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その後 〜美音side〜
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あれから私は東京を離れ、別の街で就職した。小さな会社だけどとてもいい人ばかりで居心地はいい。女性の先輩方も優しいけど……陽菜先輩のことがあるからどうしても警戒はしてしまう。
(あまりプライベートのことは話さないようにしておこう)
心の傷も少しずつ癒えてきた。趣味を持ったらどうかな、と考えて料理教室に通い始めたら楽しくなり、今は作った料理をSNSに上げたりしている。
彼氏も、出来た。料理教室で出会った4つ上の会社員。見た目は普通だけどとても優しい人。私が流産したことを打ち明けても引いたりせず、辛かったね、と寄り添ってくれた。
この人となら……と思うけれど、今度は焦らずにゆっくりいこうと思う。今までの教訓をすべて生かして、人間性をちゃんと見極めていかなくちゃ。
そして、陽菜先輩のこと。あの時は、『ホストクラブにハマらせて婚活を邪魔したい』くらいに考えていたんだけど、あの人のハマり具合は予想以上だったようだ。
初回三千円で陽菜先輩を刹那の店に連れて行く前、私は刹那によーく頼んでおいた。
『私、この人にちょっと恨みがあるの。できればお金を搾り取ってほしい』
『へー、美音がそんなこと言うなんて珍しいな。もうこれ以上私からお金を持ってかないで! って言って別れたじゃん』
『だってあの時は学生だったもん。実家にもいたし、バイトもそんなにできなかったからお金が続かなかったんだよね……』
(今思えばそれでよかったけど。最近ニュースで言われてるみたいに、ホスト通いで風俗に堕ちていくケースになりかねなかった)
『で? この人からはお金取っていいんだ』
『うん。婚活に給料をつぎ込んでる人だけど失敗続きでさ。そこを上手く攻めていけば落ちるんじゃない? ボーナスもあるし、お母さんがけっこう貯金持ってるらしいよ』
『まじ? 金持ち?』
『そうじゃなくて、なんか離婚した時にがっぽりもらったんだって。老後のために取ってあるみたいだけど、母親が死んだらあの金は全部私のものだって言ってた』
『ふーん。いくらくらいあるんだろ』
『2000万はあるらしいよ』
ヒュー、と刹那が口笛を鳴らす音が聞こえた。
『俺、この店でまだナンバー2なんだよね。そのオバチャンに頑張ってもらおうかな』
『刹那次第だよ。他のキャストを気に入られたらそっちにいっちゃうんだから、頑張ってね』
『オッケー。任せとけ』
そして私は陽菜先輩を店に連れて行き、元カレとは言わずに刹那に会わせた。
(刹那はクズだけどめちゃくちゃ顔が綺麗なのよね。それに、姫扱いも上手いし時々見せるドSな感じも陽菜先輩にはハマると思うんだ)
思った通り刹那は陽菜先輩の心を掴み、送り指名をゲットした。その後も鬼営業をかけて囲い込んでいったらしい。
先輩が刹那にハマった頃に、私は退職した。事前に何も言わず、先輩が休んでる日を狙って。
(会社辞めるって知ったら、上から目線でいらないアドバイスしてくるはずだから。何も成し遂げてない、空っぽ人間のくせに)
それから、私は陽菜先輩には会っていない。もちろん連絡先は消去してある。
しばらく経った頃、私は刹那に連絡を取ってみた。先輩がどうなったか知りたくて。
『あー、けっこういい客だったよ。エースとまではいかないけどラスソンは何回かあったし。ただ、俺のバースデーに10段のシャンパンタワーやりたがってさ。他の姫と競い合って最終的に300万。当然掛けなんだけど、親の金を持ってくるって言うから安心してたんだよなあ』
『……てことは……回収できなかったの?』
『それがさ、笑っちゃうんだけど。母親がロマンス詐欺に引っかかっててさ、貯金、無くなってたんだってよ』
『ロマンス詐欺⁈』
どうやら陽菜先輩の母親はSNSで知り合った男に愛を囁かれてすっかり舞い上がり、最初は少額、やがて高額のお金を請求されていき……ほぼ貯金が無くなった頃にやっと詐欺だと気がついたらしい。当然、相手は捕まっていない。
『で、300万払えないって言いやがるからさあ。キャバクラ紹介しといたんだよ。今、半分くらいは回収したかな。まあそれでも店には通ってきてるし、このままずるずるソープまで行くんじゃないか』
思った以上に堕ちていったんだな、と私は満足の笑みを浮かべる。それでもきっと、陽菜先輩は幸せなはずだ。刹那に姫扱いされて、刹那のために店に通って、自分が一番だと思いながらお金で彼を支えているんだから。辛い婚活で先輩が毛嫌いする『地味な男たち』に振られるより、今のほうがよっぽど楽しいはず。
(よかったですね、陽菜先輩。私はもう会うことはないけれど、お元気で)
