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第七章 継承 ~引き継がれる性被害の苦痛~
第七章 ⑤
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次の日も、その次の日も、
雪子おばさんは、顔を合わせると、
反対意見を表明・明言してきました。
もう、雪子おばさんと顔を合わせるのも
嫌でした。
内心、「もう、少しずつ、あっちに行く
準備を進めて、最悪、雪子おばさんが、
寝ているうちに、この家を飛び出そう!」
と思ってもいました。
そして、水をかけられた日から4日目。
雪子おばさんが、教会へ出かけました。
雪子おばさんが、
「今から、教会に行ってくるからね」と、
すれ違いざまに言ったので、私は、
「あっ。日曜日なんだ」と気づいたのです。
雪子おばさんとの冷戦が続き、余裕がなく、
曜日感覚さえなくなっていたんですね。
雪子おばさんの車のエンジン音が、
遠ざかっていくのを確認してから、
いつでも、家を飛び出せるようにするため
の準備を再開しました。
そして、夕方、雪子おばさんが戻りました。
私は、たまたま、自分の部屋ではなく、
台所にいたのですが、雪子おばさんの、
『普通の声』での「ただいま」と言う声が
耳に入りました。
「えっ?」と驚きました、正直。
数日間、刺々しく、冷たい声しか聞いて
いなかったのですから。
雪子おばさんは、私の方に近寄って、
笑顔で、「真子ちゃん。ちょっと、
お話があるんだけど、このあと居間で
良いかしら?」と言うのです。
「何があったの?あっ、今度は懐柔作戦か?
飴と鞭ってやつなの?」と怪しさ半分、
それから、雪子おばさんの笑顔を、
久しぶりに見れたことによる嬉しさ半分で
したが、私は素直に、雪子おばさんに
「分かった。すぐ行くから、待ってて」と
答ることができました。
何か、数日間と違う感じがします。
なので、雪子おばさんの大好物のコーヒーを
用意しました。
私が、コーヒーを片手に、居間に入って
行くと、雪子おばさんは、すでに椅子に
腰かけていました。
何か恥ずかしさと後ろめたさを感じながら
「はい。コーヒー入れたから飲んで」と
雪子おばさんの前にコーヒーカップを
置きました。
何か、私の気持ちは穏やかで、静かで、
良い感じになっていました。
雪子おばさんは、その私をじっと見て、
「ありがとうね」と言って、カップに手を
伸ばします。
私は、雪子おばさんの前に腰かけました。
雪子おばさんが、コーヒーを一口飲んで、
そして、私を見つめて言います。
「真子ちゃん。ここ数日、いろいろあった
けどね、私は本当に心配だったんよ。
今ではね、真子ちゃんだけが、ただ一人の
身寄りだからねぇ。
大切な大切な娘!
……遠く離れた神奈川の方に、一人で
行かせて大丈夫かって……。
だから、反対しっとたんよ。分かってね。
でもね、今日、教会で、みんなで
真子ちゃんのためにお祈りして
もらったんよ。
それでね、真子ちゃん、信じられる?
真子ちゃんが、行こうとしとる
そのスーパの社長さんご夫妻は
クリスチャンで、うちの先生の
奥さんのお知り合いだったんよ。
今日、奥さんと話してたら、それが
分かってね。私、安心しちゃった。
それなら、真子ちゃん、行っても
大丈夫だって!」
再び、私は、「天は私に味方した」と、
思いました。
雪子おばさんが続けます。
「だからね、真子ちゃん、もう反対は
せんわ。でもね、あっちに行ったら、
教会には毎週……、毎週がダメなら
月2度でもええから行ってほしいなぁ。
あと、時々は連絡してくるんよ」と。
私は、「分かった。雪子おばさん、
ありがとう。あと、今まで、色々失礼な
こと言ったり、やってしまって、
ごめんなさい」と言いました。本心です。
話しが終り、私は2階の自分の部屋へ
向かいました。
廊下を歩きながら、「いよいよだな。
川崎に行って、働き出して、そして、
平戸を見つけて殺してやるんだ!
真子、いよいよだぞ……!」と考えました。
でも、不思議なことに、念願の川崎行きが
確実になったことを喜ぶべきなのですが、
不安と恐れと躊躇いでいっぱいでした、
私は。
「止めたい!川崎なんか行きたくない。
ずっとここにいたい!」と叫ぶ自分が
いました。
でも、復讐の鬼は、その本心を許しません
でした。
そう、私の心は揺れていたのです。
私は、部屋で、ここ数日のことを整理
しました。
数日前に、電話で話した社長さんが、
クリスチャンだった。
そして、雪子おばさん曰く、教会で、
雪子おばさんも、その社長さんと電話で
話した。
だから、雪子おばさんは、安心して私を
送り出す気になってくれた…。
私にとっては、住み込みで働かせて
もらえる職場の社長さん夫婦が、
クリスチャンであろうがあるまいが、
関係はありませんでしたが、反対者だった
雪子おばさんが、そんな理由で、
私の川崎行きを許してくれたのですから、
ラッキーでした!
雪子おばさんと私の冷戦は終わり、
それまで通りの幾日が過ぎました。
そして、翌朝、私が松山から川崎へ向かうと
いう日の晩。
雪子おばさんは、私の荷造りを手伝って
くれました、泣きながら。
雪子おばさんは、「年に一度位は、松山に
戻って来てね。顔を見せてね」と言って
くれました。
でも、あっちで復讐を実行してしまえば、
刑務所行きの身です。
平戸を見つけられなければ、母が犯された
あの空地で、命を絶とうとしている身です。
どっちにしろ私は、雪子おばさんの元には
戻れないのです。
「ウン。分かった」と答えれず、ただ、涙を
すすりました。
雪子おばさんが泣いてるのを見ると、
こっちも泣けて来ます。
翌日、雪子おばさんが、車で松山空港まで
送ってくれました。
運転する雪子おばさんをチラッと見ました。
雪子おばさんの表情は、いつも通りに
見えました。
私はフッと思いました。
「雪子おばさんは、お母さんを妊娠させた
相手を、当時付き合っていた彼氏だと、
今でも思ってるんだろうな。
強姦犯に捕まって、妊娠させられたとは、
絶対思っていない。
雪子おばさんは、知らないで良い……、
知らないで」
自分の胸に、この事実はしまっておこう、
そして、復讐を果たそう、再度堅く
決めました。
空港に近づいたので、私は、
「雪子おばさん。ありがとう。駐車場に
入れないで、空港の前で、降ろして
もらえればいいよ」と言いました。
でも、雪子おばさんは、
「何言っとんの。一緒に行くわ!
最後のところまで行って、ちゃんと
お見送りするわ」と答え、駐車場に車を
入れ、私について空港に入ってくれ
ました。
スーツケースを預けて、搭乗手続きも
済ませて、私たちは保安検査場の前に
立ちました。
その時、雪子おばさんが、周囲をはばかる
ことなく、両腕で私をガシッと抱きしめて、
こう言ってくれました。
「真子ちゃん。どんなことがあっても、
私は真子ちゃんの味方だよ!
いつも、真子ちゃんのためにお祈り
しとるからね!何かあったら、いつでも、
戻ってきてええんよ!私の家はね、
真子ちゃんの家でもあるんだからね!!」。
私は嬉しかった!
そのまま雪子おばさんと一緒にいたい、
やっぱり、川崎行きを取りやめたいと、
思いました、一瞬。
「ヤバい!!このまま雪子おばさんの
愛に触れてたら、自分がオチる」
そう思って、私は、「雪子おばさん。
そろそろ保安検査行って、搭乗口に、
行かないといけないから……」と言い、
雪子おばさんの手をほどきました。
その私をじっと見つめ、雪子おばさんは、
「元気でね。お祈りしとるからね」と、
言います。
目が、真っ赤でした。
私は、「雪子おばさんもお元気で」と言い、
保安検査場の中に入って行きました。
もう後ろを振り向きはしませんでした、
あえて。
でも、雪子おばさんが、ずっと私を
見つめているのをヒシヒシと感じました。
あの時、後ろを振り向いたら、
雪子おばさんが立ってたことでしょう、
絶対。
保安検査場を進みながら、雪子おばさんに
見られていないので、私は思いっきり
泣きました。声は我慢しましたが、
涙が零れ落ちます。
職員の人たちの目が気になりましたが、
どうしようもありません!
