6 / 36
屋上デート
しおりを挟む
ライブの翌週、悠李から連絡が来た。
『次の予定だけど、週末、夢の国へ行かないか』
(え、早っ。もう連絡してきたの? しかもなんでそんなとこ)
隣の県にある夢の国、通称ドワーフランド。小人たちのキャラが歌い踊る、一大テーマパークだ。いつ行っても混んでいるから真吾と一緒に行ったこともないし、行こうとも思わなかった。正直、私には似合わない場所だと思っている。
『ちょっとハードルが高い。遠いし』
そう返信するとすぐに悲しそうな顔のスタンプが返ってきたけれど、彼はそこで諦めはしなかった。間を置かず次の提案がくる。
『じゃあ渋谷の屋上展望に行きたい』
(なんなの! なんでデートコースみたいなとこばかり)
『俺、全然遊んでなくてさ。普通の28歳なら行ってるようなとこも全然行けてないんだ』
『月葉ならバカにせず付き合ってくれるだろ?』
『頼む! 俺を助けると思って』
私は返信していないのに、どんどんトークが送られてくる。
(まあ、そこまで頼まれたらしょうがないか……私もどうせ休日ヒマだし)
『いいよ。付き合う』
『やった! サンキュ!』
そして私たちは土曜日、とあるビルの屋上に出掛けたのである。
予約チケットが必要だと知らなかった私は当日並んでる人を見て驚いた。
「ええ! これ、今日は無理なんじゃないの?」
「大丈夫。チケットは取ってあるし、これは入場を待つ人の列だから」
悠李の言う通り、しばらく並んでからエレベーターに案内された。
全面が黒くなっている中に乗り込み、静かに動き出すと天井に映像が映し出される。身体の浮遊感に合わせて上へ上へ、宇宙の中を昇っていくような映像。思わず見惚れてしまう美しさで、長いはずの搭乗時間もあっという間に感じられた。
エレベーターを降りると今度は長いエスカレーターへ。だんだんと明るくなっていくその先には――
「わあ!」
広い屋上には人工芝が敷き詰められ、外国人カップルがあちこちでごろりと寝そべっている。天気も最高に良くて、本当に東京中を見渡すことができた。なんともいえない解放感。
「すごいね。こういうの、観光客が行きたがるだけだと思っていたけど、本当に素敵」
「だろ? 絶対行きたいって思ってたんだよ。月葉が一緒に来てくれてよかった。一人だとちょっと寂しいもんな」
「でも悠李、そのくらい付き合ってくれる友達いるでしょ?」
「んー、でもここ三年は長期出張で東京を離れてたし。友人もあちこちにばらけちまったから、俺今まじでぼっち」
そう言う顔が捨てられた子犬みたいで、つい笑ってしまった。
「月葉、なんか中学生の頃より笑顔が明るくなった気がする」
急に真面目な調子で話す悠李。
「そう? そうね、たぶんストレスの原因と離れたからかなあ」
「ストレスの原因? それって……聞いてもいいこと?」
「全然いいよ。高2の時にね、両親が離婚したの。私は母親がすごく苦手で……一緒にいるのがとても辛かったから。それから時間はかかったけど今はとてもラクに笑えるようになった」
「なんで苦手だったの」
「ずっと私のこと否定されててね。可愛くないから笑うなとか、とにかく見た目を貶されてた。高校に入学した直後はかなり精神状態も悪くなってて……学校にも行けなくなったりして」
その一因が悠李と陽菜のキスだ、とはあえて言わないけど。悠李もやっぱり陽菜のほうを好きになるんだ、というショックがかなり尾を引いていた。
両親が離婚して引っ越して、学校も転校して。全てまっさらになってからようやく私は前を向いて生きられるようになったのだ。
「……ごめん」
「え? 何が?」
「あの頃、そんな辛かったのに気づいてやれてなくて。何の力にもなれてなかったんだな」
「待って、悠李には関係ないから。私と母親の問題だし。気にしないで」
なんとなく気まずくて出口に向かいかけた私の手首を悠李はぱっと掴んだ。
「それともう一つ謝らなきゃいけないことがある」
(謝らなきゃいけないこと……それって、やっぱりキスのことだよね……)
あの時のトラウマにやっとケリがつくのだ。真剣な顔の悠李に、私も真剣に向き合った。
「俺、あの時月葉に突然振られて、理由を聞いても何も教えてくれなくて、すごく辛かった。俺のどこがいけなかったんだろうってめちゃくちゃ悩んで引きずって。だから、ライブで月葉に再会した時、思ったんだ。もう一度俺のこと好きにさせて、今度は俺が振ってやるって」
「……は?」
「だから今日も……月葉が俺を好きになるような楽しいデートにしてやろうって、悪い気持ちで誘った。まさかあの時の月葉が家庭で問題を抱えてて、俺のことどころじゃなかったなんて知らなかったから」
(……なんか違う。思ってた謝罪と)
「ごめん。もう復讐なんて考えない。今後は友人としてでもいいから仲良くしてくれないか」
頭を下げて手を差し出す悠李。私は腹が立ってその手をパシンとはたいた。
「何勝手なこと言ってるのよ。私が謝ってほしいのはそこじゃない。悠李と陽菜がキスをしていたことだわ!」
「……は?」
今度は、悠李の開いた口が塞がらなかった。
