スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第46話 マリオネット

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「おりゃ!」

「ニャ!」

 ガシャン

「はぁはぁ……。流石に少し多すぎたんじゃねーか」

 リックとプルンの周りには先程から倒し続けたスケルトンの残骸が散乱していた。

 リックの言葉にお互い背中合わせになるプルンとリック、目の前のスケルトンの動きに直に反応する為だろう。
 

「もうウチ腕の感覚が鈍くなってきたニャ」

「おいおい、血が出てんじゃねーか!」

「大丈夫ニャ、後でミツかリッケに治して貰うニャ。それよりリック息が荒いけど、そっちこそ大丈夫ニャ?」

「ふ~、まぁ、正直流石にバテて来たかもな。スケルトンの倒し方解ってても数がな~」

「ニャ、確かにウチもニャ」

「でももう少しの辛抱だな、ミツが何か動き出したら俺達はリッコ達の所まで引こうぜ」

「解ったニャ」

 二人だけで戦闘を続けているリックとプルン。
 二人とも能力上昇系スキルを受けてはいるがそれも限界か。
 最初と比べたら今は二人とも自身から攻撃は仕掛けず、スケルトンの方からの攻撃を避けてからのカウンター攻撃と最低限の動きに変えて戦っていた。

 結果動きも止まり、二人は自然と一箇所にとどまる形が多く出始めていた。
 そしてスケルトンとの戦いを続ける内に出来てしまう周囲への警戒の油断。

 ドン!

 激しい爆音と共に飛んでくる赤い炎、プルンは気づかす自身に向かって飛んでくる事に直ぐには反応できていなかった。
 それは多くのスケルトンが壁となってる為、リッチからの攻撃が隠れて見えなかったせいもあるだろう。


「プルン! 避けろ!」

「ニャ!?」

 近くにいたリックが直に近づいて自身の盾で守ろうとするが間に合うか解らない。
 それでも仲間を守る為に近づくが炎の迫るスピードは早かった。

 
 ドーン! ドン! ドドドド!


 炎の着弾音と共にプルンの場所にたどり着いたリック。
 咄嗟にプルンの上に覆いかぶさる格好になり、プルン達を狙う様に降り注ぐ爆炎と衝撃から守るリック、次々と飛んできている火玉から必死に守っていた。

「ぐっ!」

「ニャー!」

 プルンの上にリックがかぶさりその上にパラパラと砂やスケルトンの骨の破片が降り注いでくる。


「うっ……うっ……」

「リック!」

「プルン、大丈夫か?」

「リックこそ大丈夫ニャ!?」

「あぁ、どうやら俺もお前も守られたみたいだな」

「ニャ!?」

 土煙が晴れ行く中、周りを見渡すとスケルトンの集団は先程の敵からの魔法攻撃でほぼ壊滅状態。
 そしてリック達二人の前にできた分厚い氷の壁。
 そう、ギリギリのところで氷壁がリッチとメイジの攻撃を防ぎ二人を守っていた。


「二人とも大丈夫!?」

「リッコ火壁を一度止めてください! 二人を回復します!」

「解った!」

 先程の攻撃でリック達が負傷したかと思ったリッコとリッケ、直ぐに二人の側へと駆け寄ってきた。

 周りにいるスケルトンの殆どは爆風で飛ばされたりで直ぐには襲って来ない事を確認したのだろう。
 リッコはリッケから言われた通り、目の前の火壁を消し二人に駆け寄る。
 

「プルン立てるか!?」

「だっ、大丈夫ニャ」

 駆け寄ってくるリッコとリッケ、更にはゲイツと他の冒険者もついてきていた様だ。


「二人とも大丈夫ですか!」

「あぁ、何とか平気だ」

「ウチもリックが庇ってくれたお陰で平気ニャ」

「そ、そうですか、良かったです。取り敢えず回復をさせて下さい」

「おう、すまねえ、ところでこの氷はお前らが出したのか?」

 リッケの治療を受けながらリックはコンコンと氷を叩きながら自身とプルンの二人を守った氷壁を見ていた。

「違うわよ、私達の方からこれを出した魔術士はいないわ」

「ああ、ならアイツか」

「きっとそうニャ」

 リッコがリティーナ達の冒険者の魔術士からも氷の壁を出したものは居ないと聞くとリックは誰が出したのか直に解った。
 勿論リックだけではなくその場にいたプルンとリッケとリッコも同じ人物が思い浮かんだだろう。


