スキル盗んで何が悪い!

大都督

文字の大きさ
上 下
32 / 174

第32話 一悶着/洞窟3階層

しおりを挟む
「そこの貴方達、お待ちなさい」

「何だ? 俺達に何か用か?」

「こらガキ! 口の聞き方に気をつけるダス! お前らの目の前にいらっしゃるお方を何方と心得るダス! このお方こそ、フィンナッツ子爵家長女、リティーナ・フィンナッツ様であるダス!」

 その言葉にどうだと言わんばかりに仁王立ちするリティーナ。
 それを持ち上げる少し太めのおっさん。
 後ろにいる冒険者の人も疎らながら拍手をしている。

「知ってる?」

「知らね」

 自分の言葉に首を振って答えるリック。
 それが気に触ったのか、太めのおっさんが近づいてくる。

「……ん~ん。キサマまだ解ってないみたいダスね!」

「ごはっ!」

「リック!」

 ゆっくりと近づいてくる太めのおっさんが、ジロジロとリックを見たと思いきや、突如としてリックの腹に拳を一撃入れてきた。

「もう一度言うダス、口の聞き方に気をつけるダス!」

「リック、大丈夫!?」

「ああ、そんなに大したことねえよ。少し驚いただけだ」

 体を少し曲げて、殴られた場所をおさえつつ返答するリック。殴られた場所は鎧の腹部であったのが幸いしたのか、言葉通りそれ程痛みはなく衝撃だけが走ったようだ。

「フンッ。あなたがた、私はこれから3階層へと向かいます。謝礼を払いますから荷物持ちとして私に使われなさい。そうね、一人につき金貨三枚で雇ってあげるわよ」

 リティーナはリックが殴られた事は気にしないと、自身の用件を自分達に一方的に突き出してきた。

 太めのおっさんも周りにいる冒険者数人も、リティーナの言葉が当たり前とニヤニヤと笑いながらこちらを伺っている。

「何いきなり言ってんだ!」

「もう、理解力の無い平民はこれだから嫌ね。ゲイツ」

「はっ……」

 自身の要求した言葉とは違う言葉がリックから飛んで来たことに、不機嫌と呆れ顔になるリティーナ。
 更に少し相手を小莫迦にする発言をし、後ろに立っていた2メートルを軽々と超えた長身の恐顔の冒険者の名を呼んだ。

 ゲイツと呼ばれた男はゆっくりとリックの前に立った。

 ゲイツはまだ何もしてはいないが、その風格だけでも相手を威圧してしまう程の顔。それでもリックは男気を見せ、先程殴られた事も気にせずに皆の1歩前に出た。

「殺ろうってのかい!」

「スマンな、少し我慢してくれ……」

「やなこった! いきなり殴られて更には荷物持ちになれだなんて横暴すぎる事に納得できるか!」

「スマン……」

 リティーナの言葉には従わないとリックの言葉を聞いて、仕方ないとゲイツは腰の剣に手を当てた。

「待ってください。先に話を聞かせて貰ってもよろしいですか」

「ぬっ!」

 ゲイツの行動を見た瞬間、自分はゲイツの前に立ち、彼が剣を引き抜こうとした腕を抑え、先に話を聞く事を促した。

 その時ゲイツは長年の冒険者として……いや。
 戦士として驚いただろう。

 自分より年が2周りも下と思われる、五人の少年少女達のその中の一人、1番目立たなかった少年が自分が剣を引き抜こうとした腕を簡単に掴んで抑えている事を。

 更には相手に殺意が無い状態でこの力。
 ゲイツは目の前の少年に少し恐怖した。

「……お嬢、話してもよろしいでしょうか」

 ゲイツは少し考えた後、自分の言う通りに話し合う事をリティーナに提案した。

「フン、平民の頭脳に理解力があればね。良いわ、話してあげなさい」

「はっ!」

「リック、ここは落ちついて向こうの話を聞こう」

「あぁ……すまねぇ」

 少し落ち着いたのか、リックは自分の言葉に謝りながらも渋々納得し話を聞く事にした。

「貴殿達に話というのは、この先、3階層にはバルモンキーと言うモンスターが出てくることが関係するのだ。そのモンスターは厄介な事に冒険者の荷物を狙って来る」

「荷物ですか……。で? 何故自分達が荷物持ちを?」

「いや、正しくは荷物持ちの護衛だ。我々にも荷物持ちとして奴隷を数人連れている。しかし、所詮は奴隷、戦闘もできなければ荷物を守る事もできん」

「奴隷の護衛ですか……」

 ゲイツの言う先には、そこそこ大きな荷物をせおっている数人の男女の大人がいる。荷物を背負った人々の格好は他の冒険者とは違い、小間使の様な服装をして皆統一された茶色い服装。恐らく貴族の扱う奴隷としてそれほどボロボロな服装ではないが小奇麗な服を着せているのだろう。

「あぁ、そこでだ、最初から力の解らない護衛を雇うより、3階層へと行こうとする力量のある冒険者をこの2階層で護衛として雇う事にしてたのだ。それに貴殿達は洞窟に入ると言うのに軽装。もしかして誰かアイテムボックスかマジックバックを持っているのでは?」

 ゲイツの言うマジックバックとは、アイテムボックスと似たような品物のこと。
 外見は普通のポシェット程の大きさ。
 しかし、アイテムボックスとは違いは、使用者のステータス能力の関係なしに固定の荷物量が入れれるところ。
 アイテムボックスの持っていない商人や一部の冒険者が使用している優れ物。
 勿論中に入れれる量が多いバッグはそれなりの金額になる。
 ちなみに200キロ程の荷物が入る物が最小サイズで金100枚と取り引きされている。

「アイテムボックスは自分が持ってます。なので皆の荷物は自分が預かってる状態ですよ」

「そ、そうか。君がか……。スマンな、お嬢は少々話を飛ばしてしまう癖があってな。そこの君、此方の護衛が手を出してしまって悪かった」

 ゲイツは護衛をお願いした理由を話し終わると、リックに先程のことに対して謝罪を入れてくれた。

(あれ? 怖い顔の割に、この人結構いい人かも……)

 しかし、ゲイツの詫びの言葉も今のリックには余り効果はなかった。
 むしろ、護衛で自分に一撃入れてきたおっさんとは関係ない人が謝罪する所に噛み付いてしまう。

「……ちっ! お嬢さんのわがままじゃねえか」

「リック!」

「っ! そこの貴方! 今何とおっしゃいました!」

 リックの嫌味と思える言葉にすかさず反応したリティーナ嬢。
 少し離れてると言うのによく聞こえたものだな。
 自分の悪口には耳がいいタイプなのだろうか。

「お嬢さんのわがままって言ったんだよ!」

「リック! 駄目ですよ相手は貴族、不敬罪に取られますよ!」

「世間知らずの貴族様だろ! この先痛い思いする前に帰った方がいいんじゃないか!」

「止めるニャ! リック!」

 リックの言葉にリッケとプルンの二人が今にも武器を振り上げようとしているリックの腕を抑えている。それを見ているリッコは止める事もなく、帽子のつばで見えないがリティーナに睨みを効かせていた。

「くっ! ゲイツ! そいつを斬り捨てなさい!」

「お嬢……。ふっー……。申し訳ないがそれはできませんな……」

「なっ! ゲイツ! 私の命令が聞けないのですか! やりなさい!」

 ゲイツの思わぬ即答にリティーナは更に怒りをあらわにしてゲイツを焚き付ける。

 それでもいっこうにゲイツは首を立てには振らなかった。

「そうダス! お嬢様の命令は絶対ダス! お前ができないなら俺がやるダス!」

「マムン殿、お止めください。貴方が殺されてしまいますよ」

 ゲイツの行動を起こそうとしない姿を見て、マムンと言われた太めのおっさんが自分はできるとリティーナにアピールをするために前に出てきた。

「何を馬鹿なことを言ってるダス!? どけダス!」

「くっ!」

「平民風情が、貴族様の口の聞き方をその体に教えてやるダス!」

 ゲイツの止める言葉も耳を向けず、前へと出るマムン。ゲイツを押しのけリックに向かって、剣を抜き、今まさに振り落とそうとした瞬間だった。

「はいストップ!」

「ダスッ!」

「ミツ!」

 流石に目の前で仲間を斬られるのは黙っていられない。自分は直ぐに〈時間停止〉を使い、マムンの武器を抜き取る。ついでに少しマムン自体の角度を変え、振り下ろした拳がリックに当たらないように調整した。

 それを終えるとまたさり気なく、リックの前に立ちスキルを解除し皆を動かしだした。

「すみません。仲間の失礼は謝罪しますのでどうか怒りをお収めください」

「ダっ、ダスダス! なんで? あっ、貴様、いつの間に! それは俺様の剣! 返すダス!」

 持っている剣を突然無くし、体のバランスを崩し倒れそうになるマムン。
 自身の向いている方角もそうだが、ご自慢の武器であろうか、それを自分が持っている事が先に気になり、マムンの怒りの矛先が自分へと向いた。

「取りはしません、ただこれを仲間に向けるのは止めてください」

(レイピアかな? なんか刃先がウネウネする……。ゼクスさんのレイピアの方が握りやすかった気もするな)

「ちっ! お前ら、さては盗賊ダスか! 俺様の武器を盗むダスか!」

「いや、別にいりませんよこんなの。えーと、ゲイツさんでしたっけ」

 ゆっくりとゲイツの方へ向き、更に奪った武器を持ち主のマムンではなくゲイツの方に返す。この方が不意打ちで切られることもないと考えたからだ。

 沸点の低いおっさんより、戦闘を回避しようとした理解力のある恐顔のおっさんの方がまだマシだからな。

「あぁ、何だ……」

「すみませんが僕達はあなた達のお役には立てそうにもないです。他の人を当たって下さい」

「そうだな……。我々の為にもそうしよう」

「ゲイツ! 貴様何を勝手なことを言ってるダスか! こんな奴らお嬢様への不敬罪としてここで斬り捨てるべきダス!」

「マムン殿……。悪いですが私はお嬢の命を守るのが仕事です……。やるならご自身一人でお願いします」

「貴様!」

 ゲイツから受け取った剣を握りしめ、ワナワナと震えるマムン。
 自身も突然武器を取られた事に自分に対して怒りはあるものの、その中には、若干の怯えもあった。
 その為、言葉巧みにゲイツに嫌な事は押し付けるつもりで煽ったのだ。
 しかし、ゲイツは冒険者から雇った臨時の用心棒、別に従者であるマムンに全てを従わせる力はない。

「お嬢様、ご覧になったかと思いますがあの者は私では扱えません。他の冒険者を当たりましょう」

「……くっ! 良いわ! 言う事の聞かない者は私の配下にはいりません。皆、行きますわよ!」

 リティーナも先程のやり取りを見て、リック達が反旗を翻して荷物を奪って逃げてしまうかも知れないと頭を過ぎったようだ。洞窟内では金銭より食料の方が価値がある。

 その為、生命線である荷物を自分の言葉に素直に聞かない者に守らせるのも危険だし、更にはマムンの賊と言う言葉にも危機感を感じ、側に置く事は自分の首を絞めると思ったのだ。
 家に使えるだけの従者のマムンは兎も角、自分でもそこそこ力は認めているゲイツが無理だと言ったのだ。