電話を切ったあと、刹那の連絡先もブロックして消去した。もうあいつとの関係も終わり。
(私も、……もう復讐を考える必要もない。全部忘れて新しい彼と生きていこう)
(あまりプライベートのことは話さないようにしておこう)
心の傷も少しずつ癒えてきた。趣味を持ったらどうかな、と考えて料理教室に通い始めたら楽しくなり、今は作った料理をSNSに上げたりしている。
彼氏も、出来た。料理教室で出会った4つ上の会社員。見た目は普通だけどとても優しい人。私が流産したことを打ち明けても引いたりせず、辛かったね、と寄り添ってくれた。
この人となら……と思うけれど、今度は焦らずにゆっくりいこうと思う。今までの教訓をすべて生かして、人間性をちゃんと見極めていかなくちゃ。
そして、陽菜先輩のこと。あの時は、『ホストクラブにハマらせて婚活を邪魔したい』くらいに考えていたんだけど、あの人のハマり具合は予想以上だったようだ。
初回三千円で陽菜先輩を刹那の店に連れて行く前、私は刹那によーく頼んでおいた。
『私、この人にちょっと恨みがあるの。できればお金を搾り取ってほしい』
『へー、美音がそんなこと言うなんて珍しいな。もうこれ以上私からお金を持ってかないで! って言って別れたじゃん』
『だってあの時は学生だったもん。実家にもいたし、バイトもそんなにできなかったからお金が続かなかったんだよね……』
(今思えばそれでよかったけど。最近ニュースで言われてるみたいに、ホスト通いで風俗に堕ちていくケースになりかねなかった)
『で? この人からはお金取っていいんだ』
『うん。婚活に給料をつぎ込んでる人だけど失敗続きでさ。そこを上手く攻めていけば落ちるんじゃない? ボーナスもあるし、お母さんがけっこう貯金持ってるらしいよ』
『まじ? 金持ち?』
『そうじゃなくて、なんか離婚した時にがっぽりもらったんだって。老後のために取ってあるみたいだけど、母親が死んだらあの金は全部私のものだって言ってた』
『ふーん。いくらくらいあるんだろ』
『2000万はあるらしいよ』
ヒュー、と刹那が口笛を鳴らす音が聞こえた。
『俺、この店でまだナンバー2なんだよね。そのオバチャンに頑張ってもらおうかな』
『刹那次第だよ。他のキャストを気に入られたらそっちにいっちゃうんだから、頑張ってね』
『オッケー。任せとけ』
そして私は陽菜先輩を店に連れて行き、元カレとは言わずに刹那に会わせた。
(刹那はクズだけどめちゃくちゃ顔が綺麗なのよね。それに、姫扱いも上手いし時々見せるドSな感じも陽菜先輩にはハマると思うんだ)
思った通り刹那は陽菜先輩の心を掴み、送り指名をゲットした。その後も鬼営業をかけて囲い込んでいったらしい。
先輩が刹那にハマった頃に、私は退職した。事前に何も言わず、先輩が休んでる日を狙って。
(会社辞めるって知ったら、上から目線でいらないアドバイスしてくるはずだから。何も成し遂げてない、空っぽ人間のくせに)
それから、私は陽菜先輩には会っていない。もちろん連絡先は消去してある。
しばらく経った頃、私は刹那に連絡を取ってみた。先輩がどうなったか知りたくて。
『あー、けっこういい客だったよ。エースとまではいかないけどラスソンは何回かあったし。ただ、俺のバースデーに10段のシャンパンタワーやりたがってさ。他の姫と競い合って最終的に300万。当然掛けなんだけど、親の金を持ってくるって言うから安心してたんだよなあ』
『……てことは……回収できなかったの?』
『それがさ、笑っちゃうんだけど。母親がロマンス詐欺に引っかかっててさ、貯金、無くなってたんだってよ』
『ロマンス詐欺⁈』
どうやら陽菜先輩の母親はSNSで知り合った男に愛を囁かれてすっかり舞い上がり、最初は少額、やがて高額のお金を請求されていき……ほぼ貯金が無くなった頃にやっと詐欺だと気がついたらしい。当然、相手は捕まっていない。
『で、300万払えないって言いやがるからさあ。キャバクラ紹介しといたんだよ。今、半分くらいは回収したかな。まあそれでも店には通ってきてるし、このままずるずるソープまで行くんじゃないか』
思った以上に堕ちていったんだな、と私は満足の笑みを浮かべる。それでもきっと、陽菜先輩は幸せなはずだ。刹那に姫扱いされて、刹那のために店に通って、自分が一番だと思いながらお金で彼を支えているんだから。辛い婚活で先輩が毛嫌いする『地味な男たち』に振られるより、今のほうがよっぽど楽しいはず。
(よかったですね、陽菜先輩。私はもう会うことはないけれど、お元気で)
電話を切ったあと、刹那の連絡先もブロックして消去した。もうあいつとの関係も終わり。
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