追う者

篠原

文字の大きさ
上 下
70 / 278
第九章 東京へ ~敵は、『男』、全員。~

第九章 ⑧

しおりを挟む
言い方を変えるとですね、その日……、
つまり旅の3日目の夜までは、予定&想像
通り、いいえ、『想像以上の旅』だったの
です。
都会では見れない美しさを見て、大自然に
思いっきり触れ、有名な動物園にも行き、
そして、美味しいラーメンだけでなく、
新鮮な海の幸もたらふく食べて……と、
まさに、夢のような3日間でした!

そして、その夜、その3日目の夜、
ある出来事が、私たち2人に降りかかる
ことになるのですが、話をちょっとだけ、
戻させてください。
夕食のこと…、その3日目の夕食のこと
から話させてください。
その日の夕食は、しーちゃんが、お店の常連
のお客さんから教えてもらっていた、
割烹料理のお店に行く、予定でした。
私たちは、教会の後に、2箇所、目的の
観光スポットを廻り、そして、ホテルに
戻って一休みしました。
そして、お腹を空かせようと、歩いてその
割烹料理のお店に向かうことにしました。
今なら、スマホとかで地図も出ますが、
その頃は、私たち二人とも携帯電話です。
便利な地図の機能なんてありません。
しーちゃんが、ホテルのフロントで、
もらった市内の地図を頼りに、私たちは、
歩きました。
でも、途中で気づきました……。
私たち女二人は、完全に迷ってしまって
いたのです!
辺りは、あの当時の私が言うのも何ですが、
『いかがわしいお店』ばっかりでした!

「ソープランド、こんなに、いっぱい!
こんなとこに、クソな『男』共が、
わんさか集まるんだよなぁ」と思いながら、
しーちゃんの後について歩いていましたが、
しーちゃんも「マコッち。
何だが、スゴクない?
この雰囲気……。
女二人で、歩くようなトコじゃないよね?」
と言ってきました。

本当に、同感でした。
今すぐにでも、走ってホテルの方向に、
逃げ帰りたい気分でした。
それか、タクシーを拾って、タクシーで、
そのお店の前まで連れてってもらえば
良いかな……、そう思いました。
しばらく黙って、しーちゃんについて行き
ましたが、本当に私は怖くなりました。
「ねぇ。しーちゃん、タクシーつかまえて、
タクシーで行こうよ」と言おうとした、
次の瞬間です!



急に後ろから声がかかりました。
「えっ?私たち……?」と思って、
振り返ると、60過ぎの太ったおじいさん
が、私たちに話しかけているのです。


勇敢なしーちゃんが、目的の割烹料理店の
名前を言って、そこに行きたいんだけど、
行き方を知っているか、と訊きます。
すると、そのおじいさんは、
「あぁ。あの店か?
姉ちゃんたち、あそこに行こうとして
んの?
あそこは、行かない方が良いよ」とか言う
のです。
そして、「わしが、この近くの良い店、
知ってるから、連れてってやるよ。
安くて、旨い店があるんだ!」と。


皆さん。
結論から言えば、そのおじいさんは、
客引きでした。
私たちは、変なお店に、あやうく連れて
行かれるところでした!
しーちゃんが、お店の入り口の所で、
何か気づいたらしく、そのおじいさんが、
私たちから目を離した一瞬のスキに、
私の手を握って走り出したのです。
私たちは、カラスが飛び回る街を走って
逃げました!
今思えば、良い想い出、です。


そして、何とか目的の割烹料理のお店に
たどり着き、本当に美味しい北海道の
海の幸、山の幸を堪能できたのです。
しーちゃんが、こぼれるようなイクラを
口に運びながら言いました。
「あの客引きジジィは、この店のことを
悪く言ってたけど、やっぱ嘘だったなぁ!
マコッち、ここ、どれもスゴイ美味しい
でしょ!!」

まさに、同感でした!
あの時、あの店の入り口の前で、
しーちゃんが私の手を握って走り出して
くれて、本当に良かった……、と
思いました。


そう、ここまで、北海道旅行の良い想い出、
です。
楽しい想い出、です。
でも、人生は良いことがあれば、悪いことも
あるものですね。
良い時間が、続くって言うことは、
ないのでしょう。



私たちは、雑居ビルの2階のお店を
出ました。
そして、階段で1階まで降りて、
そのビルの前で、たまたま通りかかった
タクシーをつかまえて、ホテルまで戻り
ました。
もう、歩くつもりはありませんでした、
2人とも……。
お腹いっぱいで、歩けそうになかったのが
一つと、もう、この街を歩きたくない、
それが大きかったです、私たち若い女と
しては……。