「ちっ! 貴様ら、二度とその顔を我々の前に見せる事を許さんダス!」

 三下の様なセリフを残しマムン達は去って行った。

「何だったんだ」

「なんか、気分悪くなりますね……」

「全く、人の兄を何だと思ってるのよ……」

 やはり、一方的な発言と行動にリッコは怒っていた様だ。珍しくリックを兄と呼んでいる。

「でも良かったニャ、ミツもリックも不敬罪にならなくて」

「不敬罪ってそんなに重い罪なの?」

「ああ。今考えるとちょっと危なかったな……」

 自分が質問するといつの間にか吹き出ていた額の汗を拭うリック。
 その表情は先程とは違い、落ち着きながらも青ざめた表情をしている。

「そうですね。もしもですが、リックが抵抗であの従者に攻撃をしてしまったとします。例え貴族本人でなくても貴族の従者に手を出せば、それは貴族の所有物を傷つけたとしてリックを処罰できます。最悪、関係する皆が罪人奴隷送りです」

「ついでに付け加えると、あのお嬢様に石でも投げよう物なら、その場で首と体がお別れする事になるわ」

「え~、ならもしかしてリックのさっきの言葉って……」

「えぇ、見る人が見たら不敬罪になりますね」

「あの恐い顔のおじさんに感謝ニャ。どう見てもあの人が止めてくれてたニャ」

(と言うか、あの人、途中から自分と目を合わせてくれなかった。何か悪いことしたかな?)

 実は咄嗟にリックを守った異常な行動の速さに自分でも気づいていなかった。
 それはパーティーのメンバーは理解していること、ミツなら当たり前の動きと気にしてもいなかった。
 しかし、一般的に見て、初めてミツの動きを見た者なら誰でも驚きと警戒するのが当たり前。ゲイツの目を合わせないという行動は、本人でも無意識に目線を外していた自己防衛本能だろう。

「ふ~っ、シャッ! 気分変えて下に行こうぜ! さっさと行って嫌な事はモンスターにぶつけるに限る!」

「八つ当たり乙」
 

 緩やかな下り道を進むと着いた先は3階層となるフロア。
 今までとは違い、足場はボコボコとし、少し歩きづらい道が進んでいる。
 さっきまで明るかった洞窟内の灯りも、洞窟の魔力が収まってきたのか少し薄暗く感じる。 

 他の冒険者の姿は見えないが人の気配は感じる、勿論モンスターの気配もだ。

「結構このフロア深いね。皆、足元には気をつけて」

「ニャ、歩きづらいニャ」

「ちょっと歩きづらい足場ですね。さっき言ってたバルモンキーでしたっけ? 荷物取られたら取り返すのに、この足場は確かにキツイです」

 上から滴り落ちる水滴が下に落ち、そのまま小さな穴を開けていたり、場所によっては鍾乳石の様に天井に向って伸びている石もある。

 少し歩くと岩陰からモンスターがゆっくりと出てきた。

「あっ! 何かいるわよ」

「んっ! 敵か!」

「何ニャアレ……。なにかモゾモゾ動いて気味が悪いニャ」

 見た目は芋虫をそのまま大きくしただけのモンスター。
 芋虫にしては、あり得ないほどにデカイ。
 そのせいか、見る人が見たら動かす足がモゾモゾとすると、背筋をゾクリとさせるだろう。

 目の前に現れた赤い芋虫と茶色い芋虫、両方を鑑定してみる。

マジックワーム

Lv6。

魔力吸収 Lv3。

魔法障壁 Lv3。

再生   LvMax。

ワームリンクス

Lv7

糸出し  Lv5。

糸操作  Lv5。

再生   LvMax。

(赤い方は魔法使いには厄介な敵だな。茶色い方は白くはないが、蚕の様に糸を出すのか。しかも両方再生のスキル持ちか。Zボールの大魔王みたいに切った腕を再生させるのかな? あの速さで再生することは無いと思うけど)

「気持ち悪!」

 リックが一瞬ゾクリと身震いさせた後罵声をモンスターに飛ばした。

「あ~この階層はこれ系ですか……」

「なに、ただのデカイミミズじゃない」

「そうニャ、横からの攻撃が当たりそうニャ」

「プルン、冷静に攻略法探してるね……。ん~、ちょっと厄介な相手かもよ」

「フンッ! 先手必勝、行くわよ! ファイヤーボール!」

 リッコはモゾモゾ動く敵が苦手なのか、さっさと戦闘を終わらせるために先制攻撃をかける。
 しかし、攻撃した先が悪かった。
 〈魔法障壁〉と〈魔力吸収〉この2つを持つマジックワームに魔法を放ったのだ。

 バシュ!

 モゾモゾ

「えっ! 効いてないの!?」

「おいおい、火玉食っちまったぞ!」

 マジックワームに命中したと思われたファイヤーボール。
 それが敵の目の前に現れた魔法障壁に霧散する。
 マジックワームは威力の無くなった〈ファイヤーボール〉をムシャムシャと食べる様に口の中に入れてしまった。

「リッケ危ないニャ!」

「プルン!」

 横にいたワームリンクスも厄介な敵だった。

 吐糸口から出された糸は真っ直ぐにリッケに向って飛ばされてきた。それをいち早く気づいたプルンがリッケを押しのけ、糸を避けさせた。
 しかし、ワームリンクスのスキル〈糸操作〉だろう、真っ直ぐに飛んでいた糸が突然角度を変え、今度はプルンを狙って飛んで来たのだ。
 いきなりの糸の動きに体が追いつかず、一気にプルンの体をグルグルと糸が絡まっていく。

「ニャ!!」

「プルン! ファイヤーウォール」

「アチチニャ!」

 体の自由を糸で奪われ倒れたプルンがワームリンクスに引きずられそうになった時、リッコが咄嗟に火壁を使い、プルンの引きずる糸に対して放ったのだ。

 幸い糸は火には弱く、糸は水飴のようにドロリと溶けてしまう。不幸だったのは、その火がプルンを縛っている糸にも発火してしまい、プルンを一緒に軽く燃やしてしまった事だろう。

「ごめんプルン! 大丈夫!」

「すみませんプルンさん! 直ぐに回復を!」

「大丈夫ニャ、少し熱かっただけニャ」

「おいおい、バルモンキー以前に厄介な敵がいるじゃねーか!? ど、どうするミツ?」

「落ちついて皆。あの赤い芋虫も茶色いのも動きは鈍いから止まらずに戦おう。そしてあの赤い方だけど、火の玉を食べてるんじゃない、魔法その物を吸収してるみたいだよ」

「マジかよ! なら、あの茶色い方も魔法効かねえのか!?」

「いや、あれは大丈夫なはず。リッコ、もう一度火玉を今度はあの茶色い方を狙って!」

「解ったわ! ファイヤーボール!」

 バンッ!

「よし! 当たった!」

 リッコの放った火玉がワームリンクスの胴体に命中。
 激しくモゾモゾと体を動かす芋虫は、更に気持ち悪さを増幅させる動きだ。
 少しすると、ワームリンクスは動きを止め、死んだかのようにその動きを止めた。
 だが、火玉の当たった場所からジワジワと、吹き飛んだ身体が再生していくのが目に見える。

「待ってください! 焼け跡がふさがっていきます!」

「なんだよ! 更に気持ちわりいな!」

「あれは再生です! 蟲タイプのモンスターには再生してまた動き出すのも居ると聞いた事があります!」

(蟲だけなのか。速攻で完全に殺さないと永遠に再生していく厄介な敵みたいだな)

「なら、塞がる前に射抜くまでだ!」

 動きを止めているワームリンクスにリックはショートランスを口から刺し、そのまま奥まで差し込み一気にワームリンクスを絶命させた。

「よし!」

「うん、何とか倒せたみたいだよ」

(しまった、スティールでスキル取り損ねた……)

「あの赤い方は? 私の魔法効かない見たいだけど……」

「なら、殴って倒すまでニャ!」

「行くぞプルン!」

「ニャ!」

「喰らえ! 連撃」

「腹ががら空きニャ! 連撃」

「そこっ!」

 リックとプルン、二人の攻撃でその大きな体を反り上げるマジックワーム。そこに自分の放った矢がマジックワームの顔に命中、威力が高過ぎて横から来た矢はマジックワームの首ごと吹き飛ばし、頭と体をお別れさせた。

