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アディとリカルド
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それからひと月ほどが経った。私はキャスリンとすっかり仲良くなったし、双子の妖精やエレンとも打ち解けた。エレンとはこっそり魔法の練習をしたりもしている。
『あなたは光の属性の聖女。その聖なる力を込めた矢や剣を、ディザストロの眉間にきっちり打ち込むことが大事』
普通の魔獣と倒し方は同じだ。だけど、ものすごく大きいうえに周りを十体の魔獣が取り囲んでいるというのだ。眉間に辿り着くのが大変なのは想像に難くない。
『身体が大きいから、出てくる瘴気も大量なの』
エレンが悩ましげな顔をして言う。
魔獣は、弱点である眉間を突けばそのまま消滅する。だがそれ以外の場所、手足や胴体を切った場合はその切り口から瘴気と呼ばれる黒い霧が噴き出てくるのだ。その霧に触れると息苦しく、一度に大量に吸い込むと死に至る。だから、攻撃には正確さが求められる。
前世では、十歳で神殿に入った後、三年間弓や剣の修行をしてから先輩聖女と二人組になって騎士団と前線に出るようになった。
一人の聖女が騎士に加護を与え、もう一人が結界を張り瘴気を払う。そうして騎士団と共に各地へ討伐に出掛ける中で相性のいい騎士が出てくることがある。アデリンにとってそれがリカルドだった。
(いつもリカルドとコンビを組んで討伐に出たわ。私がリカルドに加護を与えて魔獣の攻撃を無力化し、リカルドは一撃で仕留める。二人だけでも討伐が出来ると言われ、一緒に各地へ赴くようになった)
☆☆☆☆☆
その頃、私は十六歳、リカルドは十八歳だった。
「おい、アディ。さっきの魔獣の火で少しマントが焼けちまったぞ。お前、手ぇ抜いてんじゃないだろうな」
「何言ってんのよ! あんたがさっさと眉間を斬りつけないから瘴気が溢れちゃって、そっちを払うのが大変だったんだから!」
「しょうがねぇだろう、横からもう一体出てきたんだからよ」
いつもそんな風に口喧嘩しながら、辺境を旅していた。リカルドが獲ってきた鳥やウサギでご飯を作ったり、綺麗な湖で水浴びしたりしたっけ。
神殿の窮屈な暮らしに比べて討伐の旅は自由で、気ままに行動出来た。私たちは気の合う相棒として二年間旅を続けていた。
だけど。私が十八歳になった頃、聖女としての力が突然グンと上がった。試しに結界の魔法陣を神殿で展開してみると、まばゆい光が円形にどこまでも広がって行き、国中を包み込んだのだ。
「これは凄い……! ロラン王国の国宝である紫水晶は、聖なる力を増幅させると言われているが、その効果もあるのだろう。聖女アデリンがいれば、もう魔獣に悩まされることはない」
そうして騎士団は解散となり、貴族の子弟たちは騎士の任を解かれ平和な日常に戻っていった。
庶民の騎士はほとんどが地方へ戻り、腕の立つ一部の騎士だけが護衛部隊として王宮に残った。リカルドもその中にいたのである。
(……退屈だわ)
聖女の住居にポツンと一人の私。先輩聖女はもう必要ないと言われこの部屋から出されていた。きっと、もといた村に帰って結婚でもしただろう。
ガランとした四つの空きベッドを眺めて私はため息をついた。話す人が誰もいない、こんな毎日がずっと続くのだろうか。
(でも、私がここで結界を張ることでこの国の人々が安全に暮らしていける。私はその使命を持って生まれてきたのだから、務めを果たさなければならない)
『あなたは光の属性の聖女。その聖なる力を込めた矢や剣を、ディザストロの眉間にきっちり打ち込むことが大事』
普通の魔獣と倒し方は同じだ。だけど、ものすごく大きいうえに周りを十体の魔獣が取り囲んでいるというのだ。眉間に辿り着くのが大変なのは想像に難くない。
『身体が大きいから、出てくる瘴気も大量なの』
エレンが悩ましげな顔をして言う。
魔獣は、弱点である眉間を突けばそのまま消滅する。だがそれ以外の場所、手足や胴体を切った場合はその切り口から瘴気と呼ばれる黒い霧が噴き出てくるのだ。その霧に触れると息苦しく、一度に大量に吸い込むと死に至る。だから、攻撃には正確さが求められる。
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(いつもリカルドとコンビを組んで討伐に出たわ。私がリカルドに加護を与えて魔獣の攻撃を無力化し、リカルドは一撃で仕留める。二人だけでも討伐が出来ると言われ、一緒に各地へ赴くようになった)
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その頃、私は十六歳、リカルドは十八歳だった。
「おい、アディ。さっきの魔獣の火で少しマントが焼けちまったぞ。お前、手ぇ抜いてんじゃないだろうな」
「何言ってんのよ! あんたがさっさと眉間を斬りつけないから瘴気が溢れちゃって、そっちを払うのが大変だったんだから!」
「しょうがねぇだろう、横からもう一体出てきたんだからよ」
いつもそんな風に口喧嘩しながら、辺境を旅していた。リカルドが獲ってきた鳥やウサギでご飯を作ったり、綺麗な湖で水浴びしたりしたっけ。
神殿の窮屈な暮らしに比べて討伐の旅は自由で、気ままに行動出来た。私たちは気の合う相棒として二年間旅を続けていた。
だけど。私が十八歳になった頃、聖女としての力が突然グンと上がった。試しに結界の魔法陣を神殿で展開してみると、まばゆい光が円形にどこまでも広がって行き、国中を包み込んだのだ。
「これは凄い……! ロラン王国の国宝である紫水晶は、聖なる力を増幅させると言われているが、その効果もあるのだろう。聖女アデリンがいれば、もう魔獣に悩まされることはない」
そうして騎士団は解散となり、貴族の子弟たちは騎士の任を解かれ平和な日常に戻っていった。
庶民の騎士はほとんどが地方へ戻り、腕の立つ一部の騎士だけが護衛部隊として王宮に残った。リカルドもその中にいたのである。
(……退屈だわ)
聖女の住居にポツンと一人の私。先輩聖女はもう必要ないと言われこの部屋から出されていた。きっと、もといた村に帰って結婚でもしただろう。
ガランとした四つの空きベッドを眺めて私はため息をついた。話す人が誰もいない、こんな毎日がずっと続くのだろうか。
(でも、私がここで結界を張ることでこの国の人々が安全に暮らしていける。私はその使命を持って生まれてきたのだから、務めを果たさなければならない)
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