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母からの電話
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それから月日が過ぎ、私と悠李は順調にデートを重ねている。平日は食事に行くし、休日は必ずどこかに遊びに行って。いつも悠李がプランを考えて楽しませてくれるのが嬉しい。
次の土曜日のデートはドワーフランドへ行くことになった。悠李のたっての希望だ。
「俺、一度も行ったことないんだ」
「そうなの? 学生時代に一度は行くとこじゃない?」
私は大学の時、バイト仲間と一度だけ行った。(まだ付き合っていなかった真吾も一緒だった)でもあのキラキラした場所は私には似合わない気がして、居心地が悪かったのを覚えている。
「デートの定番だろ? 俺は、初めて行くなら月葉と、って思ってたから」
(……悠李って時々怖いこと言うのよね……本気なのかわからないんだけど……)
私と別れたことが本当に辛かった悠李は、いつの間にか『イマジナリー月葉』を生み出してしまったという。
「空想上の月葉に励ましてもらって勉強頑張ってさ……いつか月葉と結婚するためには収入の多い職業に就いておかなくちゃだめだ、って思ってたから資格試験も頑張ったし。ドワーフランドも月葉と行く妄想をしてた」
「いやマジで怖いから、悠李!」
こんなにイケメンなのに彼女がいなかった理由、なんとなくわかってきたかも?
冗談はさておき、悠李がずっと私を想っていてくれたのは本当のことで。私と一緒にやりたかったことをこれから全部実現したいのだそうだ。
「じゃあ朝から晩までドワーフランドで過ごしてみよっか。夜のパレードや花火も見たいでしょ」
「ああ、もちろん。でさ、月葉……ランドで売ってるクマの耳、付けてくれない……?」
(ええ……28歳でそれは……キツくない?)
でも、上目遣いのあざとい顔で頼まれたらイヤとは言えない。悠李がやりたいのなら付き合ってあげてもいいかな。
「悠李も付けてくれるならね」
「俺は絶対似合わないと思うけど……月葉のクマ耳姿が見られるのなら、やる」
悠李のクマ耳姿、たぶんめちゃくちゃ可愛いと思う。童心に帰って楽しい一日になりそう。手も繋いで、最後にキスくらいできたらいいな、と思ってる。
(私は真吾としか経験ないし、悠李もこの様子だと未経験では? 私が誘わないとだめかもしれない。でもきっと、お互いの気持ちが高まったら自然とできるよね……)
翌日の終業後、駅を目指して歩いているとスマホが鳴った。
(うわ……お母さんだ……)
着信があって画面に母の名前が出ると私は動悸が激しくなる。出るのが嫌なのだ。声を聞くのも憂鬱だけど出ないわけにはいかない。
「ちょっと月葉! いつまで待たせるの。さっさと出なさいよ、ホントに愚図なんだから」
「ごめんなさい……私今外にいるんだけど、何の用事?」
「ああ、今度の土曜日、うちに来てちょうだい」
(また? ちょっとペース早くない?)
先月も三万渡したのに。それに土曜日はデートの日だ。
「土曜日は出かけるから無理。日曜日にして」
「日曜日は私、出掛けるのよ。あんたの用事なんてたいしたことないでしょ。そっちを日曜日に変更しなさい」
どうして私の用事より母の用事を優先しなきゃいけないんだろう。昔からそうだったし、今までは私もそれに従ってきたけど。
「変更はできないわ。お互い都合が合わないんだから、来週にして」
すると母は一瞬黙ったあと猛烈な怒りをぶつけてきた。
「何を口答えしてるのよ! 腹が立つ子ね。日曜日までにお金がいるんだから、土曜日に持ってきてもらわなきゃ困るのよ! いいわ、だったら明日! 明日、陽菜の職場に行って陽菜に渡しておきなさい。あそこなら会社帰りに行けるでしょ。わかったわね!」
固定電話をガチャンと切る時のように、唐突に電話は切れた。さっきまでの楽しい気持ちがどこかへ行ってしまい、私は悲しい気持ちで下を向く。
(……いつまでこんなことされ続けなきゃならないんだろう……)
翌日、私は陽菜の勤務先、アカネツーリストに向かった。
本当は、陽菜が生活費を入れれば済む話だ。それなのに陽菜は一銭もお金を入れてないという。何に使ってるかというと『婚活』だ。マッチングアプリだけではなく結婚相談所にも複数登録しているからお金がかかる。洋服やヘアメイクもその度に変えているというし。
(若い頃から陽菜はいろんな人とデートしたり付き合ったりしてた。だからきっと早いうちに結婚するだろうと思ってたけど……結局、長く交際した人はいないのよね)
陽菜は顔も母にそっくりだけど性格も歩んでいる道も似ている。母はいわゆるバブルの頃にいい思いをたくさんし過ぎて、バブルが弾けたあともそれを引きずっていた。なかなか結婚できずにお見合いを繰り返して、30歳でようやく父と結婚することができたのだ。今と違ってあの頃の30歳で結婚していないというのはかなり焦りを感じていただろうと思う。
仕事に忙しく女性と付き合ったこともなかった父は、猫を被って見合いした母の本当の性格に気が付かず結婚してしまい、後々後悔することになるのだけれど……。
アカネツーリストに着くと、ちょうど閉店時間だった。片方のシャッターが閉められ、店の前を箒で掃いている女性社員がいる。
「すみません。英陽菜の妹なんですが、英を呼んでいただけますか?」
顔を上げた女性社員は私を見て固まった。そして私も。
「あなたは……!」
次の土曜日のデートはドワーフランドへ行くことになった。悠李のたっての希望だ。
「俺、一度も行ったことないんだ」
「そうなの? 学生時代に一度は行くとこじゃない?」
私は大学の時、バイト仲間と一度だけ行った。(まだ付き合っていなかった真吾も一緒だった)でもあのキラキラした場所は私には似合わない気がして、居心地が悪かったのを覚えている。
「デートの定番だろ? 俺は、初めて行くなら月葉と、って思ってたから」
(……悠李って時々怖いこと言うのよね……本気なのかわからないんだけど……)
私と別れたことが本当に辛かった悠李は、いつの間にか『イマジナリー月葉』を生み出してしまったという。
「空想上の月葉に励ましてもらって勉強頑張ってさ……いつか月葉と結婚するためには収入の多い職業に就いておかなくちゃだめだ、って思ってたから資格試験も頑張ったし。ドワーフランドも月葉と行く妄想をしてた」
「いやマジで怖いから、悠李!」
こんなにイケメンなのに彼女がいなかった理由、なんとなくわかってきたかも?
