55 / 63
願いが叶う時
しおりを挟む
「疲れただろう、アイリス」
湯浴みを済ませ薄手の寝衣に着替えた私たちは夫婦の寝室で寛いでいた。
「まだ興奮してるせいかしら、疲れは感じていないのよ。親戚の皆さまにお祝いしていただいて本当に嬉しかったわ。明日お礼状を書かなければいけないわね」
居室には祝いの品がうず高く積まれている。明日はプリシラやショーンと確認しながらリストを作っていかなければ。
「アンドリュー陛下からも花を頂いたね。休みが明けたら二人で陛下にお礼と結婚のご挨拶に行こう」
大広間にひときわ豪華な花のオブジェがあったが、それがアンドリューからの贈り物だった。
「そうね。新婚旅行のお土産も持って行きましょう」
式から二週間、エドガーは休暇を取っている。私たちはラルクール家領地への挨拶回りも兼ねて、明後日から南部を旅行する予定だ。
「明日も早いから、そろそろ休もうか」
エドガーが立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。
「ええ……」
いよいよだ。ついに前世からの願いが叶う時が来た。私はエドガーに手を引かれ大きなベッドに歩み寄った。
「あの、エドガー、恥ずかしいから明かりは消してね……」
わかった、とエドガーは枕元の蝋燭を消す。途端に室内は暗闇に包まれた。闇に目が慣れるまでもう少しかかるだろう。だがエドガーは暗闇でも迷うことなく私を見つけ、抱き締めてきた。
(わぁ……エドガーの身体が熱い……どうしよう、もう本当に今から……?)
「ごめんなさい、待って、エドガー
……」
どうしようもなく恥ずかしくなって、私は身をよじらせてエドガーの腕の中から逃げ出した。でも、その私の腕をエドガーが優しく捕らえ、腕の中へと引き戻す。
「駄目。もう充分待ったよ」
ようやく暗闇に慣れた私の目に、エドガーの顔が映った。いつもの優しいエドガーだけど、なんだかとても大人っぽくて男らしい、初めて見る顔をしていた。
「早くアイリスと一つになりたいんだ」
エドガーの美しい顔が近付いてくる。私は……身体の力を抜いて、エドガーに全てを任せたのだった。
朝日が差し込むベッドで私は目を覚ました。
(朝だわ……)
隣には長い睫毛を伏せて規則正しい寝息を立てているエドガーの美しい寝顔があった。
(ついに、私たち結ばれたのね……!)
ほんの少しの痛みと大きな高揚感。私はエドガーのものになり、聖女ではなくなった。
(とても長い時間を聖女として過ごしてきたけれど、ようやく普通の人になれた気がするわ。これからはエドガーの妻アイリス・ラルクールとして穏やかに暮らしていくのね)
エドガーの額に軽くキスをして私はベッドから抜け出した。脱いでいた寝衣を羽織り、窓から外を眺める。
(いい天気……)
この天気はしばらく続きそうだし、楽しい旅行になりそうだ。これからは普通の人間として気楽に行動出来る。聖女のオーラを出さないように気を張る必要もない。
(だってほら、もう癒しの光なんて出ないもんね)
私は手のひらを上に向け、光を出そうとーー出ないと思ってーーしてみた。
(……あら?)
手のひらには白い癒しの光がまあるく浮かび上がった。
(えっ、えっ? なんで?)
慌てて、魔法も使えるのか試してみた。
「飛べ」
足が床から浮いた。どうやら魔法も健在だ。
(ちょっと待って……昨夜、私たちちゃんと結ばれたわよね? 未遂ってことある?)
いや、そんなはずはない。事前学習の通りにコトは進んでいったのだ。処女でなくなったのは絶対に間違いない。
(どういうことーー!? 私、なんでまだ聖女なのーーーー!!)
