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ドラーゴとの邂逅
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「アイリス、ずっと飛び続けて力が尽きたりしないのか?」
しばらく飛んだ頃、アンドリューが心配そうに聞いた。
「大丈夫大丈夫。私、力が尽きたことないのよ。前世でも、あの大きな結界を維持するのに何の苦労も無かったわ」
「そうか。さすがだな」
「アンドリューこそ、ずっと私を抱いてるけど大丈夫なの? 重くないの?」
「風の力で重さは感じない。軽いもんだ」
この方が負担が少ないから、と言われ私はアンドリューの首に手を回して密着する形で抱かれている。
(エドガーともこんなにくっついたことないのに……)
チラッと上を見るとアンドリューの顎が見える。すました顔で前方を見つめているのがなんだか癪に触り、私もずっと前を向いていた。
やがて陽が沈み始め、空が緋色に染まっていく。東部辺境の森はもうすぐだ。
「アイリス。人がたくさんいる」
ヒューイが教えてくれた。前方に、騎士団らしき一行が見える。
「あの辺に辺境師団の駐屯地があるはずだ。そこに集まっているんだろう」
「アンドリュー、私たちは森の中に入ってみる?」
「そうだな。魔獣の住処の可能性が高いからな」
飛んでいる状態から地面に降りるのはなかなか難しい。勢い余って頭から突っ込むこともあるのだ。ヒューイに手伝ってもらって、なんとか上手く着地することが出来た。
せっかく身体が見えなくなっているので、森に入る前に騎士団の作戦本部を覗いてみることにした。騎士たちの中心にテオドアとステラがいる。なんとビクターもいた。そういえば昇進したとキャロラインが言っていたような。
「いいか。視認された魔獣は緑色の鱗状の身体を持ち、蝙蝠のごとき翼を広げて飛ぶ。かなりの巨体であり、前足と後ろ足に鋭い爪。長い口を大きく開けてギャーと声を上げる。その口には大きな牙が見えたという。未だ攻撃されてはいないが、恐らく火を吹くに違いない。爪と牙にも気をつけろ」
テオドアが辺境師団からの報告をもとに団員に説明している。
「空を飛ぶのであれば弓で狙うしかないだろう。ステラ様の加護を頂いた矢を用意し、全員で狙うぞ。地面に落ちてきたら剣で素早く眉間を切り裂け。わかったな」
「はい!」
「ステラ様、背後の結界と瘴気払いをよろしくお願いします」
「はい、テオドア様。頑張ります」
(そんな、一人で加護と結界と瘴気払いなんて。無理に決まってるじゃない、テオドア……無理でも頼らざるを得ないのだからしょうがないけど)
私とアンドリューは本部から出て、森へ入って行った。ドラーゴが森の外に出てくる前に討ち取ろうと思ったのだ。
森の奥まで来ると身を隠す魔法を解いた。アンドリューが腕を擦りながら呟く。
「やっぱり、身体が見えていないと落ち着かないな」
もう空は紫色に変わり、森の中は真っ暗だ。私は『ルーチェ』と呪文を唱え、手のひらに小さな明かりをともした。
「ヒューイ、どう? 近い感じする?」
目を瞑り気配を感じようとしていたヒューイは、ある場所で止まった。
「嫌な感じ、する」
ズザザザァ――木々が、葉っぱが擦れる音がする。
それは唐突にやって来た。一体どこに潜んでいたのか、密集した木立の間を荒々しく通り抜け、木々を無惨に薙ぎ倒してそいつは現れた。
「ギャアァァ――――」
甲高い咆哮が森に響き渡る。赤い色の目はギョロリと大きく爛々と光って、開いた口からは鋭い牙と真っ赤な舌が覗いていた。そして大きく息を吸い込み――炎を吐いた。
「防御!」
私はドラーゴとの間に防壁を張り、炎を防いだ。進路を塞がれた炎は壁を伝い、四方へ広がる。
「とんでもない勢いの炎だな!」
アンドリューは剣を抜き、臨戦体勢に入るが炎の量が多すぎて前に出て行くことが出来ない。
「飛べ」
弓に矢をつがえ、私は防壁の上へと飛んだ。ドラーゴも上を向き、飛び立とうと翼を動かしたその時に、眉間に目掛けて光の矢を放った。
「ギャオォォォ――――」
ドラーゴは苦しむが、私の小さな矢は深く刺さってはいない。ただ、その一瞬だけ、炎が止んだ。
「はあっ!!」
アンドリューが壁をすり抜けドラーゴに向かって飛び上がる。ドラーゴの前足を踏み台にして、顔の正面にジャンプすると剣を一閃し、矢の刺さっている眉間を切り裂いた。
「グオォォォ……」
気持ちの悪い唸り声を上げてドラーゴは俯いた。そして頭から地面に倒れ込んでいく。やがてその身体はサラサラと崩れていき、風に乗って消えていった。
「やったの……?」
「そうだな」
私は空から降りるとアンドリューの横に立った。
「大丈夫? 怪我は無い?」
「ああ。だが、あの壁が無かったら危なかったな。今頃、丸焦げになっていただろう」
「全然違うわ、普通の魔獣と。身体の大きさも炎の強さも」
「こんなのがあと九体もいるのか……」
その時、悲鳴が聞こえた。
