銀色の恋は幻 〜あなたは愛してはいけない人〜

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
6 / 53

6 後宮への誘い

しおりを挟む

「リンファ。ワンユンさんの所へこの品を届けておくれ。急いでね」
「はあい、奥様」

 十四歳になったリンファはガクの見立て通り美しく成長した。フォンファの二人の子供たちの面倒も見ながら店の手伝い、家事の手伝いもテキパキとこなし、すっかり看板娘となっていた。

「リンファちゃんをうちの息子の嫁にくれないか」

と言う申し出は引きも切らないが、ガクはすべて断っていた。

「悪いけど、あの子は後宮に行かせようと思ってるんでね」

 成人した王の後宮を若く美しい女性で満たすために、各地から娘たちが集められていた。一般人でも美しい娘は下女として雇われる。その給料は高く、庶民の憧れだ。

「なかなか、我ら庶民から選ばれる下女は少ないけどねえ。うちの隣の家のメイメイ、あの子は面接で落とされてたから。まあでも、リンファちゃんなら大丈夫だよ。あの可愛さに気立の良さ、それに仕事も家事も子守りまでできるんだから」

 フォンファは、リンファを褒められて悪い気はしない。

「まあね。あの子が来てからうちの店は大きくなる一方だし、福の神じゃないかって思ってるのよ」

 その時、役所に品物を届けに行っていたガクが走って戻ってきた。

「おいフォンファ! ついに来たぞ! 役人に言われたよ。『お前のところの娘は美しいと評判らしいな。後宮の面接に行ってみないか』ってさ!」
「まあ! ガク、ホントに? やったわね」
「そうとも。自薦の場合はなかなか狭き門だが、向こうから言ってきた場合はほぼ確実に受かるというからな。早速明日が面接だ。リンファはどこだ?」
「今、お遣いに行ってるわ。帰ったらお湯を使わせて綺麗にしてやらなくちゃ」

 店の店員も客もみんなが大騒ぎしているところへ、リンファが帰ってきた。

「ただ今帰りました、奥様。あ、旦那様も、お帰りなさいませ」

 みんなの目が一斉にリンファへと集まった。

「あら、な、なんですか……?」

 キョトンとするリンファの手をフォンファが引いて店の裏に連れて行く。

「こっちこっち、リンファ。ちょっと話があるのよ」
「えっ、奥様、お遣いのお金をしまわないと……」
「後でいいから。さ、ガクの話を聞くのよ」

 店の裏とガクの家は繋がっていて、居間ではガクとフォンファの子供たちが遊んでいた。

「あ、リンファおかえりぃ」
「あそんで、りんふぁ」

 四歳と二歳の二人が近寄ってくるが、ガクがニッコリ笑って止める。

「悪いがあとでな。先に父ちゃんとリンファが話をするんだよ」

 大人しくまた二人で遊び始めたのを確認すると、ガクはリンファに告げた。

「今日な、お役人さんからお前を後宮にと誘われた。明日が面接だ。行ってくれるな?」

 リンファはゴクリと唾を飲み込んだ。前々から二人には言い含められていた。身寄りのない自分を育ててくれている二人のために、いつか後宮に上がること。それが叶う時が来たのだ。

「はい、もちろんです、旦那様。必ず合格してみせます」
「よし、それでこそリンファだ。俺たちの自慢の娘。明日は一張羅を着せてやるから頑張ってこいよ」
「はい!」

 その日はたっぷりの湯を使わせてもらい、隅々まで綺麗に洗った。髪も綺麗に洗い、特別にフォンファの香油を髪に塗ってもらってサラサラにした。明日のために早く寝るようにと言われて子供の寝かしつけもしないで布団に入れられたリンファだが、興奮してなかなか寝られなかった。

(ついにこの日が来たのね。長年の恩を返すためにも、合格してお金をもらいたいわ)

 下女に合格すると、支度金としていくらかのお金が出る。そのお金を今まで育ててくれたお礼として二人に渡し、さらに毎月の給金からも仕送りをしようとリンファは思っているのだ。

(森に放っておかれたら狼に食べられて命は無かったはず。旦那様と奥様はその私を育ててくれて、教育までしてくれて。どんなに感謝しても足りないくらいだわ。絶対に受かってみせる)
 


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

婚約者が記憶喪失になりました。

ねーさん
恋愛
 平凡な子爵令嬢のセシリアは、「氷の彫刻」と呼ばれる無愛想で冷徹な公爵家の嫡男シルベストと恋に落ちた。  二人が婚約してしばらく経ったある日、シルベストが馬車の事故に遭ってしまう。 「キミは誰だ?」  目を覚ましたシルベストは三年分の記憶を失っていた。  それはつまりセシリアとの出会いからの全てが無かった事になったという事だった─── 注:1、2話のエピソードは時系列順ではありません

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

旦那さまは私のために嘘をつく

小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。 記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。

この罰は永遠に

豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」 「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」 「……ふうん」 その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。 なろう様でも公開中です。

処理中です...