湯浴みを済ませ薄手の寝衣に着替えた私たちは夫婦の寝室で寛いでいた。
「まだ興奮してるせいかしら、疲れは感じていないのよ。親戚の皆さまにお祝いしていただいて本当に嬉しかったわ。明日お礼状を書かなければいけないわね」
居室には祝いの品がうず高く積まれている。明日はプリシラやショーンと確認しながらリストを作っていかなければ。
「アンドリュー陛下からも花を頂いたね。休みが明けたら二人で陛下にお礼と結婚のご挨拶に行こう」
大広間にひときわ豪華な花のオブジェがあったが、それがアンドリューからの贈り物だった。
「そうね。新婚旅行のお土産も持って行きましょう」
式から二週間、エドガーは休暇を取っている。私たちはラルクール家領地への挨拶回りも兼ねて、明後日から南部を旅行する予定だ。
「明日も早いから、そろそろ休もうか」
エドガーが立ち上がり、私に手を差し伸べてくれた。
「ええ……」
いよいよだ。ついに前世からの願いが叶う時が来た。私はエドガーに手を引かれ大きなベッドに歩み寄った。
「あの、エドガー、恥ずかしいから明かりは消してね……」
わかった、とエドガーは枕元の蝋燭を消す。途端に室内は暗闇に包まれた。闇に目が慣れるまでもう少しかかるだろう。だがエドガーは暗闇でも迷うことなく私を見つけ、抱き締めてきた。
(わぁ……エドガーの身体が熱い……どうしよう、もう本当に今から……?)
「ごめんなさい、待って、エドガー
……」
どうしようもなく恥ずかしくなって、私は身をよじらせてエドガーの腕の中から逃げ出した。でも、その私の腕をエドガーが優しく捕らえ、腕の中へと引き戻す。
「駄目。もう充分待ったよ」
ようやく暗闇に慣れた私の目に、エドガーの顔が映った。いつもの優しいエドガーだけど、なんだかとても大人っぽくて男らしい、初めて見る顔をしていた。
「早くアイリスと一つになりたいんだ」
エドガーの美しい顔が近付いてくる。私は……身体の力を抜いて、エドガーに全てを任せたのだった。
朝日が差し込むベッドで私は目を覚ました。
(朝だわ……)
隣には長い睫毛を伏せて規則正しい寝息を立てているエドガーの美しい寝顔があった。
(ついに、私たち結ばれたのね……!)
ほんの少しの痛みと大きな高揚感。私はエドガーのものになり、聖女ではなくなった。
(とても長い時間を聖女として過ごしてきたけれど、ようやく普通の人になれた気がするわ。これからはエドガーの妻アイリス・ラルクールとして穏やかに暮らしていくのね)
エドガーの額に軽くキスをして私はベッドから抜け出した。脱いでいた寝衣を羽織り、窓から外を眺める。
(いい天気……)
この天気はしばらく続きそうだし、楽しい旅行になりそうだ。これからは普通の人間として気楽に行動出来る。聖女のオーラを出さないように気を張る必要もない。
(だってほら、もう癒しの光なんて出ないもんね)
私は手のひらを上に向け、光を出そうとーー出ないと思ってーーしてみた。
(……あら?)
手のひらには白い癒しの光がまあるく浮かび上がった。
(えっ、えっ? なんで?)
慌てて、魔法も使えるのか試してみた。
「飛べ」
足が床から浮いた。どうやら魔法も健在だ。
(ちょっと待って……昨夜、私たちちゃんと結ばれたわよね? 未遂ってことある?)
いや、そんなはずはない。事前学習の通りにコトは進んでいったのだ。処女でなくなったのは絶対に間違いない。
(どういうことーー!? 私、なんでまだ聖女なのーーーー!!)
0
お気に入りに追加
537
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~
芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。
案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが
思うのはただ一つ
「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」
そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。
エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず
攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。
そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。
自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する
これは異世界におけるスローライフが出来る?
希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。
だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証?
もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ!
※場所が正道院で女性中心のお話です
※小説家になろう! カクヨムにも掲載中
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる