スキル盗んで何が悪い!

大都督

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第27話 自分ができる事は何か

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 ゼクスの案内で入った部屋に入ると、中には当主であるダニエル、第一、第二婦人であるパメラとエマンダの三人が長椅子に座りお茶を飲んでいた。

「二人とも、しっかりと汚れは落とせましたか」

「はい、お風呂ありがとうございます」

 エマンダは優しく微笑みながらの自分の分お茶を差し出してくれる。
 差出された紅茶は香草が良く効いて、匂いだけでも気持ちが落ち着いてくる。

 お茶を受け取りエマンダに軽く頭を下げ礼をつげた。

「ゼクス、随分とスッキリとした顔をしてますね」

「はい奥様、ミツさんとの戦いは若さが戻ってくる気分でございました」

「ハッハッハッ! そうか、ミツ君に感謝せねばな」

「はい、左様にございます」

 話し始めるとゼクスは先程の模擬戦の感想をそのまま伝えてきた。自分としては初の対人戦で死を覚悟するとは思っていなかったので、内心暫くはゼクスとの戦いは遠慮したい気持ちだ。

「すみません、ところでプルンは?」

「あぁ、今は娘達と庭に行っているよ」

 部屋にいないプルンの事をダニエル達に聞いてみるとどうやら自分達がお風呂に行ってる間に時間潰しとして庭園を散歩しているようだ。

「フフッ、此処からはあの子達には難しいお話でしょうから少しお席を外してもらったのよ」

「さて、いくつか質問をしようか。あぁ、勿論答えたく無いのなら答えなくても良いからね」

「はい」

(やっぱ質問来るよね)

 ゼクスとの戦いの後にこうなる事は予想はしていた。自重せず今までのスキル全部とは言わないが、この世界の人から見たら以上と思われる技の数々を目の前で披露したのだから。

 それでも自分がスキルを隠す事なく披露したのは自分が旅人の考えを持っていたからだろう。

 いざ自分の能力がゼクスの言った通りに人々から脅威と感じられるようならば、直ぐにでも街を出ればいいと、プルンには悪いがとばっちりでエベラ達との生活に迷惑をかけるのも申し訳ないからだ。

 しかし、ダニエルから出た言葉は自分の予想してた斜め上を行っていた。

「率直に聞こう、君は人間か?」

「はい?」

 少し気の抜けた返事をしてしまった。

 突然面と向かって人間ですかと質問されたのは前世でもない事。

 恐らく人間離れした戦いを見せたせいなのか、それでもダニエルの質問は色々とすっ飛ばしている気がする。

「あなた、その質問は失礼ですよ」

「そうですよ、他にも聞き方があるでしょうに」

「おっと、すまんすまん。俺とした事が焦り過ぎたな。では順番に聞こう」

 頭を掻きながら自分の失敗を笑い飛ばすダニエル、そんな姿を婦人達は笑いながら見ている、ミツとしてはまさかいきなり人であるかを確認されるとは思っていなかった。

「はぁ……。どうぞ」

「君は何処から来た?」

「何処と言いますと?」

「生まれだよ」

「……」

(ふむ、ここで何も考えずに日本ですとは言えないしな)

