上 下
7 / 63

騎士団長テオドア

しおりを挟む
 そんな事を考えるうちに馬車が止まり、私は先に降りたエドガーのエスコートで王宮に降り立った。

(ここに来るのも久し振りだわ)

 豪華な玄関ホールから光の回廊を抜け、謁見の間に向かう。かつては、ここを抜けたら中庭の方へ曲がり神殿へ向かっていたが今日は違う。謁見の間でアンドリュー第二王子と面会するのだ。

 中に通されると騎士団長テオドアが待っていて、エドガーは私を紹介してくれた。

「団長、こちらが私の婚約者、アイリス・ホールデン嬢です」

「テオドア様、お初にお目にかかります。ホールデン伯爵が娘、アイリスでございます」

「おお、とても可憐で可愛らしいお嬢さんだ。エドガーが自慢するのもわかる」

 ワッハッハと豪快に笑うテオドア。ゴツゴツと逞しい体つきと顔に刻まれたいくつもの傷が歴戦を物語る。この優しい鳶色の瞳には見覚えがあった。

(テオドア……! 私の、最後の護衛騎士。初めての任務が私の護衛だったのよね。確かあの時十七歳だったからもう四十七歳になったのだわ。出世して、素敵な壮年男性になったこと……!)

 その時、第二王子殿下が入室された。

「よく来てくれた。待たせたかな」

 私はエドガーと共に恭しく礼をし、自己紹介をした。隣に立つエドガーが緊張しているのが伝わってくる。

「二人とも、顔を上げて楽にしてくれ。私は君たちと歳も近いしそんなにかしこまらなくても良い」

 そう言われて顔を上げると、アンドリュー王子はにこやかな笑みを浮かべていた。金色の髪に麗しき翠の瞳。気品のある顔立ちはまさに王族という感じだ。

「あちらにお茶の用意がしてある。さあ、どうぞ」

 アンドリュー王子は私の手を取りテーブルまでエスコートしてくれた。エドガーとテオドアが席に付くと王子が口を開く。

「急に呼び出して済まなかった。だが今回の討伐で素晴らしい活躍をした騎士とその婚約者殿を是非とも労いたいと思ってね。たくさんの魔獣を倒してくれたおかげで、しばらくは静かになるだろう。本当によくやってくれた」

「そのようなお言葉を頂き光栄に存じます、アンドリュー殿下」

 エドガーと共に私も頭を下げた。

「アンドリュー殿下、まずはせっかくのお茶を楽しみましょう。二人とも緊張でガチガチになっておりますゆえ」

 テオドアが笑いながら提案し、私たちはお茶とお菓子をいただくことにした。さすが王宮、素晴らしく良い香りのお茶と美味しいお菓子。食器も繊細な図柄で美しく、外国の物であろう。伯爵家ではなかなかここまでの物は手に入らない。

 ちらとエドガーを見ると、純粋にお茶を楽しんでいるようだ。私はというと何だか落ち着かない。前世で直接関わりがあった人物に会ったのが初めてなのだ。

(大丈夫、ばれる筈はない。アデリンと私は見た目も全然違う。アデリンは茶色い目と髪だったし、こんなに華奢ではなくもっとしっかりした頑丈そうな身体つきをしていたもの。今の私に前世の面影なんてどこにもない)

 テオドアの様子を伺っていた私は、別の視線に気がついた。

(アンドリュー殿下……)

 王子が私をじっと見ている。色恋の混ざった視線ではなく、不審なものを見る目だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。 今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。 すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。 気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!? 他視点による話もあります。 ❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。 メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋

処理中です...