「話の途中すまんが良いか」

 リック達が話をしている中、現状が今ひとつ理解できてないゲイツと他の冒険者。
 状況確認の為ゲイツがリック達に声をかけてきた。


「大丈夫そうだな、先ず君達のお陰で助かった事を礼を言う、ご助力本当に心より感謝する。だがこれからは我々も戦わせて貰おう」

「そうだぜ、お前達だけに任せっきりってのも悪いからな」

「ワシらも冒険者、助けてもらうだけじゃないぞ!」

「そうだ! 行こうぜゲイツの旦那!」

 ゲイツが自身の剣を構えると、周りにいた冒険者も先程の二人の戦いに背中を押されたのか、既に恐怖の震えも無く勇ましく次々と剣を構えていた。


「おっ、おう。丁度俺達二人ともバテて来たから助かるけどよ」

「ならば交代だ、君たちはお嬢と後ろに下がってなさい。後は俺達がしっかりと片付けてやる」

「「「おおおおぉぉお!!」」」

 ゲイツの言葉に冒険者の面々は気合の掛け声と共に剣を掲げた。
 そして一人の冒険者がメイジの方角を見るとその状況に驚きで声をあげた。

「ゲ、ゲイツさん!」

「んっ。なっ、何だあれは!」

「何だ、またメイジの攻撃か!? 」

「いかん! 何が来るか解らん、皆魔法が飛んでくるかもしれんぞ、皆気をつけろ!」

 突如現れた煙にゲイツと他の冒険者は新たな攻撃に焦りながらも、冒険者達は構えた剣を煙の方へと向けていた。

 そんな緊迫した空気の中で四人の少年と少女だけはそんな焦りもなくその煙を見る事ができていた。

 プルンとリックの戦闘。
 それは誰から見ても異常な戦いぶりだ、それは勿論モンスターも同じ事を思ったのかもしれない。

 知性の高いリッチは人々の恐怖、またその生命をかてとし自身の力としている。

 リッチのけしかけたスケルトンの集団。
 その力と集団を持ってすれば多少多くても冒険者を喰らい尽くす事など簡単だと思っていた。
 事実メイジが放った攻撃で数人の冒険者を容易くも炎でいとも簡単に殺せたのだから。

 しかし、突如現れた2体の人間と獣族に計画は簡単にも崩された。自身の後ろに居るメイジすら考える力は無くとも恐怖を感じるのか、メイジは少し後ずさっている。

 リッチは掌を先頭で戦う2体に向け、自身の計画を壊した者に自ら死を送る事にした。

 リッチの掌に魔力が集まりそれに気づいた周りのメイジ、手を出し2体の生物に向かって火玉を発射した。

 リッチの〈フレイムランス〉が一人の獣族に向かって飛んで行く。
 それと同時にメイジ達の手からも数多くの〈ファイヤーボール〉が飛び出し、次々と二人の周囲に着弾。
 それと同時に舞い上がるスケルトンの骨。
 自身の駒となるスケルトンも多少巻き込んだが、リッチは気にすることも無く、また止まる事も無く次々と攻撃を続けていた。

 リッチが攻撃を止めるとメイジも同じ様に攻撃を止めた、爆炎で舞上がった砂煙が少しづつ晴れていく、そしてリッチが見た光景、それは自身が求める光景とは違う物だった。

 メイジとリッチ、両方からの魔法攻撃の流れ弾が当たった無数のスケルトンの骨の残骸が周囲地面には飛び散っている。

 そして2体を守る様に貼られた氷の壁。
 そう、二人は氷の壁で守られてしまっていた、二人は動きを止めているが自身の放った魔法が当たった訳では無さそうだ。

 忌々しい人間の魔術士、先にそちらの方を殺すべきか。

 いつの間にか消えている炎の壁、目標をその先にいる魔術士に向かって殺意を込め攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

 突如として自身の周りが白い煙に覆われ、人間の魔術士どころか近くに居る仲間のメイジの姿すら見えなくなっていた


 ドサッ

 何かが倒れる音だけが後から聞こえる、それがその場を把握できる唯一解る事だった。

「危ない危ない。うちの仲間になんて危ないもの飛ばすんだよ」

 プルン達にメイジ達の攻撃が及ばない様にと〈アイスウォール〉の氷壁を発動し。
 これ以上魔法を射たせない為にも〈煙幕〉のスキルを発動した。

 それと同時に一番後ろにいたスケルトンメイジ、その足を崩し直に上に馬乗りになって抑えこむ。


 そして……。

 ドサッ

(魔力吸収)

 抑えたローブの中で骨がガチャガチャとなり激しい動きをするメイジ。

「こんなもんかな」

 魔力を吸収したメイジを鑑定してみるとメイジの状態が枯渇と表示されていた。

 最初麻痺攻撃での状態異常を狙って攻撃を考えていたが、自身の攻撃だと誤って倒してしまうと考えた。
 そんな時、状態異常ならリッケがかかったMP枯渇も状態異常としてスティールの対象ではないかと実験もかねて試す事にしてみたのだ。


(流石パラメータ見えると便利だ、限界まで吸えた。よし、スティール!)