 ダニエルの質問には直ぐに答えることができなかった、それは今までされてきた質問とは少しだけ違う角度で質問されているからだ。

「すみません、自分は国の名前とか知らないんです。幼い頃から旅をしてましたので、自分の生まれが何処なのか」

 意味はないが何となく学のない旅人を装ってみる。

「シュルト族の民族に居たのですか?」

「シュルト族?」

「はい、特定の場所で住むことはせず、気温や環境に合わせて転々と住むところを変えている人達の事です」

 元いた地球にもそんな民族が居ると聞いた事はある、この世界でもやはりそんな人が居るんだな。

「へ~。いえ、自分は祖父と二人旅でした」

「あら、お祖父様ですか? お祖父様は今何方に?」

「……結構前に」

 事実、祖父と二人暮らしをしていたので、その辺は言葉に修正を入れながら返答をした。

「それは、お辛かったでしょう……」

 まるで自分の事のようにエマンダは言葉をかけてきてくれる。

「えぇ、でも一人でも生きていく為の力はつけてもらえました」

「では、ミツさんのお祖父様は武術の達人か何かですか?」

「いえ、普通の一般人ですよ、教えてもらったのは料理とかお金の使い方、後は狩りの仕方ですかね」

 料理とお金の使い方は間違いなく教えてもらったのは祖父だ、狩りはゲームやネットで得た知識なのだが。

「なるほどな、君の力は君自身で手に入れたって事か……」

 なるほどと納得したのか、髭の無い顎を撫でりながら頷くダニエル。

「ミツさん、わたくしからも一つ、ゼクスに放った魔法……あれは何でしょうか? わたくしも魔法を触りますがあの様な術は初めて見ました」

 続いてエマンダがスキルの事を質問してきた、放ったと言う事は〈忍術〉の〈風球〉の事だろう

「あれはスキルですよ」

「魔法では無いのですか?」

「魔力を使いますがスキルの1つです」

「ミツさんよろしければ、お時間がある時にもう一度見せて頂けませんでしょうか」

「はい、部屋の中だと大変な事になるので外でお見せします」

 ミツがそう答えると満足そうにまたお茶を飲んでニッコリと微笑むエマンダ。

「では私から、ミツさん、あなたは支援魔法が使えるわよね?」

 パメラからは戦闘中に使った支援魔法に質問がきた。

「はい、今はジョブのクレリックですから一通りは」

(ホントは全部使えますけど)

「弓はお祖父様に教えてもらったのよね?」

「はい、飢えを凌ぐ為に教えてもらいました」

(すみません、これもスキルの力です)

 心の中で謝罪しながら方便をのべる

「では、先程エマンダがお願いしていたスキルはジョブで覚えたとして……。あなたは、魔物の魔法も使えたわよね」

「……」

 (流石に〈スティール〉で取りました何て言えないしな、仕方ない……)

 恐らくこれが一番知りたかった事なのだろう。

 パメラの質問に三人とも少し前のめりになり真剣な顔をしてミツの答えを待つ。

 そして少しの沈黙のち。

「すみません……その質問には答えれません……」

 ミツがそう答えるとダニエルが少し乗り出した体を椅子に戻し、軽く手を上げた後に、ミツが申し訳なさそうな表情をしているので改めて言葉を入れてきた。

「いやいや、良いんだよ。コチラとしても1から10まで全てを教えて貰えるなんて思ってはいないからね」

「そうですよ、それに先に言いましたよ答えたくない質問は答える必要は無いって」

「すみません……自分は何か疑われてるのですか?」

 軽く誤った後にやはりスキルの連続使用した事に問題があったのかも含めて、三人へと質問してみる。

「んっ? いや、ただの興味があって聞いただけだが」

「私もです」

「わたくしもですよ」

 三人の答えは只の興味と好奇心での質問だった、それならそれで問題が起きなくないかと思ったが態々言葉に出してまで言う必要もないと心に止めとく。

「ミツさん、もしかして魔物の類いかと疑われてると思われていたのですか?」

「あっ……はい、先程も人間か確認されましたしいきなりの質問攻めだったので」

「それはすまん事をした、君には不快な思いをさせてしまったね」

「ごめんなさい、私達どうもこの歳になっても好奇心が強くて、知りたい事や気になった事は直ぐに聞いちゃいますの」

 若干取り調べの様な質問をしていた事に気づいたのかダニエルが謝罪した後にパメラとエマンダも続けて謝罪してきた。

(伯爵って上流貴族だったはずだよね、そんな簡単に謝罪して良いのかな?)

「エマンダは魔法関係なら特に聞きたがるからな」

「フフッ、それは趣味ですからね。私もですけどあなたもでしょ」

「安心して下さい。ミツさんに疑いなんていたしてませんよ」

「そうなんですね、よかった~」

 パメラの言葉でホッと息を漏らす。

 

