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彼女は私だけ?
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付き合うことになってから毎晩、悠李はLIMEや電話で連絡をくれる。
仕事はもちろん忙しいのだけれど残業は会社の方針で何時まで、と決められていて夜は意外と自由時間があるのだそうだ。
「じゃあ終業後はいつも何してるの?」
私は帰宅して夕食もお風呂も済ませ、部屋でくつろぎながら質問する。
「ジム行ったりバスケしに行ったり。やっぱり、身体動かすのが好きなんだよね」
「バスケ、やってるんだ! 確か小学校の時にスポーツ少年団に入ってたんだっけ」
「そうそう。覚えててくれたんだ」
「そんな話してくれたことあるよね。でも中学でバスケ部に入らなかったのは……」
「背が伸びなかったからなんだよなぁ。チビじゃ太刀打ちできない、と思って」
「じゃあさ、高校では何してたの? 背も伸びたんだしバスケ部?」
「……部活には入ってないんだけどさ、経済に興味があったから友人を誘ってエコノミクス甲子園に出たりしてた」
「へえ⁈ そんなのあるんだ⁈」
なんだか、私の知らない悠李がたくさん出てくる。やっぱり離れている期間が長かったからか、全てが新鮮で楽しい。
その後悠李は早田大学経済学部に入学し、在学中に公認会計士の資格を取ったのだという。
「凄いね悠李。あれってかなり難しい資格なんでしょう?」
「まあ確かに難しかった。でも社会人一年目からバリバリ仕事したかったからね。そのために学生の間は勉強ばっかやってたよ」
(そうなんだ……彼女とかは、いたのかな?)
これだけイケメンでいい大学も行って優秀で。絶対にモテていたはずだ。めっちゃ気になるし今のうちに聞いておこう。
「ねえ悠李。今まで彼女は何人くらい……?」
すると悠李はスマホの向こうで黙ってしまった。もしかして、両手で数えてたりして。
「……一人」
しばらく経ってからポツリとそう答える。
「一人? あ、じゃあその人と長く付き合ってたのね」
「……一ヶ月」
(ん?)
「悠李、それってもしかして……」
「……そうだよ。こないだは見栄張ったけど、俺、月葉としか付き合ってない」
「う、うっそー?」
思わず声が大きくなった。まずい、お父さんをびっくりさせてしまう。
「いいだろ、別に。いいと思う相手がいなかったんだから」
なんだか声が拗ねている。余計なこと聞いてしまったかも。
「月葉のほうはどうなんだよ……って、だめだ、やっぱ聞きたくない。聞いたら泣いてしまうかも」
泣くってそんな、大袈裟な。でもその気持ちわかる。私も『彼女いなかった』って聞いたから今平静でいられるけど、『三人』とかリアルな数字言われてたら凹んでいたに違いない。そんな権利ないってわかっていても。
じゃあ私は真吾のことを正直に言う? それとも彼氏なんていたことないよって嘘をつくべきなのかな?
(……ううん、嘘は言いたくない。悠李がちゃんと聞いてきたら、その時は答えよう)
「月葉、デートの時に答えを教えて。顔を見て聞きたいから」
「うん、わかった。週末は映画を観に行くんだよね」
「そう。早いけど9時に待ち合わせ、忘れないでね」
なんとなく微妙な空気で電話は終わった。
(そっかあ……悠李、あれから彼女作ってないんだ……)
悠李はこれまでどんな風に生きてきたんだろう。あの時私が悠李の手を離していなければ、ずっと一緒の人生を過ごせていたのかな。
(……なんてね。今更だわ。陽菜に邪魔されて結局ダメになっていただろうし)
陽菜は昔から私に意地悪だ。おもちゃも貸してくれないし、母が『二人で分けるのよ』と言って置いてあったお菓子が私の口に入ることは滅多になかった。
そのくせ私が誰かに何かをもらったら泣いて騒いで欲しがる。そんな時、母は常に陽菜の味方だった。『月葉は物分かりがいいのだけが取り柄なんだから。お姉ちゃんに渡しなさい』。
陽菜はうちに遊びに来た友達をおもちゃやお菓子で誘って自分の部屋に連れていく。そして私より仲良くなってしまう。その時のみじめさといったらなかった。
とにかく私が自分より下でいなければ嫌なのだ。顔が可愛いと言われるだけでは満足できなくて、友人や彼氏、新しい服や持ち物、習い事や表彰状の数。何から何まで勝ちたがった。
だからもし悠李と私が付き合い続けていたとしたら、どんな手を使ってでも別れさせていただろう。もしかしたら悠李とキスをしたと嘘をついたのも、そういう気持ちからだったのかもしれない。いや、きっとそう。
