【完結】やり直し彼氏は今度こそ私を甘やかすつもりのようです

月(ユエ)/久瀬まりか

文字の大きさ
上 下
3 / 36

隣の席の元カレ

しおりを挟む
 別れてから半月が経った頃、突然真吾からLIMEが来た。

(しまった……ブロックするの忘れてた……!)

 なんだろう。もしかしてやり直したいとか? まさかね、そんなわけないか。複雑な気持ちになりながらトークを開いた。

『ワンドルのライブには行きたいんだけど、だめかな……』

(あ……)

 思い出した。私が中学生の頃から大好きなバンド、ワンダードルフィン(通称ワンドル)。何度応募してもライブに当たらなかった私が、今回のツアーで初めて当たったのだ。しかも、ツアーファイナル! それが今度の日曜日だ。

(そうだった……真吾と一緒に行くつもりで応募してたんだった。電子チケットを分配してくれってことなんだろうけど……)

 なんで、子供作って別れ話してきた元カレと隣り合わせで参戦しなくちゃいけないの。図々しいにもほどがある。初めてのワンドルライブが嫌な思い出になってしまうから絶対に一緒になんて行きたくない。

『あなたの分は公式チケットトレードに出しました』

 本当はまだ出していないけど、嘘をつく。これくらい、二股に比べたら可愛いものだろう。

『わかった。ごめん』

 ペコリ、というスタンプとともにそう送られてきた。

(こんなこと平気で言ってくるなんて。結局、私は舐められてたってことよね)

 腹が立って、LIMEをブロックしたあとすぐさまチケットを売りに出した。ぼっち参戦になってしまうけどしょうがない。こうなったらグッズも買い込んで思い切り楽しんでやるんだから。
 


 そして当日、日曜日。私は一人で幕張にいた。

(さあ、いよいよライブ……!)

 今までCDやDVDでしか聞けなかった生歌が聞ける。それだけでテンション爆上がりだ。グッズは通販で先に購入していたけれどやっぱり並んで買い足してみたり、フォトスポットの列にも加わってスタッフさんに写真を撮ってもらったり。一人ではあるけれど存分にライブ前の空間を楽しんでいた。
 そしてついに、入場が始まった。私の席はA3ブロックの14列目。左端から二番目だ。右にはカップルが仲良く座っているから、真吾の席は左端だったんだろう。

(やっぱり真吾に渡さなくてよかった。こんな至近距離で二時間も一緒にいたくない)

 真吾が座るはずだったチケットは売れたのだろうか。開演時間近くになっても誰も来ていないのだ。ギリギリに出したせいで売れなかったのならもったいない話だ。
 やがてライトが消え、音が流れ始めた。

(いよいよだわ……!)

 そして、ワンドルのメンバーがステージに姿を現した。その瞬間、すべてのことが頭から吹き飛び、私は叫んでいた。

「礼くーん! 則さーん! アイジー! まさー!」

 バンドメンバー全員の名を呼ぶ。イントロが流れ始めると私は入場口で配られたLEDバンドを着けた手を上げ歌い出す。ちょうどその時、私の左側に人がやって来て同じように手を上げ曲に乗り始めた。よかった、席が無駄にならなくて。
 その人はとても背の高い男の人で、上げた手のLEDがめちゃくちゃ高いところで光っている。それがなんだか可笑しくて、笑いながら歌った。

(ああ、メンバーやお客さんとの一体感……これがライブ!)

 そして私は人生初のワンドルライブを存分に堪能したのだった。



「……本日は規制退場となっております。ご着席のまま、指示をお待ちください」

 ライブが終わり、会場が明るくなってアナウンスが流れる。汗だくの私は放心状態でパイプ椅子に座っていた。

(よかった……素晴らしかった……礼くんのボーカル、神……!)

 右側のカップルは感想を言い合っていて楽しそうだ。私も本当なら真吾とこの感動を分かち合っていたんだろうけれど、残念ながら一人なので心の中だけにとどめておこう。帰ったらセトリを思い出してメモしておかなくちゃ。

 ふと、左側から視線を感じた。開演ギリギリに来た隣の男の人だ。顔を覗き込んでじっと見られている気がする。そして突然、聞き覚えのある高めの声で突然話し掛けられた。

「なあ、もしかして……月葉じゃねぇ?」
「え?」

 パッと顔を上げてその人をじっと見た。

「も、もしかして悠李ゆうり?」

 背が高く綺麗な顔をしたその人は中学の同級生で、一か月だけ付き合った元カレ、鷺宮さぎみや悠李だった……。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...