【完結】やり直し彼氏は今度こそ私を甘やかすつもりのようです

月(ユエ)/久瀬まりか

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回想・美音

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 あの日、真吾さんに妊娠を告げた日。薄々感じていたけれど真吾さんには別に彼女がいた。私の妊娠に驚いてパニックになり、すぐに白状したのだ。しかも私のほうが浮気相手だと分かり、今度は私が取り乱した。

(どうしよう。妊娠したのに捨てられたら)

 だけど、真吾さんは誠実だった。赤ちゃんが本当にできたのなら結婚するって言ってくれて、病院にもついてきてくれた。そして5週目だと聞かされるとすぐに本命の彼女に連絡を入れ、その日のうちに別れ話をしてくれたのだ。

 あれからとんとん拍子に話は進み、私の実家に挨拶に来てくれたし真吾さんのご両親にもビデオ通話でご挨拶した。両家とも最初は驚いて、でもすぐに祝福してくれて嬉しかった。

『美音、いい方とご縁ができてできてよかったわねえ』

 うちの親は特に喜んでいた。これまでの私の彼氏遍歴を知っていたから余計にそう思うんだろう。




 私はちょっと危なげな人に惹かれる傾向があった。ヤンキー、バンドマン、ホスト、騙されたり浮気されて大喧嘩して警察沙汰になったり。
 でも専門学校を出て今の会社に就職して、一応真面目に働いているうちにやっぱり普通の人と結婚するのが幸せかもと思い始めた。

「先輩、どこかに普通の素敵な人、落ちてないですかねえ。普通の人でいいんです、ほんとに」

 バーテンダーやってる彼氏に浮気されて別れた直後、私は隣の席の先輩に相談した。

「そうねえ。美音ちゃん可愛いんだし、ちゃんとしたサラリーマンと合コンしたらモテると思うよ。企画してあげよっか?」
「え、いいんですか? 会社員と合コンって実は初めてかも。お願いします!」

 それからしばらくして先輩は本当に合コンをセッティングしてくれた。

「ホーバル販売っていうOA機器販売会社なんだけどね、30歳前後の独身男性が3人。どう?」

 そして参加メンバーの写真まで見せてくれた。

「これが私の知り合いで向こうの幹事。で、参加するのはこの人とこの人」
「けっこうみんなかっこいいですね」
「でしょ? なかでもこの人、いいと思わない? 片瀬くんっていうの。仕事もできる爽やかボーイらしいよ」
「へええ。仕事できるっていいかも」

 見せてくれたのは大勢でキャンプに行っている写真。楽しそうな明るい笑顔に好感が持てた。

(これは期待できそう)

 合コン当日、先輩が体調不良で来られないというアクシデントはあったものの、職場の同期・真紀と一緒に参加した。

 実物の真吾さんは写真よりもかっこよくて、私は正直言って一目惚れだった。真紀に取られないようにずっと隣をキープし、最後は連絡先交換にも成功。それから少しずつ距離を詰めていって、満を持して告白したのだ。
 告白は上手くいき、私は幸せだった。火曜、水曜のデートもいつも楽しくて、普通の人と付き合うことの幸せを実感していた。

 でも一つだけ、悩みがあった。真吾さんは決して私を部屋に入れてくれない。土日は確かに私は仕事があるけれど、真吾さんは休みなんだから部屋でゆっくりいちゃいちゃしてみたいのに。

「もしかしたら他に女がいるのかもしれないわね」

 先輩に相談するとそう言われた。

「ええっ……どうしよう、そんなの辛すぎます」 

 もう私の中では真吾さんはなくてはならない人になっていたから。

「じゃあさ、子供作っちゃえばいいんじゃない?」
「子供?」
「そう。何かで読んだことあるのよ。ピルを飲んでると嘘を言って油断させて、実は飲んでなくて妊娠するって。そうやってでき婚に持ち込むんだって」
「えー! そんなにうまくいくものですか?」
「今は避妊してるの?」
「はい。ちゃんとつけてます」
「そしたら病院に行ってさ、ピル貰ってくるの。で、彼には生理不順だからピル飲み始めたんだよーって言って目の前で飲んで安心させて。で、半年くらい経ってゴム無しにすっかり慣れた頃にこっそり飲むのを止めるの。運が良ければすぐ妊娠するでしょ」
「でもやっぱり怖いです。子供ができても責任取らない人もいるし」
「大丈夫よ。彼の会社もわかってるんだし、いざとなったら乗り込んでいけば」
「ええー、でも……」 
「美音ちゃん若いうちに結婚決めなきゃ。勢いが大事よ。あの年頃の男性はのらりくらりと結婚をかわそうとするから、子供できたくらいのインパクト与えないと覚悟が決まらないの」  

(確かに……30歳の先輩の言葉には重みがある。勢い、か……真吾さんを他の女に取られるくらいならやる価値はあるかも……)

 そして先輩のアドバイス通りに実行し、見事に妊娠したのだ。





 安定期にはまだ早いけど、もう結婚も決まったんだし先輩にちゃんとお礼を言わなくちゃ。お客様がいないタイミングを見計らって小声で話しかけた。

「ホントにありがとうございました。無事妊娠して、彼が結婚を決めてくれました!」
「よかったわね、おめでとう。他に女はいたの?」
「はい……実は本命の彼女がいて、私のほうが浮気だったんです。それはすごくショックだったけど、結果として彼は私を選んでくれました。彼女とすぐに別れてくれたんです」

 先輩はすごく嬉しそうな顔で笑っていた。というか、すごく満足そうな笑顔。自分がしたアドバイスが上手くいったからだろうか?

「まあ、美音ちゃんのほうが若くて可愛いしねー。その彼女にはお気の毒だけど」

 そして鼻歌を歌いながらタバコ休憩に行ってしまった。

(先輩、なんか楽しそう。いいことでもあったのかな)

 先輩はとても美人で有名だった、らしい。以前飲み会で課長が教えてくれた。社内でも社外でも大人気で、先輩を連れて行くと商談がまとまることもあったとか。

『でもさあ、さすがにもう彼女も30歳だろ。しかも仕事はできないし性格もいまいちだし、もう人気も無くなってね。美しさがピークの頃に結婚でもしておけばよかっただろうにねえ』

 課長はそんな風に言っていたけれど、私にとっては恩人だ。真吾さんとの結婚式には絶対来てもらおう。

 そこへ先輩が休憩から戻ってきた。私は笑顔で迎える。

「おかえりなさい、先輩」
 
 




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