 顔はカチカチと顎を鳴らし、体はビクビクと動き回っている。

「気持ちわりーな、さっさと落ちろ!」

 リックはマジックワームの顔部分にランスを刺しトドメの一撃を入れる。

「流石蟲タイプですね、頭を落とされても動くとは……」

(頭無いけどできるかな? スティール)

《スキル〈魔力吸収〉〈魔法障壁〉〈再生〉を習得しました。条件スキルの対象を獲得しました。〈自然治癒〉を習得しました》

魔力吸収

・種別:アクティブ

魔力を吸収し自分のMPを回復する事ができる、レベルが上がると吸収と回復のスピードがあがる。

魔法障壁

・種別:アクティブ

一定の魔法を防ぐことができる、レベルが上がると障壁が強くなる。

再生

・種別:アクティブ

欠損部位を再生させる、レベルが上がると再生スピードが早くなる。

自然治癒

・種別:バッシブ

自身の傷を治癒する、レベルが上がると治癒のスピードが早くなる。

(何か凄いスキル手に入れた気がする! 欠損? 腕や足を切り飛ばしても再生するって事か。ますますピッコ○さんじゃないですか、やだ~。この〈自然治癒〉って〈自然治療〉とは別物なのかな?)

《はい、〈自然治療〉と〈自然治癒〉は違います。片方はミツの体力、つまりはスタミナを含めて回復させます。もう片方は傷ついた身体を回復させます》

(なるほどね。後、他のスキルの説明は後々調べるとして、スキルが取れたって事はつまりまだ死んでないって事だよね)

「リック、それまだ生きてるよ。ちょっと離れて」

「おっ、おう! 頼むわ」

「はっ! 崩拳!」

 自分はビクビクと動くマジックワームの胴体に攻撃をする。
 バンッと激しい音を鳴らすと胴体はグシャっと崩れ、動きを止める。

「良し、倒せたな」

「少し焦りましたね」

「ホントよ、魔法を吸収なんて私と相性悪すぎ!」

 突然のトラブルもあったが無事に倒せた事に安心したのだろう、その場に座りこむリッコ。

「今度からは茶色い方だけにリッコは魔法ね」

「ええ、解ったわ」

「ああ、思い出しました。赤い方がマジックワームで、茶色い方がワームリンクスです」
 
 リッケは先程戦ったモンスターの名前を思い出したのか、ポンッと一つ手を叩く。

「呼びにくい。あー、茶虫と赤虫で行こうぜ」

「適当よね、リックは」

「俺はそう呼ぶ。お前らは普通に別に呼んでもいいぞ」

「はいはい、赤虫と茶虫ね」

「じゃ~それでいいニャ」

「おい、お前らも面倒くさいんだろ……」

「まぁまぁ、さっきみたいに戦闘時には名前の省略もありだと思いますから」

「そうだね。ところで……あれは何処が素材なの?」

 自分の指差す先にはドロドロと体液を出すマジックワームとワームリンクスの亡骸がある。
 あまり食事の前や後に見たくないものだ。

「さぁ~? 僕も初めて見るモンスターなんです。すみません」

「まっ、そのまま持って行こうぜ。意外と全身買い取りかもしれないし」

「そうだね、解らないなら全部持っていこう」

「ミツも何だかんだで男よね~。考えがリックに似て大雑把よ」

「まぁ、本音を言うと素材を剥ぎ取るのが嫌なだけ」

「解るニャ……ウチも流石にこれは素手じゃやりたくないニャ」

 自分はモンスターの亡骸をアイテムボックスに入れると何やら後から気配がするのを感じた。

「……行くぞ」

「おう」

 スタスタと聞こえる足音。

「ん?」

「どうしたんですかミツ君?」

「いや、誰かそこに居たような」

(モンスターかな?)