冗談はさておき、悠李がずっと私を想っていてくれたのは本当のことで。私と一緒にやりたかったことをこれから全部実現したいのだそうだ。
「じゃあ朝から晩までドワーフランドで過ごしてみよっか。夜のパレードや花火も見たいでしょ」
「ああ、もちろん。でさ、月葉……ランドで売ってるクマの耳、付けてくれない……?」
(ええ……28歳でそれは……キツくない?)
でも、上目遣いのあざとい顔で頼まれたらイヤとは言えない。悠李がやりたいのなら付き合ってあげてもいいかな。
「悠李も付けてくれるならね」
「俺は絶対似合わないと思うけど……月葉のクマ耳姿が見られるのなら、やる」
悠李のクマ耳姿、たぶんめちゃくちゃ可愛いと思う。童心に帰って楽しい一日になりそう。手も繋いで、最後にキスくらいできたらいいな、と思ってる。
(私は真吾としか経験ないし、悠李もこの様子だと未経験では? 私が誘わないとだめかもしれない。でもきっと、お互いの気持ちが高まったら自然とできるよね……)
翌日の終業後、駅を目指して歩いているとスマホが鳴った。
(うわ……お母さんだ……)
着信があって画面に母の名前が出ると私は動悸が激しくなる。出るのが嫌なのだ。声を聞くのも憂鬱だけど出ないわけにはいかない。
「ちょっと月葉! いつまで待たせるの。さっさと出なさいよ、ホントに愚図なんだから」
「ごめんなさい……私今外にいるんだけど、何の用事?」
「ああ、今度の土曜日、うちに来てちょうだい」
(また? ちょっとペース早くない?)
先月も三万渡したのに。それに土曜日はデートの日だ。
「土曜日は出かけるから無理。日曜日にして」
「日曜日は私、出掛けるのよ。あんたの用事なんてたいしたことないでしょ。そっちを日曜日に変更しなさい」
どうして私の用事より母の用事を優先しなきゃいけないんだろう。昔からそうだったし、今までは私もそれに従ってきたけど。
「変更はできないわ。お互い都合が合わないんだから、来週にして」
すると母は一瞬黙ったあと猛烈な怒りをぶつけてきた。
「何を口答えしてるのよ! 腹が立つ子ね。日曜日までにお金がいるんだから、土曜日に持ってきてもらわなきゃ困るのよ! いいわ、だったら明日! 明日、陽菜の職場に行って陽菜に渡しておきなさい。あそこなら会社帰りに行けるでしょ。わかったわね!」
固定電話をガチャンと切る時のように、唐突に電話は切れた。さっきまでの楽しい気持ちがどこかへ行ってしまい、私は悲しい気持ちで下を向く。
(……いつまでこんなことされ続けなきゃならないんだろう……)
翌日、私は陽菜の勤務先、アカネツーリストに向かった。
本当は、陽菜が生活費を入れれば済む話だ。それなのに陽菜は一銭もお金を入れてないという。何に使ってるかというと『婚活』だ。マッチングアプリだけではなく結婚相談所にも複数登録しているからお金がかかる。洋服やヘアメイクもその度に変えているというし。
(若い頃から陽菜はいろんな人とデートしたり付き合ったりしてた。だからきっと早いうちに結婚するだろうと思ってたけど……結局、長く交際した人はいないのよね)
陽菜は顔も母にそっくりだけど性格も歩んでいる道も似ている。母はいわゆるバブルの頃にいい思いをたくさんし過ぎて、バブルが弾けたあともそれを引きずっていた。なかなか結婚できずにお見合いを繰り返して、30歳でようやく父と結婚することができたのだ。今と違ってあの頃の30歳で結婚していないというのはかなり焦りを感じていただろうと思う。
仕事に忙しく女性と付き合ったこともなかった父は、猫を被って見合いした母の本当の性格に気が付かず結婚してしまい、後々後悔することになるのだけれど……。
アカネツーリストに着くと、ちょうど閉店時間だった。片方のシャッターが閉められ、店の前を箒で掃いている女性社員がいる。
「すみません。英陽菜の妹なんですが、英を呼んでいただけますか?」
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「あなたは……!」
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