 コンコンコン

「お父様、入ってもよろしいですか?」

 ドアを叩く音の先からミアの声が聞こえてきた、庭から帰ってきたのだろうか。

「入りなさい」

「失礼します、お父様、お母様、パメラ母様、ただいま戻りました」

 エマに続いて後からロキアが顔を出してきたその手を繋いで最後にプルンが部屋へと入ってきた。

「おかえり二人とも、プルンさんを案内できたかしら」

「えぇ、とても喜ばれました」

「できたよ!」

 ロキアがプルンと手を繋いでない方の手をシュタっと上げて案内をできた事をアピールしてくる。

「偉いわね二人とも、お客様を案内できたのね」

「ボッチャまご立派でございます!」

 ハンカチで涙を拭うゼクス、とうとう泣くまで感動し始めた。

(まぁ、あの動作は可愛いと思うからゼクスさんの気持ちもわかる、泣くほどかと言われたら答えは否だろうけど)

「ミツ戻ったニャ」

「プルン、庭に行ってたんだね」

 ミツの座っている椅子の後に周りプルンが声をかけてくる。

「そうニャ、ミツとおじさんが吹っ飛ばした庭が少し気になってたニャ」

「えっ……ふっ、吹っ飛ばした……」

 プルンの言葉を聞いて少し言葉が止まった、続けて体から冷や汗にも似た変な汗が沸いてくる。

「ホッホッホッ、私も少し年甲斐もなくはしゃぎ過ぎましたね」

「気づいてなかったニャ? ミツが出した技がここの庭を大変な事にしたニャ」

 プルンの話を聞いてミツが出したスキル〈土石落とし〉が地面に着弾した後に周辺に散乱し、庭に砂の塊となった岩がなだれ込み庭が荒れ果ててしまい、更には観客席の座席や防壁を突き破り、暫くは使用できない事を聞かされた。

「えっ! そんな事になってたんですか! ごめんなさい!」

 戦いに夢中になりすぎて周囲にそんな被害を出していたとは気づいていなかったのか。

 自分はプルンの話を聞いた後に椅子から立ち上がり、ダニエル達へと深々と頭を下げた。

「いやいや、その辺は気にしなくていいよ。おかげで私達は面白いものが見れたしな」

「いえ、でも、あんな立派なお庭に。本当にすみませんでした!」

「フフッ、ミツさん、本当に気にしなくて良いのよ、さっきの試合は丁度観戦してた警備兵もいましたし、皆で取り掛かってますから明日には綺麗に元通りですよ」

 エマンダによると、自分のスキルの衝撃で開けてしまった大穴、これは土魔法が使える庭師が居るので直ぐに塞がるようだ。
 観客席も模擬戦で被害を受けることは珍しい事では無いので、そこまで気にしないみたいだ。

 何と言うか改めて聞くと魔法がある世界はハチャメチャな試合が当たり前なんだと思う。

「そうなんですね、でも、なんだか皆さんに申し訳ないです」

「お優しいんですね、ミツ様って」

「さて、二人が揃った所で話をするかな」

「ニャ?」

「お話ですか?」

 雰囲気をキリッと変えてダニエルが話を切り出した。

「今回のロキアを助けてくれた事、スタネット村を救ってくれた事、ゼクスとの模擬戦の勝ち褒美を二人にな」

「そうですね、流石にここまでしてもらって何も無しではフロールス家の名折れですし」

「わたくしも賛成いたしますわ」

 ダニエルの言葉に続いてパメラとエマンダが続けて今までの功績を称えて報酬の話に賛成の言葉を出した。

「ニャ、待ってニャ! それ全部ミツだけで良いニャ! ウチ何もしてないニャ」

「でも、プルンさんは、弟を安全な所まで連れてってくれたのでしょ?」

「左様にございます。そのおかげで私も安心して戦いに集中する事ができました」

(ゼクスさん、あなた自分がキラービー撃ち落とす時によそ見して攻撃を受けてたでしょ)

「プルンさん、ご自身も立派な事をされたんですよ」

「ニャ……」

「プルン……」

 報酬の話は最初乗り気だったプルンも、流石に領主様目の前だとズカズカと言える訳もなく、更にはスタネット村の事も含めるとなると受け取る事もできないのだろう。

 両手をブンブンと振り回した後に耳をペタンとする姿は少し可愛い。

 ちなみに、ゼクスの戦いに集中できましたの言葉に、自分は凄く突っ込みを入れたかったが自重(我慢)した。

(ふむ、結果的にはプルンが居ないとアースベアーの戦いも結果は解らなかったし、少し背中を押すか)