《スキル〈デモンズソウル〉〈ファイヤーボール〉〈アイスジャベリン〉を習得しました》



デモンズソウル

・種別:アクティブ

命ある者の生命を吸い取り悪しき者に変える、相手が弱っていると成功率が上がる。


ファイヤーボール

・種別:アクティブ

火球を放出しての攻撃、レベルが上がると威力が増す。


アイスジャベリン

・種別:アクティブ

氷の槍を出現させ攻撃をする、レベルが上がると威力が増す。


 実験は成功した。


(これでもうメイジからは何時でもスキルを回収できる。ついでだ、他のメイジからも今のうちに貰っておこう)


 仲間が隣で倒されている事に全く気づいていない間抜けなメイジのスキルを先に奪う事にした。


「あンた、背中が煤けてるぜ……スティール!」

《経験により〈ファイヤーボールLv2〉〈ファイヤーウォールLv3〉となりました》


 !?

(魔力吸収!)

 ドサッ

 後からボソリと声をかける、その時メイジがようやく自分の存在に気づくが既にスキルは抜かれ。
 メイジは抵抗する事もてきずに、MPを一気に抜かれてしまい地面えと崩れ倒れた。

(残り3……。リッチは自分の姿が見えてないけどメイジが倒されてることに気づいてるのかな?)

 自分の視線から見ると、リッチはこちらに振り向いてはいるがやはり〈煙幕〉の効果だろうか、リッチはほんの数メートル先で仲間のメイジが倒されている事が把握できていないようだ。

(ん~。これなら倒すのは大丈夫だけど、スキルを取るのが厄介だな……。そうだ!)

 自分は魔力を吸い尽くしたメイジに目を向け、リッチ討伐のお手伝いをしてもらう事にした。


(傀儡)

  カタカタ……カタ……カタカタ

 〈傀儡〉で操られた2体のメイジ。
 スッと立ち上がり、自分の指示を待つかのようにその場で直立している。


(よし、先ずは残りのメイジだ!)

「行け」

 指示をだすと動き出す2体のメイジ


 カカカカカ!?

 突如として仲間のメイジが後ろから羽交い締めを受ける残りの2体のメイジ。
 メイジ同士の力は五分五分なのだろう、羽交い締めされた腕を掘り解く事もできずに体を揺らして暴れるしかできないようだ。

 その間に近づく、そして素早くスキルを奪い取る。


(スティール!)

《経験により〈ファイヤーボールLv4〉〈アイスジャベリンLv2〉〈ファイヤーウォールLv4〉となりました》

 カタカタカタカタ!

(頂きます、魔力吸収)

 メイジには見えてはいないだろうが目の前で合掌をし、操りメイジで抑えられたメイジの魔力をまた同じ様に枯渇まで吸い取る

 ガチャガチャガチャガチャ!

 そして出来上がった新たな2体のお手伝いメイジ

(傀儡)

《経験により〈傀儡Lv2〉となりました》

(これで準備が終わった、そろそろかな)

 ゆっくりと消えていく〈煙幕〉の効果。

 もう一度〈煙幕〉を張ってその間にリッチを倒す事も考えたが、知性を持つモンスターがどんな行動をするのか少し好奇心が出てしまった。

 そして煙の三割程が消えた程、ようやくリッチが自分の存在に気づいたようだ。

 ヴっ!?

「やぁ、悪いけどお仲間を少し借りてるよ」

 陽気にリッチへと声をかけると驚きと警戒を込めた声が聞こえてきた。
 今自分の前には4体の操られたメイジが並んでいる。

 ヴァ!

 それを見たリッチはニヤリと不敵に笑いメイジに手を振り下ろした。

 ダァ!……!?

 しかし、4体のメイジは攻撃をしようとも、その場から動こうともしない。
 そんなメイジを見てリッチが驚きの表情を浮かべている。

「だから言ったでしょ、借りたって。ほら、行け」

 !?

