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エドガーとの出会い
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それから三ヶ月程が過ぎ、討伐隊が戻ったという連絡が入った。
「アイリス、良い知らせだぞ! エドガーが今回素晴らしい活躍を見せ、一番多くの魔獣を討ち取ったそうだ」
「まあ! お父様、本当ですの?」
「ああ、本当だとも。エドガーは魔獣の攻撃をかいくぐり、見事に仕留めたのだと。しかも何頭もだ!」
もちろんそれは予想通り。相手の攻撃が当たらないのだから、エドガーの剣技が冴え渡るのも当然だ。
「ワシも鼻が高いぞ。お前の未来の伴侶なのだからな! 早めに婚約を結んでおいて良かったのう」
「でしょう? お父様。私は、エドガーがこうなることをわかっていたわ」
私の胸も誇らしさでいっぱいになっていた。愛するエドガーが、弱気を克服して本来の実力を出してくれることをずっと待っていたのだから。
私とエドガーの出会いは十歳の時。その時も、コートウェル公爵夫人のお茶会だった。子供のいない夫人は貴族の子供たちをよく招いてくれていたのだ。
私は一目でエドガーに心を奪われた。艶のある黒い髪、青い瞳。まだまだ幼い顔立ちだけど、きっと美しい青年に成長する。私はそう確信した。
エドガーは引っ込み思案で、お茶会の行われた庭園でも植込みの陰にそっと立っている子だった。明るく場を盛り上げるビクターのような子供たちが人気を集めていたけれど、私は彼の纏う儚げな雰囲気に惹かれた。
「エドガー様。私はアイリス・ホールデンと申します。ここで一緒にお話してもよろしいですか?」
近付いて声を掛けた私に彼は怯えた目を向けて、恐る恐る答えた。
「でも僕、面白い話とか出来ないよ……?」
「あら、そんなの必要ないですわ。私はただ、あなたとご一緒したいだけですの」
それから私と彼は長いこと話をした。上手く話が出来ないエドガーをリードして、少しずつ彼から情報を引き出す。どうやら彼はこのお茶会に参加するのは二回目で、前回女の子に囲まれて大変な目に遭ったそうだ。
「話が面白くない、僕といてもつまらないってみんなに言われてしまって。だから今日は誰も僕の所に来ないし、僕も怖くて人目につかないように隠れてたんだ」
ショボンと肩を落とす姿も可愛い。
「まあ、傲慢な女の子たちね。会話は相手とのやり取りを楽しむものよ。ただ相手から楽しませてもらいたいだなんて、自分勝手だわ。エドガー、私はあなたとお話してとても楽しいわよ。花の名前もたくさん教えてくれるし、面白かった本の話もしてくれるし」
「ホントに? アイリス」
「ええ、エドガー。だからもっと仲良くなりたいわ」
するとエドガーは目尻を下げ、はにかんだ笑顔になった。――なんて愛らしいの! この笑顔を自分だけのものにしたい。結婚相手はこの人しかいないと私は心に決めた。
お茶会が終わって帰宅するやいなや、私はお父様に彼との婚約をお願いした。
「お父様! 私、運命の人を見つけたの! 彼と婚約したいわ!」
「おやおやアイリス。そんなに気に入った子がいたのかい?」
お父様はまったく本気にしていないけれど、私は真剣にお願いした。
「絶対、彼と結婚したいのよ! エドガー・ラルクールよ。ねえ、いいでしょう?」
「ほう、ラルクール侯爵の長男か。しかし気弱で泣き虫だと聞いているがなあ。アーヴィン家のビクターの方が明るくハキハキとしているし将来を嘱望されているぞ?」
「私、花や虫を踏み付けても平気な人とは結婚したくないわ。物言いも偉そうだし。一緒にいるならエドガーみたいな優しい人がいいの」
お父様はあご髭を触りながら考えていたが、結局は許してくれた。娘には甘い父なのだ。
「わかったわかった。ラルクール侯爵に話してみよう」
意外にもとんとん拍子に話が進み、私たちの婚約は成立した。侯爵は、人見知りのエドガーには私くらいグイグイくる子の方がいい、と言ったとか言わないとか。
