追う者

篠原

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第六章  受難~母の死より15年前の記憶~

第六章 ⑥

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私は震えながら、そして、必死に震えを
抑えながら、近所の薬局に入り、ソレを、
初めて購入しました。

すぐに、トイレに駆け込み、調べました。
雪子伯母さん。
結果を見て、私は、底辺から、
さらに地獄の深みに落ちて行くような、
そんな気持になりました。

私は、妊娠していたのです!
伯母さん、私はショックで死にそうでした。
あいつにあの夜弄ばれ、そして、それまで、
どんな男の人にも見せたこともなかった、
全裸を撮られ、人間としての尊厳を全部
踏みにじられ、しかも、あの悪魔の
子どもを宿らされてしまったのですから!


トイレを出て、絶望感と怒りに満ちながら
フラフラと歩く私は、考えました。
「タイムスリップできるなら、あの日、
居酒屋に行こうとする自分を
絶対に止める!」と。

居酒屋へと向かう過去の自分に、
「行くな!行ったら、そのあと、
あなたはとんでもない事件に、
巻き込まれるんだよ!」と教えてあげたい、
そう切に、本当に思いました。

あと、「居酒屋を出ようとする自分に、
言っても良いんだ!」とも思いました。
居酒屋を出ようとしている過去の自分に、
こう宣言すれば良いのです。
「トイレに行きなさい!
そうでないと大変なことになるよ!」と。

あの当時の私は、後悔していました。
「何で、トイレに行かなかったの?!
カッコなんかつけて、こんなことに、
なっちゃうなんて……」と、どんなに
後悔したことでしょう。
帰り際、親友の一人が「家まで遠いでしょ。
トイレ行ってから、駅に向かったら?」と、
言ってくれたのです。
私も「トイレ行っておこうかな?」とは、
思っていたのです、席を立ちながら。
でも、みんなの前で最初に、
そう言われてしまい、それで、
「うん。行ってくる」と言って、トイレに
向かったら、何か子どもっぽいかな……と、
考えてしまったのです。
そして、カッコつけて、
「大丈夫だから。またね」と言って、
店を出てしまったのです。
あの時、変なこと考えずに、トイレに、
ちゃんと行っていたなら、人生は、
かなり違うものだったことでしょう!



とにかく、妊娠の事実を突きつけられ、
私はもう悔しくて悔しくて、
死んでしまいたいほどでした。
それに、あのクソに暴行された
あの夜のこと、私の上にのしかかり、
うめき声を上げながら私を犯す鬼畜の姿は、
デジャヴとなっていつまでも私を襲って
来ていました。
もう、忘れたいけれど、忘れられない!
妊娠が分かるまでも、死の毎日でした。
でも、妊娠に気づいてしまい、さらに、
どんなに惨めになり、苦しく悶えた
ことか……!!


雪子伯母さん!
強姦犯どもが、この世界に何万、何十万と
いるでしょうけれど、そいつらは、
殺人犯よりも、悪いです!
女に一生、傷と怒りと悲しみと苦しみを
負わせ続けるのですから、しかも、
自分の一時的な性欲だけのために!
そして、奴らは、自分は、のほほんと
生き続けるのでしょう。
ほとんどの女性は、私のように、
警察に行けませんから!
強姦犯の悪魔共は、全員、死に値します!



それで、雪子伯母さん。
私は、あの夜のことを忘れたいのに、
忘れられない。
いつ、デジャヴが襲ってくるか、
分からない、悪夢の日々。
それだけでなく、悪魔の子を宿して
しまった……。
すぐに、堕そうとしたと、思いますか?
違います。
私は、悪魔の子を堕すつもりは、
本当に全くありませんでした。


妊娠の事実を知った日に、私は、
決めました。
堕胎なんかしてやるものかと!
生まれてきた後に、あのクソの分も、
苦しめて殺してやろうとか、
または、悪趣味の男たちに売り飛ばして
やろうと、本気で考えました。
今思えば恐ろしいですが、平気で、
こんなことをいつも考えていました。


当時の私は、それこそが、あの鬼畜の子に、
ふさわしいとだとしか思えませんでした。
それほど、あのクソが憎かった!
と言うより、あのクソ野郎のことなんか、
考えたくも思い出したくもないのに、
悪魔の子が、体内にいるのです!
もう、早く外に出して、思う存分、
痛めつけてやりたかった!!!


純潔を奪われ、汚されてしまい、
強姦犯の子どもを身ごもってしまった
私は、看護師の夢を諦めました。
「人を生かす」看護師ではなく、
「三人を殺す」殺人者として、
私が為すべきことをなして、
その後に、死のうと決めたのです。
私は、専門学校を中退しました。
生きる環境も、色々な意味で変えました。


そして、あのクズと男子高生平戸、
あとは、悪魔の子に復讐するために、
生きることを決意して、一歩を
踏み出しました。
物騒な話しですけど、人を殺す方法を
本や雑誌で調べました。
妊娠を知る前にもかすかに
「あいつらを殺してやりたい」と、
思っていました。
でも、妊娠の事実を知り、復讐を誓って、
学校を中退してからは、本気でした。
殺すために、出刃包丁を買いに行きました。
ドキドキしましたが、普通に買えたのを
思い出します。


毎日、帽子を深くかぶり、マスクをして、
アパート周辺を歩き回りました。
悪魔野郎や平戸を捜して、バックには、
包丁を忍ばせて、歩きました、
何か月も……。雨の日も晴れの日も!
ですが、2人を見つけることは、
結局できなかった。


そして、そうこうしているうちに、
私は、ひどいつわりに苦しむように、
なりました。
もう、外に出るのも大変になります。
お腹も大きくなります。
堕すことができなくなってから、
私は後悔しました。
悪魔の子どものために、こんなに、
苦しむ必要なんてなかったと、
後悔しました。
時すでに遅しですが。
「すぐに堕しておけば良かった!」と、
真剣に思いました。

でも、もうどうしようもないので、
とにかく耐えました。
鬼畜米英とクソ平戸を捜すのは中断して、
ただ、悪魔の子どもを殺す、良い方法を、
色々と思索しました。
クズやクソ平戸は見つからないかも
しれませんが、鬼畜の子どもは、
私の前から絶対に逃げられません。
生まれてきたら、苦しめに苦しめて
やろうと、毎日そればかり考えました。


そんな頃、私は雪子伯母さんに、
手紙を書きました。憶えていますか?
学校を中退したこと、妊娠したことを、
雪子伯母さんに伝えましたね。
手紙には、子どもの父親は別れた彼氏で、
彼氏とは別れたけど、自分一人で、
育てるつもりだ……とか書いたはずです。
嘘八百の手紙を書きました。
雪子伯母さん、ごめんなさい。
でも私は、本当のことを書きたく
なかったのです。
恥ずかしかった。
怖かった。
今でも、恥ずかしいのです。
こんなこと書きたくないし、
もしかしたら、書き終えても、
雪子伯母さんに、
結局出せないかもしれません。




学校にも行かずに、わざと、
産婦人科の先生の言われることを無視し、
今まで飲まなかったお酒も飲み、
タバコも吸うようになり、私は、
呪いの子を殺す日を楽しみに、
過ごしていました。
その日を思えば、つわりも苦ではないとも、
言えました。
貯金や両親の事故の保険金を、
無駄遣いして、怠惰な日々を過ごして
いました、あの頃は。



そして、5月に、私は出産を迎えました。
結婚していない、一度も男性と、
愛し合ったこともない、ただ一度、
強引に純潔を奪われてしまっただけ、
それで出産。
自分の人生が本当に世界一惨めに、
思えました。分娩室に向かいながら。


私としては、一日も早く手に取って、
悪魔の子を惨殺したいのです。
病院の病室で、待ちました、陣痛を。
早く産まれてきてほしいのに、
予定日より1週間も遅く産まれて
きました、悪魔の娘は!!
「この子、自分が、殺されようと
してるの分かってて、
出てこないのかしら?」とも思いました。



産まれた子が女の子と聞いて、
私は本当に本当に本当に嬉しかった。
元気と聞いて、心底嬉しかった。
これで、自分が手を下せるんだから。
女の子なんだから、ある年齢まで育て、
いつかクズな男たちに売り飛ばして、
私以上に辛い悲惨な目に遭わせてやろう。
私は、元気な女の子と聞いて、
こう考えました。


でも、本当に大変でした。
雪子伯母さん、復讐のための出産は!
もう2度としたくありません。
予想以上の苦しみ、その連続です。


思わず叫んでしまいました。
「帝王切開にしてッ!!
苦しいから、早く帝王切開にして!!」と。
でも、周りの看護師さんたちは、
こう言って私を諫めてくるのです。
「何言ってんの!赤ちゃんも、
頑張ってるのよ!もう少しだから、
あなたも頑張って!
はい、いきんでっ!!」と。

私は、「ザケんな!違う!!!
私の子なんかじゃない!
私は、ある日、突然犯されたの!
今、産まれようとしているのは、
その強姦犯の子よッ!!!」と、
言い返したかったのですが、
もう叫ぶ余裕も気力も、
なくなるほどの激痛、最悪の辛さでした!


もう、必死でした、まさに、
死ぬかと思いました。
「このまま死ねば、楽になれる。
もう、悪魔のことで苦しまなくても
済むんだ」とも思いました、分娩台上で。

正直、出産は最悪の精神状況で、
深夜に、最悪の環境下で行われました。



出産後、「この、呪われた女を
どうしてやろうか?どうすれば、
一番苦しむだろう?」
そう考えながら、私は、看護師さんの手前、
悪魔の娘を抱きました。
心底抱きたくなかったです、本音は。
正直、まったく、かわいいとか、
小っちゃいとか、思いませんでしたね。



(著作権は、篠原元にあります)
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