 思わぬ事で反応が遅れたか、リッチはあっさりと操られたメイジ4体に両手両足をガッシリと掴まれてしまった。

「あら? あっけないな、もう少し抵抗して苦戦すると思ったんだけど。まぁ、無いなら無いでいいや。まだ魔法を使うモンスターとの戦いって慣れてなくてね、実際に自分がやられたら嫌な方法でやらせてもらう事にしたよ。ってか、うちの仲間に危ない物飛ばしたお前は許す気は無いけどね」

 リッチへとゆっくりと近づく。
 腕や足を抑えているメイジを自身の魔法で倒すと思っていたのだが、どうやら上手く魔法が出せない様だ。

「最初焦ったけどね~、昔ゲームで出てきたリッチって言えば結構厄介なモンスターだったんだよ。でも、根本的に魔法の攻撃さえどうにかすれば攻略できちゃう事が後々解ったモンスターだったな~。まぁ元ゲーマーの知性が少しだけ役に立ったかな」

 ヴぅー!

「本当はお前の四肢を切り落としたりしても構わないんだけど、やっぱり綺麗に残す事にしたよ」

 顔は笑っているがその声はリッチでさえ恐怖を感じる程の冷たい声だった。

 そして、メイジに体を抑えられながらも暴れるリッチ、その体に触れ〈魔力吸収〉を発動。


(魔力吸収)

 オ"オ"ォおぉ!!

 自身の体から一気に魔力が無くなっていく感覚。
 リッチは恐怖から呻き声と思える悲鳴を上げている。
 鑑定をしリッチの状態が枯渇と表示された。


「これで終わりな、スティール!」

《スキル〈コールドブレス〉〈フレイムランス〉〈スパークアクション〉〈ライトニング〉〈アビス〉〈アンデッドオペレーション〉を習得しました、経験により〈ファイヤーウォールLv5〉となりました》



コールドブレス

・種別:アクティブ

氷の息吹での攻撃、レベルが上がると威力が増す。


フレイムランス

・種別:アクティブ

炎の槍を降らせる、レベルが上がると威力が増す。


スパークアクション

・種別:アクティブ

電流を走らせ対象にダメージを与える、レベルが上がると威力が増す。


ライトニング

・種別:アクティブ

高圧な電流を放出する、レベルが上がると威力が増す。


アビス

・種別:アクティブ

深淵の闇を出し対象を闇に飲み込む。



アンデッドオペレーション

・種別:アクティブ

アンデッド系モンスターを操ることができる、使用者の魔力量によって操作時間が変わる。


 ヴァ……あぁ……

「さようなら」


 枯渇状態となり既に暴れる力も残っていないリッチ、そんな残りのMPを全て吸い取り終わらせた。

 〈傀儡〉で操作してた4体とリッチは纏めてアイテムボックスに収納、事実上自分がリッチとメイジとの戦闘を誰も見ることもなく終わってしまった。


「さて、こっちは終ったな、後は残りのスケルトンの討伐だ。急がないとリック達に全部倒されちゃう……。っえ!?」


 残りのスケルトンの集団を見たその時。
 スケルトンのその集団の一部が次々と粉となって崩れ落ちていっている。

(なっ! リッケ達がヒールで倒してるのか!?)

《いえ、今崩れ落ちて砂となったスケルトンの一部分はメイジのスキル、デモンズソウルにてスケルトンに変えられたモンスターです。スキル効果を失ってしまいスケルトンの姿を維持できない為にあの様になってしまってます》

(そっ、そうなんだ。はぁ~、また獲得できるスキルが減っていく)

《ミツ、スケルトンに変えられたのは元々はゾンビ、元からスキルを持っていませんので問題ありません。スケルトンに変えられたからと言ってスキルを持つ事はありませんのでミツがスティールをしても何も習得できませんでしたよ》

(そうなんだ。ホッ、良かった。って詰りあそこに残ったスケルトン達はスキルを持ってる事だよね!)

《はい、少なからずスキルを所持したスケルトンです》

(なら急がないと!)

 バッ!

 急ぎ足とその場から飛び出す。

 煙幕の煙から飛び出した1つの影。
 それに気づいたゲイツ達は剣を向け構えていた。

 周りのスケルトンの数体が突然粉となって崩れ落ちると言う現象で驚きもあったが。
 今は少しづつ晴れていく煙の中のメイジから何かしらの攻撃が来ると思い、その場にミツが出していた〈アイスウォール〉氷壁を盾に攻撃のチャンスを伺っていた。


「なっ!」

「こっ子供!」

 ザッ!

