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旅立ち
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透き通るような白い髪に白い肌、燃えるように紅い瞳、桃色の唇、小柄な体躯、そして白い着物。
あのころから姿の変わらない白い少女。
「……死神さん」
「お久しぶりです。誠二郎」
あのころから変わらない可愛らしく優しい声。
「またこうして出会えたということは……」
「はい、旅立ちのときです」
「……そうか、旅立ちか」
儂は精一杯生きられただろうか。自分では良くやってきたとは思う。
悔いがあるとすれば、曾孫の成長を見届けられないことと……。
「約束、守ってくれたのですね」
「約束?」
「はい、『俺は、精一杯生きる。生き抜いてみせる! 君に再会するときに笑っていられるように』……です」
その約束は故郷に帰ってきたときにした誓いであり約束だ。
気のせいではなかった。あのときあの場所にいたのだ。
しかし、言った本人も細かいところまで覚えていない台詞を覚えているとは……。
「儂は約束を守れたか……」
「ええ、もちろんです」
静かでおだやかな時間が流れる。ここだけ空間が切り取られた異界であるかのように。
そして、儂に残された時間ももうあと僅かであることを直感する。
『ごめんな、――。兄ちゃん約束破っちまった……。せめてこれを――、お前にと……』
『――兄ちゃん、私のことは気にしないで。来世ではどうか今世の分まで長生きしてね……』
ああ、そうだったな……。
今際の際になってすべて思い出すとは、もう少し早ければ気の利いたことを伝えられただろうに……。
それに、これは偶然か必然か……こんなことがあるとはな……。
「誠二郎、そろそろ時間です」
死神さんは微笑みを絶やさずに言葉を投げかけてくる。
笑顔で見送ろうとしてくれているのだろう。
これが最期の言葉になる。正直声を出すのもしんどい。だが、伝えたいことがあるのだ。
「死神さん、最期にこうして話すことができてよかった……」
「……ええ、私もです」
「君にこうして見送ってもらうのは二度目になるな……」
「っ!」
儂の言葉を聞いた死神さんは、息を吞むような表情になる。
思えば、一度目は約束を破ってしまったうえに、悲しませてしまったな……。
「その彼岸花の花言葉のように、今世では再会することができた……」
「……」
一度目のときにはなかった彼岸花の花柄。
どういった思いで、彼女が真っ白だった着物に彼岸花をあしらったのか、儂には推し量ることしかできない……。
「だから、きっと来世でもまた……出会えると……」
まだ話したいことがある。しかし、声が出ない。思考も回らない。せめて、この一言だけでも……。
そう悲観に暮れていると、儂の手を優しく握る感触が伝わった。
僅かばかりだが力が戻る。笑って旅立つために、頬を動かし声を絞り出す。
「いってきます……サキ」
「……いってらっしゃい、誠二郎……希助兄ちゃん」
薄れゆく意識の中で、涙を溢れさせながらも優しく微笑む死神さん……サキの顔が見えた――――
「また会える日を楽しみにしているね」
あのころから姿の変わらない白い少女。
「……死神さん」
「お久しぶりです。誠二郎」
あのころから変わらない可愛らしく優しい声。
「またこうして出会えたということは……」
「はい、旅立ちのときです」
「……そうか、旅立ちか」
儂は精一杯生きられただろうか。自分では良くやってきたとは思う。
悔いがあるとすれば、曾孫の成長を見届けられないことと……。
「約束、守ってくれたのですね」
「約束?」
「はい、『俺は、精一杯生きる。生き抜いてみせる! 君に再会するときに笑っていられるように』……です」
その約束は故郷に帰ってきたときにした誓いであり約束だ。
気のせいではなかった。あのときあの場所にいたのだ。
しかし、言った本人も細かいところまで覚えていない台詞を覚えているとは……。
「儂は約束を守れたか……」
「ええ、もちろんです」
静かでおだやかな時間が流れる。ここだけ空間が切り取られた異界であるかのように。
そして、儂に残された時間ももうあと僅かであることを直感する。
『ごめんな、――。兄ちゃん約束破っちまった……。せめてこれを――、お前にと……』
『――兄ちゃん、私のことは気にしないで。来世ではどうか今世の分まで長生きしてね……』
ああ、そうだったな……。
今際の際になってすべて思い出すとは、もう少し早ければ気の利いたことを伝えられただろうに……。
それに、これは偶然か必然か……こんなことがあるとはな……。
「誠二郎、そろそろ時間です」
死神さんは微笑みを絶やさずに言葉を投げかけてくる。
笑顔で見送ろうとしてくれているのだろう。
これが最期の言葉になる。正直声を出すのもしんどい。だが、伝えたいことがあるのだ。
「死神さん、最期にこうして話すことができてよかった……」
「……ええ、私もです」
「君にこうして見送ってもらうのは二度目になるな……」
「っ!」
儂の言葉を聞いた死神さんは、息を吞むような表情になる。
思えば、一度目は約束を破ってしまったうえに、悲しませてしまったな……。
「その彼岸花の花言葉のように、今世では再会することができた……」
「……」
一度目のときにはなかった彼岸花の花柄。
どういった思いで、彼女が真っ白だった着物に彼岸花をあしらったのか、儂には推し量ることしかできない……。
「だから、きっと来世でもまた……出会えると……」
まだ話したいことがある。しかし、声が出ない。思考も回らない。せめて、この一言だけでも……。
そう悲観に暮れていると、儂の手を優しく握る感触が伝わった。
僅かばかりだが力が戻る。笑って旅立つために、頬を動かし声を絞り出す。
「いってきます……サキ」
「……いってらっしゃい、誠二郎……希助兄ちゃん」
薄れゆく意識の中で、涙を溢れさせながらも優しく微笑む死神さん……サキの顔が見えた――――
「また会える日を楽しみにしているね」
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