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 翌朝はとても良い天気だった。私の好きなスカイブルー。雲一つない、抜けるような青空だ。

(今頃、私は父の腕を取りパトリックの待つ祭壇へ歩いているのでしょうね)

 ステンドグラスが美しい古い王宮教会。上位貴族の招待客が大勢参列する前で愛を誓いキスを交わした後、フラワーシャワーを浴びながら皆に祝福されていることだろう。
 そして午後からは結婚披露パーティーだ。パトリックの実家であるボルトン公爵邸に場所を移し、挙式に参列してくれた上位貴族に加え下位貴族や学友も呼んで賑やかに行う予定だった。当然、キムにも招待状は送ってあった。

(だからこれから私はキムとして参加するの)

 良い酒がたくさん飲めると期待して上機嫌のラッセル男爵にエスコートされながら、私は招待状を手にボルトン公爵邸へ向かった。

 大広間にはたくさんの紳士淑女が集まり、立食の食べ物も豪華で華やかだった。そう、これらの準備もパトリックのお母様と一緒にあれこれ考えたのだ。最高の食材を使った各地の珍しい料理、手の込んだスイーツ。招待客に喜んでもらいたくて選りすぐった。まさか自分が客側になるとは思っていなかったけど。

 やがて、主役の登場がアナウンスされパトリックと『私』が入って来た。紺色のタキシードを着たパトリックの姿は遠くからでもよくわかる。とても背が高く逞しい身体に漆黒の髪と深い青の瞳を持つ彼は本当に美しい。横にいる『私』のドレスはパトリックの瞳の色に合わせた深く濃い青だ。ビスチェタイプにして上半身を細く見せ、腰からはドレープをたくさん取りふんわりと広がるスカートにしてウエストを強調した。彼の隣にいれば背が高い私でも華奢に見えると期待していたが、こうして並んだ姿を見るとまさにその通りだった。

「何て麗しい若夫婦でしょう」

「二人ともスラリとした長身で、素晴らしいわ」

 客達の話し声が聞こえてきた。褒められて嬉しい気持ちと、それをこんな所で聞いている辛さが綯い交ぜになって複雑な気分だ。

 パトリックと『私』は会場内を回り、いろいろな人に挨拶している。まずは王族の方々、そして身分の高い方々に声を掛けていくので、ここまで来るには時間がかかるだろう。ラッセル男爵はシャンパンを何杯も呑んで、既にご機嫌のほろ酔いだ。

「キム、ここにいたの」

 後ろから肩を叩かれ振り向くと同級生のカミラ・アボットがいた。

「凄いわねえ、このパーティー。さすが公爵家ね」

 カミラもシャンパンを手にしていた。

「料理も凄いわよ。あなたももう食べた?」

「ええ、そうね……」

 もちろん、たくさん試食して美味しいものを揃えたのだから味はわかっている。

 シャンパンをクイっと口に流し込んだカミラは主役二人を見つめ、ため息をついた。

「いいわねえ、キャンディス。あのパトリック様を射止めたのだもの。伯爵家から公爵家へ嫁ぐなんて玉の輿だわ。私も選ばれたかったわあ」

 通りがかった給仕にグラスを返し、また新しいグラスを手に取る。

「随分大人しいじゃない、キム。いつもならキャンディスへの毒舌が止まらないとこなのに」

 私はギクっとした。キムは、私のことを良く思っていなかったのだろうか。

「そ、そうだったかしら?」

「そうよお。あなたもパトリック様のこと好きだったんだから気持ちはわかるけどね。でもこうして夫婦になってしまったんだからもうあなたの入る隙間はないわよ。いい加減諦めて、ちゃんと祝福しなさいね」

 鼓動が速くなる。キムは、私の結婚を良く思っていなかったとしたら。
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