自分は、このあと平戸を見つけ出して、
復讐の手を下す。
もし、復讐ができなければ自分で命を
絶つ…。
だから、雪子おばさんに、もう会うことは
ないであろうという、寂しさの涙、でした。
「雪子おばさんの所に、今からでも走って
戻りたい!
すべてを告白して、楽になろう」と、
心のどこかで思いました。
でも、私はその声を抹殺しました。
私は思います。
あの時、飛行機のチケットを投げ捨てて、
保安検査場を逆戻りして、空港の
ロビーに立つ雪子おばさんの元に戻って
いれば……。
そして、母のことも自分の出生の秘密も
ありのまま、告白できていれば……。
そうすれば、雪子おばさんは、両腕で私を
抱きしめ、一緒に泣いて、お祈りして
くれたことでしょう!
私の人生も変わっていたはずなのです。
でも、その時、私には勇気がなかった
のです。
心の声に、従う勇気が。
だから、雪子おばさんの方に、
向きを変えることができなかった。
そして、そのまま、歩を進めたのす。
飛行機に乗り込み、しばらくして、
「扉が閉められました」と言う
アナウンスが流れた時、私は、ホッと
しました。
「これで、もう引き返せない。
このまま私は、羽田に行くんだ!
川崎市に行けるんだ!」と。
離陸した飛行機の中から
見下ろす瀬戸内海……。
自分とは違って、本当に美しいと、
思いました。
海では、ある船が、ある船を追いかけて
いるように見えました。
実際には、そうではないはずですが、
飛行機の中から見ると、そう見えるのです。
私は、ふっと思いました。
義時に追われて あの日 人生を滅茶苦茶に
された自分が、あの夜 父に追われて、
父に犯された母の無念を果たすべく、
平戸の消息を追うことになっている。
ヤツを殺すために!
人は誰かに追われ、また、誰かを追う
生き物だ……、と。
(著作権は、篠原元にあります)
雪子おばさんは、顔を合わせると、
反対意見を表明・明言してきました。
もう、雪子おばさんと顔を合わせるのも
嫌でした。
内心、「もう、少しずつ、あっちに行く
準備を進めて、最悪、雪子おばさんが、
寝ているうちに、この家を飛び出そう!」
と思ってもいました。
そして、水をかけられた日から4日目。
雪子おばさんが、教会へ出かけました。
雪子おばさんが、
「今から、教会に行ってくるからね」と、
すれ違いざまに言ったので、私は、
「あっ。日曜日なんだ」と気づいたのです。
雪子おばさんとの冷戦が続き、余裕がなく、
曜日感覚さえなくなっていたんですね。
雪子おばさんの車のエンジン音が、
遠ざかっていくのを確認してから、
いつでも、家を飛び出せるようにするため
の準備を再開しました。
そして、夕方、雪子おばさんが戻りました。
私は、たまたま、自分の部屋ではなく、
台所にいたのですが、雪子おばさんの、
『普通の声』での「ただいま」と言う声が
耳に入りました。
「えっ?」と驚きました、正直。
数日間、刺々しく、冷たい声しか聞いて
いなかったのですから。
雪子おばさんは、私の方に近寄って、
笑顔で、「真子ちゃん。ちょっと、
お話があるんだけど、このあと居間で
良いかしら?」と言うのです。
「何があったの?あっ、今度は懐柔作戦か?