「あれは?」
「駐屯地の方だ」
「まさか、もう一体いるの?」
私はすぐにヒューイを呼び、アンドリューと共に駐屯地へ飛んだ。
しばらく飛んだ頃、アンドリューが心配そうに聞いた。
「大丈夫大丈夫。私、力が尽きたことないのよ。前世でも、あの大きな結界を維持するのに何の苦労も無かったわ」
「そうか。さすがだな」
「アンドリューこそ、ずっと私を抱いてるけど大丈夫なの? 重くないの?」
「風の力で重さは感じない。軽いもんだ」
この方が負担が少ないから、と言われ私はアンドリューの首に手を回して密着する形で抱かれている。
(エドガーともこんなにくっついたことないのに……)
チラッと上を見るとアンドリューの顎が見える。すました顔で前方を見つめているのがなんだか癪に触り、私もずっと前を向いていた。
やがて陽が沈み始め、空が緋色に染まっていく。東部辺境の森はもうすぐだ。
「アイリス。人がたくさんいる」
ヒューイが教えてくれた。前方に、騎士団らしき一行が見える。
「あの辺に辺境師団の駐屯地があるはずだ。そこに集まっているんだろう」
「アンドリュー、私たちは森の中に入ってみる?」
「そうだな。魔獣の住処の可能性が高いからな」
飛んでいる状態から地面に降りるのはなかなか難しい。勢い余って頭から突っ込むこともあるのだ。ヒューイに手伝ってもらって、なんとか上手く着地することが出来た。
せっかく身体が見えなくなっているので、森に入る前に騎士団の作戦本部を覗いてみることにした。騎士たちの中心にテオドアとステラがいる。なんとビクターもいた。そういえば昇進したとキャロラインが言っていたような。
「いいか。視認された魔獣は緑色の鱗状の身体を持ち、蝙蝠のごとき翼を広げて飛ぶ。かなりの巨体であり、前足と後ろ足に鋭い爪。長い口を大きく開けてギャーと声を上げる。その口には大きな牙が見えたという。未だ攻撃されてはいないが、恐らく火を吹くに違いない。爪と牙にも気をつけろ」
テオドアが辺境師団からの報告をもとに団員に説明している。
「空を飛ぶのであれば弓で狙うしかないだろう。ステラ様の加護を頂いた矢を用意し、全員で狙うぞ。地面に落ちてきたら剣で素早く眉間を切り裂け。わかったな」
「はい!」
「ステラ様、背後の結界と瘴気払いをよろしくお願いします」
「はい、テオドア様。頑張ります」
(そんな、一人で加護と結界と瘴気払いなんて。無理に決まってるじゃない、テオドア……無理でも頼らざるを得ないのだからしょうがないけど)
私とアンドリューは本部から出て、森へ入って行った。ドラーゴが森の外に出てくる前に討ち取ろうと思ったのだ。
森の奥まで来ると身を隠す魔法を解いた。アンドリューが腕を擦りながら呟く。
「やっぱり、身体が見えていないと落ち着かないな」
もう空は紫色に変わり、森の中は真っ暗だ。私は『ルーチェ』と呪文を唱え、手のひらに小さな明かりをともした。
「ヒューイ、どう? 近い感じする?」
目を瞑り気配を感じようとしていたヒューイは、ある場所で止まった。
「嫌な感じ、する」
ズザザザァ――木々が、葉っぱが擦れる音がする。
それは唐突にやって来た。一体どこに潜んでいたのか、密集した木立の間を荒々しく通り抜け、木々を無惨に薙ぎ倒してそいつは現れた。
「ギャアァァ――――」
甲高い咆哮が森に響き渡る。赤い色の目はギョロリと大きく爛々と光って、開いた口からは鋭い牙と真っ赤な舌が覗いていた。そして大きく息を吸い込み――炎を吐いた。
「防御!」
私はドラーゴとの間に防壁を張り、炎を防いだ。進路を塞がれた炎は壁を伝い、四方へ広がる。
「とんでもない勢いの炎だな!」
アンドリューは剣を抜き、臨戦体勢に入るが炎の量が多すぎて前に出て行くことが出来ない。
「飛べ」
弓に矢をつがえ、私は防壁の上へと飛んだ。ドラーゴも上を向き、飛び立とうと翼を動かしたその時に、眉間に目掛けて光の矢を放った。
「ギャオォォォ――――」
ドラーゴは苦しむが、私の小さな矢は深く刺さってはいない。ただ、その一瞬だけ、炎が止んだ。
「はあっ!!」
アンドリューが壁をすり抜けドラーゴに向かって飛び上がる。ドラーゴの前足を踏み台にして、顔の正面にジャンプすると剣を一閃し、矢の刺さっている眉間を切り裂いた。
「グオォォォ……」
気持ちの悪い唸り声を上げてドラーゴは俯いた。そして頭から地面に倒れ込んでいく。やがてその身体はサラサラと崩れていき、風に乗って消えていった。
「やったの……?」
「そうだな」
私は空から降りるとアンドリューの横に立った。
「大丈夫? 怪我は無い?」
「ああ。だが、あの壁が無かったら危なかったな。今頃、丸焦げになっていただろう」
「全然違うわ、普通の魔獣と。身体の大きさも炎の強さも」
「こんなのがあと九体もいるのか……」
その時、悲鳴が聞こえた。
「あれは?」
「駐屯地の方だ」
「まさか、もう一体いるの?」
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