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回想・真吾の思い
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なんでこんなことになったんだろう。
俺はまだまだ結婚なんてするつもりはなかった。だけど、もし結婚するなら月葉かな、と思っていたのに。
月葉とはバイト先のイタリアンレストランで出会った。大学生が何人もバイトしていた中で、いつも真面目に仕事を頑張っていたのは知っていた。でもその時は俺も彼女がいたし、いろんな遊びに忙しくて月葉とはただのバイト仲間のまま卒業した。
それから社会人になり、日々忙しくて疲れる毎日。当時の彼女は大学生。働くことのしんどさをわかってくれず毎日のように連絡を欲しがる。次第に嫌気がさしてきて俺は別れを選んだ。
やがて二年目三年目と進むにつれ仕事の要領もよくなって、息抜きも上手になった。会社の先輩や同僚と一緒に合コンに行ったり、男女でキャンプやスキーに行ったりと楽しい毎日を送っていた。
だけどそのうち、落ち着いた男女関係にも憧れるようになる。ない物ねだりってやつかな。そんな時に偶然、月葉に再会した。三年前のことだ。
久々に出会った月葉は綺麗になっていて驚いた。昔は、性格と同様に見た目も真面目、まあいわゆる地味な子だった。それが社会人になって服も化粧もきちんとした大人の女性になっていたのだ。
(こういう子が彼女だといいな)
そう感じた俺はそれから猛アタックし、無事付き合うことになった。
思った通り、月葉は優しくていつも俺の言うことを聞いてくれた。嫉妬や詮索もせず、会う回数が減っても文句も言わない。月葉という港があるからこそ安心して過ごせるんだと思って、俺はそれまでと変わらず友人たちと遊んでいた。もちろん、合コンに行く時だけは絶対内緒にしていたけど。
やがて月葉との仲が少しだけマンネリに感じてきた頃……あれはちょうど一年前。会社の先輩に誘われて行った合コンで美音に出会った。
「片瀬さん、どんな子がタイプですか?」
「私の職場、水曜日がお休みなんですよ。ランチデートとかしませんか?」
美音は最初から積極的だった。こんな若い子に言い寄られて嬉しくないわけがない。その日の合コンは盛り上がり、俺と美音は連絡先を交換した。
(別にいいよな。ただのLIME交換だし)
それからは時々LIMEで会話をするようになった。月葉とは違う、若く溌溂とした美音と話すことが新鮮で楽しく、それだけでは飽き足らなくなって会うことを決めた。
(ただのランチだから。やましいことはない)
水曜日の昼、お洒落なカフェで会い楽しい時間を過ごした。
「楽しかったよ、美音ちゃん。残念だけどこの後アポがあるからもう行かなくちゃ」
伝票を持って席を立つと彼女は寂しそうな顔をしている。それを見て思わず言ってしまった。
「また来週水曜日に会おうか?」
すると美音はパッと顔を輝かせて頷いた。
(可愛い)
俺は心からそう思ってしまった。
それから毎週ランチデートをしているうちに美音に告白された。
「好きです、片瀬さん。付き合ってください」
「美音ちゃん……俺も好きだよ」
「嬉しい……美音って呼んでください……」
月葉の顔がちらりと浮かんだけれど、もう止まることはできなかった。
それからは、火曜の夜に食事をして飲みに行き、美音の家に泊まるというのがお決まりになった。時には俺の有休を水曜に取って、遠出に連れて行ったりもした。ちょっといいホテルに泊まるとものすごく喜んでくれる。そんな美音がたまらなく可愛かった。
そうやって仲が深まっていっても、美音を俺の部屋には決して呼ばなかった。部屋には月葉の服や化粧品が置いてある。月葉にも美音にも、お互いの存在を気づかれたくなかったから。
(美音は可愛いけど結婚にはちょっとな。部屋も汚いし料理は下手だし……やっぱり結婚するなら月葉だろう。でもまだ今じゃない。もう少し遊んでからでいい。結婚して他人の人生を背負わなきゃならないのは、まだ気が重いんだよ……)
俺は、二人と上手くやっているつもりだった。美音とはもう少し付き合ってからフェードアウトして、30歳になったら月葉と結婚に向けて話を進めよう、そんな風に気楽に考えていた。
ところがあの日……美音のひと言から俺の運命は急変した。
いつものように火曜日の夜、食事に行こうと美音に連絡をすると、体調が悪いから外食はできないと言う。
「大丈夫か? じゃあ今日のデートは無しにするか」
「……あのね、真吾さん。お話があるから部屋に来てくれる?」
(話? なんだろう。別れ話とか? でも声は明るいんだよな)
「わかった。何か食べるもの買っていこうか?」
「ありがとう。お願いね」
少し面倒に思いながらテイクアウトを買って部屋に向かう。
(体調悪いならセックスは無しかぁ……美音とヤルのは楽しみなのに)
美音はピルを飲んでいるから避妊具を付けなくていい。月葉はそういうわけにはいかないからきっちり避妊しているけれど、やっぱり『生』でする方が気持ちいいに決まってる。張りのある若い肌も相まって、美音を抱くのは俺にとって欠かせない楽しみになっていたのだ。
「真吾さん。私、赤ちゃんができたの」
部屋に入ると開口一番美音が言った。とても幸せそうな笑顔で。
「え……どういうこと?」
(子供って? 嘘だろ?)