 自分は煙の中から高く飛び上がり、そのままリック達が壁としている氷壁の近くに着地することができた。


「ふぅ……。皆大丈夫?」

「「「……」」」

 ゲイツ達は言葉が出なかった。
 メイジが居た場所から煙が突如として現れたと思いきや、その場所から自身が助けを求め先程から姿を見かけなかった少年のが飛び出してきたのだから。 

「おう、ミツか、こっちは大丈夫だぜ。後これお前だろ、サンキューな」

「お陰で助かったニャ」

「うん、ギリギリだったけどね、間に合って良かったよホントに。あっ、リッコ達もこっち側に来てたんだ」

「えぇ、二人に敵の攻撃が飛んできた時は驚いたわ、流石に少しだけ焦ったわよ」

「僕が回復する為にリッコに火壁を外してもらったんです。すみません勝手に動いちゃって」


 どうやら怪我らしい怪我を誰も受けてなかったので一先ずは一安心とした空気が流れた。
 リッケの言葉にも自分は大丈夫の一言を言うと、話を割って入るようにゲイツが話しかけてきた


「すまん、話してるところいいか」

「はい。えーと、ゲッツさんでしたっけ?」

「いや……ゲイツだ」

「すっ、すみません」

(いけない、ゲッツじゃ黄色い服の芸人になっちゃうな)

「そんな事よりメイジはどうした? 君はあそこに居たはずのメイジのところから来たように見えたが」

「メイジ達なら倒してきましたよ? 後は周りにいるスケルトンだけです」

「えっ!」

「そんなはず無いだろ!」

「ジョーダンは止めてくれ!」

「きっ、君一人で倒したのか……」

 自分の言葉に驚きの冒険者。しかし、ゲイツは他の冒険者と同じ半ば半分は嘘だと思っていたが目の前の少年の淡々とした答えに本当の事なんじゃ無いかと顔を引きつらせていた。

 今じゃ恐顔も怖さ半減だ。

「ええ。なんか魔法攻撃が危なそうだったんで先に倒してきました、ほら」

「「「「!!!」」」」

 自分はアイテムボックスからメイジの亡骸の1体の上半身を出してみせた。
 その瞬間ゲイツ達は絶句、ほんの僅かな時間で目の前の少年が5体物メイジを倒したのかと思うと言葉を失った。

 ここでまたゲイツ達が勘違いしている事がある、それはメイジの集団の中にリッチが混じっていた事を知らなかった事だろう。


「こいつがメイジか? ボロ布着てるだけでスケルトンと見た目化わんねーな」

「そうだよね、スケルトンって装備外したら見分けつかないんじゃないかと思うよ……。ん?」

 ふと見るとリック達は初めて見るメイジに興味津々、だがゲイツ達の表情は余りの驚きで固まっている。

「ふむ……」

『オレハスケルトンメイジダゾ』

 メイジの頭を抑えてカクカクと顎を動かし簡単な腹話術をやってみる。

「「「……」」」

「何やってるニャ」    

「あっ、いえ、何でもありません……」

 咄嗟のギャグも見事に滑ってしまった、そっとメイジをアイテムボックスにしまう事に。
 これは自分の腹話術が下手過ぎたのか、操る物が悪かったのか、それは解らないが少し落ち着いたゲイツ達。
 周りを見渡してスケルトンが動き出した事に警戒を高め始めた。


「まぁ、取り敢えず話は後で。先に周りのスケルトンを片付けましょう」

「うむ、何やら解らんが奴らの数も減ってくれた、今の数なら君達も手伝ってくれるのならなんとでもなるだろう」

「良いですよ、元よりそのつもりですし。えーと、リックとプルンはどうする? 結構戦って疲れとか来てない?」

「ウチ大丈夫! 戦うニャ!」

「俺も大丈夫、まぁお前が動くなら俺達が戦う必要もないと思うけどよ、おこぼれくらいは倒させてもらうぜ」

 ミツがそう言うとプルンは腕を胸の前で握りしめ自分はまだ動けるとグッとアピールし近寄ってきた。
 リックも膝をついて休んでいたようだが怪我もないので直に立ち上がり、自身のショートランスを構えていた


「ちょっと二人とも待って待って! 私! 私に戦わせて頂戴!」

 そこに話を入れてくるリッコ、プルンとリックの前に立ち二人の戦いを止めて来た


「ん? あーそうだな、皆すまねぇがリッコに譲ってやってくれねぇか」

「僕はこの後皆さんの治療の為に戦いは控えときますのでリッコに譲りますよ」

「ねッ! ミツ、プルン、良いでしょ!」

 妹のお願いをすんなりと受け入れた二人の兄、お願いのポーズと上目遣いをしながら手を合わせてきた。

「うっ、うん、自分は構わないよ。でも一応念の為に前には立たせてもらうからね」

「解ったニャ、ここはリッコに譲ってあげるニャ。でも、ミツと同じ様に前にはウチも立つニャ」

「ありがとう!」

「なら俺は後ろでリッケの護衛してるわ」

「お願いしますねリック」

 スケルトンに囲まれているにも関わらず和気あいあいと話す自分達。
 そんな話し声をボー然と聞いてるしかできない冒険者達。


「……おい、あの魔術士の子だけで戦うみたいな事言ってないか?」

「あぁ、俺にもそう聞こえた」

「んっ……。ん~」

 戦う内容が自分達では建てないフォーメーションだけに困惑するゲイツ達だった。


「あっ、おっさん、こっちで倒した分のスケルトンの素材はちゃんと貰うからな」

(リック……おっさんって酷いな。その人達の年頃になるとおっさん呼びされるのって傷ついたりするんだよ)