「じゃ、プルンの分は自分が貰っとくね」

「ニャ!」

 ミツのまさかの独り占め宣言にプルンの倒れた耳がピンっと立った。

「そうだなー、肉でも貰って毎日食べようかなー、プルンの前で食べるけど気にしないでね」

 少し意地悪な背中の押し方だが、この方法がプルンには手っ取り早い。

「ニャニャ! ミツだけズルいニャ! ウチももらいますニャ!」

「ふっ、最初からそう言いなよ」

「ニャ!」

 ミツの少し鼻で笑う様な仕草を見て、罠にはめられた事に気づくプルン、少しふくれっ面になりながらこっちを見ている。

「ハッハッハッ! よかろう、元よりそのつもり、プルン君は何を望む物はあるか?」

「……ご飯、食料が欲しいニャ」

 プルンは少し考えながらも、自分の思っていた通りの答えを出してきた。

「ほぅ、君の家には家族が多いのかね?」

「ウチの家は教会ニャ、エベラと三人の弟妹がいるニャ」

 プルンはダニエル達に、今の教会での生活状態を細かく説明した

「そうか……獣人族の取引がそこにも影響を出しておったか……」

「プルンさん、大変な日々を過ごされてましたね」

「ニャ……」

「よかろう、こちらから出来るだけ支援を礼として送ろう」

「ニャ! ありがとうございます。ありがとうございますニャ」

 何度も頭を下げて礼を述べるプルン。その目には少し涙を浮かべていた。

「君はどうする、君の場合は武器とかでも良いんだよ」

 続けて自分の番とダニエルが話かけて来た。

「ん~、これと言って物で欲しいのは無いですね。武器も鍛冶屋のガンガさんにお願いしてますし、材料全然まだ集まってないけど」

「なら、金銭では如何ですか?」

 エマンダが悩み即答できない自分に変わって妥当案を出してきてくれた。

「そうですね、その方が考えるのも楽なんで、それでお願いします」

「よし、ゼクス」

「はっ、承知しました」

 ダニエルがゼクスに軽く耳打ちをすると、ゼクスは直ぐに部屋から出ていった。

「失礼します、お待たせいたしました」

 時間をおかずに戻ってきたゼクスがテーブルの上に置いた銀色のトレー、その上には5枚の金貨が並べていた。

 金額にしたら少ないと思ってしまったが、アースベアーとかの素材報酬で自分の金銭感覚が鈍っているんだろう、一般で考えると多い方じゃないかな。

 並べられた金貨は若干滲んで見えるのは気のせいか?

「うむ。さぁ、ミツ君、受け取ってくれ」

 偉くニコニコ顔のダニエルの言葉を待って、報酬を受け取るミツ。

「はい、では、ありがたく頂戴いたします」

「……君はそれを見るのが初めてかな」

 なんの違和感もなく、差し出された報酬をアイテムボックスの中に入れている財布代わりの布袋、それに入れようとした時、ダニエルの意味深な言葉に手が止まった。

「え? 金貨は見たことありますよ?」

「ホッホッホッ、旦那様、私も冒険者の時には滅多に見ない物でしたからね。ミツさんが知らないのも仕方ないことではございませんか」

「……ニャ!!!」

 その言葉を聞いてか、プルンが自分が手に持つ、滲んだ金貨を見ていつも以上に驚きの声を上げている。

「ん? どうしたのプルン?」

「お……おじさん、まさ……まさかこれ!」

 プルプルと震える指で自分の手を指差すプルン。

 それを見てダニエルはしてやったりと言わんばかりの顔をし、ゼクスがプルンの質問に答えてきた。

「はい、今回ミツさんに渡した報酬は虹金貨5枚でございます」

「……えっ!」

 ゼクスの言葉にプルンと同じ様に自分も驚きの声を上げた

(えっえっえっ、虹金貨って確か1枚100万の価値あったよね!)