鼓動が激しくなる。悪い冗談じゃないのか?
「生理が少し遅れてたからもしかして、と思って検査薬使ってみたの。そしたら、見て」
美音が見せてきたのは赤い線が2本浮かび上がる細い棒。
「だって美音、ピル飲んでただろ……? それで出来るなんてこと……あるのか?」
「私も驚いたの。ピルって、100%の避妊率じゃないんだって。だけど私、嬉しい。真吾さんの赤ちゃんがここにいるんだと思うと」
「ま、待ってくれ……俺、実は彼女がいるんだ」
焦った俺は頭が真っ白になり、正直に告白してしまった。
「え……嘘、真吾さん、そんな……」
みるみる涙目になり、泣き崩れる美音。さっきまであんなに幸せそうだったのに。
「ごめん……ごめんよ美音。彼女と別れないうちに美音と付き合うことになってしまったから……」
「だったら私、どうしたらいいの? ここにいる赤ちゃん、私諦めたくない。私は真吾さんの赤ちゃんなら絶対に産みたいの」
泣きじゃくる美音が可哀想になり、俺は震える肩をそっと抱いた。
「わかった、美音……俺明日有休取るから、一緒に病院行こう。そして本当に子供ができていたら……彼女と別れて美音と結婚する」
「ホントに……? 真吾さん……」
俺は頷いた。まだまだ遊びたいと思っていたのは否定しないけれど、できてしまった子供を堕ろせなんて非道なことを言うつもりはない。その責任はちゃんと取る。
(でも……できれば間違いであって欲しい)
だがその願いは叶うことはなかった。
俺はまだまだ結婚なんてするつもりはなかった。だけど、もし結婚するなら月葉かな、と思っていたのに。
月葉とはバイト先のイタリアンレストランで出会った。大学生が何人もバイトしていた中で、いつも真面目に仕事を頑張っていたのは知っていた。でもその時は俺も彼女がいたし、いろんな遊びに忙しくて月葉とはただのバイト仲間のまま卒業した。
それから社会人になり、日々忙しくて疲れる毎日。当時の彼女は大学生。働くことのしんどさをわかってくれず毎日のように連絡を欲しがる。次第に嫌気がさしてきて俺は別れを選んだ。
やがて二年目三年目と進むにつれ仕事の要領もよくなって、息抜きも上手になった。会社の先輩や同僚と一緒に合コンに行ったり、男女でキャンプやスキーに行ったりと楽しい毎日を送っていた。
だけどそのうち、落ち着いた男女関係にも憧れるようになる。ない物ねだりってやつかな。そんな時に偶然、月葉に再会した。三年前のことだ。
久々に出会った月葉は綺麗になっていて驚いた。昔は、性格と同様に見た目も真面目、まあいわゆる地味な子だった。それが社会人になって服も化粧もきちんとした大人の女性になっていたのだ。
(こういう子が彼女だといいな)
そう感じた俺はそれから猛アタックし、無事付き合うことになった。
思った通り、月葉は優しくていつも俺の言うことを聞いてくれた。嫉妬や詮索もせず、会う回数が減っても文句も言わない。月葉という港があるからこそ安心して過ごせるんだと思って、俺はそれまでと変わらず友人たちと遊んでいた。もちろん、合コンに行く時だけは絶対内緒にしていたけど。
やがて月葉との仲が少しだけマンネリに感じてきた頃……あれはちょうど一年前。会社の先輩に誘われて行った合コンで美音に出会った。
「片瀬さん、どんな子がタイプですか?」
「私の職場、水曜日がお休みなんですよ。ランチデートとかしませんか?」
美音は最初から積極的だった。こんな若い子に言い寄られて嬉しくないわけがない。その日の合コンは盛り上がり、俺と美音は連絡先を交換した。
(別にいいよな。ただのLIME交換だし)
それからは時々LIMEで会話をするようになった。月葉とは違う、若く溌溂とした美音と話すことが新鮮で楽しく、それだけでは飽き足らなくなって会うことを決めた。
(ただのランチだから。やましいことはない)
水曜日の昼、お洒落なカフェで会い楽しい時間を過ごした。
「楽しかったよ、美音ちゃん。残念だけどこの後アポがあるからもう行かなくちゃ」
伝票を持って席を立つと彼女は寂しそうな顔をしている。それを見て思わず言ってしまった。
「また来週水曜日に会おうか?」
すると美音はパッと顔を輝かせて頷いた。
(可愛い)
俺は心からそう思ってしまった。