飴と鞭ってやつなの?」と怪しさ半分、
それから、雪子おばさんの笑顔を、
久しぶりに見れたことによる嬉しさ半分で
したが、私は素直に、雪子おばさんに
「分かった。すぐ行くから、待ってて」と
答ることができました。
何か、数日間と違う感じがします。
なので、雪子おばさんの大好物のコーヒーを
用意しました。
私が、コーヒーを片手に、居間に入って
行くと、雪子おばさんは、すでに椅子に
腰かけていました。
何か恥ずかしさと後ろめたさを感じながら
「はい。コーヒー入れたから飲んで」と
雪子おばさんの前にコーヒーカップを
置きました。
何か、私の気持ちは穏やかで、静かで、
良い感じになっていました。
雪子おばさんは、その私をじっと見て、
「ありがとうね」と言って、カップに手を
伸ばします。
私は、雪子おばさんの前に腰かけました。
雪子おばさんが、コーヒーを一口飲んで、
そして、私を見つめて言います。
「真子ちゃん。ここ数日、いろいろあった
けどね、私は本当に心配だったんよ。
今ではね、真子ちゃんだけが、ただ一人の
身寄りだからねぇ。
大切な大切な娘!
……遠く離れた神奈川の方に、一人で
行かせて大丈夫かって……。
だから、反対しっとたんよ。分かってね。
でもね、今日、教会で、みんなで
真子ちゃんのためにお祈りして
もらったんよ。
それでね、真子ちゃん、信じられる?
真子ちゃんが、行こうとしとる
そのスーパの社長さんご夫妻は
クリスチャンで、うちの先生の
奥さんのお知り合いだったんよ。
今日、奥さんと話してたら、それが
分かってね。私、安心しちゃった。
それなら、真子ちゃん、行っても
大丈夫だって!」
再び、私は、「天は私に味方した」と、
思いました。
雪子おばさんが続けます。
「だからね、真子ちゃん、もう反対は
せんわ。でもね、あっちに行ったら、
教会には毎週……、毎週がダメなら
月2度でもええから行ってほしいなぁ。
あと、時々は連絡してくるんよ」と。
私は、「分かった。雪子おばさん、
ありがとう。あと、今まで、色々失礼な
こと言ったり、やってしまって、
ごめんなさい」と言いました。本心です。
話しが終り、私は2階の自分の部屋へ
向かいました。
廊下を歩きながら、「いよいよだな。
川崎に行って、働き出して、そして、
平戸を見つけて殺してやるんだ!
真子、いよいよだぞ……!」と考えました。
でも、不思議なことに、念願の川崎行きが
確実になったことを喜ぶべきなのですが、
不安と恐れと躊躇いでいっぱいでした、
私は。
「止めたい!川崎なんか行きたくない。
ずっとここにいたい!」と叫ぶ自分が
いました。
でも、復讐の鬼は、その本心を許しません
でした。
そう、私の心は揺れていたのです。
私は、部屋で、ここ数日のことを整理
しました。
数日前に、電話で話した社長さんが、
クリスチャンだった。
そして、雪子おばさん曰く、教会で、
雪子おばさんも、その社長さんと電話で
話した。
だから、雪子おばさんは、安心して私を
送り出す気になってくれた…。
私にとっては、住み込みで働かせて
もらえる職場の社長さん夫婦が、
クリスチャンであろうがあるまいが、
関係はありませんでしたが、反対者だった
雪子おばさんが、そんな理由で、
私の川崎行きを許してくれたのですから、
ラッキーでした!
雪子おばさんと私の冷戦は終わり、
それまで通りの幾日が過ぎました。
そして、翌朝、私が松山から川崎へ向かうと
いう日の晩。
雪子おばさんは、私の荷造りを手伝って
くれました、泣きながら。
雪子おばさんは、「年に一度位は、松山に
戻って来てね。顔を見せてね」と言って
くれました。
でも、あっちで復讐を実行してしまえば、
刑務所行きの身です。
平戸を見つけられなければ、母が犯された
あの空地で、命を絶とうとしている身です。
どっちにしろ私は、雪子おばさんの元には
戻れないのです。
「ウン。分かった」と答えれず、ただ、涙を
すすりました。
雪子おばさんが泣いてるのを見ると、
こっちも泣けて来ます。
翌日、雪子おばさんが、車で松山空港まで
送ってくれました。
運転する雪子おばさんをチラッと見ました。
雪子おばさんの表情は、いつも通りに
見えました。
私はフッと思いました。
「雪子おばさんは、お母さんを妊娠させた
相手を、当時付き合っていた彼氏だと、
今でも思ってるんだろうな。
強姦犯に捕まって、妊娠させられたとは、
絶対思っていない。
雪子おばさんは、知らないで良い……、
知らないで」
自分の胸に、この事実はしまっておこう、
そして、復讐を果たそう、再度堅く
決めました。
空港に近づいたので、私は、
「雪子おばさん。ありがとう。駐車場に
入れないで、空港の前で、降ろして
もらえればいいよ」と言いました。
でも、雪子おばさんは、
「何言っとんの。一緒に行くわ!