《合計500万相当の価値に当たります》

「アッハッハッハ。そうそう、その反応が見たかったんだよ」

 報酬の大きさに目を丸くして驚いた自分を見てダニエルが満足そうに高笑いをしている。

「あなた、失礼ですよ」

「すまんすまん、余りにも普通に受け取るものだから、ついな」

「ウチも子供の頃に婆が数えてるのを一枚だけ見たことあるニャ」

 プルンの言う婆とは冒険者ギルドのギルドマスターのネーザンを言っているのだろう。

 恐らくエベラと共にギルドに行った時に見たと思う。

「そんな、こんなに受け取れません!」 

「ミツさん、あなたはこれを受け取る程の行いをされたのですよ」

「ミツ様、過剰な謙遜や自体は他者への失礼にもあたりますので、ここは何も言わずにお受け取りください」

「ですが……」

 自分は考えた、確かに、パメラとミアの二人の言うことも確かだ。
 相手も功績を認めての報酬なのだ、これを無下に断るのも差し出した方は気分を悪くするだろうと。

 そんな時フッとミツは思い出した言葉があった、そしてそれを実行する為に決意する。

「解りました、この報酬はありがたく頂きます。そこで1つお願いしてもよろしいでしょうか?」

「構わんよ」

 真剣な表情をした自分を見て、ダニエルも先程のおふざけの顔はスッと止め、表情を真面目にする。

「この5枚分の虹金貨。これをスタネット村のために使ってもらえませんでしょうか」

「……ほう、理由を聞こうじゃないか」

「はい、自分は旅をして初めてあの村に来た時に色々と学び、教わり、助けて頂きました。あの村は子供と老人が殆ど、後は数人の若い人しか今はいません」

「あぁ、あの村からは何人もの若者が働きに出ていたね」

「若い人は出稼ぎの為村にはいません、あの村を出る時に思ったんです、また、病に倒れたらどうなる? あの畑で飢えを凌ぐ程の作物は取れるのか……」

 勿論そんな村の状態の事は領主の方が詳しいだろ、だから今更説明することでは無い。

 しかし、自分の思ったことをそのまま伝えないと只の偽善者になってしまう、今は思う事をそのまま領主であるダニエルに伝えるべきだと思った。

「しかし、村には村の生活法もある、ここで君がこの金で手を差し伸ばしても直ぐに元に戻るかもしれんぞ?」

「はい、おっしゃるとおりです、でも、人にはチャンスがあればそれを広げる事ができる力があります。税金も払わない年があればその分畑を広げれます、家だって直せますし警備の人を雇って貰えればモンスターの被害も減るでしょう」

「……」

「自分は旅人です、あの村に残る事はできませんでした、だからって次の日には関係ない村と言う訳では無いんです、自分ができる事があるならそれをバトンの様に渡せば、スタネット村はまた別の人や他の村にバトンが渡せる村になってくれるかもしれません」

「ふむ……君は自分の得た物は全て他者へと捧げるのかね」

「全てでは無いです」

(スキルはもらってるしゼロではない)

「経験……いや、物ではない物をもらってます」

 言葉が少し熱くなってしまったが、伝えたい事は伝えた。
 自分の真っ直ぐな目をダニエルは目線を外す事なく見ている。

 ダニエルだけではないパメラも他のフロールス家皆がミツを見つめていた。

「ゼクス!」

「はっ!」

 一喝と思う程の大きな声を上げゼクスの名を呼んだ、それに答えるかのようにゼクスもまたその言葉に直ぐに反応し返答をした。

「今直ぐにスタネット村にお前の判断で、この金で雇える人数を村へ人材を派遣しろ!」

「かしこまりました。では、余った分は食料と税金に回させて頂きます。村人の努力もあれば5~10年は税金は不要となりますでしょう」

 ダニエルの指示で直ぐに動いてくれるようだ。
 それに付け加えて、ゼクスが言葉足らずの説明に村にとっての最善の案を直ぐに出してくれた。

「ダニエル様、ゼクスさん、よろしくお願いします」

 ミツは深々と頭を下げた。

「いえ、ミツさん、私はあなたと会えたことに神に感謝しております」

 パメラは目に少し涙を浮かべていた。

 しかし、ミツはそれよりも気になったが、神に感謝の言葉だった。

(神? あのチミっ子にか……)

〘ハッハッハ、我を崇めよ!〙

 何故か脳内再生されるはふんぞり返るチミっ子の姿、パメラの言葉にミツは苦笑するしかなかった。

「グス…….えぇ、本当にとてもご立派ですよ、ミツさん」

「まだこんなにもお若いのに、他者を思う心は我が夫のダニエルにも負けておりません」

「ミツ様、その素晴らしい心、私心から感銘を受けました」

「いえ……」

 ミツは前世での一つの言葉を思い出していた。

(自分には似合わない大金を手に入れた時、その時は人の為に使え、それがお前の為にもなるって。祖父がよく言ってたしな……。爺ちゃん、俺、人の為にちゃんと約束守ってるからな……日本じゃねえけど)

 他者から見たら只のお人好しとか思われるだろう。

 それでも、この行動で最低スタネット村が救われるのは間違いないのだから……。

 コンコンッコン

「旦那様、お食事の準備ができました」

 ドアを叩く音の後に食事の準備ができた事をメイドさんが教えに来てくれた。

 長い事話してた様で窓の外は日を落とし薄暗くなってきている。

「うむ、皆食堂へ行こうか。今日は良き日だ、俺の秘蔵の酒を出そう」

「お気持ちありがとうございます。でも自分達飲めませんので」

「ぬっ、飲めんのか、それはいかん! 酒、特に祝い酒は飲まんと女にモテんぞ」

「えっ! そうなんですか!」

 モテると言う言葉に食いついた自分を見てニヤリと不敵に笑うダニエル。その顔は正に新しい玩具を手に入れたときのイタズラっ子を思わせる顔だった。

 だがそれは直ぐに阻止された。

「あなた、飲めないお酒を飲ませる男もモテませんよ」

「それに飲める人や飲めない人なんて女は見てませんよ」

「お父様ただ自分が飲みたいだけですわよね」

「お父さんお酒好きだもんね」

 パメラやエマンダの二人の婦人だけではなく子供達にもお酒のだらしなさを指摘されている、何気にミアのジト目をロキアが真似しているのが可愛かった。

「それにミツさん程の男性なら女は関係なしに惹かれますよ」

「そうですわね、わたくしも20いえ、10若ければ」

「お母様、止めてください」

「あっ、あなたがミツさんとくっつけば良いのよ、そうすれば自慢の息子として側にいれるわ~」

「ニャ!」

「お母様! ミツ様に失礼ですよ!」

「ハッハッハ! ミツ君随分と気に入られたな、勿論俺も君は気に入ったぞ!」

「あ、ありがとうございます」

 エマンダの悪ふざけの言葉にミアが顔を真っ赤に反応する、この家族は自分が旅人でも気にしないのか?

 元より家は男が引き継ぐ物、女は他の貴族との架け橋として嫁に使われるのが貴族として普通ではないのであろうか? そんな会話をしながらミツとプルンは目の前の食事を楽しんだ。

「ミツさんは旅をされてますよね」

「はい」

「ライアングルの街で冒険者をされておりますが、また旅をされるんですか?」

「そうですね、冒険者になったのは最初冒険者カードが目的だったので、取り敢えず次の目的が終わったらまた旅を始めようかと思ってます」

「……ニャ」

 旅をまた始める、自分のこの言葉を聞いてプルンは食事を無意識に止めてしまっていた。

「ん? どうしたの、プルン?」

「な……何でも無いニャ……」

「プルンさん……」

「……えーと、ちなみに次の目標って聞いてもよろしいですか?」

 場の空気を変える為に少し無理やり会話を切り出すミア。

「はい、この街で開催される武道大会に出場しようと思いまして」

「ほぅ」

「あら、まぁ~」

「それはそれは、楽しくなりそうですね」

「ミツ様のお力なら当然ですよね!」

「ミツ出るのかニャ?」

「うん、前から言おうとおもってたんだけど、忘れてたり色色あったからね、ごめんね」

(朝のハプニングが多すぎて話すタイミングを逃してたものだ)

「いいにゃ、いいにゃ、出るからには応援するニャ!」

 気持ちが戻ったのかプルンは食事を続け始めている

「ありがとう、お礼に参加賞(エール1杯無料券)はあげるよ」

「いらんニャ」

 そんな会話をしながら二人の顔に元の笑顔が戻っていた。

「ちなみに、さきほど楽しそうって言われてましたけど、皆さんもご覧になられるんですか?」

「そりゃ勿論」

「主催でもあるし家族も出るし」

「えっ?」

 その言葉に、後に控えていたゼクスの顔を見ると優しい微笑みでこちらを見ていた。

「また戦えるのが楽しみですな」

「……えっ、マジで?」

「はい、マジでございます」

 なんてバトルジャンキーな執事だ。自分的にはほんとに暫く戦いたくない気持ちだったのに。

(いや、今度はユイシスの力を借りて安全に終わらせるか……)