(……今後悠李とどうなるかはわからないけれど……陽菜に会わせるのだけは絶対にやめておこう)
仕事はもちろん忙しいのだけれど残業は会社の方針で何時まで、と決められていて夜は意外と自由時間があるのだそうだ。
「じゃあ終業後はいつも何してるの?」
私は帰宅して夕食もお風呂も済ませ、部屋でくつろぎながら質問する。
「ジム行ったりバスケしに行ったり。やっぱり、身体動かすのが好きなんだよね」
「バスケ、やってるんだ! 確か小学校の時にスポーツ少年団に入ってたんだっけ」
「そうそう。覚えててくれたんだ」
「そんな話してくれたことあるよね。でも中学でバスケ部に入らなかったのは……」
「背が伸びなかったからなんだよなぁ。チビじゃ太刀打ちできない、と思って」
「じゃあさ、高校では何してたの? 背も伸びたんだしバスケ部?」
「……部活には入ってないんだけどさ、経済に興味があったから友人を誘ってエコノミクス甲子園に出たりしてた」
「へえ⁈ そんなのあるんだ⁈」
なんだか、私の知らない悠李がたくさん出てくる。やっぱり離れている期間が長かったからか、全てが新鮮で楽しい。
その後悠李は早田大学経済学部に入学し、在学中に公認会計士の資格を取ったのだという。
「凄いね悠李。あれってかなり難しい資格なんでしょう?」
「まあ確かに難しかった。でも社会人一年目からバリバリ仕事したかったからね。そのために学生の間は勉強ばっかやってたよ」
(そうなんだ……彼女とかは、いたのかな?)
これだけイケメンでいい大学も行って優秀で。絶対にモテていたはずだ。めっちゃ気になるし今のうちに聞いておこう。
「ねえ悠李。今まで彼女は何人くらい……?」
すると悠李はスマホの向こうで黙ってしまった。もしかして、両手で数えてたりして。
「……一人」
しばらく経ってからポツリとそう答える。
「一人? あ、じゃあその人と長く付き合ってたのね」
「……一ヶ月」
(ん?)
「悠李、それってもしかして……」
「……そうだよ。こないだは見栄張ったけど、俺、月葉としか付き合ってない」
「う、うっそー?」
思わず声が大きくなった。まずい、お父さんをびっくりさせてしまう。
「いいだろ、別に。いいと思う相手がいなかったんだから」
なんだか声が拗ねている。余計なこと聞いてしまったかも。
「月葉のほうはどうなんだよ……って、だめだ、やっぱ聞きたくない。聞いたら泣いてしまうかも」
泣くってそんな、大袈裟な。でもその気持ちわかる。私も『彼女いなかった』って聞いたから今平静でいられるけど、『三人』とかリアルな数字言われてたら凹んでいたに違いない。そんな権利ないってわかっていても。
じゃあ私は真吾のことを正直に言う? それとも彼氏なんていたことないよって嘘をつくべきなのかな?
(……ううん、嘘は言いたくない。悠李がちゃんと聞いてきたら、その時は答えよう)
「月葉、デートの時に答えを教えて。顔を見て聞きたいから」
「うん、わかった。週末は映画を観に行くんだよね」
「そう。早いけど9時に待ち合わせ、忘れないでね」
なんとなく微妙な空気で電話は終わった。
(そっかあ……悠李、あれから彼女作ってないんだ……)
悠李はこれまでどんな風に生きてきたんだろう。あの時私が悠李の手を離していなければ、ずっと一緒の人生を過ごせていたのかな。
(……なんてね。今更だわ。陽菜に邪魔されて結局ダメになっていただろうし)
陽菜は昔から私に意地悪だ。おもちゃも貸してくれないし、母が『二人で分けるのよ』と言って置いてあったお菓子が私の口に入ることは滅多になかった。
そのくせ私が誰かに何かをもらったら泣いて騒いで欲しがる。そんな時、母は常に陽菜の味方だった。『月葉は物分かりがいいのだけが取り柄なんだから。お姉ちゃんに渡しなさい』。
陽菜はうちに遊びに来た友達をおもちゃやお菓子で誘って自分の部屋に連れていく。そして私より仲良くなってしまう。その時のみじめさといったらなかった。
とにかく私が自分より下でいなければ嫌なのだ。顔が可愛いと言われるだけでは満足できなくて、友人や彼氏、新しい服や持ち物、習い事や表彰状の数。何から何まで勝ちたがった。
だからもし悠李と私が付き合い続けていたとしたら、どんな手を使ってでも別れさせていただろう。もしかしたら悠李とキスをしたと嘘をついたのも、そういう気持ちからだったのかもしれない。いや、きっとそう。
(……今後悠李とどうなるかはわからないけれど……陽菜に会わせるのだけは絶対にやめておこう)
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