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美音の罠 ~美音side~
しおりを挟む月葉さんが陽菜先輩の妹だと知ったあの日から、私は陽菜先輩に復讐したい、その思いだけで生きてきた。
先輩が余計なことをしなければ私があんな……流産という悲しい思いをすることもなかったのだ。
(まずは陽菜先輩が真吾さんを妹の彼氏だと知ってて私に勧めたのかどうか。それが知りたい)
あの時合コンに一緒に行った真紀に聞いてみた。すると私だけでなく、真紀も真吾さんをしきりに勧められていたという。
「でも私は会ってみるとあんまりピンとこなかったんだよねえ。だから幹事の人とちょっとだけ付き合ったんだけど、あいつ既婚者でさ。クソでしょ」
私は真紀にその幹事の連絡先を教えてもらい、その人に連絡を取った。
「あー、あの時のね。うん、なんか片瀬をどうしても合コンに連れてきて欲しいって言われてたんだよねえ。ん? 陽菜って人のこと? 俺は直接知らなかったよ。知り合いの知り合い経由で合コンの話が来たんだったかな。わざわざ変だとは思ったけど、まあ若い子連れてくるって言うからいっか、って」
(やっぱり、あの合コンは陽菜先輩が真吾さんを浮気させるために仕組んだのか……それに私がまんまと引っかかってしまった)
私はちらりと衣装ダンスの上にあるお花とお水に目をやった。週数が早すぎて死産届も必要なく、葬儀もなかったあの子。母と一緒にお寺に供養には行ったけど……毎日お水をあげてお祈りしている。
(真吾さんはきっと、あの子のことなんかなんにも思い出すことなく生きてる。そのうえ、私とこのまま別れようとしているはず。あんな男、もう二度と会いたくないけど、陽菜先輩のことは確かめなくちゃ)
私は真吾さんにLIMEを送った。
『お話があります。会えますか?』
するとすぐに既読がついた。
『もちろんだ。美音の連絡を待ってた』
(は? 考えさせてって言ったっきり音信不通だったのはそっちじゃない)
むかついたけど、情報を取るため、我慢、我慢。
『明日の仕事終わりに会えますか?』
『大丈夫だ。美音の部屋に行くよ』
(信じらんない……部屋に来るつもりなの? まさか、エッチするつもり? 冗談じゃない)
『部屋は汚ないので、カフェで会いたいです』
『俺は気にしないよ。でもそうだな、カフェでご飯食べてからでもいいね。じゃあ7時にいつものところで』
会話が終わったあと、私はスマホを放り投げた。むかつくを通り越して呆れている。私の身体や子供のことを気遣う気は全くないんだ、この人は。
そして翌日、待ち合わせのカフェ。ご機嫌な様子で真吾さんは現れた。
「美音、元気そうだな。会いたかったよ」
「真吾さんもお元気そうで」
皮肉にも気づかず、ハンバーグセットを注文する。私はコーヒーだけなのに。
「俺さ、やっぱり美音と結婚するよ。あの時は騙されたと思ってショックで、もう結婚はしたくないと思っていたんだけど……でも美音を好きだという気持ちは結局変わらないし。子供はまたすぐにできるさ。だからもう一度、結婚に向けて話を進めていこう」
上から目線で能天気に一人で喋っている。心の中でため息をついた。
「その前に真吾さん、この写真見て。この人、知ってる……?」
私はスマホの画面を真吾さんに見せた。陽菜先輩の写真を表示させてある。
「ん……? 見たことあるようなないような……いやでもどこかで……」
真吾さんは必死で思い出そうと画面を見つめていたが、そのうちハッと閃いた顔をした。
「あっ! 思い出した、月葉のお姉さんだ」
そしてすぐに、なんでこの人の写真を美音が……? と怪訝な顔をする。
「その人ね、私の会社の先輩なの。名前は英陽菜さん」
「ああ、確かそんな名前だった気がする……驚いたな、美音の同僚だったのか」
「そう。そしてね、合コンで私に真吾さんをいい人だと勧めたのも、妊娠してでき婚に持ち込めってアドバイスしたのもその人」
「は……?」
真吾さんは私が何を言いたいのかわかっていないようだ。
「つまりね。真吾さんが月葉さんの彼氏だと知りながら私に合コンの話を持ち込み、浮気をさせるように仕向け、そのうえ妊娠まで唆したのが陽菜先輩ってこと」
「ええ? ええ? 意味がわからないよ……月葉と俺を別れさせようとしたってこと?」
そう、普通ならわからないだろう。でも陽菜先輩ならやる。あの人は他人の幸せを許せない人だ。きっと、自分が結婚できないのに妹に彼氏がいることが我慢ならなかったんだろう。
「どういうつもりかはわからないけれど、そうなんでしょうね。姉妹間の確執に私が駒として使われたことに、私はものすごく怒っているの」
「そ、そりゃそうだよな……」
まだ他人事のような顔をしている真吾さんに、私は精一杯の低い声を出してみる。
「そして、彼女がいながら合コンに来て私と付き合い始めた真吾さんにも怒ってる。あなたが二股なんてしなければ……私は……」
え? と驚いた顔をした。自分に怒りの矛先が向くとは思っていなかったようだ。
「それでも……真吾さんがお空に旅立ったあの子のことを真摯に悲しんで寄り添ってくれてたら、まだよかった。でもあなたはホッとした顔をしていたし、落ち込む私を面倒くさいと思っていたでしょう?」
「そ、そんなことないよ! 俺だって悲しかったさ。でも俺は男だから実感がなくて……」
「もういいの。辛い時に寄り添ってくれない人とこの先一緒に生きていくつもりはないから。別れましょう」
「ま、待ってくれよ美音! 俺、悪かったところを直すから……親にも、早く結婚しろって言われてるんだよ」
「ご両親にはちょうど今、うちの親が電話して婚約解消の説明をしているところです。あなたが二股をしていたことを含めて全部」
「そんな……何勝手に電話してるんだよ! だったら、お前が俺を騙して妊娠したこともちゃんと言うんだよな⁈」
本性を現したな、と私は軽蔑の目を向けた。
「ええ。それも言うわ。ところで……訴えたところで私にも非があるのだから無理かもしれないけど……気が済むのならやってみろって、うちの親にも言われてるの。だから、そのうち慰謝料請求の訴状が届くかもしれませんのでそのつもりで」
「嘘だろ。裁判……?」
(電話は本当だけど裁判は嘘。もう関わりたくないからそんなことはしない。でもせいぜい、怯えて暮らすといいわ)
私は立ち上がり、コーヒー代を置いた。あの時の月葉さんと同じようだ、と思った。
「ハンバーグセットのお客様ー」
店員が料理を運んできたので、その後ろをすり抜けて店を出た。真吾さんは呆然と座ったままだった。
(もうあんな男に用はない。会社を辞めて部屋も引っ越そう。でもその前に……)
スマホを取り出し、もう掛けることもないと思っていた元カレの名前を押す。番号が変わっていませんように。
数コールですぐに懐かしい声が聞こえてきた。
「もしもし。久しぶりじゃん、美音。元気にしてた?」
「刹那、久しぶり。なんか声聞きたくなって。お店は変わってないの? あ、違う店に移ったんだ。あのね、知り合いを連れて行きたいんだけど、お店の場所教えてくれる? うん、また連絡する。よろしくね」
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