《ミツに勝利は導けますが、今の力量では次戦っても、前回と変わらない状態だと思われます》

(オワタ)

「それにお兄様も出ますから、家族皆で応援ですよ」

「あっ、そう言えばロキア君って次男でしたね、お兄さんは今何処に?」

 フッとフロールス家長男の話が出てきた、ゼクスとの再戦と言う現実逃避を込めて話をそっちに持っていこう。

「お兄様は今隣国のパルスネイル国にあります魔法学園に行ってますの」

「魔法学園ですか」

(後で詳しくユイシスに教えてもらおうっと()

「えぇ、我が子ながらわたくしに似て幼い頃から魔術に興味を出しましてね。自慢では無いですが学園で中々の成績を出してくれてますのよ」

「大会の一週間前には帰ってくる連絡が来ていますよ」

「なら3日後ですね」

「我がフロールス家は、剣、魔法、どれかを極めてくれるなら問題はないからな。ロキアも君のお陰で弓を触りだしたし喜ばしい事だ」

(なるほど、フロールス家そのものが戦闘貴族だったのか。まっ、金のかかる芸術関係の貴族様より絡みやすいから良かったかも)

「ねぇねえ、お兄ちゃん、ボクに弓おしえてよ」

「えっ! 弓を? 自分が!?」

 ミアの隣に座っているロキアから思わぬお願い事が来た。

「それは良い考えですわ、ミツ様の腕前は皆も認めておりますし」

「私からもお願いしますわ、是非ともロキアの弓の師となって下さい」

「え~、でもな……」

「ダメ~?」

 ミツが断りの返答を返そうとしたが、ロキアのお願い方法の、首をコテンっと横に曲げる仕草をする、誰に教わったんだそんな方法。

「ホッホッホ、安心して下さいボッチャま、ミツさんには私からもお願いしますので、必ず心良く引き受けてくれるでしょう……ですよね」

(目が怖いよ! そして近いよ!)

 先程まで少し後ろに離れていたはずのゼクスが、いつの間にか真後ろに立っており、両手をミツの肩にのせ、更には顔が横に来ていた。

 普通なら執事としてはあり得ない速度と行動だが、ここにそれを追求する者は誰もいなかった。

「はぁ~、冒険者の依頼も受けますからそんなに時間は無いですよ?」

「構わんよ、君の弓のコツを家の弓兵に教えといてくれたらそれで助かる。たまに顔を出す時にでも細かく教えてやってくれ」

「弓兵さんいらっしゃるなら、教えはその人からの方が?」

「君の戦いを見て恥ずかしながら我が家の弓兵の力量が低い事が理解できたよ。君が家の弓兵部隊に教えてくれたら我がフロールス家の弓兵レベルが上がって助かるんだがな」

(なるほど、ただ自分の息子の事だけでは無かったのか)

「剣術や魔法関係は、ゼクスやエマンダがいるお陰で、他よりは自信はあったのだがな」

「お恥ずかしながら私、弓はサッパリです」

「ゼクスさん程の人がですか?」

 人には向き不向きと言う言葉はあるが、この人にその言葉が似合わないと思ってしまった。

「ん~、なら、基本から教えますよ? 土台が脆いとどんな武器も駄目ですからね」

「いいの! ありがとう、お兄ちゃん!」

「ホッホッホ、では、お返しにミツさんには、剣の基本を私がお教えしましょう」

「あっ、それは助かります、お互Win-Winですね」

「ういんういん? まほう?」

「えっと、お互いに損は無いって事かな」

「ロキア、教わるのですからワガママ無しに頑張るのよ」

「はい、お母様」

「ロキア君、また今度来る時に教えるからね」

「うん! あっ、よろしくお願いします!」

「ご立派でございます、ボッチャま!」

 またボッチャまラブ執事が感動したのか、ハンカチで涙ぬぐってるし。

「ミツ君、大会に出るなら試しに洞窟に行くと良い」

 ダニエルのこの言葉がミツの次の目標を示していた。
    
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