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ウォルターの契約
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ゼインは、ウォルターの部屋に来ていた。カーテンが閉められ、部屋は暗い。ウォルターはベッドで眠っていた。顔に黒い影がかかっている。
(随分やつれてるな。もう立ち上がる事も出来ないか)
枕元に、一冊の古い本が置いてあった。
(……これだな)
まずは経緯を知ろうと、ゼインはウォルターの額に手を当てた。ウォルターの記憶が飛び込んでくる。
その中から重要な部分だけを選び取った。
まず最初は六歳の時。幼いアンジェリカへの恋心。
そして絶望。公爵令嬢と結婚など出来ないと知る。
(ふむ……彼は道端でこの本を拾うのか)
本に呼ばれ、恐る恐る拾い上げるウォルター。中を開くと、頭の中に声が響いた。
「私は魔法使い。あなたの願いを叶えてあげましょう」
「本当に? だったら、アンジェリカと結婚させて! 」
「これはまた、今すぐには出来ないお願いですねえ。まだあなた六歳でしょう」
「だって、アンジェリカはとても美しくて、ほっておいたら王太子のお妃に選ばれてしまうよ! それに、身分が違い過ぎて僕とは結婚出来ないんだ」
「では、彼女が美しくなければいい。彼女の姿を醜く変えてあげましょう。そうすれば誰も彼女を欲しがらない。彼女が行き遅れて困っているところをあなたが申し込めばいい。きっと喜んで受けてくれるでしょう」
「ええっ? 彼女を醜く? そんなの嫌だ!」
「大丈夫ですよ。本当に醜くする訳ではありません。醜く見える魔法をかけるのですよ。そして、彼女が十八歳の誕生日を迎える瞬間に、魔法は解けて美しい彼女に戻ります。ですから、あなたはそれまでに彼女の心を手に入れなければなりません」
「そうか! アンジェリカが誰にも求婚されないようにするんだね! わかったよ。お願いします!」
「承知しました。ただし、無料という訳にはいきません」
「お金? お金ならパパに言えばいくらでも……」
「お金ではありません。それに、魔法のことを家族にも誰にも言ってはいけませんよ。言ったらそれで魔法はお終いですからね」
「う、うん、わかった。じゃあ、何をあげればいいの?」
「あなたの生命力を」
「生命力? なあに、それ?」
「大した事ありませんよ。すこうしだけ、あなたの元気を分けてもらいたいのです。あなたは何もしなくていい。この本を枕元に置いてくれれば、私はあなたから少しずつ元気をもらいます」
「……痛くない?」
「痛みなんてありませんよ。ただ、少し疲れやすくなったり、少し成長が遅くなる程度です」
「そのくらいなら、いいよ。僕、元気だもの。平気さ」
「それと、もし彼女が十八歳になるまでに彼女の心を得る事が出来なかったら」
「出来なかったら?」
「あなたの命は失われます」
「……」
「どうします? 怖くなりましたか? やめておきますか」
「ううん、やる。やるよ! だって、僕がアンジェリカに好きになってもらえばいいんだよね。あと十二年もあるんだから、きっと出来るさ」
「それでは契約成立です。この本を枕元に置き、ここに書かれた呪文を唱えて下さい。それで彼女の姿は醜く変わります」
その夜、枕元に本を置いたウォルターは、言われた通り呪文を唱えた。すると本から黒い影が飛び出し、外へ飛んで行った。
(随分やつれてるな。もう立ち上がる事も出来ないか)
枕元に、一冊の古い本が置いてあった。
(……これだな)
まずは経緯を知ろうと、ゼインはウォルターの額に手を当てた。ウォルターの記憶が飛び込んでくる。
その中から重要な部分だけを選び取った。
まず最初は六歳の時。幼いアンジェリカへの恋心。
そして絶望。公爵令嬢と結婚など出来ないと知る。
(ふむ……彼は道端でこの本を拾うのか)
本に呼ばれ、恐る恐る拾い上げるウォルター。中を開くと、頭の中に声が響いた。
「私は魔法使い。あなたの願いを叶えてあげましょう」
「本当に? だったら、アンジェリカと結婚させて! 」
「これはまた、今すぐには出来ないお願いですねえ。まだあなた六歳でしょう」
「だって、アンジェリカはとても美しくて、ほっておいたら王太子のお妃に選ばれてしまうよ! それに、身分が違い過ぎて僕とは結婚出来ないんだ」
「では、彼女が美しくなければいい。彼女の姿を醜く変えてあげましょう。そうすれば誰も彼女を欲しがらない。彼女が行き遅れて困っているところをあなたが申し込めばいい。きっと喜んで受けてくれるでしょう」
「ええっ? 彼女を醜く? そんなの嫌だ!」
「大丈夫ですよ。本当に醜くする訳ではありません。醜く見える魔法をかけるのですよ。そして、彼女が十八歳の誕生日を迎える瞬間に、魔法は解けて美しい彼女に戻ります。ですから、あなたはそれまでに彼女の心を手に入れなければなりません」
「そうか! アンジェリカが誰にも求婚されないようにするんだね! わかったよ。お願いします!」
「承知しました。ただし、無料という訳にはいきません」
「お金? お金ならパパに言えばいくらでも……」
「お金ではありません。それに、魔法のことを家族にも誰にも言ってはいけませんよ。言ったらそれで魔法はお終いですからね」
「う、うん、わかった。じゃあ、何をあげればいいの?」
「あなたの生命力を」
「生命力? なあに、それ?」
「大した事ありませんよ。すこうしだけ、あなたの元気を分けてもらいたいのです。あなたは何もしなくていい。この本を枕元に置いてくれれば、私はあなたから少しずつ元気をもらいます」
「……痛くない?」
「痛みなんてありませんよ。ただ、少し疲れやすくなったり、少し成長が遅くなる程度です」
「そのくらいなら、いいよ。僕、元気だもの。平気さ」
「それと、もし彼女が十八歳になるまでに彼女の心を得る事が出来なかったら」
「出来なかったら?」
「あなたの命は失われます」
「……」
「どうします? 怖くなりましたか? やめておきますか」
「ううん、やる。やるよ! だって、僕がアンジェリカに好きになってもらえばいいんだよね。あと十二年もあるんだから、きっと出来るさ」
「それでは契約成立です。この本を枕元に置き、ここに書かれた呪文を唱えて下さい。それで彼女の姿は醜く変わります」
その夜、枕元に本を置いたウォルターは、言われた通り呪文を唱えた。すると本から黒い影が飛び出し、外へ飛んで行った。
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