まあとにかく、私たちは晴れて婚約者となったのだ。
「アイリス、良い知らせだぞ! エドガーが今回素晴らしい活躍を見せ、一番多くの魔獣を討ち取ったそうだ」
「まあ! お父様、本当ですの?」
「ああ、本当だとも。エドガーは魔獣の攻撃をかいくぐり、見事に仕留めたのだと。しかも何頭もだ!」
もちろんそれは予想通り。相手の攻撃が当たらないのだから、エドガーの剣技が冴え渡るのも当然だ。
「ワシも鼻が高いぞ。お前の未来の伴侶なのだからな! 早めに婚約を結んでおいて良かったのう」
「でしょう? お父様。私は、エドガーがこうなることをわかっていたわ」
私の胸も誇らしさでいっぱいになっていた。愛するエドガーが、弱気を克服して本来の実力を出してくれることをずっと待っていたのだから。
私とエドガーの出会いは十歳の時。その時も、コートウェル公爵夫人のお茶会だった。子供のいない夫人は貴族の子供たちをよく招いてくれていたのだ。
私は一目でエドガーに心を奪われた。艶のある黒い髪、青い瞳。まだまだ幼い顔立ちだけど、きっと美しい青年に成長する。私はそう確信した。
エドガーは引っ込み思案で、お茶会の行われた庭園でも植込みの陰にそっと立っている子だった。明るく場を盛り上げるビクターのような子供たちが人気を集めていたけれど、私は彼の纏う儚げな雰囲気に惹かれた。
「エドガー様。私はアイリス・ホールデンと申します。ここで一緒にお話してもよろしいですか?」
近付いて声を掛けた私に彼は怯えた目を向けて、恐る恐る答えた。
「でも僕、面白い話とか出来ないよ……?」
「あら、そんなの必要ないですわ。私はただ、あなたとご一緒したいだけですの」
それから私と彼は長いこと話をした。上手く話が出来ないエドガーをリードして、少しずつ彼から情報を引き出す。どうやら彼はこのお茶会に参加するのは二回目で、前回女の子に囲まれて大変な目に遭ったそうだ。
「話が面白くない、僕といてもつまらないってみんなに言われてしまって。だから今日は誰も僕の所に来ないし、僕も怖くて人目につかないように隠れてたんだ」
ショボンと肩を落とす姿も可愛い。
「まあ、傲慢な女の子たちね。会話は相手とのやり取りを楽しむものよ。ただ相手から楽しませてもらいたいだなんて、自分勝手だわ。エドガー、私はあなたとお話してとても楽しいわよ。花の名前もたくさん教えてくれるし、面白かった本の話もしてくれるし」
「ホントに? アイリス」
「ええ、エドガー。だからもっと仲良くなりたいわ」
するとエドガーは目尻を下げ、はにかんだ笑顔になった。――なんて愛らしいの! この笑顔を自分だけのものにしたい。結婚相手はこの人しかいないと私は心に決めた。
お茶会が終わって帰宅するやいなや、私はお父様に彼との婚約をお願いした。
「お父様! 私、運命の人を見つけたの! 彼と婚約したいわ!」
「おやおやアイリス。そんなに気に入った子がいたのかい?」
お父様はまったく本気にしていないけれど、私は真剣にお願いした。
「絶対、彼と結婚したいのよ! エドガー・ラルクールよ。ねえ、いいでしょう?」
「ほう、ラルクール侯爵の長男か。しかし気弱で泣き虫だと聞いているがなあ。アーヴィン家のビクターの方が明るくハキハキとしているし将来を嘱望されているぞ?」
「私、花や虫を踏み付けても平気な人とは結婚したくないわ。物言いも偉そうだし。一緒にいるならエドガーみたいな優しい人がいいの」
お父様はあご髭を触りながら考えていたが、結局は許してくれた。娘には甘い父なのだ。
「わかったわかった。ラルクール侯爵に話してみよう」
意外にもとんとん拍子に話が進み、私たちの婚約は成立した。侯爵は、人見知りのエドガーには私くらいグイグイくる子の方がいい、と言ったとか言わないとか。
まあとにかく、私たちは晴れて婚約者となったのだ。
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