【完結】やり直し彼氏は今度こそ私を甘やかすつもりのようです

月(ユエ)/久瀬まりか

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美音の告白

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 妊娠8週目に入った。結婚が決まったことを会社に報告した私は幸せの絶頂だ。つわりもほとんどなくて、普段と変わらない毎日。でも、お腹の中には赤ちゃんがいる。それを思うと心が温かくなる。

 結婚式は安定期に入ってから挙げるつもりで、今は式場を探しているところ。真吾さんはどこでもいいって言ってるから、私が挙げたい場所をリストアップしておいて選んでもらおう。

「あ、陽菜先輩。これ、見てくださいよう」
「何?」
「このドレス、素敵ですよねえ。妊婦オッケーって書いてあるから私も着れそう」

 結婚情報誌をめくりながら先輩に話し掛けた。今は昼休憩だから雑誌読んで雑談するくらい大丈夫なつもりだったんだけど。

「……うざっ」

(え……? 今、私に言った?)

 先輩はそのまま電子タバコを手にして外へ出て行った。
 あっけにとられた私に課長が言う。 

「あー、怒らせちゃったねえ、陽菜ちゃんを。あの子、結婚できないのコンプレックスだから。あまり目の前で幸せアピールしないほうがいいよ」
「あ、はい……わかりました……」

 あんなに応援してくれてた陽菜先輩なのに。なんで突然怒っちゃったんだろう。全然理解できなかった。

 それから話しかけても無視されるし、仕事上の伝達事項もスルーされたりとやりづらい状況が続いた。

(どうしてなんだろう……? もしかしたら結婚式にも招待しないほうがいいのかな……)

 ずっと仲良くしてもらってたつもりだったから正直辛い。隣の席から不機嫌な様子がバンバン伝わってくるのだ。物音、咳払い、ため息。1週間もすると胃がキリキリ痛み始めた。

(せっかくつわりが軽いのに……ものが食べられない)
 
 そして妊娠9週、私は――突然赤ちゃんを失った。

 出血、そしてお腹の痛み。嫌な予感が頭の中を駆け巡る。会社のトイレにいた私は必死で助けを呼び、タクシーで病院へ向かった。でも……間に合わなかった。

「この週数での流産は赤ちゃん側に原因があることがほとんどです。母体に責任はありません。だから、気にやまないで」

 お医者さんにも家族にもそう言われた。でも、ホントに? 私のせいじゃないの? 私がストレスを抱えていたからとか、何か身体に悪いことをしたとか関係ないの? 自分を責めることしかできないのだ。

 そっとお腹に手を当ててみる。もう、ここには赤ちゃんはいない……そう思うとぽっかり心に穴が開いたようで、辛くてたまらなかった。
 今は会社を休み、実家に戻って身体と心の傷を回復させるよう努めている。

 真吾さんは手術が終わって実家に戻った夜に会いに来てくれた。もしかして別れを言い出されるんじゃないかと不安だったけど、母もいたからかそんなことはなかった。

(結婚するためにも早く次の子供を作らなきゃ……でもまだ、そんな気になれない……)


 ~~~~~~~~~~
(真吾side)

 美音が流産した。それを聞いた時の俺の気持ちは誰にも言うことはできない。まさか、ホッとしただなんて。
 
 妊娠したと言われた時は寝耳に水だったが覚悟を決めた。月葉と別れ、双方の親にも報告し、きちんと式も挙げることにした。まさかこんな未来になるとは一年前には思ってもいなかったけど。

(仕方がない。生まれてくる命のためだ)

 そう思って粛々と結婚へ向かって進んでいたのに。

(子供はもういない……)

 一度決めた覚悟がぐらぐらと揺らぐ。ここで美音を捨てたら俺は人でなしじゃないか。でも愛してない女と結婚することも結局は同じじゃないのか。

 悩みながらも週末、また美音の実家に向かった。美音はベッドに青い顔で横たわっていて母親がすまなさそうに言う。

「出血がまだあるから、安静にしているの。また来週受診するけれど、私がついて行くから心配しないで。気にかかるのは気分がひどく落ち込んでいること。でも真吾さんの顔を見たら少しは良くなるかもしれないわ」

 だが美音は「ごめんなさい」と泣くばかりで、何も喋ろうとはしなかった。

「……また来るよ」 

 帰りの電車の中で俺はため息をついた。

(俺……これからどうしたらいいんだろう……)


 ~~~~~~~

(美音side)

「美音、真吾さん来てくれたわよ」

 真吾さんがまた来てくれた。受診の結果は問題なく、次の妊娠にも支障はないだろうと母が説明している声が聞こえる。

「美音、気分はどうだ?」
「真吾さん……」

 気分は最悪だ。あれからずっと心が晴れる日がない。赤ちゃんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだから。

「ごめんなさい……」
「美音が悪いんじゃないだろ? 仕方のないことだってお医者さんも言ってたじゃないか。謝る必要なんてない」
「違うの……私が、不純な気持ちで赤ちゃんを作ったから……バチが当たったの」

 涙がぼろぼろ溢れて止まらない。この一週間、ずっとだ。

「不純って……どういうこと?」
「ピル飲んでるって嘘をついて……ホントは飲んでなかったの。真吾さんと、どうしても結婚したかったから」
「な……!」

 私の肩をさすってくれていた真吾さんの手が止まった。

「嘘って……そうなのか? 美音」
「ごめんなさい……真吾さんに他の女の人の影が見えて、心配になって……会社の先輩に相談したら、でき婚に持ち込めばいいってアドバイスされて……つい……」

 真吾さんは言葉を失っていた。それはそうだろう。子供ができたからこそ彼は私を選んでくれた。そうじゃなかったら、捨てられていたのは私のほうだ。

「だから、こうなったのも全部私のせいなの……私のお腹に宿ったばっかりに、赤ちゃんは……」

 これ以上は苦しくて喋ることができなかった。でも……真吾さんは抱きしめてはくれない。やっぱり、怒っているのだろうか。

「真吾さん、もう嘘をついたりしないから……だから別れないで……」
「……ごめん。少し、考えさせて」

 真吾さんは立ち上がり部屋を出て行った。お茶を持ってきた母が慌てて追いかけている。

 私はベッドに突っ伏して泣き崩れた。




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