「ああ勿論だ。だが、先程から聞いてるとそのそちらのお嬢さんだけが戦うみたいな事を言っているが……」

「何よおじさん、私が戦っちゃ駄目なの!」

(今度はおじさん呼びだし)

 リックの提案には承諾してくれたゲイツだが戦うのがリッコと言う事をやはり疑問に思ったのだろう、その事を伝えるとギロリとリッコがゲイツに睨みを効かせる。


「いや、戦ってくれるのは助かる……」

 おいおい、リッコさんや、恐顔のゲイツさんですら少し引いてるじゃないか。
 やはり先程までニコニコ顔の女の子が突如自身に冷たい視線を浴びさせられたらたじろぐ物なのだろうか、日本ではそんな視線を喜ぶ猛者が居ると聞いたことあるが。


「お嬢さん、俺らは冒険者としてはお前さん達よりは経験者だ。その経験者としての助言だが、言い難いがスケルトンには魔法は効きにくいんだよ。確かにお嬢さんの魔力が高い事はさっき出した火壁で解った。しかしだ、火壁で足止めはできるがそれは只の足止めでしかねぇんだ」

「そうだぜ魔術士のお姉ちゃんよ。さっきそこの二人が戦ったみたいに頭を壊すのがスケルトンのベストな倒し方なんだよ」

「フンッ! 頭を壊せばいいのね」

 どうしても自身が倒す事に今ひとつ賛成されてない事に少し腹を立てていたリッコ。
 次の瞬間踵を返しスケルトンの方へと腕を伸ばした。

(あっ、やばい)

「見てなさい、ファイヤーボール!」

 ボンッ! ボンッ! ボンッ!

 リッコから次々と放たれた火玉がスケルトンへと命中。
 炎で全身を燃やすと思いきやその威力が絶大
 スケルトンは頭だけではなく、上半身を激しく吹き飛ばしその場に下半身だけを残していた。

「「ええええ!!」」

「どう、これなら文句無いでしょ」

「おっ、おう……」

「俺らが間違ってたわ、すまん……」

「フフン」

 驚きの声を上げる冒険者達、鼻を鳴ら少しドヤ顔のリッコ、もう誰も

「もう少し威力抑えないと頭だけじゃなくスケルトンの上半身が全部吹き飛んじゃってますね」

「むっ、解ってるわよ。取り敢えず倒せる事を見せただけよ」


「ではゲイツさん。そちらの皆さんでそちら側のスケルトンをお願いします、自分らは反対から攻めていきますので」

「解った」

「行こうリッコ、リック達も気をつけてついてきて」

「おうっ!」


「お前ら! 俺達も行くぞ!」

「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」

 ゲイツの掛け声と共に、ミツとゲイツのパーティーがふた手に別れスケルトンに攻撃を開始した。

 流石グラスランク冒険者のゲイツ。
 士気も高ければその分周りの冒険者の動きも良くなり、少々苦戦するスケルトンを1体1体と確実に倒して行った

 ゲイツ自身、リティーナの様に誰かを守りながらの戦いとは今は違い、スケルトンからの攻撃を受けることも無くズバズバと斬り倒している
    
 勝てる、これならもう誰も失うことも無いだろうと確信もゲイツの心の中で芽生えていた。

 そして戦いにも余裕は出てくる。
 ゲイツはチラチラと自分達の戦いの方を気にして余裕がある時に少年達の戦いに目を向けていた。

「……援護はいらんな」

 少年達の戦いを見ながら少し唖然とするゲイツ。
 ゲイツはミツ達の戦いを見て唖然とするがそれは周りの冒険者も同じ。
 周りの冒険者やリティーナ達はその戦いを夢でも見るかの様な感じでみているだろう


 そんな周りの人々の目を集める戦い
 戦っている本人達はそれ程派手な物では無いと思っていた。

(スティール! スティール! スティール!)

《スキル〈連撃〉を習得しました経験により〈剣術上昇Lv3〉〈二段斬りLv4〉〈流し斬りLv3〉〈かぶとわりLv4〉〈槍術上昇Lv5〉〈二段突きLv3〉〈カウンターLv5〉となりました》



連撃

・種別:バッシブ

一定確率にて通常攻撃が2回攻撃になる、スキル使用時は発動しない。


「あはははっ! ファイヤーボール! ファイヤーボール! 見て見て皆! スケルトンが手も足も出ないわよ、近づく前に私が倒しちゃってるのよ! あははっ、あはははは!」


 今、リッコは暴走していた。
 リッコの放つ〈ファイヤーボール〉の威力が高い事もあって、当ればスケルトンを倒せる威力。
 それは先程解ってた事。だがリッコはスキル〈分割思考〉をいつの間にか習得していたのだろう。

 通常魔法を発動後、次の魔法を発動する際は数秒足らずのリキャストタイムがどうしても発生してしまう。
 しかし〈分割思考〉の効果は魔法使いに特に有効なスキルだろう、右手で魔法を放つと同時に左手に新しく次の魔法を発動、左手の魔法を放てば次は右手と間を置かずして魔法の連射が可能となるのだから

 それとリッコがここまで暴走するには理由もあった。
 今までゾンビしか倒すチャンスしかなかった事もあり、色々と鬱憤も溜まってたのだろう。
 気を晴らすかのようにリッコは攻撃を次々とスケルトンへ続けている。


「ちょっ! リッコ早すぎるよ!」

(スキル回収する前に何体か倒されちゃってるよ)

「リッコ落ち着いてください! 解りましたから、貴女が強いのは解ってますから、一旦落ち着いて下さい!」

「リッケ無駄だ。あいつあの姿、初めて魔法使った時と同じ様に夢中になってやがる」
 
「あはははっ!」

 ミツ達の声が聞こえてないのか、それでもリッコは高笑いと共に手からは次々と火玉が放出されている。

「ウチやる事ないニャ~」

「ならプルン、俺達とリッコが倒したスケルトンの残骸集め手伝ってくれよ」

「んっ? ん~、解ったニャ。ミツ、そっちは二人で頑張るニャ」

 確かに、先程からリッコの攻撃でスケルトンを倒してるので自分とプルンは何もしてない。
 いや、自分は少し前に出て囮っぽい動作をしながらもスケルトンのスキルを回収している為プルンだけが暇だろう。


「リッコ、あんまり無茶しないでくださいよ。魔術士の魔力、元い貴方の魔力が多くても限度があるんですからね」

「大丈夫大丈夫! 今私超メッチャ無敵だから」
 
「はぁ~。気分悪くなったら直に言ってくださいね」
    
「はいは~い」

 語尾に音符マークが付いてそうな返事をするがその速さなら戦いも直ぐ終わるだろう。


「オジサン邪魔よ! 当たっても知らないからね!」

「お前ら魔術士のお嬢さんの攻撃を喰らいたくなかったら下がっとけ!」

「これで終わり!」

(終わる前に取る! スティール!)

《スキル〈剣の舞〉を習得しました、経験により〈剣術上昇Lv4〉となりました》


剣の舞

・種別:アクティブ

レベルに応じて数回の斬撃を繰り出す、威力は通常攻撃の5割と固定となる。


 ガシャ!

(間に合った!)

「ふ~……」

 最後のスケルトンを倒すと周りからは歓声が上がり、危機を脱した冒険者の目には嬉しさか、喜びで涙を流すオッサンもいた。

 モンスターを全滅させゲイツはミツ達に手をあげ直に後方で待機していたリティーナ達の方へと走って行く、恐らく報告も兼ねて向かったのだろう。


 辺りにモンスターが居ない事を確認しながらリッコに近づくミツ


「リッコお疲れ」

「うん。まぁ、こんなもんよ……」

 返事をするリッコ、振り返ると顔が少し青ざめている。

「リッコ! だっ、大丈夫?」

「平気平気、ちょっと調子乗りすぎちゃった、悪いけど私少しだけ休ませてもらうわ」

 リッコは体調が悪いのかこの後の戦闘は不参加を言ってきた。
 通常私休みますと言って休めるのはセーフエリアぐらいだ、モンスターが居る通路やフロアでそんな事は無理に決まっている。
 まぁ、それは普通のパーティーならの話だ。
 ミツの様なイレギュラーな人物がいる時点で普通ではないパーティー。
 休みたかったら何もせず後ろで体力回復に専念もできてしまう。


「リッコ大丈夫ニャ!」

 そこへスケルトンの骨集めをやっていたプルン達がリッコの様子に気づいてかけよってきた。

「お前やっぱこうなったか」

「はぁ、良かった魔力は枯渇してはなさそうですね」

 リッコに近づいたリッケ、直に掌をおでこに当てたり、目を見たりと何やら診察の様な事をしてリッコの状態を確認したようだ。

(いや、風邪じゃないんだからそれで解るものなのかな?) 