『次の予定だけど、週末、夢の国へ行かないか』
(え、早っ。もう連絡してきたの? しかもなんでそんなとこ)
隣の県にある夢の国、通称ドワーフランド。小人たちのキャラが歌い踊る、一大テーマパークだ。いつ行っても混んでいるから真吾と一緒に行ったこともないし、行こうとも思わなかった。正直、私には似合わない場所だと思っている。
『ちょっとハードルが高い。遠いし』
そう返信するとすぐに悲しそうな顔のスタンプが返ってきたけれど、彼はそこで諦めはしなかった。間を置かず次の提案がくる。
『じゃあ渋谷の屋上展望に行きたい』
(なんなの! なんでデートコースみたいなとこばかり)
『俺、全然遊んでなくてさ。普通の28歳なら行ってるようなとこも全然行けてないんだ』
『月葉ならバカにせず付き合ってくれるだろ?』
『頼む! 俺を助けると思って』
私は返信していないのに、どんどんトークが送られてくる。
(まあ、そこまで頼まれたらしょうがないか……私もどうせ休日ヒマだし)
『いいよ。付き合う』
『やった! サンキュ!』
そして私たちは土曜日、とあるビルの屋上に出掛けたのである。
予約チケットが必要だと知らなかった私は当日並んでる人を見て驚いた。
「ええ! これ、今日は無理なんじゃないの?」
「大丈夫。チケットは取ってあるし、これは入場を待つ人の列だから」
悠李の言う通り、しばらく並んでからエレベーターに案内された。
全面が黒くなっている中に乗り込み、静かに動き出すと天井に映像が映し出される。身体の浮遊感に合わせて上へ上へ、宇宙の中を昇っていくような映像。思わず見惚れてしまう美しさで、長いはずの搭乗時間もあっという間に感じられた。
エレベーターを降りると今度は長いエスカレーターへ。だんだんと明るくなっていくその先には――
「わあ!」
広い屋上には人工芝が敷き詰められ、外国人カップルがあちこちでごろりと寝そべっている。天気も最高に良くて、本当に東京中を見渡すことができた。なんともいえない解放感。
「すごいね。こういうの、観光客が行きたがるだけだと思っていたけど、本当に素敵」
「だろ? 絶対行きたいって思ってたんだよ。月葉が一緒に来てくれてよかった。一人だとちょっと寂しいもんな」
「でも悠李、そのくらい付き合ってくれる友達いるでしょ?」
「んー、でもここ三年は長期出張で東京を離れてたし。友人もあちこちにばらけちまったから、俺今まじでぼっち」
そう言う顔が捨てられた子犬みたいで、つい笑ってしまった。
「月葉、なんか中学生の頃より笑顔が明るくなった気がする」
急に真面目な調子で話す悠李。
「そう? そうね、たぶんストレスの原因と離れたからかなあ」
「ストレスの原因? それって……聞いてもいいこと?」
「全然いいよ。高2の時にね、両親が離婚したの。私は母親がすごく苦手で……一緒にいるのがとても辛かったから。それから時間はかかったけど今はとてもラクに笑えるようになった」
「なんで苦手だったの」
「ずっと私のこと否定されててね。可愛くないから笑うなとか、とにかく見た目を貶されてた。高校に入学した直後はかなり精神状態も悪くなってて……学校にも行けなくなったりして」
その一因が悠李と陽菜のキスだ、とはあえて言わないけど。悠李もやっぱり陽菜のほうを好きになるんだ、というショックがかなり尾を引いていた。
両親が離婚して引っ越して、学校も転校して。全てまっさらになってからようやく私は前を向いて生きられるようになったのだ。
「……ごめん」
「え? 何が?」
「あの頃、そんな辛かったのに気づいてやれてなくて。何の力にもなれてなかったんだな」
「待って、悠李には関係ないから。私と母親の問題だし。気にしないで」
なんとなく気まずくて出口に向かいかけた私の手首を悠李はぱっと掴んだ。
「それともう一つ謝らなきゃいけないことがある」
(謝らなきゃいけないこと……それって、やっぱりキスのことだよね……)
あの時のトラウマにやっとケリがつくのだ。真剣な顔の悠李に、私も真剣に向き合った。
「俺、あの時月葉に突然振られて、理由を聞いても何も教えてくれなくて、すごく辛かった。俺のどこがいけなかったんだろうってめちゃくちゃ悩んで引きずって。だから、ライブで月葉に再会した時、思ったんだ。もう一度俺のこと好きにさせて、今度は俺が振ってやるって」
「……は?」
「だから今日も……月葉が俺を好きになるような楽しいデートにしてやろうって、悪い気持ちで誘った。まさかあの時の月葉が家庭で問題を抱えてて、俺のことどころじゃなかったなんて知らなかったから」
(……なんか違う。思ってた謝罪と)
「ごめん。もう復讐なんて考えない。今後は友人としてでもいいから仲良くしてくれないか」
頭を下げて手を差し出す悠李。私は腹が立ってその手をパシンとはたいた。
「何勝手なこと言ってるのよ。私が謝ってほしいのはそこじゃない。悠李と陽菜がキスをしていたことだわ!」
「……は?」
今度は、悠李の開いた口が塞がらなかった。
13
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる