26 / 36
美音の罠 〜陽菜side〜
しおりを挟む
月葉の彼氏が二股するように仕向けたのは、ほんの出来心だった。
たまたま二人がデートしているところに出会ってしまい、かなりむかついた私。
(何? 月葉のくせに彼氏がいたの? しかも今まで黙ってたなんて、許せない)
見た目も感じもいい男だったのがまたイラつかせた。職場や年収で見下してやろうと思ったのにそれも上手くいかなかった。
(ホーバル販売って聞いたことある会社だ。年収もまあまあありそう。なんで月葉にこんな男が。私がこんなに婚活に苦労してるっていうのに)
私はずっと人より可愛いと言われてきた。どの集団に入っても必ず上位。彼氏が途切れたことだってなかった。そんな私がなぜか結婚だけはできずにいる。地味で不細工な月葉は一生結婚できないか、または同じように地味で不細工な奴と結婚するだろうと思っていたのに。こんな男と結婚されたら今度は月葉のほうが私を見下してくるだろう。
(なんとかならないかな。例えば浮気とか)
月葉の彼氏に顔を知られた私では誘惑することはできないけど、会社の若い女子を使えばいけるかもしれない。そう思った私は、過去の元カレたちに連絡を取りホーバル販売に伝手がないか探してみた。
「俺、知ってる奴いるよ」
だいぶ前に付き合った男から返事があり、連絡先をもらった。
「でもさ、すげークズだよ、そいつ。既婚者なのに合コンしまくっててさ」
「いいのよ別に」
それから私はその『クズ』に連絡を取り、話を取り付けた。うちの会社の23歳の可愛い子と合コン、と言ったら飛びついてきた。
「その代わり条件があるの。片瀬真吾って人を必ず入れて」
「いいっすよー。そいつ俺の後輩で合コン仲間だから、お安い御用っす」
(なんだ。結局、月葉の彼氏もクズじゃない)
笑いが込み上げてきた。幸せだと信じてる月葉がどん底に落ちるのが楽しみ。私は合コンのメンバーに選んだ美音と真紀のそれぞれに、片瀬真吾を勧めておいた。どちらかがカップル成立すればそれでいい。
そして……目論見通り美音と真吾が恋仲になった。
(ふふ、めっちゃ簡単な男じゃん。早く月葉にバレるといいのに)
けれど半年経っても二股がバレた気配はなかった。美音も楽しそうに付き合ってる。あの男、浮気がバレないように慎重に振舞っているみたいだ。
そんなある日、美音が私に打ち明けた。
「ひとつだけ悩みがあるんですよね。真吾さん、私を部屋に絶対に入れてくれないんです」
「……それは、もしかしたら他に女がいるのかもしれないわね」
そう不安を煽ると、美音は簡単に信じた。そして、私の勧めた計画に乗って見事に妊娠したのだ。
(若いからすぐ妊娠したのかしら。バカな子よね。二股するような男の子供なんて、私ならごめんだけど)
まあそんなのはどうでもいい。その結果月葉は振られ、一人になったのだから、私の勝ちだ。あの子が私より先に結婚するなんてやっぱりどう考えてもおかしいんだから。
月葉の落ち込んだ顔も見られたし満足だったけど……今度はだんだん美音がうざくなってきた。会社で幸せアピール、なんなの?
腹立つから無視してるうちに流産した。人を苛立たせるからバチが当たったんだろう。しばらく休んだあと復帰してきたけれど、今度は可哀想アピールがすごい。ただの流産でしょ?
また妊娠すればいいじゃない、と言ってやったけど暗い顔してた。
そういえば月葉と美音が鉢合わせする場面もあった。月葉が母へのお金を渡しに来た時だ。ちょっとヤバいか、と思ったけどその後美音からも月葉からも何も言われることはなかった。サレた側とシた側、どちらも顔をよく覚えていなかったのかもしれない。今思い返すと間抜けなご対面だ。
その後しばらくして美音から真吾と別れた、と聞かされた。
「流産したのに全く寄り添ってくれなかったんです。あんな人と結婚しても幸せになれない、そう思って別れました」
「あらそう。せっかく婚約までしたのにねえ。まあ、まだ若いんだしチャンスはあるわよ」
「そうですね……私も結婚相談所に登録しようかな。先輩、どんな感じですか?」
私は先週のデートを思い出してむっとした。また、うまくいかなかったから。「もう少し若ければ」って断られたけど、若い女がこんなとこに登録するかよ、って心の中で毒づく。
「そうねえ、あまりいい人はいないかな。先週もお断りしたところなのよ。申し訳ないけどね」
「そうですか……そういえば先輩、ホストクラブって興味あります?」
「ホストクラブ? ないない。あんなの、リアルにモテない女が行くところでしょ? 馬鹿みたいに高いお金使ってねえ。そんなお金あったら、自分磨きに使うわよ」
「ところが最近そうでもないんですよ。リアルでもモテる女の人たちが逆に通ってるんです。そういう人はちゃんと自分の価値がわかってるから、ホストにハマったりしないんですって。姫扱いされていい気分になる、そこだけを楽しんでるんです。ストレス解消になるみたい」
「ふうん……?」
「私も婚約解消してちょっとストレス溜まってるし……初回なら3000円で行けますから、先輩、一緒に行ってみません?」
(ホストねえ。興味ないわけじゃないけど、一人で行くのも、と思ってたのよね。美音は以前ホストと付き合ってたし、よくわかってるから安心かも)
「そう? そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわ」
「ほんとですか? ありがとうございます! じゃあ次のお休み前に行きましょうね」
「はいはい」
ずっと男を選ぶ側だった私なら、ホストクラブに行っても羽目を外すことはないだろう。たまには婚活のことは忘れてパーっと楽しんでこよう、と思った。
たまたま二人がデートしているところに出会ってしまい、かなりむかついた私。
(何? 月葉のくせに彼氏がいたの? しかも今まで黙ってたなんて、許せない)
見た目も感じもいい男だったのがまたイラつかせた。職場や年収で見下してやろうと思ったのにそれも上手くいかなかった。
(ホーバル販売って聞いたことある会社だ。年収もまあまあありそう。なんで月葉にこんな男が。私がこんなに婚活に苦労してるっていうのに)
私はずっと人より可愛いと言われてきた。どの集団に入っても必ず上位。彼氏が途切れたことだってなかった。そんな私がなぜか結婚だけはできずにいる。地味で不細工な月葉は一生結婚できないか、または同じように地味で不細工な奴と結婚するだろうと思っていたのに。こんな男と結婚されたら今度は月葉のほうが私を見下してくるだろう。
(なんとかならないかな。例えば浮気とか)
月葉の彼氏に顔を知られた私では誘惑することはできないけど、会社の若い女子を使えばいけるかもしれない。そう思った私は、過去の元カレたちに連絡を取りホーバル販売に伝手がないか探してみた。
「俺、知ってる奴いるよ」
だいぶ前に付き合った男から返事があり、連絡先をもらった。
「でもさ、すげークズだよ、そいつ。既婚者なのに合コンしまくっててさ」
「いいのよ別に」
それから私はその『クズ』に連絡を取り、話を取り付けた。うちの会社の23歳の可愛い子と合コン、と言ったら飛びついてきた。
「その代わり条件があるの。片瀬真吾って人を必ず入れて」
「いいっすよー。そいつ俺の後輩で合コン仲間だから、お安い御用っす」
(なんだ。結局、月葉の彼氏もクズじゃない)
笑いが込み上げてきた。幸せだと信じてる月葉がどん底に落ちるのが楽しみ。私は合コンのメンバーに選んだ美音と真紀のそれぞれに、片瀬真吾を勧めておいた。どちらかがカップル成立すればそれでいい。
そして……目論見通り美音と真吾が恋仲になった。
(ふふ、めっちゃ簡単な男じゃん。早く月葉にバレるといいのに)
けれど半年経っても二股がバレた気配はなかった。美音も楽しそうに付き合ってる。あの男、浮気がバレないように慎重に振舞っているみたいだ。
そんなある日、美音が私に打ち明けた。
「ひとつだけ悩みがあるんですよね。真吾さん、私を部屋に絶対に入れてくれないんです」
「……それは、もしかしたら他に女がいるのかもしれないわね」
そう不安を煽ると、美音は簡単に信じた。そして、私の勧めた計画に乗って見事に妊娠したのだ。
(若いからすぐ妊娠したのかしら。バカな子よね。二股するような男の子供なんて、私ならごめんだけど)
まあそんなのはどうでもいい。その結果月葉は振られ、一人になったのだから、私の勝ちだ。あの子が私より先に結婚するなんてやっぱりどう考えてもおかしいんだから。
月葉の落ち込んだ顔も見られたし満足だったけど……今度はだんだん美音がうざくなってきた。会社で幸せアピール、なんなの?
腹立つから無視してるうちに流産した。人を苛立たせるからバチが当たったんだろう。しばらく休んだあと復帰してきたけれど、今度は可哀想アピールがすごい。ただの流産でしょ?
また妊娠すればいいじゃない、と言ってやったけど暗い顔してた。
そういえば月葉と美音が鉢合わせする場面もあった。月葉が母へのお金を渡しに来た時だ。ちょっとヤバいか、と思ったけどその後美音からも月葉からも何も言われることはなかった。サレた側とシた側、どちらも顔をよく覚えていなかったのかもしれない。今思い返すと間抜けなご対面だ。
その後しばらくして美音から真吾と別れた、と聞かされた。
「流産したのに全く寄り添ってくれなかったんです。あんな人と結婚しても幸せになれない、そう思って別れました」
「あらそう。せっかく婚約までしたのにねえ。まあ、まだ若いんだしチャンスはあるわよ」
「そうですね……私も結婚相談所に登録しようかな。先輩、どんな感じですか?」
私は先週のデートを思い出してむっとした。また、うまくいかなかったから。「もう少し若ければ」って断られたけど、若い女がこんなとこに登録するかよ、って心の中で毒づく。
「そうねえ、あまりいい人はいないかな。先週もお断りしたところなのよ。申し訳ないけどね」
「そうですか……そういえば先輩、ホストクラブって興味あります?」
「ホストクラブ? ないない。あんなの、リアルにモテない女が行くところでしょ? 馬鹿みたいに高いお金使ってねえ。そんなお金あったら、自分磨きに使うわよ」
「ところが最近そうでもないんですよ。リアルでもモテる女の人たちが逆に通ってるんです。そういう人はちゃんと自分の価値がわかってるから、ホストにハマったりしないんですって。姫扱いされていい気分になる、そこだけを楽しんでるんです。ストレス解消になるみたい」
「ふうん……?」
「私も婚約解消してちょっとストレス溜まってるし……初回なら3000円で行けますから、先輩、一緒に行ってみません?」
(ホストねえ。興味ないわけじゃないけど、一人で行くのも、と思ってたのよね。美音は以前ホストと付き合ってたし、よくわかってるから安心かも)
「そう? そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわ」
「ほんとですか? ありがとうございます! じゃあ次のお休み前に行きましょうね」
「はいはい」
ずっと男を選ぶ側だった私なら、ホストクラブに行っても羽目を外すことはないだろう。たまには婚活のことは忘れてパーっと楽しんでこよう、と思った。
14
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる