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レティシアの縁談

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「お母様、私もお姉様みたいな綺麗なドレスが欲しいわ。私を美しく見せてくれるドレスが」

 屋敷での生活が始まると、ヘザーはすぐに我儘を言うようになった。

「そうよね。伯爵令嬢ならドレスはもちろん靴もアクセサリーも必要だわ。早速仕立てさせましょう。それに、美しいドレスは赤毛よりあなたみたいに金髪で綺麗な娘の方が似合うものよ」

 二人は湯水のように金を使って自分達のドレスを用意した。まだ社交界に出ることのないヘザーにはそんなにドレスが必要ではないのにも関わらず。

「ほう、ヘザーは何を着ても似合うな。やはり金髪は気品があっていい」

 夕食時、ダニエルはあからさまにヘザーを褒める。ずっと日陰の子として不遇な思いをさせていたと言う負い目があり、ヘザーには甘い。

「あなた、ヘザーは私が家で礼儀作法を教えていましたし基本は身に付いています。すぐに学院に入れてもやっていけますわ」

「そうか。半年くらい様子を見ようかと思っていたが、それならばすぐに手配をしよう。ところでレティシア」

 突然話し掛けられてレティシアは驚いた。正直、母が生きていた頃は父が夕食の席にいることはほとんどなく、話し掛けられることも皆無だったのだ。

「はい、お父様」

「お前に婚約の話がきている。ハワード伯爵家のジョナスだ。学院にいるだろう」

 ああ、とレティシアは思い浮かべる。確か一学年上にいたはず。父と同じ金髪で、女生徒から人気のある人だったわ、と。

「ジョナスは次男坊だからうちに婿入りしてくれる。卒業したらすぐに結婚するように」

「はい、わかりました」

 もちろん、親の決めた縁談に否は言えないし言うつもりもない。自分は与えられた役目を果たし、ポーレット家を盛り立てていくだけだ。

「お父様、私はどうなりますの? お姉様が伯爵を継ぐのなら私は?」

「心配するな。お前にもいい縁談を探してくる」

「ほんと? 嬉しい、お父様! 伯爵より上の位の方にしてね」

「それは難しいぞ。期待はするな。まあ、あちこち当たってみよう」

「お願いね、お父様。出来ればお父様みたいな素敵な人がいいわ」

 それを聞いてダニエルはわかりやすく口元を緩めた。

「そうかそうか。お前は本当に可愛げがある。レティシアとは大違いだ」

 これまでほとんど関わってこなかったのに、とレティシアは思う。今はこうして一緒に夕食を取っているが、『浮気の証拠』達も同席しているのだ。尊敬も敬愛も出来る訳がない。
 
(せめて、夫となる人のことは好きになれたらいいな……)

「レティシア。明後日ハワード伯爵夫妻とジョナスが顔合わせに来るからそのつもりでいなさい」

「はい、お父様」

 レティシアは大人しく返事をした。
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