ホテルに着くと、もういい時間になって
いました。
北海道の海の幸も山の幸も両方をたっぷり
食べて、観光地もいっぱい廻れて、
あとは、翌日の午前中に2、3箇所の
スポットを見に行って、夕方には、
空港に着いて、空港で北海道での最後の
夕食をとって、羽田空港に戻る予定です。
もう、完璧すぎる旅だ……、私は、
そう思っていました。
しーちゃんは、部屋のお風呂に入ってて、
私は、ソファーでくつろぎながら
ワインを片手にしていました……。




ちなみに、しーちゃんは、私と違い
タバコを全く吸いませんでしたから、
私たちはその4日間、禁煙の部屋でした。
旅に出かける数日前に、しーちゃんから、
「マコッち。今回の旅行中は、タバコは
禁止だからね!
私、全部のホテル禁煙部屋にしといた
からさ!
たまには、タバコから離れてみな。
で、もし出来たら、この際、タバコと
なんか縁切っちゃえ!」と言われていた
ので、私は、決意して、ライターも
タバコも自宅に置いてきていました。
「大丈夫かなぁ。我慢できるかなぁ」と
思いながら、羽田空港に向かったのを
憶えていますが、しーちゃんとの旅が、
スゴク楽しすぎて、タバコを吸いたい
とは全く思いませんでした。
強いて言うなら、タバコの『タ』の字も
頭に浮かばなかったほど、素晴らしい旅
だったのです!



しーちゃんが、
「お先にいただきましたぁ。
マコッち、いいよ、入って!
お風呂のお湯も新しく入れ替えと
いたよ~」と言いながら、洗面所から
出てきました。
かすかに、湯気がほわほわと、
しーちゃんから立ち上っています。
「かわいいなぁ」と、思いました。


続いて、私の番です。
一日の疲れをシャワーから出てくる
温かいお湯が、優しく洗い流してくれて
いるようでした。
幸せでした。
「しーちゃんが、ついさっきまで、
ここにいたんだ。裸で……」と思うと、
ちょっと恥ずかしいと言うか、反面、
嬉しくてドキドキしてしまう私でした。




ちなみに、1泊目のホテルも2泊目も
3泊目もその日の4泊目のホテルも、
それぞれ別のホテルでしたが、全て、
温泉ではなくて、しかも大浴場もない
ホテルでした。
部屋にバスルームがあるだけでした。


私は、雪子おばさんに連れられて、
よく松山市内の温泉や有名な道後にも
行っていましたから、温泉が大好きで、
「旅に行くなら温泉」また、「ホテルや
旅館泊まるなら、温泉のところでしょ、
絶対」と普通に思っていました。
でも、いざふたを開けてみると、
北海道旅行で、しーちゃんが予約してた
ホテルは全て温泉でない、しかも
大浴場すらもないホテル……。

しーちゃんに、それとなく
「今回のホテルとかって、全部、
温泉とかじゃないのかなぁ」と訊くと、
「えっ?温泉……。マコッち、温泉が、
良かったの!?
えっ、いやさ、お金は、食事とか観光に
いっぱい充てれれば良いって思ってて、
温泉とかは考えてなかったなぁ。
なんか、温泉とかって、年寄りぽっい
しさぁ。
って言うか、部屋のお風呂に、
入れればそれで十分じゃん?」と言う
答えが返ってきました。

そこが、あの北海道旅行で残念な点でし
ね。
『温泉』。
そここそ、私としーちゃんの考え方、
意見の相違点だと知りました。
しーちゃんの、あの答えを聞いた時に…。


内心、かなり、ショックでした、私は!
私としては、旅に来たからには、温泉に
入りたいのです。
それが叶わないとしても、広い大浴場で、
北海道の夜景を眺めながらお湯に、
浸りたかった……。
さらに、正直に言えば、これが、本当の
本当の本音だったのですが、
「しーちゃんのスタイル抜群の全身を
見てみたかった!」のです!!!
ずっと前から……。


実は、北海道旅行そのものも本当に楽しみ
でしたが、しーちゃんと一緒に温泉に
入って、その美しすぎる体の全てを
あますとこなく見てみたかったのです!
そのことが、密かな楽しみでした。
でも、誤解しないでくださいね。
そのことばかり考えていたわけでは、
ありませんから!

それで、そんなこと恥ずかしいし、
絶対に、しーちゃん本人には、
言えませんでしたが、それが本心でした。
旅に行く前からの……。
本当に誤解されたら嫌なので、言います
が、変な気持ちはありませんでした!
同性として、素敵な、しーちゃんの裸を
見てみたかったのです!!
温泉や大浴場に一緒に行けば、それが、
叶うかも……、と思っていましたが、
それは、叶わない夢になったのでした。
なので、実は、密かに落ち込んでいた
のです、私は。
しーちゃんには、口がさけても、
そんなこと、言えませんでしたが……。






(著作権は、篠原元にあります)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...