《モンスターではありません。先程、ミツ達が話をしていたパーティーの冒険者です》

(そうなんだ……何か見てたのかな? 変な事にならなければいいけど……)

「さっ、早くセーフエリアの4階目指して行こうぜ。俺はここを早く抜けたい!」

 腰を持ち上げ、先に進むことを言うリックの顔は本気だった。どうもリックは蟲やウネウネとした物が苦手だったのだろう。

「賛成! 私もここは生理的に無理! 早く行きましょう」

「待ってください二人とも!? 焦って急いだら危ないですよ。確実に、ゆっくりでも良いので安全に進む事を考えましょう」

「そうだね、まだバルモンキーも出るみたいだから気をつけて行こう」

 急いで4階層へ急ごうとする二人をリッケが呼び止めた。
 暴走する二人を止め慣れてるのだろう、正論を言われた二人の歩くスピードが落ちた。

(流石だね、急ぎ足の二人を言葉だけで進むスピードを抑えたし、周りの警戒も高めた。リッケは意外と指揮の能力もあるのかもね)

「陣形はどうするニャ」

「取り敢えず凹型で行こうぜ。なあミツ、お前何か剣みたいな武器持ってないか? 流石に元アーチャーに聞くのも変な話だけどよ、ナイフくらいもってるだろ?」

「リック……。今ミツのジョブはクレリックよ、持ってる訳無いじゃない」

「あるよ」

「そうだよな~持ってるよな~、なら俺が斬るしかないか~って! 持ってるのかよ!」

 リックの中途半端なのりツッコミはスルーしておこう。

「うん、スキルの武器だけどね」

「スキルの武器? ミツ君、見せて貰っても良いですか?」

「いいよ」

(忍術 風刀)

 ミツは掌に〈風刀〉を出すと、掌を中心にし周りに風を起こした。バサバサと揺れるリッコのスカート、本人に少し睨まれたがワザとじゃないので許して欲しい。

「スゲェ……風の武器かよ」

「うわ~、凄い」

「これ切れるんですか?」

 ミツの出した〈風刀〉はシュルシュルと小さな風音を出しながら皆の前に現れた。

 リッケの言う言葉も納得できる。
 見た目向こう側が見えてしまう程の薄さであり、名刀の様に鋭い刃が見える訳ではないのだから。
 
「うん、切れるよ? アースベアーの腕もこれで切ったから」

「おまっ! そんな危険なもの近づけんなよ!」

 近くでまじまじと見ていたリックが、アースベアーの腕さえ切ってしまうスキルだと聞いて、バッと逃げる様に離れた。

「あっ、ごめんごめん。これ、自分で触っても痛みも何も感じないから危機感全然無かった」

「凄いニャ……。これがミツの新しいスキルニャ!」

「そうだよ、ゼクスさんとの模擬戦の時には出さなかったから、プルンも見るのは初めてだよね」

「ニャニャ」

 プルンは風刀を見る目がキラキラと輝いていた。
 いや、これは武器を持つ自分を見ているのか、視線が〈風刀〉を通り越して自分を見ている気がする。

「あ~、何か今凄い話をサラリと言ったな」

「うん、ゼクスさんとの模擬戦? あの元シルバーランクの冒険者と?」

「いや、その話は後でね。長くなるし、先に進もうか」

「おっ、おう……もう驚かねーぞ……もう無いよな?」

「驚かない、私は、何を聞いても驚かない」

「二人とも、無心になるのは次のセーフエリアでお願いします」

 また少し進むと、ワームリンクスが3匹現れた。

「ニャ! 茶虫が3匹ニャ!」

「じゃ、先に行くよ!」

「気をつけろよ!」

「ミツ君、恐らくですが頭を落とせば糸は出して来ないと思われます!」

「了解!」

 動きの遅いワームリンクス、胴体の横に回るのは簡単なことだった。

「本当に横がガラ空きだね! セイッ!」

 〈風刀〉をワームリンクスの少し胴体へと、グサリと突き刺した。

 ボン!

