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約束

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 翌日は兼六園がメイン。加賀百万石の大名庭園は外せない観光スポットだ。

「日曜日は朝食もやってるらしいから、行ってみよう」

 ホテルの朝食をパスしたのはなぜかな、と思っていたのはそういうわけだったのか。兼六園の桂坂口そばにあるお茶屋さんで最高の景色を見ながら和定食をいただいた。

「金沢城を見ながら治部煮が食べられるなんて贅沢ね」
「思い出に残りそうだなって思ってさ。付き合ってくれてありがと、月葉」

 ゆったりとした朝食を済ませてからいざ兼六園へ。雪吊りが有名な兼六園だけど、緑の季節もとても綺麗だ。池と灯籠をバックに記念写真を撮るのは兼六園のお約束。朝だからまだそれほど観光客も多くなく、私たちは手を繋いでゆっくりと見て回った。

 その後は、さっき茶屋から眺めていた金沢城公園へ。広々とした敷地で菱櫓などを眺めながらお散歩。それから玉泉院丸庭園を見学し、休憩所で抹茶とお菓子をいただいた。

「んー、美味しいっ。幸せ」

 そんな私を微笑みながら見つめる悠李。

「喜んでくれてよかった。2日じゃまだまだ回りきれないから、また来よう。山代温泉や和倉温泉とかも行ってみたいし」
「温泉もいいよね。うん、また来たい!」

 微笑み返す私の胸には、ネックレスが輝いている。昨夜、夕食後に訪れたバーで悠李から渡されたプレゼントだ。
 

~~~~~
 

 二杯目のカクテルを頼んだ頃、悠李が少しそわそわし始めた。

『どうしたの?』
『うん……あのさ』

 神妙な顔つきでジャケットの内ポケットから何かを取り出す悠李。美しい箱を開けて私の目の前に差し出す。

『月葉、俺と結婚してください』

 箱の中にはカラティエのトリニティネックレスが。

『え……もしかして……プロポーズ……?』
『うん。俺、月葉と早く家族になりたい。月葉がいつも幸せでいられるように努力する。ずっと一緒に笑っていてもらえるように。だから……俺のそばにいてください』

(まだ一年も付き合っていないのにプロポーズしてくれるなんて……すごくすごく、嬉しい。悠李といるとこんな自分にも価値があるように思える。私なんか、って思わずに自然体でいられる)

 口をきゅっと結んで私の返事を待っている悠李。断るわけないのに、そんなに心配そうな顔をしないで。私は涙で目が潤んでくるのをこらえながら微笑んだ。

『悠李、私もあなたとずっと笑っていたい。あなたとならきっとそんな毎日が送れると思うの。私からも言います。私と結婚、してください』

 悠李も、涙をこらえているよう。テーブルの上のキャンドルの光が悠李の瞳を揺らし輝いている。

『月葉……ありがとう……』

 そして悠李は私の後ろに回り、ネックレスをつけてくれた。ホワイト、イエロー、ピンクゴールドの三連の輪が重なって輝いていてとても綺麗。

『これはね、婚約指輪の約束』
『約束?』
『気に入ったものを選んで欲しいから、指輪は一緒に買いに行こうと思ってる。だからこれは、婚約を承諾してもらえた証のプレゼント』
『嬉しい……ありがとう』

 ブランドのアクセサリーを貰うなんて人生で初めての経験だ。もちろん、自分で買ったこともない。私は胸に輝く輪をうっとりと見つめていた。

『よく似合うよ。もっとたくさんプレゼントしたくなっちゃうな』
『悠李、これだけで十分よ! 私にはもったいないくらいだもの』

 今回の旅行の代金も全て悠李が出してくれてるのだから。その上こんな豪華なプレゼントをされてこれ以上だなんて、とてもお返しができない。

『何言ってるの、月葉にはもっと似合うものがたくさんあるよ。それに、俺の横にいてくれるだけで十分ご褒美だから。これから部屋で最高のものを貰える予定だし』

 ニッと悪戯っ子みたいな顔で笑う。

『……っ、また、そんなこと言って!』
『月葉? 顔が赤いよ?』

 ――もちろん、その夜はいっぱい愛してあげたんだけど……最後は悠李からたくさん奉仕されて気を失いそうになって、私のほうがやっぱり貰いすぎになってしまった――
 

~~~~~



「月葉、どうしたの? ぼーっとして」

 ハッと我に返る。いけない、お菓子をいただきながら昨夜のこと思い出してしまってた。

「……私たち、婚約したんだなぁって思って……」

 そう言って誤魔化すと、悠李は嬉しそうに笑った。

「そうだよ。もう月葉は俺の婚約者。婚約者っていい響きだな……東京に戻ったらお父さんにも報告しなきゃ」
「父は悠李を気に入ってるし、諸手を挙げて賛成してくれるわ。だから次は私が、悠李のご両親にご挨拶しなきゃね」
「そうだね。早めに話しておくよ。ちなみに前にも言ったけど俺次男だから、英の姓に変えることも全然平気だよ」
「あ……」

 そうだ。結婚となると、そういういろんな決め事をしなくちゃならない。そしてその前に、悠李のご両親に私が気に入ってもらえるかどうかが、急に心配になってきた。

「大丈夫だよ。うちは普通の家庭で継ぐべきものも何にもない。それに、気に入ってもらえなきゃ結婚できないなんてことないから。結婚って二人でするものだし、俺が決めることに口出しはさせない」

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