追う者

篠原

文字の大きさ
上 下
52 / 278
第六章  受難~母の死より15年前の記憶~

第六章 ⑪

しおりを挟む

~ここからは、峯子の娘真子の回想。~




母の手紙を、目を真っ赤にし、
全身震えながら読む、私。

途中から過呼吸の状態になりました。
荒い息を吐きながら、必死に耐え、
読み終えました。


もう途中で、大声で叫んで、
母の手紙を破り捨てたくもなりましたが、
真実を知りたいの一心が強く、
私は、懐かしい母の小さな字を、
必死に追い続けていました。



読み終えた私は、怒りと悔しさ、
そして、他にも言い表せない感情の
渦ゆえに立ち上がり、大声で叫びました。
もう発狂そのもの、です。


知りたくない事実を知ってしまった。
突きつけられてしまった、衝撃の真実!!

大声でわめきながら、その母の手紙、
母の受難の記録、結局、母が大伯母に
送ることのできなかった紙の束を、
ひたすら破りまくりました!!

それこそ、この世から消し去るごとく、
細かく細かく破って破りました!
気がづいたら、私は、床に座り込み、
汗でびしょびしょでした。
床には、私が破りまくった紙の切れ端が、
散乱しています。


私は、ハッと気づきました。
冗談抜き、着ているシャツが、
真っ赤なのです。
何が起こったのか、分かりませんでした。
フラフラと洗面所に向かって、
自分の顔を鏡で見ました。


私の目は充血しきっていて、そして、
唇からは血が流れていました。
手紙を読んでいる最中に、激怒ゆえに、
歯で唇をきつく噛みしめていたのだと、
気づきました。
だから、唇が切れて出血していたのです。
それほど、私はショックでしたし、
怒りの焔が私の内で燃え上がっていたのです。


私は、決心して、すぐに実行に移しました。
一心不乱に破り刻んだ、あの紙等は絶対に
雪子おばさんに見せないと!
あれは、誰にも見られてはいけないもの
だと思いました。
誰にも見られてはいけない、自分と母だけで
しまっておくべき秘密だと!!
なぜなら、私のとんでもない出生の秘密が
書かれていたのですから!!


私は、急いで、ほうきと塵取りを取りに
行きました。
そして、大急ぎで、無言で、あの大量の紙の
切れ端などを集めました。
それから、トイレに流したのです!

私は、トイレの水で流されて一瞬に消えて
いったあの母の記録の紙等のように、
自分も消えていきたいと、本気で、
そう思いました。
トイレに立ち尽くしながら……。


なぜなら、私は、強姦犯の娘だったのです!
私を産んだ母は、強姦された女性
―被害者―だったのです。
私は、望んで生まれて来た人間では、
なかった……。
今まで、全く想像もしなかったことが、
私の事実だったのです。
その重い事実を、しかも母の死の直後に、
知ってしまった!!
あまりにも酷く、苦しい、事実でした。

中学生の女子である私が背負うには
あまりにも大きすぎる衝撃の真実……。


私の父は、強姦事件の犯人。
それも、一人や二人ではなく、多くの
若い女性を襲って性欲を満足させる
卑劣なクソ男!

そして、母はその事件に巻き込まれた
被害者の一人であり、妊娠してしまった
私を殺す、もしくは、売るつもりで、
産んだ人なのです。



中学3年生の私は、自分のことを、
とてつもなく汚れた存在だと思いました。
それまで、男子と付き合ったことは
一度もなく― 生男との恋愛ごっこ
みたいなのは除外しますから―、
また、男子と『そう言う関係』を
もったこともありませんでした。
だから、私は自分のことを汚れている
とは、一度たりとも考えたことが
ありませんでした。

当然です。
だって、私は、男子に近づけなかった
のですから。
また、私の態度や言動ゆえに、
好き好んで近寄ってくる男子も
皆無でした。
思春期の私にとって、男子は、
生男のように裏切る生き物、また、
義時のように女を苦しめる生き物、でした。
警戒心を持ちまくっていましたから、
近寄ってくる男子がいないのも当然だと、
今なら分かります。
確かに、年頃の女子ですから、恋愛そのもの
には憧れがありました。
でも、男と女の営みのことを考えるだけで、
私は悪寒が走りました。
同い年の女子たちは、キャーと声を上げ、
『そう言う話』に花を咲かしていましたが、
私は考えるだけでも―男と女が付き合った
結果にある性的関係を―、
ゾッとしていたのです。

クラスの中には、そのような関係があると
噂されているカップルもいましたし、
友達同士で『彼氏との関係』を
自慢している子たちもいました。
でも、私はついていけなかった!
良い子ぶっているわけではありません!
ただ、ありえないのです!!
私にとって、そんなこと、
絶対に出来ないことです!!
あの義時に追いかけまわされ、挙句の
果てに、みんなの前で押し倒された
あの悪夢のような記憶はずっと私に、
残っていました。