「あっ……」

 突き刺した〈風刀〉を押し込んだ時、突然ワームリンクスの胴体が真っ二つに激しく裂けた。

「「「「……」」」」

「ごめん、体が吹き飛んじゃった」

「「「「えええええ!!!」」」」

 洞窟内に響く声。

 目の前に起きた衝撃的な事に皆は声を上げて驚いた。

 アースベアーの腕を斬った〈風刀〉はそれ程硬くもないワームリンクスの体は威力に耐えきれず、切るに留まらず内部から激しく裂けたのだ。

 体を裂かれたワームリンクスはピクリとも動く事もなく、鑑定すると亡骸となっていた。

(これ、ゼクスさんとの模擬戦の時に使わなくてよかった……)

「今度は先端狙ってっと」

 バンッ!

 先程の失敗を教訓に、ワームリンクスの鼻先に刺すでは無く斬るイメージで〈風刀〉を振り下ろすと、胴体を残し頭のみ切り落とす事ができた。
 切り落とされたワームリンクスの胴体は激しく体液を出しながらも動き回っている。

「よ、よし! 皆行くぞ!」

「ニ、ニャ!」

「えぇ……」

「僕達は、あと何回ミツ君に驚かされるんでしょうかね……」

「ははっ。まぁ、茶虫対策の1つができたと思ってよ」

「こいつ、まだ動くぞ!」

 リックの剣先が向いたのは自分が頭を落とした2匹のワームリンクス。
 皆に経験を公平するためにと残していた。

「最初の体半分斬られたのは、流石に死んでますけどね」

「リッケ、斬れたって言わないの。あれは弾け飛んだって言うのよ……」

「どっちでも良いニャ! ウチとリッコで1匹やるニャ! そっちは頼むニャよ!」

「おう! 行くぞリッケ!」

「はい!」

 顎の無いワームリンクスに脅威的な所はもうない。
 ただウネウネと動くだけの的に皆は落ちついて囲む様にして攻撃をしている。

(後は皆の分だし、自分はスキルを貰っとこうっと。スティール!)

《スキル〈糸出し〉〈糸操作〉を習得しました、経験により〈糸出しLv2〉〈糸操作Lv2〉となりました、条件スキルの対象を獲得しました〈傀儡〉を習得しました》

 

糸出し

・種別:アクティブ

糸を出す事ができる、レベルが上がると様々な強度の糸が出せるようになる。

糸操作

・種別:アクティブ

糸を操る事ができる、レベルが上がると操作能力が上がる。

傀儡

・種別:アクティブ

形ある物や命無き物を動かす事ができる、レベルが上がると能力がスキル発動者と同じになる。

(やった! まさかの2連続で条件スキルゲットだ! 習得条件の詳しい事は後でユイシスに教えてもらうとして、先ずは糸出しって何処から出すんだろうか。やっぱり吐糸口から出してた見たいに、自分も口から? もしくはあれか、外国のクモヒーロー見たいに手首から出すのか!?)

《〈糸出し〉はイメージすると掌からの放出となります》

(はい、全然違いました~。しかし、糸出しか……。自分ますます人間離れしていくな。次は糸操作は名前通りみたいだね。傀儡は物を操る? 操り人形的な? まぁ、道中試してみよう)

 スキルの事を考えてる間にも戦闘は終わり、自分は倒されたワームリンクス3匹分をアイテムボックスに収納した。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

スキル【合成】が楽しすぎて最初の村から出られない

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
 15歳ですべての者に授けられる【スキル】、それはこの世界で生活する為に必要なものであった。  世界は魔物が多く闊歩しており、それによって多くの命が奪われていたのだ。  ある者は強力な剣技を。またある者は有用な生産スキルを得て、生活のためにそれらを使いこなしていたのだった。  エメル村で生まれた少年『セン』もまた、15歳になり、スキルを授かった。  冒険者を夢見つつも、まだ村を出るには早いかと、センは村の周囲で採取依頼をこなしていた。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

処理中です...