最後のところまで行って、ちゃんと
お見送りするわ」と答え、駐車場に車を
入れ、私について空港に入ってくれ
ました。
スーツケースを預けて、搭乗手続きも
済ませて、私たちは保安検査場の前に
立ちました。
その時、雪子おばさんが、周囲をはばかる
ことなく、両腕で私をガシッと抱きしめて、
こう言ってくれました。
「真子ちゃん。どんなことがあっても、
私は真子ちゃんの味方だよ!
いつも、真子ちゃんのためにお祈り
しとるからね!何かあったら、いつでも、
戻ってきてええんよ!私の家はね、
真子ちゃんの家でもあるんだからね!!」。
私は嬉しかった!
そのまま雪子おばさんと一緒にいたい、
やっぱり、川崎行きを取りやめたいと、
思いました、一瞬。
「ヤバい!!このまま雪子おばさんの
愛に触れてたら、自分がオチる」
そう思って、私は、「雪子おばさん。
そろそろ保安検査行って、搭乗口に、
行かないといけないから……」と言い、
雪子おばさんの手をほどきました。
その私をじっと見つめ、雪子おばさんは、
「元気でね。お祈りしとるからね」と、
言います。
目が、真っ赤でした。
私は、「雪子おばさんもお元気で」と言い、
保安検査場の中に入って行きました。
もう後ろを振り向きはしませんでした、
あえて。
でも、雪子おばさんが、ずっと私を
見つめているのをヒシヒシと感じました。
あの時、後ろを振り向いたら、
雪子おばさんが立ってたことでしょう、
絶対。
保安検査場を進みながら、雪子おばさんに
見られていないので、私は思いっきり
泣きました。声は我慢しましたが、
涙が零れ落ちます。
職員の人たちの目が気になりましたが、
どうしようもありません!
自分は、このあと平戸を見つけ出して、
復讐の手を下す。
もし、復讐ができなければ自分で命を
絶つ…。
だから、雪子おばさんに、もう会うことは
ないであろうという、寂しさの涙、でした。
「雪子おばさんの所に、今からでも走って
戻りたい!
すべてを告白して、楽になろう」と、
心のどこかで思いました。
でも、私はその声を抹殺しました。
私は思います。
あの時、飛行機のチケットを投げ捨てて、
保安検査場を逆戻りして、空港の
ロビーに立つ雪子おばさんの元に戻って
いれば……。
そして、母のことも自分の出生の秘密も
ありのまま、告白できていれば……。
そうすれば、雪子おばさんは、両腕で私を
抱きしめ、一緒に泣いて、お祈りして
くれたことでしょう!
私の人生も変わっていたはずなのです。
でも、その時、私には勇気がなかった
のです。
心の声に、従う勇気が。
だから、雪子おばさんの方に、
向きを変えることができなかった。
そして、そのまま、歩を進めたのす。
飛行機に乗り込み、しばらくして、
「扉が閉められました」と言う
アナウンスが流れた時、私は、ホッと
しました。
「これで、もう引き返せない。
このまま私は、羽田に行くんだ!
川崎市に行けるんだ!」と。
離陸した飛行機の中から
見下ろす瀬戸内海……。
自分とは違って、本当に美しいと、
思いました。
海では、ある船が、ある船を追いかけて
いるように見えました。
実際には、そうではないはずですが、
飛行機の中から見ると、そう見えるのです。
私は、ふっと思いました。
義時に追われて あの日 人生を滅茶苦茶に
された自分が、あの夜 父に追われて、
父に犯された母の無念を果たすべく、
平戸の消息を追うことになっている。
ヤツを殺すために!
人は誰かに追われ、また、誰かを追う
生き物だ……、と。
(著作権は、篠原元にあります)
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