「私なら大丈夫よ。でもごめん、少しだけ私は戦闘休憩させてもらえないかな」

「バーカ、元からお前の出番は暫くねぇよ。次はミツの番だ」

「ははっ、そうね順番なら仕方ないわよね」

 素直に優しく出来ないのか、リックは悪態を履きながらもリッコに休む事を遠回しに言っている気がする。
 コクリとリックの言葉に皆も頷き、皆の考えも同じのようだ。

 そこにリティーナとゲイツがパーティーを引き連れ此方えと歩いてきたのが見えた。

(あー、やっぱりあの太った人の姿が見えない)

 死んでいる事は解っていた。
 その理由がモンスターからの攻撃での死亡ではなく、人から殺されたとユイシスからの情報で解ってはいる、助けた相手だけど警戒はしとこう。

 そこにスッと前に立つリック。
 無意識なのか疲れきっているリッコを守る位置を取っている。

「はぁ~、そのまま行ってくれても良いのによ」

「そうも行かないでしょ」


 ゾロゾロと近づいてきた冒険者達。
 
 第一声はリティーナから発せられた

「スー、ハー」

 目の前でひと呼吸するリティーナ、涙でも流していたのか、その目の周りは赤く腫れているようにも見えた。
 そしてその目をシッカリと開き、自分達を見ている。

 ガバッ

 突如頭を下げるリティーナ、それに続くゲイツ。


「助けて頂きありがとうございます!」

 そんな少し身構えていたリックはリティーナの感謝の言葉と行動に「えっ」っと言葉を合わせ、自分とお互いの顔を合わせていた。
 どうやら今度は険悪な感じにはならずに済みそうだ。

 ゆっくりとその頭を上げるリティーナ。

「改めまして。私はレクロウィン・フィンナッツ子爵家の嫡女、リティーナ・フィンナッツです。この度の危機からの救援のご協力、我々の仲間の治療など心より感謝申し上げます。又以前貴方方に行った私の愚かな発言と行為に謝罪をここに」

 再度スッと頭を下げるリティーナ。
 その立ち居振る舞いは正に貴族として最善の振る舞いだったろう。

「いえ、此方も昨日は貴族様に失礼な対応をしてしまってすみませんでした」

 リティーナの感謝と謝罪の言葉を受けた自分、咄嗟に昨日のやり取りの謝罪をする為頭を下げるとリックも同じ様に隣で頭を下げていた。

 リックの行動に少し驚いた自分。
 しかし、やはり相手は貴族、後々何か言われるより今このタイミングで頭を下げてるリックは大人の対応をしたと感心した。

「お嬢さんの我儘とか言っちまってすまなかった!」

「リック……」

 謝りの言葉は兎も角、リティーナはリックの謝罪を素直に受け止めてくれた。
 リティーナは洞窟での探索が初めてで少し気が高ぶっていたことを告げると申し訳なさそうにまた謝罪を言ってきた。

「ミツ、俺倒したスケルトンの骨とかかき集め続きに行ってくるわ」

「ウチも行くニャ」

 謝罪を言ったあとリックは直にその場から離れるかのように倒したスケルトンの素材を回収に行ってしまった。

 なら、俺達も手伝うと他の冒険者達がバラけるかの様にスケルトンの素材をかき集めることに手を貸してきた。

「ゲイツさん、お聞きしたいことが」

「ん? 何だ」

「……あの太った人は」

「「……」」

 自分の言葉に沈黙するリティーナとゲイツ、その表情はかなり暗い。

「彼は……私の指示で殺しました」

「!?」

「えっ……」

「……」

 その場に流れる沈黙。
 ゲイツはマムンが洞窟の呪いを受けて狂乱し、荷物運びの女性奴隷をリティーナの前で強姦を行おうとした事、その際自身がマムンの首を跳ねた事を告げられた。

(デビルゴーストの超音波かな。状態異常で確かに自分も二日酔みたいになったけど、下手したら自分も狂乱状態になってたのか……)

 ゾクっと身震いしながら今後デビルゴーストを見つけた時は最優先で倒さなければ危険と自分は判断した。

「そうですか。所でゲイツさん達はこのまま進まれますか?」

「あぁ……」

 返事はするも決断するのは雇い主のリティーナ、現状次のセーフエリアまで行くことは可能。
 だが、リティーナの心が折れている様なら戻るのも一つの選択であることに間違いはない。
 しかし、そうしてしまうとリティーナが剣士としてこの先強者となる見込みは無くなるだろうと思いながらゲイツはリティーナの言葉を待った


「先へ……。先へと進みます」
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