蝋が消えるその日まで

ツナマヨ

文字の大きさ
上 下
1 / 3

消えかけのその蝋

しおりを挟む
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

街中に1人。時刻は夜を過ぎる。
もうこの時間から街の外に出るのも危険だ。
飯もいいが、雨も降っている。早めに宿を見つけて、寝場所を確保しなければ。
そう思い足を上げ、歩き続けると、何かがぶつかる。正直今は疲れていて目の前の景色にすら目が行き届かないのだ。
ぼやける視界をはっきりさせ、前を向くと誰もいない。おかしいな、確実に誰かとぶつかったはずだ。ぶつかってさっさとどっか行ってしまったのだろうか…?

「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

泣き叫ぶかのような声。
声は幼く、恐らく女の子だろう。
声のする方向、下を向くと、ボロボロの布切れのような服で見える肌は傷だらけ。
傷の着いていない手首や顔等から見れる綺麗できめ細かい白い肌は、そこから腕にかけての傷だらけの肌をさらに強調させている。

しかし、何故こんな子が?孤児か?それとも逃げ出した奴隷か?いや、奴隷は違うな。
基本奴隷商人は商品である奴隷にわざわざ傷をつけたりしない。商人によっては栄養もあり、しっかりした睡眠を取らせ、価値を上げ、売る奴隷商人も居るほどだ。わざわざこんなことにはしないだろう。孤児も違うだろう。
基本的孤児は孤児院が引き取る。孤児院は協会が全て行っている。協会には聖魔法が使える神父や聖職者が必ずいる。聖魔法には回復魔法もあるため、神父がこんな傷だらけの子を回復しないわけが無い。

それに、この子の謝り方はなにか奇怪お かしかった。
普通、臆病な子だとしてもここまで大きな声で謝ったりなどしないし、ぶつかっただけでこの謝り様は、きっと何かがある。

「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。」

俺はしゃがみ、彼女の頭を撫でてそう微笑んだ。
彼女は急に大声を出して泣き出した。
なんでかは分からない、が、その泣き顔は、あの人にそっくりで、そんな顔はして欲しくはなかった。

周りからは「早くあやしてやれ」と言わんばかりに俺を見ていた。他にもこの子の様子から虐待など疑いの目を向けられていた。
どうやら俺らは親子と見られているようだ。
とりあえずこの場を何とかしようと、泣いている彼女を抱き上げ、宿まで連れていった。

宿に着き、彼女をベッドの上に座らせる。どうしたものか。
最悪、迷子なだけで、俺に怯えて泣いていたのだとしたら…。そう考えるとその後が怖かった。

「どうしてあの時泣き出したんだ?何かあったのか?親御さんは?家出したのか?」

とりあえず俺は彼女にそう質問した。
彼女を宿に連れてきたからには、彼女の身柄を確認しなければならない。
そう思い聞いてみると、彼女は顔を真っ青にしながらまたあの顔に戻りそうになっていた。
手は震えている、もう片方の手で抑えようとても止められていないほど。
もう、この事は聞くべきでは無いだろう。

「ごめん。言わなくて大丈夫。君に何があったかは分からない。でも、逃げてきたんだよね?もしそうなら、君はすっごく強い子だよ。偉いよ…偉い。」

そういい、抱擁し頭を撫でると、図星かのように泣きじゃくった。やはり、あの人にそっくりな泣き顔。でも、今は涙を空にして、心を落ち着かせた方がいい。


そしてしばらくし、彼女は眠りについた。恐らく沢山泣いて泣き疲れたのだろう。
よし、俺も眠ろう。そう思い、彼女の隣に寝転がり、頭を撫でながら俺は眠りについた。


翌日、俺は彼女より先に目を覚ます。そして宿を出る準備をしている最中、彼女も追うように起きてきた。

「おはよう。少しは楽になったか?」

「ひっ……あ……き、昨日…の。」

「君、名前なんて言うんだ?俺はにのまえっていうんだ。漢字で一って書くんだ。吟遊詩人って言う歌って旅をする職業をしているんだ。」

「わ、私は……オラーン…違う、違う。」

自分の名前を言おうとするも、違う、違うと自分の名前を否定する。俺と同じだ。

「違うのか?…そうは言っても呼び名が無いと生活しづらいからなぁ…そうだ、ミナトなんてどうだ?まぁ、仮だからな、嫌なら後で変えたらいい。」

「ミナト…?」

きっと、彼女は自分の名前が嫌いなのだろう。
だから、俺が彼女の名前を考えてみたのだ。
彼女はキョトンとした表情から、だんだん活気な顔になり、嬉しそうに

「うん!私の名前、ミナト!」

そう大きな声で言った。
今日聞いた中で一番嬉しそうで、活気に溢れ、幸せそうな声だった。

「そうか。ミナト、行くあてはあるのか?」

そう言うと、ミナトは首を横に降った。
やはり、そう思った。彼女がどんな環境下に置かれていたのかは分からないが、布切れのような服で、汚れだらけの髪で、顔をクシャクシャにしながら泣いた子が、行くあてがあるようには見えない。どこからが逃げだしてきたかそこらだろう。
ならば本来はこの子を孤児院へと送るのが正解なのだ。それが彼女のためにも…。

「なら…俺と一緒に、旅に…でないか?」

「う、うん!」

何を…?正直言ってしまえば、吟遊詩人こと俺の旅は移動がほとんど、夕まで歩き続け、街に着いたら歌で稼ぎ、寝て、その翌日は少し観光し、また歩き始める。俺からすればなんてことはないが、子供、ましてや女がやるには少しキツい。
でも、なんで誘ったのだろうか…。

「なら、まずは服を買わないとな。」

自分の行ったことには責任を持たなければ行けない。俺はあとにも引けず、この子を旅に連れていくことにした。

弱々しかった消えかけの火は、心地よい風を受け、少しはマシになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...