面は……」
「地面の石はヤン君達が集めてくれた石を敷き詰めて作ったんだよ。こうしとけば砂埃も立ちにくくなるでしょ? まぁ、まだこれで終わりじゃ無いんだけどね」
「ニャ~。リッコ達がいたら、また呆れてると思うニャ」
「ハッハッハッ。プルンさん、見られなければ問題はないんだよ」
「ニャ~。見られた時どうするニャ……。まぁ、ウチは着替えてくるニャ」
「はいはい」
その後、プルンも石集めに参加となり、自分も手伝った事に先程よりも大きめの石を集めることができた。
ってか、石が多すぎてこの畑は一度本格的に整地した方がいいと思う。テレビで見たことあるが、畑の石は根菜類などを育てるには邪魔になり、成長を止めてしまうとか。まぁ、それは後にして、また集まった石をアイテムボックスに入れ、井戸へと持っていく。
中を覗き込むと、ユイシスの言うとおり、井戸の深さと中の広さを増加させた効果か、水が既に溢れだしている。
「ミツ、これからどうするニャ?」
「うん、次は井戸の中をするからね。さっ、皆、井戸の中に集めた石をドンドン入れちゃって!」
「ええ? 良いのか? そんな事したらシスターに怒られるぞ……」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと理由があることだから問題ないからね」
「おっ、おう。兄ちゃんが言うなら入れるぞ」
井戸の中に物を入れると怒られると解っているのか、ヤンは渋々と集めた石を入れ始めた。
流石エベラの教育が行っているのか、悪いことはしちゃ駄目と教育を受けてるのだろう。まぁ、その三人の姉は気にもせずにポイポイと楽しそうに石を入れてるが。
「ニャハハ。中々できないことニャ。結構楽しいニャ」
本当はアイテムボックスから出すときに、ザラザラと井戸の中に入れてしまえばいいのだが、これもまた子供たちへの遊びになると思い、皆へとお願いしてみた。
集めた石を皆で次々と入れていくと、井戸の底に溜まった水が見えなくなってくる。
「うん、十分かな。それじゃ皆離れてね」
「ニャ、三人ともこっち来るニャ。ミツは何するか解らないから、火が出てきて爆発するかもしれないニャ」
「ばくはしゅー」
「なんで井戸で火を使うと思うの……ってか、ミミちゃんも爆発なんかしないからね」
「ニャハハハ」
プルンは笑いながらミミ達の手を引き、井戸の周りから少し離れた。
まったくもうと呟きながらも、井戸の内側に手を当てもう一度〈物質製造〉を発動。
井戸の中から光が溢れだし、光が収まった後に中を確認。
「んー。これでいいかな……」
「ニャ……。なんニャ今の光? ニャニャッ!」
プルンが恐る恐ると井戸の中を覗き込むと、井戸の内側の周りは先程まで土の壁でしかなかったが、今は石が上から下まで敷き詰め、水を濁さないようにしている。
地下水脈に当たっているので、石を敷き詰めても地下水は石の隙間からチョロチョロと溢れ、水が止まることはしない。
集めた石だけでは井戸の中を石で敷き詰めることは難しかったが、元々井戸内の壁側には石がむき出しになっている物もあったので、それも利用させてもらった。
このまま放っといても、数日で井戸の水は十分貯まるだろうが、念の為にと〈ウォーターボール〉を発動し、井戸の中へと水を入れていく。
地面から下に1メートルになる程度まで水を満たす。
螺旋階段をテコテコと降り、バシャバシャと手を洗うミミ。
「おみじゅキレイ~!」
「凄え! 兄ちゃん、これで終わりか?」
「いやいや、このままにしちゃったらまた葉っぱとか入っちゃうからね。そこに置いてる材木で今から井戸小屋を作るつもりだよ」
「ニャ。なんに使うのかと思ったら、小屋を作るニャんて」
「さて、外も暗くなってきたし、ちゃっちゃと作っちゃおうね。皆は今度はさっきよりもう少し離れてて」
「「「「はーい!」」」ニャ」
自分は並べた木材に掌をあてがい〈物質製造〉を発動。材木が光に包まれ、グニャグニャと形を変えていく。イメージとしては神社で見たことのある建物。
神社などの建物は基本は釘などは使わない木組み式。瓦などの材料となる粘土は持ってはいないので、一先ず木材屋根である。瓦と同じように中に雨水が入らないように工夫もしている。
雨風を避けるにはこれで充分だろう。
防音効果ば無いに等しいが、そこは気にするところではない。
「おー! 凄え!」
「お家ができた!」
「おうち!」
「凄いニャ……」
「プルン、皆も中に入ってごらん」
「おー! 家っぽい!」
「家っぽい!」
「ぽい!」
「ははっ……家じゃないよ、小屋だからね」
「ニャ~……凄いニャ~。 んっ? ミツこれは何ニャ? 井戸の上に置いてるニャ?」
「それは滑車だよ」
井戸小屋を作る際、一緒に作った滑車。
この世界に滑車などは無いのか、桶に紐を結び、そのまま上へと引っ張り上げる方法しかないようだ。
井戸の大きさと道具があれば、シーソー式などもできるが、その方法では場所を取るので滑車の方を採用とした。
(本当はポンプ式でも良かったけど、作り方が思い出せないから取り敢えずこれにしたんだけど)
「滑車? 何ニャそれ」
「うん、説明するからよく聞いてね」
自分が作ったのは定滑車が二つ付いたあまり力を使わない動滑車設置タイプ。
ロープの代わりは〈糸出し〉スキルで出した糸を使用している。
動滑車設置の説明は省くが、これなら力のない女性のエベラやプルンにも簡単に井戸の水を汲むことができるだろう。
今は水量も高いので、螺旋階段を降りて水を汲んだほうが早いだろうが、後々に使うだろう。
「はい、取り敢えずやってみて。動きが悪かったら調整するから」
「解ったニャ!」
実験のために桶を井戸の中に入れ、水を汲み、糸で作ったロープを引く。作り出した糸は粘度質は殆ど無いのでベタつきなどはない。
プルンはいつもの様に水の入った桶を引こうとすると、自身の思っていた以上に引き上げる力が不要なことに驚き、スイスイと井戸の中から水の入った桶を上げることができた。
ロープを上げた後は出っ張りを作っているので、簡単にそこにロープを結べるようにしている。
「ニャ、できたニャ!」
「プルン姉! 俺にもやらせてくれよ」
「ニャニャ! ヤン、危ないニャよ」
「大丈夫だよ! なぁ、兄ちゃんもいいだろ!」
「んー。解った、ちょっと待ってね」
「ミツ、何するニャ?」
ヤンがやってみたいと言うなら試すのは問題ないのだが、誤って井戸の中に落ちたりしたら大変なので、井戸の周りに、アイテムボックスに先程入れた柵と残った木材、そして糸出しで出しておいた大量の糸を出す。
〈物質製造〉で子供が通れないほどの編み状に井戸周りにネット柵を作る。
こうすれば、下手に柵を乗り越えて下を覗き込もうとはできないだろう。
勿論下に行く螺旋階段の場所は、柵の扉にしているので問題ない。
「よし。ヤン君、桶を井戸に入れてみて」
「うん!」
ボチャンと桶が井戸の水の中に入った音がする。
編み状の隙間からも井戸の水面がヤンはしっかりと見えているのだろう。入ったと口に出して確認している。そして、ロープを引っ張り出した桶の中には5リットルは入っているだろう水だが、動滑車設置の効果かもあって、7歳のヤンはうんしょうんしょと、何とか樽を引き上げることができそうだった。だが、最後まで引き上げた後、力尽きたのか、手を離してしまい桶は井戸の底に落ちてしまった。
「ニャ~。惜しかったニャ」
「ちぇっ~。俺にはまだ無理だな」
「もう少し大きくなって、力がついたら水汲みはヤン君にもお願いできるようになるね」
「うん、俺、早くおっきくなる!」
兄であるヤンが無理なことを見ていたモントとミミだが、好奇心旺盛なのだろう、ロープを引くことをやりたいと、次は僕、あたしもと、お願いの言葉がやってきた。
まぁ、ここで断る理由もないので、小さい子三人でロープを引っ張ってもらうことにした。
何回か試して満足した子供達はロープから手を離し、次々と部屋の方へと帰っていく。
最後に雨漏りが無いことを確認するため、ウォーターボールを屋根の上にと何度か雨代わりと落とす。
プルンには小屋の中で雨漏りが無いことを確認して井戸周りと整備が終わった。
部屋に戻る際、プルンがあそこの井戸小屋でお湯が沸かせれば、態々水を台所まで持ってこなくて済むと面白いアイディアをだしたので、後でエベラに井戸を見てもらうついでに相談することにした。
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