それから毎週ランチデートをしているうちに美音に告白された。
「好きです、片瀬さん。付き合ってください」
「美音ちゃん……俺も好きだよ」
「嬉しい……美音って呼んでください……」
月葉の顔がちらりと浮かんだけれど、もう止まることはできなかった。
それからは、火曜の夜に食事をして飲みに行き、美音の家に泊まるというのがお決まりになった。時には俺の有休を水曜に取って、遠出に連れて行ったりもした。ちょっといいホテルに泊まるとものすごく喜んでくれる。そんな美音がたまらなく可愛かった。
そうやって仲が深まっていっても、美音を俺の部屋には決して呼ばなかった。部屋には月葉の服や化粧品が置いてある。月葉にも美音にも、お互いの存在を気づかれたくなかったから。
(美音は可愛いけど結婚にはちょっとな。部屋も汚いし料理は下手だし……やっぱり結婚するなら月葉だろう。でもまだ今じゃない。もう少し遊んでからでいい。結婚して他人の人生を背負わなきゃならないのは、まだ気が重いんだよ……)
俺は、二人と上手くやっているつもりだった。美音とはもう少し付き合ってからフェードアウトして、30歳になったら月葉と結婚に向けて話を進めよう、そんな風に気楽に考えていた。
ところがあの日……美音のひと言から俺の運命は急変した。
いつものように火曜日の夜、食事に行こうと美音に連絡をすると、体調が悪いから外食はできないと言う。
「大丈夫か? じゃあ今日のデートは無しにするか」
「……あのね、真吾さん。お話があるから部屋に来てくれる?」
(話? なんだろう。別れ話とか? でも声は明るいんだよな)
「わかった。何か食べるもの買っていこうか?」
「ありがとう。お願いね」
少し面倒に思いながらテイクアウトを買って部屋に向かう。
(体調悪いならセックスは無しかぁ……美音とヤルのは楽しみなのに)
美音はピルを飲んでいるから避妊具を付けなくていい。月葉はそういうわけにはいかないからきっちり避妊しているけれど、やっぱり『生』でする方が気持ちいいに決まってる。張りのある若い肌も相まって、美音を抱くのは俺にとって欠かせない楽しみになっていたのだ。
「真吾さん。私、赤ちゃんができたの」
部屋に入ると開口一番美音が言った。とても幸せそうな笑顔で。
「え……どういうこと?」
(子供って? 嘘だろ?)
鼓動が激しくなる。悪い冗談じゃないのか?
「生理が少し遅れてたからもしかして、と思って検査薬使ってみたの。そしたら、見て」
美音が見せてきたのは赤い線が2本浮かび上がる細い棒。
「だって美音、ピル飲んでただろ……? それで出来るなんてこと……あるのか?」
「私も驚いたの。ピルって、100%の避妊率じゃないんだって。だけど私、嬉しい。真吾さんの赤ちゃんがここにいるんだと思うと」
「ま、待ってくれ……俺、実は彼女がいるんだ」
焦った俺は頭が真っ白になり、正直に告白してしまった。
「え……嘘、真吾さん、そんな……」
みるみる涙目になり、泣き崩れる美音。さっきまであんなに幸せそうだったのに。
「ごめん……ごめんよ美音。彼女と別れないうちに美音と付き合うことになってしまったから……」
「だったら私、どうしたらいいの? ここにいる赤ちゃん、私諦めたくない。私は真吾さんの赤ちゃんなら絶対に産みたいの」
泣きじゃくる美音が可哀想になり、俺は震える肩をそっと抱いた。
「わかった、美音……俺明日有休取るから、一緒に病院行こう。そして本当に子供ができていたら……彼女と別れて美音と結婚する」
「ホントに……? 真吾さん……」
俺は頷いた。まだまだ遊びたいと思っていたのは否定しないけれど、できてしまった子供を堕ろせなんて非道なことを言うつもりはない。その責任はちゃんと取る。
(でも……できれば間違いであって欲しい)
だがその願いは叶うことはなかった。
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(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
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