だから、普通の女子たちが考えるような
ことを考えるだけで、ゾッとして、
気持ち悪くなるのです。

みんなのように男子と付き合い、そして、
親密な仲になったら、そう言う関係に
発展していく……。
そして、男子に身体を触れられ、裸の男子が
自分の上に……、そこまで考えるだけで、
叫び出しそうになるのでした。
他の女子は真っ赤になるでしょうが、
私は青ざめてしまうのです。
あの日 義時に押し倒されたあの記憶が、
そこで私を襲ってくるからです。
そんな私です。
男子との付き合いもなく、と言うより、
付き合えないので、勉強に専念して、
ただ真面目に学生生活に励んでいると言う
自負がありました。
それが、私の支えでもありました。
恋愛が出来ないけど、成績は上々。
男子から声はかからないけど、時々、
女子たちから勉強のことで相談を受ける…。



でも、そんな私の自負、誇りも、一瞬で、
打ち砕かれました。
自分は、あの子よりも、
あの問題児よりも……、
汚らわしい女だったんだと!!
非情に非常にショックでした。
自分の価値が、中学の全生徒の中で、
一番最低になったように思いました。

なぜなら、クラスの派手な女子たちを
見ながら、「私の中には汚らわしい男の血
なんて一滴も入ったことがないわ」と、
思っていたこの自分の体内にこそ、
まさに、多くの女性の敵である、
強姦犯の血が流れ続けていたのです、
ずっとずっと!!
そして、その強姦犯のDNAを自分は、
完全に引き継いでしまっているのです!


頭をガンガン叩かれているような痛み、
そして息苦しさを感じてきました。
私は、布団を敷いて、布団に、
倒れ込みました。
居間のテレビが目に入りました。
その瞬間、私は本当に、ハッと、
口から出していました。
本当に、ハッとすると、口から言葉として、
「ハッ」と出るものなのですね、私は、
その時知りました、このことを。
私は、気づいてしまったのです。
ある恐ろしいことを……。


それは、母を辱め、母を苦しめた、あの男、
つまり私の父こそ、私が屈辱的体験をした 
あの日 に、交通事故で死亡した人物である
と言うことでした……。

あの日 、私は小学校3年生でした。
そして、義時に追いかけまわされ、
クラスメイトや上級生達が見る前で、
失禁してしまったのです。
その同じ日に、私達の住むいすみ市で、
交通死亡事故が発生していました。
その事故で、死んだ男こそ、
クソ男の父だったのだと、
私は気づいてしまったのです、
電源の切れたテレビを目にして……。


あの事故で死亡した男の特徴は、
まさに長身、銀髪、眼帯でした。
そして、所持品の中には、若い女性の
全裸写真複数枚がありました。


私は、あの頃テレビをずっと見ていたので、
鮮明に色々なことを思い出しました。
そして、点と点が結ばれたのです、
私の中で。


私はフッと思いました。
母が成し遂げることのできなかった
復讐が あの日 果たされたのでは……と。
なぜなら、その一日のうちに、母を辱め、
母を犯し、母を奈落の底に突き落とした、
最悪のクズ男は車に轢かれて死んだのです。
そして、その娘は、学校の皆の前で、
とんでもない恥をさらしたのです!


私は、本当に、亡くなった母が不憫で不憫で
しょうがなく思えました。
看護師を目指して頑張っている若い日に、
突如として見知らぬ男に捕まり、
純潔を奪われ、そして、その男の子どもを
妊娠させられてしまったのです!
その最低なクズ男の娘として、
奥中峯子―母―に、申し訳ない気持ちで
いっぱいになりました。

……その時も、そして、今もそうですが、
私は、母には感謝しかありません。
そして、何よりも、感嘆です。
私は、布団に倒れたまま、
「お母さん……。スゴイ人だったんだ」と
つぶやきました。
母のことを、本当にスゴイ女性だと、
思いました。
自分をレイプして妊娠させた凶悪な強姦犯の
娘を育ててくれたのです。
真心からの愛情を持って、一心に。


胎内にいた私を殺してて当然なのに、また、
産んでからどんな目に遭わせても当然な
くらいなのに、母は私を育ててくれた……。
私は考えました。
「もし私が、お母さんの立場なら……」と。
答えはすぐに出ました。
「絶対、殺す!!お母さんのように、
情け容赦をかけることなく、切り刻んで、
自分を犯した男の娘なんか殺す!!」と。





(著作権は、篠原元にあります)

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

処理中です...